私はきっと、怖い人

ー/ー







 「ん、おはよう。マクリヌス」

 昨日は寝る前にゲロを吐いてぶっ倒れたんだっけか。何でゲロ吐いたかなんてあの時の私に聞かないとわからないからどうでもいいんだけど、今は口の中が不愉快で最悪な気分だよ。

 「おはようございます、ご主人」

 記憶が無いので少し怖くなったけれど、お互い服は脱いでないから大丈夫みたい。

 「マクリヌス、奴隷友達からアナキヌス・スパルタクスについて何か聞いた?」

 「え、それ昨日聞きたくないって言ってたじゃないですか」

 ん、私そんなこと言ってたんだ。覚えてないんだけど。お酒でも飲んでた?でもお酒の臭いなんてしないし。

 「いや、今は聞きたい気分。だから教えて」

 彼は一度溜息をしてから語った。

 「髑髏の仮面をかぶって少年の声で演説をしていたと」

 少年?ならハンニヴァルカじゃないな。だってハンニヴァルカってスピキ将軍より年上で生きてたら今年71歳だしね。でも老人だったって噂もある以上複数人であるって可能性も考慮しないと。

 「そう、少年ね。ありがとう」

 立ち上がり洗面台で顔を洗う。

 「綺麗な感じて結ってね、今日は結構凄い人に会いに行くからさ」

 彼に髪を結ってもらう。長い髪を一本の三つ編みに束ねる、まるで巫女のような髪型だ。

 「ありがとうね」

 朝食を済ませた後、貴賓室に向かう。既に貴賓室には金髪の青年が上席に座って足を組んでいた。

 「お待ちしておりました、皇帝陛下」

 鷹派の首魁、ブルース若将軍は立ち上がって正しく礼をしたが、何だか鼻に付く。

 「楽にして下さい。いいですよ、そのまま上席に座って居ても」

 礼儀を知らないのか、あるいは私を舐めているのか、彼は再び足を組んで深く椅子に座った。

 「有難うございます。自分にはこっちの方が性に合ってる」

 机の上で足を組み始めて鋭く私を睨んだ。予定時間よりだいぶ早くて上席に座って、それでこの態度、まるでヤクザだ。

 「ヘラヘラ帝の時も貴方はこうしていたんです?」

 「えぇ、彼も私のこういう態度を許す方でしたから。もっとも、私は彼の軟弱な態度を許せませんでしたが」

 ヘラヘラ帝は行軍中、小脇で小便をしている時に刺殺された。じゃあ何で殺されたのってなると、ヘラヘラ帝が軍に対してガイウス魔法法改正と軍拡を条件として後ろ盾になってねって言ったのに、肝心のヘラヘラ帝が王権の拡大にのみ注力したからってなる。

 「しかし、貴方は私を気に入ってる。違う?」

 私はヘラヘラ帝とは違う。彼のようなミスは犯さない。だってガイウス魔法法改正はもう一回やってるし、ヘリオース魔法法は軍拡の要素を孕んでる。

 「軍としては、です。あくまでね」

 「では貴方は私を信じきれていないと」

 「当然です。貴方は皇帝の伝統というものを悉く無視してきた。女を格好をして、不浄な人々の手を握り、階級の守り手たるガイウス魔法法を改正した。行為の是非は置いておいて、貴方が唯一無二の皇帝であるという事は変わらない」

 ヘラヘラ帝という神輿は神輿の癖に意思を持っていて変な方向に勝手に動くから神輿として良くなかった、かと言って殺されたヘラヘラ帝の弟は神輿として軽すぎていけなかった。
 そして次の神輿は私なんだけれど、彼から見て私という神輿の存在はヘラヘラ帝寄りなんだろう。今は同じ方向を向いているけれどいつ踵を返して変な所に行くかわからないからってね。

 「貴方は二つ間違えている、ブルース」

 私は彼を睨んだ。今の彼なら崩せると思ったからだ。だってこの人、鷹派の首魁って言ってもまだ21歳、家柄と青年特有の若くて過激なエネルギーで首魁になった人で、自分の直感というものを強く信じてる。だからこの人が私の事を自分と同じくこの皇帝は他と一線を画す圧倒的に将来の偉人であると思わせてやればそれで十分なのだ。それにそう思わせる土台はこの前の第1回政務院特別議会で築いたしね。

 「二つ?、私が?」

 「まず一つ、貴方は私が貴方の望まぬ方向に行ってしまうのではないかと考えているようだけれど、私はそうしない。何故なら私の目的、魔法の民間普及には絶対に軍に魔法を普及させる工程が必要なんだ」

 「そして二つ」

 私は立ち上がり、彼の胸倉を掴んで自分の顔を近づけた。やはりというべきか、彼は少しきょとんとした顔をしている。脅すのはたくさんやってきたけど脅されるのはあまり慣れていないようだ。

 「貴方達の軍の最高指導者は皇帝だ。つまり私の剣だ。だから貴方は貴方の上官にするように私に盲目的に従わなければならない」

 呆気取られている彼の襟を整えて席に座る。多分、これで大丈夫なはず。意思は伝えたしね。

 「最後にこれだけは言っておきます。私についてくれば損はさせない、必ず」

 彼を置いて貴賓室を去った。そして2日後、私宛に彼から個人的な手紙が送られた。
 皇帝として、政治家としての能力が徐々についてきた事を実感する。いや、どちらかというとヤクザ屋の能力の方が正しいかもしれない。どちらにせよ、私は怖い人だ。もう、とっくのとっくに。

 


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 「ん、おはよう。マクリヌス」
 昨日は寝る前にゲロを吐いてぶっ倒れたんだっけか。何でゲロ吐いたかなんてあの時の私に聞かないとわからないからどうでもいいんだけど、今は口の中が不愉快で最悪な気分だよ。
 「おはようございます、ご主人」
 記憶が無いので少し怖くなったけれど、お互い服は脱いでないから大丈夫みたい。
 「マクリヌス、奴隷友達からアナキヌス・スパルタクスについて何か聞いた?」
 「え、それ昨日聞きたくないって言ってたじゃないですか」
 ん、私そんなこと言ってたんだ。覚えてないんだけど。お酒でも飲んでた?でもお酒の臭いなんてしないし。
 「いや、今は聞きたい気分。だから教えて」
 彼は一度溜息をしてから語った。
 「髑髏の仮面をかぶって少年の声で演説をしていたと」
 少年?ならハンニヴァルカじゃないな。だってハンニヴァルカってスピキ将軍より年上で生きてたら今年71歳だしね。でも老人だったって噂もある以上複数人であるって可能性も考慮しないと。
 「そう、少年ね。ありがとう」
 立ち上がり洗面台で顔を洗う。
 「綺麗な感じて結ってね、今日は結構凄い人に会いに行くからさ」
 彼に髪を結ってもらう。長い髪を一本の三つ編みに束ねる、まるで巫女のような髪型だ。
 「ありがとうね」
 朝食を済ませた後、貴賓室に向かう。既に貴賓室には金髪の青年が上席に座って足を組んでいた。
 「お待ちしておりました、皇帝陛下」
 鷹派の首魁、ブルース若将軍は立ち上がって正しく礼をしたが、何だか鼻に付く。
 「楽にして下さい。いいですよ、そのまま上席に座って居ても」
 礼儀を知らないのか、あるいは私を舐めているのか、彼は再び足を組んで深く椅子に座った。
 「有難うございます。自分にはこっちの方が性に合ってる」
 机の上で足を組み始めて鋭く私を睨んだ。予定時間よりだいぶ早くて上席に座って、それでこの態度、まるでヤクザだ。
 「ヘラヘラ帝の時も貴方はこうしていたんです?」
 「えぇ、彼も私のこういう態度を許す方でしたから。もっとも、私は彼の軟弱な態度を許せませんでしたが」
 ヘラヘラ帝は行軍中、小脇で小便をしている時に刺殺された。じゃあ何で殺されたのってなると、ヘラヘラ帝が軍に対してガイウス魔法法改正と軍拡を条件として後ろ盾になってねって言ったのに、肝心のヘラヘラ帝が王権の拡大にのみ注力したからってなる。
 「しかし、貴方は私を気に入ってる。違う?」
 私はヘラヘラ帝とは違う。彼のようなミスは犯さない。だってガイウス魔法法改正はもう一回やってるし、ヘリオース魔法法は軍拡の要素を孕んでる。
 「軍としては、です。あくまでね」
 「では貴方は私を信じきれていないと」
 「当然です。貴方は皇帝の伝統というものを悉く無視してきた。女を格好をして、不浄な人々の手を握り、階級の守り手たるガイウス魔法法を改正した。行為の是非は置いておいて、貴方が唯一無二の皇帝であるという事は変わらない」
 ヘラヘラ帝という神輿は神輿の癖に意思を持っていて変な方向に勝手に動くから神輿として良くなかった、かと言って殺されたヘラヘラ帝の弟は神輿として軽すぎていけなかった。
 そして次の神輿は私なんだけれど、彼から見て私という神輿の存在はヘラヘラ帝寄りなんだろう。今は同じ方向を向いているけれどいつ踵を返して変な所に行くかわからないからってね。
 「貴方は二つ間違えている、ブルース」
 私は彼を睨んだ。今の彼なら崩せると思ったからだ。だってこの人、鷹派の首魁って言ってもまだ21歳、家柄と青年特有の若くて過激なエネルギーで首魁になった人で、自分の直感というものを強く信じてる。だからこの人が私の事を自分と同じくこの皇帝は他と一線を画す圧倒的に将来の偉人であると思わせてやればそれで十分なのだ。それにそう思わせる土台はこの前の第1回政務院特別議会で築いたしね。
 「二つ?、私が?」
 「まず一つ、貴方は私が貴方の望まぬ方向に行ってしまうのではないかと考えているようだけれど、私はそうしない。何故なら私の目的、魔法の民間普及には絶対に軍に魔法を普及させる工程が必要なんだ」
 「そして二つ」
 私は立ち上がり、彼の胸倉を掴んで自分の顔を近づけた。やはりというべきか、彼は少しきょとんとした顔をしている。脅すのはたくさんやってきたけど脅されるのはあまり慣れていないようだ。
 「貴方達の軍の最高指導者は皇帝だ。つまり私の剣だ。だから貴方は貴方の上官にするように私に盲目的に従わなければならない」
 呆気取られている彼の襟を整えて席に座る。多分、これで大丈夫なはず。意思は伝えたしね。
 「最後にこれだけは言っておきます。私についてくれば損はさせない、必ず」
 彼を置いて貴賓室を去った。そして2日後、私宛に彼から個人的な手紙が送られた。
 皇帝として、政治家としての能力が徐々についてきた事を実感する。いや、どちらかというとヤクザ屋の能力の方が正しいかもしれない。どちらにせよ、私は怖い人だ。もう、とっくのとっくに。