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第五十四話

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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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 人智を超えた戦いを目の当たりにしたアンブロー軍の傭兵たちは、思考停止状態の者、単純に恐怖を抱く者など、様々な心情になっていた。当然といえば当然で、個人差はあれど、未知な事柄に対して好奇心や嫌悪感、拒否感等が浮かんで来るものであろう。
 幸い、軍トップ関係者は落ち着いているためか、大きな混乱は起こっていない。生き残りたければ結界から出ないようにという命令も出ているからかもしれないが。
 「大丈夫かい」
 「な、なんとかな。悪い、あんたの剣、こわしちまったな」
 「いいよー。命には代えられないからねー」
 「これ、剣じゃなくて魔道具みたいよ~。それよりも」
 「うむ。我々に出来ることをやるしかない」
 「そう、だな。何が出来るか」
 「祈る、とかー」
 発言者に注目が集まる。だが、本人は理由が分かっていない。
 「四大魔法師って、精霊に近いんでしょー。だったら祈りが力になって届くんじゃないかなー、ってー」
 顔を見合わせる魔女たち。
 「そうね~。純粋な祈りは届くっていわれてるわね~」
 「私とサイヤは結界の維持を努める。皆は無事に戦いが終わるように祈っていて欲しい」
 「ってか、それしか出来ることねぇもんな。よし」
 ヤロはイスモ、ギルバートとともに伝令に走った。その背中を、とくに一番最後のをエスコとヘイノはしばらく見つめていた。
 人間達の様子を伺っていたアルタリアは、
 『フィリア。彼ら、大丈夫そうだ』
 『そうかい。ラガンダはどこいった』
 『雲の上』
 『自分で飛び込んだのかよ。まあ、その方法もあったか』
 『それに、気づかれるの、面倒だから』
 『確かに。アマンダは』
 『動くのがやっとになって来た。攻撃回数も減っている』
 『頃合いかね』
 『もうちょっと。もう少しで晴れる』
 『大丈夫なんだろうね』
 『うん。剣が雨の生命力を補給している』
 『成程。理屈はともかく、エレノオーラの力も使ってゾンビ化を防げてるのか』
 『そう。意識はそこまで、はっきりしていないけど、魔法で体が、操られているだけ』
 『道理でこいつの力がアマンダに流れようとしてた訳か。聖水掛けてたら終わってたかもね』
 『おそらく。反動で、一気に加速してたかも、しれない』
 『色々と解せない事あるけど。後回しだな』
 『今は、あれを何とか、しないと』
 『だね。もう、犠牲はゴメンだ』
 状況確認と時間稼ぎの戦いが続く中、まだ長引くと判断したフィリアとアルタリアは、各々の力を加減していく。
 待つだけ、というのは、ことさら時が長く感じる、不思議な現象かもしれない。
 しばらくすると、暗雲の所々から、柔らかい光の筋が現れた。
 筋は秒毎に増えていき、やがて太く、強くなっていく。
 多くの隙間から風が入り込んだのか、一気に四散すると、元来から晴れ渡っていた空が姿を見せる。
 陽光が杖らしきものにさんさんと当たると、怯えた獣の慟哭(どうこく)のような声が響いた。わずかな地鳴りがし、人間たちに動揺が走る。
 「今だ、アルタリアッ」
 呼ばれた水の魔法師は、降り注ぐ魔法の雨を使い、アマンダの足元に鞭状の水を生成。完成を確認することなく元凶の元へと走り出した。途中でフィリアと入れ違いながら近づく間、ラガンダがアルタリアに対して強化魔法を掛ける。
 水の斧を創りながら魔法を馴染ませていき、向かってくる闇色の炎は、遠くから繰り出された風の斬撃によって消滅させられていた。
 「終わりだ」
 振り下ろされた斧は、杖らしきものを宝玉を砕き本体も両断。攻撃が当たる瞬間、彼の周囲に二人掛かりで結界を張る。
 そして、断末魔と共に光の柱が立ち上がった。
 光は少しずつ細くなっていくと、十数分程で見えなくなる。
 「よし。後は」
 まだ残っていた暗雲を除去しようとラガンダが動くより早く、対象が行動を起こしていた。ひと足分、結界に向かって行っていたのだ。
 「ちっ。体を持ってる人間のほうが好みなのかよ」
 「おっと。これ以上は掻き回さないで頂きたい」
 シュン、と闇色のローブが姿を現す。青年は手の上に、巨大な火球を創り出す。
 「はん。このオレ様相手に火の魔法たぁいい度胸だ」
 「普段なら自殺行為ですが。今の貴方ならどうですかね」
 「ほお」
 三十秒程睨み合いが続くが、急にラガンダが笑い出したために中断される。
 「いい局面でおめーがくると思ってよ。当たってよかったぜ」
 見開き、結界の状況を伺う。火属性だけの結界が、いつの間にか四属性全てに対応していた。
 「ちっ」
 「おっと」
 今度は火の魔法師が青年の前を塞ぐ。
 「お前は誰で、何が目的だ。吐いてもらうぜ」
 頭を抱えた闇色のローブは、
 「そうですね、良いですよ。むしろ聞いて貰いたいので」
 豆でも食らったような表情になるラガンダに対し、魔法を消した青年は、話し始める。
 一方、地上へと向かった暗雲は、新たな肉体を得ようと躍起になっていた。
 だが、四大魔法師たちが張った結界には成す術もなく、悲鳴と共に彼方へと消滅していく。
 ああああああああああああああああああああ
 と、他の言葉がかき消される位である。
 人間たちは、耳を覆い、段々とひざが崩れて行く。しまいには発狂する者が現れ、武器を振り回し始めてしまう。
 周囲が取り押さえるも、同じ症状があちらこちらで起こり始める。
 とある傭兵が武器を避けたとき、結界の外に放り出された。すると、飢えた動物が獲物を見つけたが如く、暗雲は彼を勢い良く覆っていく。
 ゾンビと化した傭兵は、結界に触れると消えてしまった。
 『このままじゃ内部から崩壊するぞ。ヘイノ、しっかりしろっ』
 「うう、う」
 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 さらに酷くなる悲鳴は、さらなる地獄を引き寄せる。
 「まずいね。本人たちの精神異常じゃあ魔法でも対処出来ない」
 『風で悲鳴を遮ることは』
 「この声はアタシたちが発してる声と違うのさ。直接頭に届いてんだよ」
 「魂を、消滅させるしかない」
 思わず、アルタリアを見るフィリア。
 「本気で、言ってんのか」
 無念の表情を浮かべながら、
 「今を、生きる者達のほうが大切だ。しばらくは、生態が荒れたとしても」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 「今があれば、未来に繋げられる。エスコ」
 『はい』
 「矢を、結界の中央天辺に向かって、放って欲しい」
 『かしこまりました』
 エスコが指示通り動こうとした瞬間、近くで光の柱が発生した。源は、アマンダであった。
 光の中で目を覚ました女将軍は、事もあろうに羽根を生やして外へと飛び出してしまう。
 とっさに止めようとしたアルタリアに対し、ヤロが襲い掛かって来た。魔導士は、すまない、と口にしながら腹を強打して吹き飛ばす。
 その先には、同じようになったイスモをアードルフが何とか取り押さえていた。
 「あんたたちは大丈夫か」
 「な、何とか。ただ、いつ黒い意識に乗っ取られるやも」
 「まほ、うじゃないみたいですね~。コントロールが、利かない」
 突っ立っている情報屋は侵食されていないようだが、結界内を見て動けない様子である。
 「どうすっか、ね。あれ」
 暗雲の流れが変わっていることに気づく風の魔女。近くにいる水の魔導士は、唖然として空を見上げていた。
 つられて空に視線を移すと、太陽のような光の玉が暗雲を吸い込んでるではないか。
 「なっ」
 「魂を、吸い込んでる……? そんな、馬鹿な事が」
 「すい、って。どういうこったいっ」
 「わ、私に、言われても」
 「たぶん、あいつの力、だと思います」
 思わず胸倉を掴んでいた魔女の力が緩む。
 「数百年前もこの辺りで、似たようなことがありましたよね。二人の少年少女が終わらせたって、本ではなってますけど」
 情報屋は、フィリアとアルタリアのほうを向く。
 「実際は違くて、本来あの場に居合わせるのはエレノオーラ様のはずだった。ラガンダ様やハーウェル様じゃなくて。ようやくつじつまがあいました」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 顔を見合わせる魔法師たち。
 「歴史の解明は後にしよう。何か良い案はないかい」
 ゆっくりと、首を横に動かす子供。
 「このまま、アマンダに任せるのが一番です。神託どおりなら」
 「神託の力、戻ったのか」
 今度は普通の速度で頭を左右に振る。
 「これは力が発現したときに知った事実です。魔法師は利用されたんですよ、実験体として」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 「とある神が盗んだ冥界の宝を使ってみたいがために。そいつはまた、こりずにこの世界にやってきたみたいです」
 「いつからなんだい」
 「正確にはわかりませんでしたけど、二十数年前なのはたしかです」
 あああああああああああああああああああ
 「まさか、今回の、戦争は」
 「そいつがきっかけですよ。まだ正体はつかめていません」
 「情報屋、そのこ」
 周囲の歓喜が風の魔女の言葉を遮る。はっとした四大魔法師たちは、暗雲がほとんどなくなって澄み渡った空と光の玉を見た。
 ああああああああああ
 悲鳴も少なくなっていくが、同時に光も弱くなっていた。白い羽根の四分の三が、闇色に変色してしまっている。
 この光景を、情報屋は睨みつけながら、
 「被害者だよな。オレも、お前も。ある意味。なのに、どうして助けようとするんだよ」
 あああ、ああ、あ、あ……あ 
 開戦前と同じ天気になったアンブロー王国の領地。だが、宙に浮いているアマンダの服のが闇色となり、同色の羽根も消える。
 ざわつく傭兵たちの声に揺られたのか、令嬢の体が傾いた。
 実体のある悲鳴が上がる前に動いたのは五人。だが、恐怖に縛られた体が硬直していたり何かに押さえつけられていたりと、思うように動かせないでいる。
 そんな中、ギルバートは通常に近い動きで走っていくが、落下スピードのほうが早い。
 間に合わない、と、誰もが浮かんだ瞬間、令嬢の回りに青白い手の集団が現れた。手は互いのそれを取り合い、輪を作っていく。
 すると、手がクッション代わりとなって、落ちる速度を少しだけ軽減した。
 手の輪は役目を終えると光のちりとなって消えていく。
 もうひとつ、もうひとつと形成されては消滅すると、横になった状態でゆっくりと地面に降りてくる真下に、ギルバートが立っていた。
 両手で受け止めようとしたとき、別の人間が出現し、彼女を抱きとめる。金の髪と目をし白い鎧をまとった青年であった。
 彼は愛おしそうにアマンダの額にキスをする。
 黒い鎧をまとった青年に気づいた彼は、ゆっくりと近づいて来た。そして、令嬢を差し出しながら、この子を、頼んだぞ、と告げる。
 瞬きをしたギルバートは、アマンダを抱えながらも、青年を見つめていた。
 白い鎧の青年は満足そうに笑うと、光の粒となって彼女に吸い込まれて行く。先に消えた光のちりも、こぞって少女の中に入って行った。
 ようやく問題が収まったかと思いきや、上空で爆発が起こる。誰かが地面に叩きつけられ、頭よりはるか高くにいる者の服が、爆風であおられていた。
 「全くもう。また作戦考えないといけないじゃないですか。んまあ、厄介な人を片づけられたんで良しとしますかね」
 「ラガンダッ。てめえ、そこで待ってろっ」
 「おっと。今日はここまでにしておきましょう。お互い問題を片づけないといけませんし。ふふ、では」
 と、闇色のローブの青年は姿を消す。剣の柄を持ったフィリアの肩を、アルタリアが掴んだ。
 「今は、怪我人を、助けないと」
 「くっ。そうだね、手分けしないと」
 「うん。まずは」
 ちら、と情報屋に視線を送る水の魔導士。しかし、相手は気づいておらず、アマンダのほうを見ていた。
 「情報屋。動けるなら、手伝って」
 「え、あ、う、うん。わかった」
 子供の答えに少し安堵した彼は、その場で治療に当たるのであった。


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 幸い、軍トップ関係者は落ち着いているためか、大きな混乱は起こっていない。生き残りたければ結界から出ないようにという命令も出ているからかもしれないが。
 「大丈夫かい」
 「な、なんとかな。悪い、あんたの剣、こわしちまったな」
 「いいよー。命には代えられないからねー」
 「これ、剣じゃなくて魔道具みたいよ~。それよりも」
 「うむ。我々に出来ることをやるしかない」
 「そう、だな。何が出来るか」
 「祈る、とかー」
 発言者に注目が集まる。だが、本人は理由が分かっていない。
 「四大魔法師って、精霊に近いんでしょー。だったら祈りが力になって届くんじゃないかなー、ってー」
 顔を見合わせる魔女たち。
 「そうね~。純粋な祈りは届くっていわれてるわね~」
 「私とサイヤは結界の維持を努める。皆は無事に戦いが終わるように祈っていて欲しい」
 「ってか、それしか出来ることねぇもんな。よし」
 ヤロはイスモ、ギルバートとともに伝令に走った。その背中を、とくに一番最後のをエスコとヘイノはしばらく見つめていた。
 人間達の様子を伺っていたアルタリアは、
 『フィリア。彼ら、大丈夫そうだ』
 『そうかい。ラガンダはどこいった』
 『雲の上』
 『自分で飛び込んだのかよ。まあ、その方法もあったか』
 『それに、気づかれるの、面倒だから』
 『確かに。アマンダは』
 『動くのがやっとになって来た。攻撃回数も減っている』
 『頃合いかね』
 『もうちょっと。もう少しで晴れる』
 『大丈夫なんだろうね』
 『うん。剣が雨の生命力を補給している』
 『成程。理屈はともかく、エレノオーラの力も使ってゾンビ化を防げてるのか』
 『そう。意識はそこまで、はっきりしていないけど、魔法で体が、操られているだけ』
 『道理でこいつの力がアマンダに流れようとしてた訳か。聖水掛けてたら終わってたかもね』
 『おそらく。反動で、一気に加速してたかも、しれない』
 『色々と解せない事あるけど。後回しだな』
 『今は、あれを何とか、しないと』
 『だね。もう、犠牲はゴメンだ』
 状況確認と時間稼ぎの戦いが続く中、まだ長引くと判断したフィリアとアルタリアは、各々の力を加減していく。
 待つだけ、というのは、ことさら時が長く感じる、不思議な現象かもしれない。
 しばらくすると、暗雲の所々から、柔らかい光の筋が現れた。
 筋は秒毎に増えていき、やがて太く、強くなっていく。
 多くの隙間から風が入り込んだのか、一気に四散すると、元来から晴れ渡っていた空が姿を見せる。
 陽光が杖らしきものにさんさんと当たると、怯えた獣の慟哭(どうこく)のような声が響いた。わずかな地鳴りがし、人間たちに動揺が走る。
 「今だ、アルタリアッ」
 呼ばれた水の魔法師は、降り注ぐ魔法の雨を使い、アマンダの足元に鞭状の水を生成。完成を確認することなく元凶の元へと走り出した。途中でフィリアと入れ違いながら近づく間、ラガンダがアルタリアに対して強化魔法を掛ける。
 水の斧を創りながら魔法を馴染ませていき、向かってくる闇色の炎は、遠くから繰り出された風の斬撃によって消滅させられていた。
 「終わりだ」
 振り下ろされた斧は、杖らしきものを宝玉を砕き本体も両断。攻撃が当たる瞬間、彼の周囲に二人掛かりで結界を張る。
 そして、断末魔と共に光の柱が立ち上がった。
 光は少しずつ細くなっていくと、十数分程で見えなくなる。
 「よし。後は」
 まだ残っていた暗雲を除去しようとラガンダが動くより早く、対象が行動を起こしていた。ひと足分、結界に向かって行っていたのだ。
 「ちっ。体を持ってる人間のほうが好みなのかよ」
 「おっと。これ以上は掻き回さないで頂きたい」
 シュン、と闇色のローブが姿を現す。青年は手の上に、巨大な火球を創り出す。
 「はん。このオレ様相手に火の魔法たぁいい度胸だ」
 「普段なら自殺行為ですが。今の貴方ならどうですかね」
 「ほお」
 三十秒程睨み合いが続くが、急にラガンダが笑い出したために中断される。
 「いい局面でおめーがくると思ってよ。当たってよかったぜ」
 見開き、結界の状況を伺う。火属性だけの結界が、いつの間にか四属性全てに対応していた。
 「ちっ」
 「おっと」
 今度は火の魔法師が青年の前を塞ぐ。
 「お前は誰で、何が目的だ。吐いてもらうぜ」
 頭を抱えた闇色のローブは、
 「そうですね、良いですよ。むしろ聞いて貰いたいので」
 豆でも食らったような表情になるラガンダに対し、魔法を消した青年は、話し始める。
 一方、地上へと向かった暗雲は、新たな肉体を得ようと躍起になっていた。
 だが、四大魔法師たちが張った結界には成す術もなく、悲鳴と共に彼方へと消滅していく。
 ああああああああああああああああああああ
 と、他の言葉がかき消される位である。
 人間たちは、耳を覆い、段々とひざが崩れて行く。しまいには発狂する者が現れ、武器を振り回し始めてしまう。
 周囲が取り押さえるも、同じ症状があちらこちらで起こり始める。
 とある傭兵が武器を避けたとき、結界の外に放り出された。すると、飢えた動物が獲物を見つけたが如く、暗雲は彼を勢い良く覆っていく。
 ゾンビと化した傭兵は、結界に触れると消えてしまった。
 『このままじゃ内部から崩壊するぞ。ヘイノ、しっかりしろっ』
 「うう、う」
 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 さらに酷くなる悲鳴は、さらなる地獄を引き寄せる。
 「まずいね。本人たちの精神異常じゃあ魔法でも対処出来ない」
 『風で悲鳴を遮ることは』
 「この声はアタシたちが発してる声と違うのさ。直接頭に届いてんだよ」
 「魂を、消滅させるしかない」
 思わず、アルタリアを見るフィリア。
 「本気で、言ってんのか」
 無念の表情を浮かべながら、
 「今を、生きる者達のほうが大切だ。しばらくは、生態が荒れたとしても」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 「今があれば、未来に繋げられる。エスコ」
 『はい』
 「矢を、結界の中央天辺に向かって、放って欲しい」
 『かしこまりました』
 エスコが指示通り動こうとした瞬間、近くで光の柱が発生した。源は、アマンダであった。
 光の中で目を覚ました女将軍は、事もあろうに羽根を生やして外へと飛び出してしまう。
 とっさに止めようとしたアルタリアに対し、ヤロが襲い掛かって来た。魔導士は、すまない、と口にしながら腹を強打して吹き飛ばす。
 その先には、同じようになったイスモをアードルフが何とか取り押さえていた。
 「あんたたちは大丈夫か」
 「な、何とか。ただ、いつ黒い意識に乗っ取られるやも」
 「まほ、うじゃないみたいですね~。コントロールが、利かない」
 突っ立っている情報屋は侵食されていないようだが、結界内を見て動けない様子である。
 「どうすっか、ね。あれ」
 暗雲の流れが変わっていることに気づく風の魔女。近くにいる水の魔導士は、唖然として空を見上げていた。
 つられて空に視線を移すと、太陽のような光の玉が暗雲を吸い込んでるではないか。
 「なっ」
 「魂を、吸い込んでる……? そんな、馬鹿な事が」
 「すい、って。どういうこったいっ」
 「わ、私に、言われても」
 「たぶん、あいつの力、だと思います」
 思わず胸倉を掴んでいた魔女の力が緩む。
 「数百年前もこの辺りで、似たようなことがありましたよね。二人の少年少女が終わらせたって、本ではなってますけど」
 情報屋は、フィリアとアルタリアのほうを向く。
 「実際は違くて、本来あの場に居合わせるのはエレノオーラ様のはずだった。ラガンダ様やハーウェル様じゃなくて。ようやくつじつまがあいました」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 顔を見合わせる魔法師たち。
 「歴史の解明は後にしよう。何か良い案はないかい」
 ゆっくりと、首を横に動かす子供。
 「このまま、アマンダに任せるのが一番です。神託どおりなら」
 「神託の力、戻ったのか」
 今度は普通の速度で頭を左右に振る。
 「これは力が発現したときに知った事実です。魔法師は利用されたんですよ、実験体として」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 「とある神が盗んだ冥界の宝を使ってみたいがために。そいつはまた、こりずにこの世界にやってきたみたいです」
 「いつからなんだい」
 「正確にはわかりませんでしたけど、二十数年前なのはたしかです」
 あああああああああああああああああああ
 「まさか、今回の、戦争は」
 「そいつがきっかけですよ。まだ正体はつかめていません」
 「情報屋、そのこ」
 周囲の歓喜が風の魔女の言葉を遮る。はっとした四大魔法師たちは、暗雲がほとんどなくなって澄み渡った空と光の玉を見た。
 ああああああああああ
 悲鳴も少なくなっていくが、同時に光も弱くなっていた。白い羽根の四分の三が、闇色に変色してしまっている。
 この光景を、情報屋は睨みつけながら、
 「被害者だよな。オレも、お前も。ある意味。なのに、どうして助けようとするんだよ」
 あああ、ああ、あ、あ……あ 
 開戦前と同じ天気になったアンブロー王国の領地。だが、宙に浮いているアマンダの服のが闇色となり、同色の羽根も消える。
 ざわつく傭兵たちの声に揺られたのか、令嬢の体が傾いた。
 実体のある悲鳴が上がる前に動いたのは五人。だが、恐怖に縛られた体が硬直していたり何かに押さえつけられていたりと、思うように動かせないでいる。
 そんな中、ギルバートは通常に近い動きで走っていくが、落下スピードのほうが早い。
 間に合わない、と、誰もが浮かんだ瞬間、令嬢の回りに青白い手の集団が現れた。手は互いのそれを取り合い、輪を作っていく。
 すると、手がクッション代わりとなって、落ちる速度を少しだけ軽減した。
 手の輪は役目を終えると光のちりとなって消えていく。
 もうひとつ、もうひとつと形成されては消滅すると、横になった状態でゆっくりと地面に降りてくる真下に、ギルバートが立っていた。
 両手で受け止めようとしたとき、別の人間が出現し、彼女を抱きとめる。金の髪と目をし白い鎧をまとった青年であった。
 彼は愛おしそうにアマンダの額にキスをする。
 黒い鎧をまとった青年に気づいた彼は、ゆっくりと近づいて来た。そして、令嬢を差し出しながら、この子を、頼んだぞ、と告げる。
 瞬きをしたギルバートは、アマンダを抱えながらも、青年を見つめていた。
 白い鎧の青年は満足そうに笑うと、光の粒となって彼女に吸い込まれて行く。先に消えた光のちりも、こぞって少女の中に入って行った。
 ようやく問題が収まったかと思いきや、上空で爆発が起こる。誰かが地面に叩きつけられ、頭よりはるか高くにいる者の服が、爆風であおられていた。
 「全くもう。また作戦考えないといけないじゃないですか。んまあ、厄介な人を片づけられたんで良しとしますかね」
 「ラガンダッ。てめえ、そこで待ってろっ」
 「おっと。今日はここまでにしておきましょう。お互い問題を片づけないといけませんし。ふふ、では」
 と、闇色のローブの青年は姿を消す。剣の柄を持ったフィリアの肩を、アルタリアが掴んだ。
 「今は、怪我人を、助けないと」
 「くっ。そうだね、手分けしないと」
 「うん。まずは」
 ちら、と情報屋に視線を送る水の魔導士。しかし、相手は気づいておらず、アマンダのほうを見ていた。
 「情報屋。動けるなら、手伝って」
 「え、あ、う、うん。わかった」
 子供の答えに少し安堵した彼は、その場で治療に当たるのであった。