醜い皇帝

ー/ー







 スピキ将軍を貴賓室に呼び付けた。彼はこの前のように深くソファに沈んでいる。

 「夕食の後に呼び出し、しかも至急参上されたしとのことでしたら逮捕でもされたのかと思いましたよ」

 「まさか。今貴方を逮捕する事はできませんよ。私でもね」

 今にも寝てしまいそうな、本当に老人のような顔をしている。

 「さて、結論から入らせていただきます。ハンニヴァルカは生きていた」

 彼は立ち上がり、手に持った葡萄酒を落とした。

 「そんなはずは、そんなはずはない。俺は終わらせんだだぞ……」

 「確認したんですか、死体を」

 彼はもう一度座った。膝の上に肘をついて、口の前で手を組んで前のめりの姿勢で座った。深刻な顔、しかし手を組んで隠れた口元は少し笑ってる。

 「焼死体を確認しました。でもその日は雨が降ってたから、口から下が残ってたんです。でも、確かにあれはハンニヴァルカの物でした」

 焼死体、顔の上半分が焼けてる。髑髏仮面のせいで余計信憑性が出てきた。

 「でも現実として、第二次奴隷戦争の首謀者と目される男、アナキヌス・スパルタクスは自らをハンニヴァルカと名乗った」

 「偽物でしょう、ハンニヴァルカの名はこの帝国においてあまりに強力ですから……」

 「勿論、私もその可能性を考慮しています。しかしそうではない可能性も考慮しなくてはならない。ですから、スピキ将軍。もう少しだけ軍人をやってくれませんか」

 「いいでしょう。ですが条件として一つ。もし次、アナキヌス・スパルタクスが蜂起したらば真っ先に私をお使い下さい。それが唯一の条件です」

 「了解しました。その約束、お守り致しましょう」

 彼との会話はそれで終わりである。だから次は執務室にラスアジィンニコフを呼び出してある企てを計画する。

 「夜中に呼び出し、陰謀でもするんですか?」

 いつもならもう寝るような時間である。でもこの企てを彼に話すには丁度いい時間だ。

 「その通りだよ、ラスアジィンニコフ。今回のハンニヴァルカを利用して一気にガイウス魔法法をヘリオース魔法法に変えちゃうってのはどうかな

 ガイウス魔法法改正の一番の根拠は結局防衛力の向上という観点だった。つまり、敵が我が国を恐怖に貶めたあのハンニヴァルカだと喧伝して回ればガイウス魔法法自体を大きく作り変えてヘリオース魔法法にできるかもしれない。

 「それでヘリオース魔法法はどのようにする予定です?」

 「平民が戦闘魔法を魔法学校で研究・教育したら罰則。あと処罰対象から軍関係者を外す」

 つまり軍に全ての魔法を許可して、平民には戦闘魔法を以外の全ての魔法を許可する。むろん、まだ奴隷には許可しないが、平民に許可していればそのうち奴隷にも広まってこの法律は自然に消滅する。

 「……なるほど。平時ではとても許可されそうにない」

 当然である、この魔法は階級社会を破壊する可能性を秘めているし、その意図がある。だから貴族や、ひいては軍の一部もこの法律は望まないだろう。でも、今ならいける。ハンニヴァルカの復活と、幾つかの奴隷反乱が起きればね。

 「しかし貴方はそれでいいんです?貴方のしている事は魔法の民間普及による将来の経済成長の代わりに現在の帝国に大量出血を強いるような事だ」

 「いずれ通る必要な道だ」

 「それだけじゃないでしよ」

 どうやら私の心中はもうこの男にはお見通しみたいだ。

 「魔法による産業発展の土台を整える。そしたら私はかの初代皇帝尊厳王オクタウィアヌスに並ぶ皇帝として歴史に刻まれる」

 多分彼にとってこれが満点の回答だろう。その証拠に奴は満面の笑みを浮かべている。

 「それでこそ皇帝だ。いいでしょう、でもそれには……軍部の鷹派と繋がる必要がある」

 「わかってる。いくつか制御された反乱を作るんでしょ」

 第二次奴隷戦争の原因は大地主がある奴隷を殺害したせいで起こった。つまり簡単に起こせるし、起こす予定の場所に軍を置いておけばすぐに鎮圧する事もできる。

 「流石です、我が皇。ではそちらの計画はお任せ下さい、象徴が汚れてはいけませんから」

 「感謝するよ。じゃあ私はブルース将軍と話してくるよ」

 軍部が支持基盤っていうのは貴族とか平民が支持基盤というのよりも何倍も難しい。あの人たちは平気で首を挿げ替えようとしてくるからね、ヘラヘラ帝もその弟もそうだったし。でも多分今の状況なら私は彼らを虜に出来る。

 「いいですね、それ。戦いの場に癒しの女神サルースが居るとなれば軍部も担ぐでしょうよ」

 「男誑しには自身があるんだ、私」

 なんせ中身は女で外面は男だからね。男の惚れさせ方なんてよくわかってる。この人になら寄りかかられてもいいと思わせる事だ。


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 スピキ将軍を貴賓室に呼び付けた。彼はこの前のように深くソファに沈んでいる。
 「夕食の後に呼び出し、しかも至急参上されたしとのことでしたら逮捕でもされたのかと思いましたよ」
 「まさか。今貴方を逮捕する事はできませんよ。私でもね」
 今にも寝てしまいそうな、本当に老人のような顔をしている。
 「さて、結論から入らせていただきます。ハンニヴァルカは生きていた」
 彼は立ち上がり、手に持った葡萄酒を落とした。
 「そんなはずは、そんなはずはない。俺は終わらせんだだぞ……」
 「確認したんですか、死体を」
 彼はもう一度座った。膝の上に肘をついて、口の前で手を組んで前のめりの姿勢で座った。深刻な顔、しかし手を組んで隠れた口元は少し笑ってる。
 「焼死体を確認しました。でもその日は雨が降ってたから、口から下が残ってたんです。でも、確かにあれはハンニヴァルカの物でした」
 焼死体、顔の上半分が焼けてる。髑髏仮面のせいで余計信憑性が出てきた。
 「でも現実として、第二次奴隷戦争の首謀者と目される男、アナキヌス・スパルタクスは自らをハンニヴァルカと名乗った」
 「偽物でしょう、ハンニヴァルカの名はこの帝国においてあまりに強力ですから……」
 「勿論、私もその可能性を考慮しています。しかしそうではない可能性も考慮しなくてはならない。ですから、スピキ将軍。もう少しだけ軍人をやってくれませんか」
 「いいでしょう。ですが条件として一つ。もし次、アナキヌス・スパルタクスが蜂起したらば真っ先に私をお使い下さい。それが唯一の条件です」
 「了解しました。その約束、お守り致しましょう」
 彼との会話はそれで終わりである。だから次は執務室にラスアジィンニコフを呼び出してある企てを計画する。
 「夜中に呼び出し、陰謀でもするんですか?」
 いつもならもう寝るような時間である。でもこの企てを彼に話すには丁度いい時間だ。
 「その通りだよ、ラスアジィンニコフ。今回のハンニヴァルカを利用して一気にガイウス魔法法をヘリオース魔法法に変えちゃうってのはどうかな
 ガイウス魔法法改正の一番の根拠は結局防衛力の向上という観点だった。つまり、敵が我が国を恐怖に貶めたあのハンニヴァルカだと喧伝して回ればガイウス魔法法自体を大きく作り変えてヘリオース魔法法にできるかもしれない。
 「それでヘリオース魔法法はどのようにする予定です?」
 「平民が戦闘魔法を魔法学校で研究・教育したら罰則。あと処罰対象から軍関係者を外す」
 つまり軍に全ての魔法を許可して、平民には戦闘魔法を以外の全ての魔法を許可する。むろん、まだ奴隷には許可しないが、平民に許可していればそのうち奴隷にも広まってこの法律は自然に消滅する。
 「……なるほど。平時ではとても許可されそうにない」
 当然である、この魔法は階級社会を破壊する可能性を秘めているし、その意図がある。だから貴族や、ひいては軍の一部もこの法律は望まないだろう。でも、今ならいける。ハンニヴァルカの復活と、幾つかの奴隷反乱が起きればね。
 「しかし貴方はそれでいいんです?貴方のしている事は魔法の民間普及による将来の経済成長の代わりに現在の帝国に大量出血を強いるような事だ」
 「いずれ通る必要な道だ」
 「それだけじゃないでしよ」
 どうやら私の心中はもうこの男にはお見通しみたいだ。
 「魔法による産業発展の土台を整える。そしたら私はかの初代皇帝尊厳王オクタウィアヌスに並ぶ皇帝として歴史に刻まれる」
 多分彼にとってこれが満点の回答だろう。その証拠に奴は満面の笑みを浮かべている。
 「それでこそ皇帝だ。いいでしょう、でもそれには……軍部の鷹派と繋がる必要がある」
 「わかってる。いくつか制御された反乱を作るんでしょ」
 第二次奴隷戦争の原因は大地主がある奴隷を殺害したせいで起こった。つまり簡単に起こせるし、起こす予定の場所に軍を置いておけばすぐに鎮圧する事もできる。
 「流石です、我が皇。ではそちらの計画はお任せ下さい、象徴が汚れてはいけませんから」
 「感謝するよ。じゃあ私はブルース将軍と話してくるよ」
 軍部が支持基盤っていうのは貴族とか平民が支持基盤というのよりも何倍も難しい。あの人たちは平気で首を挿げ替えようとしてくるからね、ヘラヘラ帝もその弟もそうだったし。でも多分今の状況なら私は彼らを虜に出来る。
 「いいですね、それ。戦いの場に癒しの女神サルースが居るとなれば軍部も担ぐでしょうよ」
 「男誑しには自身があるんだ、私」
 なんせ中身は女で外面は男だからね。男の惚れさせ方なんてよくわかってる。この人になら寄りかかられてもいいと思わせる事だ。