天照らす狼

ー/ー



 幽世を飛び、元の場所に戻ってくる。現世に戻るとあちらの時間の流れに縛られて移動に時間がかかってしまうので、こちらで元の位置に戻らなくてはならない。現世では空を飛ぶのにもエネルギーを使うしな。

 明蓮が秘術の本を取り出した。

「魔導書アカラント=タルガリアよ、現世(うつしよ)へと我を導け」

 戻るのはあの路地ではなく、私の結界がある森だ。街中に直接帰ったら誰に見られるか分からないからな。



 そして戻ってきたわけだが、さっそく天照大神の気配を感じる。

「遠くない場所に天照大神がいる。話を聞きに行ってみようか」

「アマテラスが来てるって、もしかしたら旅行するつもりだったのかも」

 それならそれで旅行の理由を聞きやすい。さっそく人間の姿になって街へ向かった。

「ん? この気配……まずいな、アリスとオリンピックも一緒にいる。しかも向こうも私達の気配に気づいたようだ」

「うえっ!? なんで一緒にいるのよ。木下さんも一緒なんて……最悪」

 これは困ったことになった。オリンピックに明蓮の能力が知られてしまう危険性が高い。いや、天照大神がやってきた理由を考えれば既に知られている可能性も低くはないな。

「オリンピックはマレビトに好意的な人間だ。この際隠すよりは本当のことを伝えて口止めをした方がいいのではないか?」

「それは……確かにその方がいいのは分かるけど、やっぱり人に私の秘密を知られたくはない。木下さんが悪い子じゃないのは分かってるよ。それでも知られたくないの」

 能力者が人間の社会で不利益を受けるということは知っている。さすがに無理強いするわけにはいかないな。ここは接触を避けて、オリンピックのことはしばらく監視させてもらおう。

「分かった。では今日は接触しないようにしよう。あちらは動いていないようだ、少し様子を見るぞ」

「うん、ありがと」

 明蓮に接触しないことを伝え、あちらの様子を覗いてみる。

◇◆◇

「ああ~ん、もっとぉ~」

 天照大神はアリスに撫でられて目を細めている。身体を覆うグレーの毛皮は狼の見た目から想像するよりずっと柔らかいようで、幼い少女の掌にも優しく吸い付くようだ。このマレビト達は人間の街で何をしているのだろう。

「あのー、遊びに行くってどこにですか? なんで副会長に会いに来たんです?」

 オリンピックが質問している。ということはまだ明蓮の秘密は知らないようだが、このままでは時間の問題だろう。どうにか上手くごまかせないか……?

 天照大神の耳がピクッと動いた。アリスから神気が放出されるのを感じる。これは、テレパシーで会話しているのか。これだと会話の内容が分からないな。

「ん~、明蓮はねぇ、ゲーム仲間なのよ。ちょっと部屋に引きこもってゲーム三昧してるのにも飽きてきたから一緒にゲーセンにでも行こうかと思って」

「そんな関係!? なんのゲームやってるんです?」

「それはね~、『高天原(たかまがはら)』っていうネットゲームよ~。八百万(やおよろず)の神の一柱になって禍津神(まがつかみ)と戦うのよ~」

「やりたい!」

◇◆◇

「……と言っているが、そんなゲームをしていたのか」

「初めて聞いたわ! それって木下さんには秘密にしてくれてるってことだよね。意外と気が利くんだ」

 まあ、人間社会における能力者の扱いはマレビトの間でもよく話題になるぐらいだ。自分が利用するためにも他の人間には秘密にするというのはおかしくはないが、アリスとテレパシーで会話していたことを考えると、彼女の入れ知恵と見るべきだろう。

「何にせよ、オリンピックに秘密を明かす気はないようだ。彼女と別れた頃に話をしてみようか」

「わかった」 

 一応調べてみたら、実在するゲームのようだ。念のために明蓮のアカウントを作っておいた方が良いだろう。それなりにプレイしているという設定なので過去に登録してある程度遊んでいた状態で作るか。ついでに天照大神のアカウントがあるか調べてみたら発見した。しかもかなりのやり込み具合だ。部屋に引きこもってゲーム三昧というのはその場しのぎの嘘ではなかったらしい。



 しばらくして、天照大神の方からこちらにやってきた。オリンピックはアリスが家に連れて帰ったらしい。

「やっほー明蓮、愛想が無いと思ってたけどけっこう交友関係広いじゃない。河伯と旅行してたの?」

 気安く話しかけてくる狼。敵意は無さそうだ。

「そうだ。最近よく明蓮に依頼しているそうだな」

「まあね、たまには部屋から出て身体を伸ばしたいからね」

「そうなんだ……急に依頼してきたから何事かと」

 明蓮は天照大神の態度にいくらか安心したようで、軽く息をつく。

「明蓮にも人間としての生活がある。彼女の都合も聞いてやったらどうだ?」

「あらなに、迷惑だった? 都合が悪いなら言ってくれればいいのに」

 後ろ足で首の後ろをかきながら言う。犬がよくやっているのを見るが、一応最高位の神なのだからもうちょっと威厳ある仕草をしたらどうか。

「いや、迷惑ってわけではないけど最近大量に依頼が来て忙しくなっちゃって」

「なるほどねえ、じゃあ高天原で都合の良い日を聞くことにするわ。アカウント持ってるんでしょ?」

 私がさっき作ったものだがさすがは太陽神、お見通しらしい。

「えっ」

「私が作っておいた。やり方は後で教えよう」

「ええっ?」

「よろしくね~、今度ハント行きましょ」

「えええっ!?」

 こうして、天照大神との旅行は事前に都合の良い日を話し合うことに決まったのだった。


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 幽世を飛び、元の場所に戻ってくる。現世に戻るとあちらの時間の流れに縛られて移動に時間がかかってしまうので、こちらで元の位置に戻らなくてはならない。現世では空を飛ぶのにもエネルギーを使うしな。
 明蓮が秘術の本を取り出した。
「魔導書アカラント=タルガリアよ、|現世《うつしよ》へと我を導け」
 戻るのはあの路地ではなく、私の結界がある森だ。街中に直接帰ったら誰に見られるか分からないからな。
 そして戻ってきたわけだが、さっそく天照大神の気配を感じる。
「遠くない場所に天照大神がいる。話を聞きに行ってみようか」
「アマテラスが来てるって、もしかしたら旅行するつもりだったのかも」
 それならそれで旅行の理由を聞きやすい。さっそく人間の姿になって街へ向かった。
「ん? この気配……まずいな、アリスとオリンピックも一緒にいる。しかも向こうも私達の気配に気づいたようだ」
「うえっ!? なんで一緒にいるのよ。木下さんも一緒なんて……最悪」
 これは困ったことになった。オリンピックに明蓮の能力が知られてしまう危険性が高い。いや、天照大神がやってきた理由を考えれば既に知られている可能性も低くはないな。
「オリンピックはマレビトに好意的な人間だ。この際隠すよりは本当のことを伝えて口止めをした方がいいのではないか?」
「それは……確かにその方がいいのは分かるけど、やっぱり人に私の秘密を知られたくはない。木下さんが悪い子じゃないのは分かってるよ。それでも知られたくないの」
 能力者が人間の社会で不利益を受けるということは知っている。さすがに無理強いするわけにはいかないな。ここは接触を避けて、オリンピックのことはしばらく監視させてもらおう。
「分かった。では今日は接触しないようにしよう。あちらは動いていないようだ、少し様子を見るぞ」
「うん、ありがと」
 明蓮に接触しないことを伝え、あちらの様子を覗いてみる。
◇◆◇
「ああ~ん、もっとぉ~」
 天照大神はアリスに撫でられて目を細めている。身体を覆うグレーの毛皮は狼の見た目から想像するよりずっと柔らかいようで、幼い少女の掌にも優しく吸い付くようだ。このマレビト達は人間の街で何をしているのだろう。
「あのー、遊びに行くってどこにですか? なんで副会長に会いに来たんです?」
 オリンピックが質問している。ということはまだ明蓮の秘密は知らないようだが、このままでは時間の問題だろう。どうにか上手くごまかせないか……?
 天照大神の耳がピクッと動いた。アリスから神気が放出されるのを感じる。これは、テレパシーで会話しているのか。これだと会話の内容が分からないな。
「ん~、明蓮はねぇ、ゲーム仲間なのよ。ちょっと部屋に引きこもってゲーム三昧してるのにも飽きてきたから一緒にゲーセンにでも行こうかと思って」
「そんな関係!? なんのゲームやってるんです?」
「それはね~、『|高天原《たかまがはら》』っていうネットゲームよ~。|八百万《やおよろず》の神の一柱になって|禍津神《まがつかみ》と戦うのよ~」
「やりたい!」
◇◆◇
「……と言っているが、そんなゲームをしていたのか」
「初めて聞いたわ! それって木下さんには秘密にしてくれてるってことだよね。意外と気が利くんだ」
 まあ、人間社会における能力者の扱いはマレビトの間でもよく話題になるぐらいだ。自分が利用するためにも他の人間には秘密にするというのはおかしくはないが、アリスとテレパシーで会話していたことを考えると、彼女の入れ知恵と見るべきだろう。
「何にせよ、オリンピックに秘密を明かす気はないようだ。彼女と別れた頃に話をしてみようか」
「わかった」 
 一応調べてみたら、実在するゲームのようだ。念のために明蓮のアカウントを作っておいた方が良いだろう。それなりにプレイしているという設定なので過去に登録してある程度遊んでいた状態で作るか。ついでに天照大神のアカウントがあるか調べてみたら発見した。しかもかなりのやり込み具合だ。部屋に引きこもってゲーム三昧というのはその場しのぎの嘘ではなかったらしい。
 しばらくして、天照大神の方からこちらにやってきた。オリンピックはアリスが家に連れて帰ったらしい。
「やっほー明蓮、愛想が無いと思ってたけどけっこう交友関係広いじゃない。河伯と旅行してたの?」
 気安く話しかけてくる狼。敵意は無さそうだ。
「そうだ。最近よく明蓮に依頼しているそうだな」
「まあね、たまには部屋から出て身体を伸ばしたいからね」
「そうなんだ……急に依頼してきたから何事かと」
 明蓮は天照大神の態度にいくらか安心したようで、軽く息をつく。
「明蓮にも人間としての生活がある。彼女の都合も聞いてやったらどうだ?」
「あらなに、迷惑だった? 都合が悪いなら言ってくれればいいのに」
 後ろ足で首の後ろをかきながら言う。犬がよくやっているのを見るが、一応最高位の神なのだからもうちょっと威厳ある仕草をしたらどうか。
「いや、迷惑ってわけではないけど最近大量に依頼が来て忙しくなっちゃって」
「なるほどねえ、じゃあ高天原で都合の良い日を聞くことにするわ。アカウント持ってるんでしょ?」
 私がさっき作ったものだがさすがは太陽神、お見通しらしい。
「えっ」
「私が作っておいた。やり方は後で教えよう」
「ええっ?」
「よろしくね~、今度ハント行きましょ」
「えええっ!?」
 こうして、天照大神との旅行は事前に都合の良い日を話し合うことに決まったのだった。