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第2話 やられたらやり返す

ー/ー



=日本領ウラジオストク=


 ウラジオストクは日本海航路と北極海航路の接続点である。ここから日本海を経て太平洋に出たり、季節限定だが北極海に回って最短距離でハンブルクへ向かったり、どこへ行くにしても利用する交通の要衝だ。シベリア鉄道も迂回路を含めて多数が運行されている。平時は豪華な客車列車から長大な貨物列車が走り回ったが、現在は国際情勢が事実上の第二次世界大戦に突入しており、国際列車は軍事的に限定されてしまった。


 シベリアの傀儡政権が管理する建前を掲げるがノウハウの蓄積と称して大日本帝国が動かしている。日本の本土だけでは港湾施設が足りず、海軍基地は言わずもがな、官民の造船所とドッグも含めた。本土から機能を移転させると数十年をかけて熟成させていく。したがって、日本海軍に所属する艦艇がひっきりなしに出入りしたが、どこか日本らしくない艦艇も確認できた。日本の同盟国であるドイツの軍艦ならば納得である。あいにく、彼女たちの掲げる旗は旭日旗だった。


「フランスで生まれドイツで育ち日本で成人を迎えた。そんな稀有な戦艦がイギリス海軍東洋艦隊と戦う。ダンケルク級も欲しかったが、第三艦隊の空母の護衛に引っ張られ、リシュリューとジャンバールと水雷戦隊が迎え撃つ」


「我々がシンガポールへ向けて南下すると同時にセイロン島攻略作戦、ミッドウェー島攻略作戦、ハワイ陽動作戦の同時多発的な大作戦が行われます。これにフランス製とドイツ製がなければ…」


「陸軍の藤堂君たちがよく頑張ってくれた。彼らの見えぬ努力が結実する。なにか申し訳ない気がしてならないよ」


「我々が思う存分に暴れ回ることが御礼となります。それは彼女と彼女もいっしょです」


「リシュリューとジャンバールよ。生まれる時代が悪かったんだ。これから静かなる怒りを溢れんばかりの憤怒に変えようじゃないか」


 戦艦としては珍しい主砲の前部集中配置は欧州的である。これはイギリス海軍のネルソン級が代表的だが、大日本帝国の対英関係は著しく悪化しており、今更にイギリスを真似た戦艦は建造しなかった。同盟国のドイツは質実剛健な戦艦を志向している。それではどこの生まれなのかだ。この問いの答えは「おフランス」である。


 旧フランス海軍リシュリュー戦艦姉妹だった。悲運の姉妹は完成を目前にして第二次世界大戦に巻き込まれる。祖国は自由フランスとヴィシーフランスに真っ二つに割かれた。両名は母たるダンケルク級戦艦と一緒にヴィシーフランスに加わるも連合国は明確な敵艦と定める。ヴィシーフランス海軍の中でも集中的に狙われることから早々に退避が行われた。ドイツに逃れようと試みる。ドイツ海軍の方針と人員から真っ当に扱えるはずがなかった。ドイツ本国やヴィシーフランス(フランス南部)本国も危険である。したがって、戦艦の運用実績に富んでいる大日本帝国に貸与と称する譲渡が実施された。


「司令! 朗報です!」


「もっと声を落とせ。朗報と一括りにしても隠すべき内容もあるだろうが」


「はっ! 大変失礼いたしました! 申し訳ございません!」


「フランスだとうるさい男は歓迎されん。おフランスだぞ」


 ダンケルク級姉妹は完成されていた故に小規模な改修のみ施されると第一線に参加している。戦艦としては31ノットと快速を誇り、かつ33cm四連装砲の火力面を考え、空母機動部隊の護衛艦に抜擢した。金剛型戦艦が空母護衛艦に動いている実績から適当と見積もる。もちろん、空母機動部隊の護衛から外れて単独行動しても結構だ。足が速いことは如何なる場面で活きてくる。


 リシュリュー級姉妹に関しては完成させることが最優先だった。連合国の艦隊から空襲を受けたり、潜水艦から雷撃を受けたり、徳川家康の自国領までの逃避行が如く。日独同盟の全面的なバックアップの甲斐あって命からがら逃げきった。極東まで来てしまえば手を出せない。なぜなら、大日本帝国は頑なに中立を宣言していた。


 新型戦艦を建造した呉の海軍工廠と長崎の三菱造船所にて極秘の作業が進む。後部副砲155mm三連装砲に換装を進め、10cm高角砲の新設と増設を断行し、高射機銃の換装から増設まで、あれやこれやと至れり尽くせりだった。いつか祖国の大地に帰還を果たすまで暫くは太平洋で研鑽を積もう。一応は日本海軍の主力組と期待されたが復讐の機会を与えられた。リシュリュー級姉妹は英海軍東洋艦隊を撃つべし。


「日米交渉は完全に不可逆的に決裂した。12月24日を以て開戦とする」


「おっと、予想よりも遅くなりました」


「うむ。私も初頭にやると思っていたが、民間人の退避や何かあるかもしれん」


「クリスマスの時期ですから緩んだ隙を撃つとか」


「アメリカ人とイギリス人がそこまで緩むとは思えんが、お祝い時に弾丸の一発は重くあるだろう。敵国に与える衝撃ははかり知れない。その分の恨みを買ってしまうが、怒りに燃える者は意外と足元をすくいやすい」


「あながち悪くないかもしれませんね」


 大日本帝国の対英米宣戦布告という本格参戦が12月24日と決まった。日米交渉は完全な中立である南米で開かれる。両国に譲歩は見られず完全な決裂に終わった。日本は大きくなり過ぎたのである。シベリア出兵の力の入れようが評価されたのが大成功に終わった。シベリアに眠る資源を掘り当て大規模な開発を成功させる。世界恐慌は独自の極東ブロック経済圏よりダメージを最小限に抑えた。これより「持つ国」へ進化を遂げる。


 欧州戦線の独ソ戦が電撃戦の速攻により終わった。ソビエト連邦が消滅した以上は日独連絡を超えた大陸規模の連絡が円滑に高速に効率的に行われる。これは国際情勢の一層なる加速を意味した。ドイツの膨張はアフリカに達しようとし、日本の拡大は太平洋を包み込み、両国は緊密な連携を振り上げ巨人を打倒する。日独同盟は高品質にして大兵力を両立してみせた。それを象徴するのが航空機の分野でしかない。


「東洋艦隊が丸裸で来るとは限らない。敵さんも艦隊組と航空組で仲が悪いようだ。我々は万全を期して勝負を挑む。相手が無礼だからと我が方も無礼で挑む。これはいけない」


「司令のおっしゃる通りです」


「黛艦長は不服そうだがね」


「大変おこがましいお願いですが、両戦艦が護衛機なしの真っ向勝負こそ、騎士と侍の死闘に相応しい。西村司令にはご理解いただけないでしょう」


「あぁ、却下だな。私は勝てる戦だろうと完全に勝利することを望んだ。一兵でも欠けることがない。それが最も価値のある勝利だ」


「ならばです。敵弾の回避法はお任せください。一発も食らいません」


「回避は結構だが時には忍耐も必要だ。リシュリュー級は前部集中配置と四連装砲のおかげで正面を向けて戦うことができる。それを忘れてはならない」


 司令官と参謀、艦長らが静かな議論を繰り広げていた。議論とは熱論ばかりが正解でない。私情が前面に出ては建設的と言えなかった。静かで穏やかでありながら互いの信念をぶつけ合う。これが正しい議論なのだ。しかし、内々で済んでは主観的という弱点が露呈する。外からの視点は凝り固まった議論に良い衝撃を与えて柔らかく変えてくれた。


 リシュリューの艦橋近くを三機の戦闘機が通過していく。年齢を重ねた司令官の動体視力は衰えて尚も見逃さなかった。パイロットがキャノピー越しに敬礼している。欧州派遣組のベテランなのか操縦の技量は「お見事」の一言尽きた。危険であると怒る無粋な兵士は誰一人といない。


「零式艦上戦闘機の競合となった一式陸上戦闘機です。艦上戦闘機としては運用の難易度が高いが性能は図抜けていた。したがって、陸上機と手直しの上で採用されています」


「最近は艦上戦闘機に戻そうと聞いている。ドイツ兵やうちの若人に受けた」


「和製メッサーシュミットと言いますが全く異なります。なんなら、メッサーシュミットよりも強い。独自の液冷エンジン、独自の主翼構造、独自の設計ばかり、野心の集合体でした」


「非常に心強い。これは勝てるぞ」


続く


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=日本領ウラジオストク=
 ウラジオストクは日本海航路と北極海航路の接続点である。ここから日本海を経て太平洋に出たり、季節限定だが北極海に回って最短距離でハンブルクへ向かったり、どこへ行くにしても利用する交通の要衝だ。シベリア鉄道も迂回路を含めて多数が運行されている。平時は豪華な客車列車から長大な貨物列車が走り回ったが、現在は国際情勢が事実上の第二次世界大戦に突入しており、国際列車は軍事的に限定されてしまった。
 シベリアの傀儡政権が管理する建前を掲げるがノウハウの蓄積と称して大日本帝国が動かしている。日本の本土だけでは港湾施設が足りず、海軍基地は言わずもがな、官民の造船所とドッグも含めた。本土から機能を移転させると数十年をかけて熟成させていく。したがって、日本海軍に所属する艦艇がひっきりなしに出入りしたが、どこか日本らしくない艦艇も確認できた。日本の同盟国であるドイツの軍艦ならば納得である。あいにく、彼女たちの掲げる旗は旭日旗だった。
「フランスで生まれドイツで育ち日本で成人を迎えた。そんな稀有な戦艦がイギリス海軍東洋艦隊と戦う。ダンケルク級も欲しかったが、第三艦隊の空母の護衛に引っ張られ、リシュリューとジャンバールと水雷戦隊が迎え撃つ」
「我々がシンガポールへ向けて南下すると同時にセイロン島攻略作戦、ミッドウェー島攻略作戦、ハワイ陽動作戦の同時多発的な大作戦が行われます。これにフランス製とドイツ製がなければ…」
「陸軍の藤堂君たちがよく頑張ってくれた。彼らの見えぬ努力が結実する。なにか申し訳ない気がしてならないよ」
「我々が思う存分に暴れ回ることが御礼となります。それは彼女と彼女もいっしょです」
「リシュリューとジャンバールよ。生まれる時代が悪かったんだ。これから静かなる怒りを溢れんばかりの憤怒に変えようじゃないか」
 戦艦としては珍しい主砲の前部集中配置は欧州的である。これはイギリス海軍のネルソン級が代表的だが、大日本帝国の対英関係は著しく悪化しており、今更にイギリスを真似た戦艦は建造しなかった。同盟国のドイツは質実剛健な戦艦を志向している。それではどこの生まれなのかだ。この問いの答えは「おフランス」である。
 旧フランス海軍リシュリュー戦艦姉妹だった。悲運の姉妹は完成を目前にして第二次世界大戦に巻き込まれる。祖国は自由フランスとヴィシーフランスに真っ二つに割かれた。両名は母たるダンケルク級戦艦と一緒にヴィシーフランスに加わるも連合国は明確な敵艦と定める。ヴィシーフランス海軍の中でも集中的に狙われることから早々に退避が行われた。ドイツに逃れようと試みる。ドイツ海軍の方針と人員から真っ当に扱えるはずがなかった。ドイツ本国やヴィシーフランス(フランス南部)本国も危険である。したがって、戦艦の運用実績に富んでいる大日本帝国に貸与と称する譲渡が実施された。
「司令! 朗報です!」
「もっと声を落とせ。朗報と一括りにしても隠すべき内容もあるだろうが」
「はっ! 大変失礼いたしました! 申し訳ございません!」
「フランスだとうるさい男は歓迎されん。おフランスだぞ」
 ダンケルク級姉妹は完成されていた故に小規模な改修のみ施されると第一線に参加している。戦艦としては31ノットと快速を誇り、かつ33cm四連装砲の火力面を考え、空母機動部隊の護衛艦に抜擢した。金剛型戦艦が空母護衛艦に動いている実績から適当と見積もる。もちろん、空母機動部隊の護衛から外れて単独行動しても結構だ。足が速いことは如何なる場面で活きてくる。
 リシュリュー級姉妹に関しては完成させることが最優先だった。連合国の艦隊から空襲を受けたり、潜水艦から雷撃を受けたり、徳川家康の自国領までの逃避行が如く。日独同盟の全面的なバックアップの甲斐あって命からがら逃げきった。極東まで来てしまえば手を出せない。なぜなら、大日本帝国は頑なに中立を宣言していた。
 新型戦艦を建造した呉の海軍工廠と長崎の三菱造船所にて極秘の作業が進む。後部副砲155mm三連装砲に換装を進め、10cm高角砲の新設と増設を断行し、高射機銃の換装から増設まで、あれやこれやと至れり尽くせりだった。いつか祖国の大地に帰還を果たすまで暫くは太平洋で研鑽を積もう。一応は日本海軍の主力組と期待されたが復讐の機会を与えられた。リシュリュー級姉妹は英海軍東洋艦隊を撃つべし。
「日米交渉は完全に不可逆的に決裂した。12月24日を以て開戦とする」
「おっと、予想よりも遅くなりました」
「うむ。私も初頭にやると思っていたが、民間人の退避や何かあるかもしれん」
「クリスマスの時期ですから緩んだ隙を撃つとか」
「アメリカ人とイギリス人がそこまで緩むとは思えんが、お祝い時に弾丸の一発は重くあるだろう。敵国に与える衝撃ははかり知れない。その分の恨みを買ってしまうが、怒りに燃える者は意外と足元をすくいやすい」
「あながち悪くないかもしれませんね」
 大日本帝国の対英米宣戦布告という本格参戦が12月24日と決まった。日米交渉は完全な中立である南米で開かれる。両国に譲歩は見られず完全な決裂に終わった。日本は大きくなり過ぎたのである。シベリア出兵の力の入れようが評価されたのが大成功に終わった。シベリアに眠る資源を掘り当て大規模な開発を成功させる。世界恐慌は独自の極東ブロック経済圏よりダメージを最小限に抑えた。これより「持つ国」へ進化を遂げる。
 欧州戦線の独ソ戦が電撃戦の速攻により終わった。ソビエト連邦が消滅した以上は日独連絡を超えた大陸規模の連絡が円滑に高速に効率的に行われる。これは国際情勢の一層なる加速を意味した。ドイツの膨張はアフリカに達しようとし、日本の拡大は太平洋を包み込み、両国は緊密な連携を振り上げ巨人を打倒する。日独同盟は高品質にして大兵力を両立してみせた。それを象徴するのが航空機の分野でしかない。
「東洋艦隊が丸裸で来るとは限らない。敵さんも艦隊組と航空組で仲が悪いようだ。我々は万全を期して勝負を挑む。相手が無礼だからと我が方も無礼で挑む。これはいけない」
「司令のおっしゃる通りです」
「黛艦長は不服そうだがね」
「大変おこがましいお願いですが、両戦艦が護衛機なしの真っ向勝負こそ、騎士と侍の死闘に相応しい。西村司令にはご理解いただけないでしょう」
「あぁ、却下だな。私は勝てる戦だろうと完全に勝利することを望んだ。一兵でも欠けることがない。それが最も価値のある勝利だ」
「ならばです。敵弾の回避法はお任せください。一発も食らいません」
「回避は結構だが時には忍耐も必要だ。リシュリュー級は前部集中配置と四連装砲のおかげで正面を向けて戦うことができる。それを忘れてはならない」
 司令官と参謀、艦長らが静かな議論を繰り広げていた。議論とは熱論ばかりが正解でない。私情が前面に出ては建設的と言えなかった。静かで穏やかでありながら互いの信念をぶつけ合う。これが正しい議論なのだ。しかし、内々で済んでは主観的という弱点が露呈する。外からの視点は凝り固まった議論に良い衝撃を与えて柔らかく変えてくれた。
 リシュリューの艦橋近くを三機の戦闘機が通過していく。年齢を重ねた司令官の動体視力は衰えて尚も見逃さなかった。パイロットがキャノピー越しに敬礼している。欧州派遣組のベテランなのか操縦の技量は「お見事」の一言尽きた。危険であると怒る無粋な兵士は誰一人といない。
「零式艦上戦闘機の競合となった一式陸上戦闘機です。艦上戦闘機としては運用の難易度が高いが性能は図抜けていた。したがって、陸上機と手直しの上で採用されています」
「最近は艦上戦闘機に戻そうと聞いている。ドイツ兵やうちの若人に受けた」
「和製メッサーシュミットと言いますが全く異なります。なんなら、メッサーシュミットよりも強い。独自の液冷エンジン、独自の主翼構造、独自の設計ばかり、野心の集合体でした」
「非常に心強い。これは勝てるぞ」
続く