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いつものアルファケンタウリ

ー/ー



 明蓮も覚悟を決めたので、二人で学校に向かった。今は昼休みの時間だから、クラスメイトと話す時間は十分に取れるだろう。午前中の授業は欠席してしまったが、大蛇が襲ってきた件もあり明蓮の不在は問題視されていない。朝から登校しているオリンピックが出雲での出来事を語って聞かせているので心配もされていないようだ。

 それより、喧嘩をしてしまった井上の方も明連に謝罪しようとしている。放っておいたら謝罪合戦が始まりそうだ。とりあえず明連にどうするか聞いてみよう。

「井上も君に謝罪しようとしているが、どうアプローチする?」

 言われなくても井上が謝罪してくるだろうことは明連も予測していたようで、自信満々に返事をしてきた。

「それはね……どちらが先に謝るかの勝負よ。勢いで押し切る!」

 なんだかよく分からないが、やる気があるのは良いことだ。余計な手出しをしないで成り行きを見守ろう。



 そんなわけで、思った通りの謝罪合戦が始まったので省略する。

「ねえ、一つだけお願いしてもいいかな?」

 一通り話をした後、井上が明連に提案をしてきた。明連の自分語りは皆が黙って聞いていたが、その中で彼女が興味を持ったことがあるようだ。このお願いを聞くことで明連の気持ちにも区切りがつけられるだろう。

「なに? 私にできることなら何でも言って」

 話したいことを話した明連はスッキリした顔をしているが、井上はこの期に及んでモジモジしている。似たような状況を見た覚えがあるので、彼女のお願いというのが何かは想像がついた。

「あのね……明蓮ってマレビトと一緒に遠い宇宙の星に行ってるんだよね? 私もどこかの星に連れていって欲しいんだ」

「それは……」

 星間旅行は人間だけでは行えない。明連は私の顔を見てくるが、もちろん構わないので頷いて応えた。

「じゃあ、どこに行きたい?」

「うーんと……いつもはどこに行ってるの?」

「アルファケンタウリだな。あそこで手に入れた鉱石を人間に売って旅行費用を賄っているのだ」

 私は明連とよく行っていた場所を伝えた。すると井上は急に目を輝かせて喋りだした。

「アルファケンタウリ!? ケンタウルス座アルファ星系の学名でリギル・ケンタウルスとトリマン、それとプロキシマ・ケンタウリの三つの恒星からなっていて、その中でもプロキシマ・ケンタウリは太陽系から最も近い恒星な上に地球とよく似た惑星を持つという、あの!」

「あ、ああ……そのアルファケンタウリだ」

 突然早口で喋り出した井上の勢いに圧されて、戸惑ってしまった。明連もこの半分、いや十分の一ぐらいは興味を持ってくれていたらと思うが、それだと私が人間の姿でこの学園にやってくることもなかったのだから結果としては良かったのか。

「ということは、本当にあのプロキシマ・ケンタウリbは人間が住めるような惑星だったのね!」

 あの惑星のことを地球人類がそう呼んでいたことは知っているが、実際の名称は……いや、やめておこう。人類が最初に目指している惑星だが、幽世の扉が開いて世界が混乱したために、数百年経ってもまだそこまで到達できていないのだ。距離にして約4.2光年しかないというのに、未だ光速すら出せずにいる人間の技術では探索もままならない。

「人間が住んでいる様子はなかったけど、そういえば普通に歩いて移動できたわね」

 明連は私が鉱石を採掘するのを横で見ていた。私はあの星の色々な情報を語って聞かせたのだが、覚えていないようだ。興味がない話を記憶している人間の方が珍しいから当然ではあるが。

「プロキシマ・ケンタウリは小さい恒星で、すぐ近くにある大きな恒星二つの周りを数十万年かけて公転している。ケンタウルス座アルファ星二つと重力的な繋がりがあることは、まだあそこまで到達できていないこの星の人間には分かっていないが……」

「はい、やめやめ! そういう話は旅行の間に好きなだけどうぞ!」

 私が調子に乗って説明を始めると、明連が遮った。確かにここで話すよりは向こうに行って話した方がいい。昼休みもそろそろ終わりそうだ。井上は非常に聞きたそうにしていたが、放課後まで我慢すれば実際に現地まで行けると約束されたので渋々席に戻っていった。



「あれ、五輪も行くの?」

 放課後になって、井上を連れてアルファケンタウリまで行こうとした我々にオリンピックが自然な動きでついてきた。今回は純粋な旅行なので人が一人増えても問題はないが。

「私も行きたい! 河伯君の背中に乗って飛んでいくんでしょ?」

「そうなの?」

 竜の姿を見たことがない井上が不思議そうに言う。人間の姿の私に乗る想像をしているのだろうか。

「私は構わないぞ」

 そんなわけで、四人で向かうことになった。

「魔導書アカラント=タルガリアよ、常世の国へ我を導け」

「おおー!」

 明蓮が幽世の扉を開くと、井上が以前のオリンピックと同じような反応をする。

「幽世の宇宙は現世の宇宙と違ってとても狭いんだ。すぐに目的地へ着くぞ」

 そう言って竜の姿になると、また井上が驚きの声を上げる。そして何故か得意げなオリンピックが彼女の手を取って私の背中に乗せた。

「マレビトって人間の信仰から生まれるんでしょ? 他の星出身のマレビトもいるの?」

 稀人に興味を持つようになった明連が質問をしてきた。実に喜ばしいことだ。

「もちろんだ。ただ、幽世の扉を開くことができるのは魔導書を持つ地球人類だけなので、わざわざ自分の星を離れるマレビトはいない。幽世ではどこに行っても変わり映えのしない混沌とした風景しか見れないからな」

 こちらから接触でもしない限り、異星のマレビトと遭遇することはないだろう。地球にやってくる者もいない。

「なんで地球にだけ魔導書(そんなもの)があるの?」

 井上がもっともな質問をしてきた。それについては私もはっきりとは分からないのだが。

「理由は不明だ。最初の魔導書がどうして太陽系の外れにあったのか、そもそも誰が作ったのか。いつか明かされる時がくるのだろうか」

 私も魔導書が力尽きる直前に扉を通って現世にやってきただけだからな。魔導書についてはこの宇宙のどこにも情報がなかった。不思議なこともあるものだ。

「さて、到着したぞ。明蓮、頼む」

 幽世のアルファケンタウリに到着すると、明連が開いた扉を通って現世の惑星に降り立った。

「おー、ほんとに息ができる!」

生存可能領域(ハビタブルゾーン)にある惑星だからな。見ての通り、多くの動植物が生活していて、酸素と窒素の混合気体が惑星を覆っている。人間のような高度な知的生命体は現状では存在しないが、この先どうなるかはわからない。地球人類が移住してくるか、現地で進化するか。どちらが先になるかな」

 現地の動物達によってこの星の神は生み出され、マレビトの間では惑星の名前もついているのだが、そんなことは人類の営みに何の影響も与えないだろう。

「アンタは本当に説明が好きね」

 明連が呆れたように言うが、今回は喜んで聞く聴衆がいるのでいくらでも話すぞ。

「ここで採れる鉱石って、どんなものなの?」

 井上は私が採掘している鉱石に興味があるみたいだ。ちょうどいい、彼女達の生活にも関係していることなので、この機会に説明しておこう。

「この星で採れる鉱石は、()()の間では『ケンタウライト』と呼ばれている。現在の日本で様々な乗り物に使われている重要な鉱物だ」

「初めて聞いた! なんでケンタウライトを使ってるの?」

「それは、ケンタウライトの合金がマレビトの神通力を防ぐからだ。不思議に思ったことはないか? 世界中で人間に害をなすマレビトがうろついているのに、公共交通機関が正常に稼働していて事故のニュースも滅多にないことを。あれはケンタウライトで作られた乗り物を低級のマレビトでは破壊できないからだ」

 こうやってアルファケンタウリから採ってこないといけないので、非常に希少な材料となっており、最優先で公共交通機関に利用されている。

「河伯君なら破壊できるの?」

「できるが、やる必要がないだろう。同様に天照やアリス、玉藻なんかも問題なく破壊できるが、むしろ守る側だ。進んで人間を襲うのは低級のマレビトだけだからな」

「へー、人間を殺して力を誇示してきたマレビトもいたけど、ああいうのはマレビトの世界では雑魚なのね」

 明連が何気なく言った言葉に、五輪と井上がぎょっとした顔になる。彼女達が知る危険なマレビトは八岐大蛇ぐらいだろうからな。

「真に強い者は力を誇示する必要がない。それはどこの世界でも変わらないさ」

「……ということは、河伯がケンタウライトを売ってる相手ってもしかして日本政府?」

「ご名答。そうだ、私は日本政府と取引している。ケンタウライトは1g辺り百万円で引き渡す契約だ」

「ぐ、グラムひゃくまんえん!?」

 グラムいくらという時の「グラム」は100gを指すことが多いが、1gでも間違いではないな。むしろ言葉の意味を考えればこちらの方が普通だと思うのだが、なぜ100gで言うのだろうか。

「それだけ貴重な鉱石だが、マレビトの中にもあまり知っている者はいないようだな」

「そんなお得情報を教えちゃっていいの?」

「別に独り占めする気はないから構わんぞ……ほら、いつもの鉱床に着いた。この光っているのがケンタウライトだ」

 ケンタウライトの鉱床を案内すると、女子三人は物珍しそうに見ている。以前は興味無さそうにしていた明連もずいぶん熱心に見ているな。やはりマレビトの攻撃を防ぐという効果は彼女にとって魅力的なのだろう。

「これだけあれば……一生……」

 なにやらブツブツ呟いているが、大丈夫だろうか?

「せんせー、どうやって鉱石を採るんですかー?」

 オリンピックは採掘もしてみたいようだ。いつもながらアクティブな娘だな。

「こうやってつるはしで壊して、欠片を集めるんだ」

 神通力を使ってつるはしを出し、岩を砕いてみせる。いつもは竜の爪で掘り出しているのだが、人間には真似できないからな。

「えいっ! いたた、手が痛いー」

 オリンピックがつるはしを鉱石に振り下ろすと、甲高い音と共に弾き返された。女子の力では傷をつけることもできないようだ。

「さすがに採掘は女子には厳しいか」

「それもそうね……」

 なんだかガッカリした様子の三人だったが、お互いにそんな顔を見合わせて笑いあっていた。楽しそうで何よりだ。今回の旅行は大成功だったな。



「それじゃあまたね、井上さん」

真里(まり)って呼んで! 私も名前で呼んでるんだからさ」

 地球に帰ってきて、挨拶をして真里と別れた。これで明蓮も秘密を知られないように怯えながら暮らさなくてすむな。

「私も家に帰ろっと。また高天原でね!」

「ええ、また後で」

 二人はあのネットゲームで一緒に遊ぶようだ。私も寝床に帰ろう。

「明蓮、君のことはいつでも見守っている。必要があればすぐに呼んでくれ」

「河伯……色々とありがとうね。これからもよろしく」

 お互いに笑顔を見せてそれぞれの家に帰るのだった。今朝はこれから一緒に住もうかとも話したが、一生守ると言ってもあくまで我々は人間とマレビト、伴侶のような関係になることは当面は考えない方がいいという結論に達していた。どうしても恋人ができなかったら面倒を見て、と笑って言う明蓮の姿が印象的だった。


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 明蓮も覚悟を決めたので、二人で学校に向かった。今は昼休みの時間だから、クラスメイトと話す時間は十分に取れるだろう。午前中の授業は欠席してしまったが、大蛇が襲ってきた件もあり明蓮の不在は問題視されていない。朝から登校しているオリンピックが出雲での出来事を語って聞かせているので心配もされていないようだ。
 それより、喧嘩をしてしまった井上の方も明連に謝罪しようとしている。放っておいたら謝罪合戦が始まりそうだ。とりあえず明連にどうするか聞いてみよう。
「井上も君に謝罪しようとしているが、どうアプローチする?」
 言われなくても井上が謝罪してくるだろうことは明連も予測していたようで、自信満々に返事をしてきた。
「それはね……どちらが先に謝るかの勝負よ。勢いで押し切る!」
 なんだかよく分からないが、やる気があるのは良いことだ。余計な手出しをしないで成り行きを見守ろう。
 そんなわけで、思った通りの謝罪合戦が始まったので省略する。
「ねえ、一つだけお願いしてもいいかな?」
 一通り話をした後、井上が明連に提案をしてきた。明連の自分語りは皆が黙って聞いていたが、その中で彼女が興味を持ったことがあるようだ。このお願いを聞くことで明連の気持ちにも区切りがつけられるだろう。
「なに? 私にできることなら何でも言って」
 話したいことを話した明連はスッキリした顔をしているが、井上はこの期に及んでモジモジしている。似たような状況を見た覚えがあるので、彼女のお願いというのが何かは想像がついた。
「あのね……明蓮ってマレビトと一緒に遠い宇宙の星に行ってるんだよね? 私もどこかの星に連れていって欲しいんだ」
「それは……」
 星間旅行は人間だけでは行えない。明連は私の顔を見てくるが、もちろん構わないので頷いて応えた。
「じゃあ、どこに行きたい?」
「うーんと……いつもはどこに行ってるの?」
「アルファケンタウリだな。あそこで手に入れた鉱石を人間に売って旅行費用を賄っているのだ」
 私は明連とよく行っていた場所を伝えた。すると井上は急に目を輝かせて喋りだした。
「アルファケンタウリ!? ケンタウルス座アルファ星系の学名でリギル・ケンタウルスとトリマン、それとプロキシマ・ケンタウリの三つの恒星からなっていて、その中でもプロキシマ・ケンタウリは太陽系から最も近い恒星な上に地球とよく似た惑星を持つという、あの!」
「あ、ああ……そのアルファケンタウリだ」
 突然早口で喋り出した井上の勢いに圧されて、戸惑ってしまった。明連もこの半分、いや十分の一ぐらいは興味を持ってくれていたらと思うが、それだと私が人間の姿でこの学園にやってくることもなかったのだから結果としては良かったのか。
「ということは、本当にあのプロキシマ・ケンタウリbは人間が住めるような惑星だったのね!」
 あの惑星のことを地球人類がそう呼んでいたことは知っているが、実際の名称は……いや、やめておこう。人類が最初に目指している惑星だが、幽世の扉が開いて世界が混乱したために、数百年経ってもまだそこまで到達できていないのだ。距離にして約4.2光年しかないというのに、未だ光速すら出せずにいる人間の技術では探索もままならない。
「人間が住んでいる様子はなかったけど、そういえば普通に歩いて移動できたわね」
 明連は私が鉱石を採掘するのを横で見ていた。私はあの星の色々な情報を語って聞かせたのだが、覚えていないようだ。興味がない話を記憶している人間の方が珍しいから当然ではあるが。
「プロキシマ・ケンタウリは小さい恒星で、すぐ近くにある大きな恒星二つの周りを数十万年かけて公転している。ケンタウルス座アルファ星二つと重力的な繋がりがあることは、まだあそこまで到達できていないこの星の人間には分かっていないが……」
「はい、やめやめ! そういう話は旅行の間に好きなだけどうぞ!」
 私が調子に乗って説明を始めると、明連が遮った。確かにここで話すよりは向こうに行って話した方がいい。昼休みもそろそろ終わりそうだ。井上は非常に聞きたそうにしていたが、放課後まで我慢すれば実際に現地まで行けると約束されたので渋々席に戻っていった。
「あれ、五輪も行くの?」
 放課後になって、井上を連れてアルファケンタウリまで行こうとした我々にオリンピックが自然な動きでついてきた。今回は純粋な旅行なので人が一人増えても問題はないが。
「私も行きたい! 河伯君の背中に乗って飛んでいくんでしょ?」
「そうなの?」
 竜の姿を見たことがない井上が不思議そうに言う。人間の姿の私に乗る想像をしているのだろうか。
「私は構わないぞ」
 そんなわけで、四人で向かうことになった。
「魔導書アカラント=タルガリアよ、常世の国へ我を導け」
「おおー!」
 明蓮が幽世の扉を開くと、井上が以前のオリンピックと同じような反応をする。
「幽世の宇宙は現世の宇宙と違ってとても狭いんだ。すぐに目的地へ着くぞ」
 そう言って竜の姿になると、また井上が驚きの声を上げる。そして何故か得意げなオリンピックが彼女の手を取って私の背中に乗せた。
「マレビトって人間の信仰から生まれるんでしょ? 他の星出身のマレビトもいるの?」
 稀人に興味を持つようになった明連が質問をしてきた。実に喜ばしいことだ。
「もちろんだ。ただ、幽世の扉を開くことができるのは魔導書を持つ地球人類だけなので、わざわざ自分の星を離れるマレビトはいない。幽世ではどこに行っても変わり映えのしない混沌とした風景しか見れないからな」
 こちらから接触でもしない限り、異星のマレビトと遭遇することはないだろう。地球にやってくる者もいない。
「なんで地球にだけ|魔導書《そんなもの》があるの?」
 井上がもっともな質問をしてきた。それについては私もはっきりとは分からないのだが。
「理由は不明だ。最初の魔導書がどうして太陽系の外れにあったのか、そもそも誰が作ったのか。いつか明かされる時がくるのだろうか」
 私も魔導書が力尽きる直前に扉を通って現世にやってきただけだからな。魔導書についてはこの宇宙のどこにも情報がなかった。不思議なこともあるものだ。
「さて、到着したぞ。明蓮、頼む」
 幽世のアルファケンタウリに到着すると、明連が開いた扉を通って現世の惑星に降り立った。
「おー、ほんとに息ができる!」
「|生存可能領域《ハビタブルゾーン》にある惑星だからな。見ての通り、多くの動植物が生活していて、酸素と窒素の混合気体が惑星を覆っている。人間のような高度な知的生命体は現状では存在しないが、この先どうなるかはわからない。地球人類が移住してくるか、現地で進化するか。どちらが先になるかな」
 現地の動物達によってこの星の神は生み出され、マレビトの間では惑星の名前もついているのだが、そんなことは人類の営みに何の影響も与えないだろう。
「アンタは本当に説明が好きね」
 明連が呆れたように言うが、今回は喜んで聞く聴衆がいるのでいくらでも話すぞ。
「ここで採れる鉱石って、どんなものなの?」
 井上は私が採掘している鉱石に興味があるみたいだ。ちょうどいい、彼女達の生活にも関係していることなので、この機会に説明しておこう。
「この星で採れる鉱石は、|我《・》|々《・》の間では『ケンタウライト』と呼ばれている。現在の日本で様々な乗り物に使われている重要な鉱物だ」
「初めて聞いた! なんでケンタウライトを使ってるの?」
「それは、ケンタウライトの合金がマレビトの神通力を防ぐからだ。不思議に思ったことはないか? 世界中で人間に害をなすマレビトがうろついているのに、公共交通機関が正常に稼働していて事故のニュースも滅多にないことを。あれはケンタウライトで作られた乗り物を低級のマレビトでは破壊できないからだ」
 こうやってアルファケンタウリから採ってこないといけないので、非常に希少な材料となっており、最優先で公共交通機関に利用されている。
「河伯君なら破壊できるの?」
「できるが、やる必要がないだろう。同様に天照やアリス、玉藻なんかも問題なく破壊できるが、むしろ守る側だ。進んで人間を襲うのは低級のマレビトだけだからな」
「へー、人間を殺して力を誇示してきたマレビトもいたけど、ああいうのはマレビトの世界では雑魚なのね」
 明連が何気なく言った言葉に、五輪と井上がぎょっとした顔になる。彼女達が知る危険なマレビトは八岐大蛇ぐらいだろうからな。
「真に強い者は力を誇示する必要がない。それはどこの世界でも変わらないさ」
「……ということは、河伯がケンタウライトを売ってる相手ってもしかして日本政府?」
「ご名答。そうだ、私は日本政府と取引している。ケンタウライトは1g辺り百万円で引き渡す契約だ」
「ぐ、グラムひゃくまんえん!?」
 グラムいくらという時の「グラム」は100gを指すことが多いが、1gでも間違いではないな。むしろ言葉の意味を考えればこちらの方が普通だと思うのだが、なぜ100gで言うのだろうか。
「それだけ貴重な鉱石だが、マレビトの中にもあまり知っている者はいないようだな」
「そんなお得情報を教えちゃっていいの?」
「別に独り占めする気はないから構わんぞ……ほら、いつもの鉱床に着いた。この光っているのがケンタウライトだ」
 ケンタウライトの鉱床を案内すると、女子三人は物珍しそうに見ている。以前は興味無さそうにしていた明連もずいぶん熱心に見ているな。やはりマレビトの攻撃を防ぐという効果は彼女にとって魅力的なのだろう。
「これだけあれば……一生……」
 なにやらブツブツ呟いているが、大丈夫だろうか?
「せんせー、どうやって鉱石を採るんですかー?」
 オリンピックは採掘もしてみたいようだ。いつもながらアクティブな娘だな。
「こうやってつるはしで壊して、欠片を集めるんだ」
 神通力を使ってつるはしを出し、岩を砕いてみせる。いつもは竜の爪で掘り出しているのだが、人間には真似できないからな。
「えいっ! いたた、手が痛いー」
 オリンピックがつるはしを鉱石に振り下ろすと、甲高い音と共に弾き返された。女子の力では傷をつけることもできないようだ。
「さすがに採掘は女子には厳しいか」
「それもそうね……」
 なんだかガッカリした様子の三人だったが、お互いにそんな顔を見合わせて笑いあっていた。楽しそうで何よりだ。今回の旅行は大成功だったな。
「それじゃあまたね、井上さん」
「|真里《まり》って呼んで! 私も名前で呼んでるんだからさ」
 地球に帰ってきて、挨拶をして真里と別れた。これで明蓮も秘密を知られないように怯えながら暮らさなくてすむな。
「私も家に帰ろっと。また高天原でね!」
「ええ、また後で」
 二人はあのネットゲームで一緒に遊ぶようだ。私も寝床に帰ろう。
「明蓮、君のことはいつでも見守っている。必要があればすぐに呼んでくれ」
「河伯……色々とありがとうね。これからもよろしく」
 お互いに笑顔を見せてそれぞれの家に帰るのだった。今朝はこれから一緒に住もうかとも話したが、一生守ると言ってもあくまで我々は人間とマレビト、伴侶のような関係になることは当面は考えない方がいいという結論に達していた。どうしても恋人ができなかったら面倒を見て、と笑って言う明蓮の姿が印象的だった。