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総力戦~土砂から生存者を救助せよ~

ー/ー



 未だ降り止まない豪雨の中、現地へ戻ると、そこにあったはずの山が形を変えていた。

 目算で300メートルほどの範囲の山肌が崩れ、流れ出た土砂と倒木があたり一帯を覆いつくしている。腐敗した土の匂いが立ち込め、その場の凄惨さを物語る。
 いくつもの家屋が巻き込まれ、原形を留めていない。

「したけどよ、避難が済んだ後で()かったな」

「そや。カッケンが予測しとらんかったら、人がぎょーさん飲み込まれとったで。お手柄や」

 アイヌラックㇽとヌプリが、冷や汗を拭うようにそう漏らした。だが、安堵する気にはとてもなれない。
 その嫌な予感が的中するかのように、ホㇿケウからの通信が入った。

『避難命令に応じず、家に残っていた人間がいるらしい。東端地区の住人で、連絡が取れていないのは現時点で三名。いずれも家族からの通報だ。土砂崩れに巻き込まれたかもしれないとの事』

 詳細を聞くと、高齢女性が一人と中年男性が二人ということだ。
 「自分はこの家を守らなければならない」だとか、「死ぬならこの家で」だとか。そういう意地からなのだろう。

 先ほどまでとはまるで違う光景になった一帯を睨みつけながら、俺はポケットに手を入れてビー玉に触れた。すると、カパッチㇼがポンと俺の肩に手を置いた。

「カッケン、またすべて背負い込むでないぞ」

「分かってる。俺らはできる限りのことをやった。その上での結果だ」

 だが、それで終わるつもりもない。
 マイクの電源を入れ、本部に呼びかけた。

「……ホㇿケウ、雨雲レーダーが今、どんな感じか教えてくれ」

『そうだな……降水のピークは越えたと言っていいだろう。あと数十分で線状降水帯が北に抜けそうではある』

「分かった。二次災害の危険がないか確認できるまで、公設隊は近付けないよう伝えてくれ」

 了解、という返事を聞き届けて通信を終え、俺は現場にいる面々に向き直った。

「ヌプリ。消防署までひとっ走り、頼めるか。スコップと照明機器一式を借りてきてほしい。大至急」

「おお、掘り起こすんやな。がってんやで~」

 返答すると同時に、ヌプリは早速その場を離れて駆け出した。その間に土砂の流入した付近へさらに近付き、足元の状態を確認する。かなりぬかるんでいるが、注意深く場所を選べば立てないこともなさそうだった。

「カパッチㇼ。俺がぶっ倒れたら、その後の指揮権は返す。それでもいいか」

「ふむ……構わんが。使うつもりか、あれを」

 俺は首を縦に振り、次はアイヌラックㇽへ視線を向けた。

「それと、アイヌラックㇽ……万が一の時は頼んます」

「よっしゃ、任せろ」

 そうしている間に、ヌプリはものの数分で俺が頼んだものをかき集めて戻った。

 土砂から突き出した太い木の枝に大型の照明器具を吊るし、現場のなるべく広範囲を照らせるよう固定した。
 そして他の三人にスコップを持たせ、俺は斜面を少し登った。集落全体を見渡せる場所でゴーグルとグローブを外し、大きく息を吸い込み、深く吐く。

 掌をすり合わせ、丁寧に礼拝(オンカミ)の動作をした。

 まぶたを閉じ、代わりに自分の奥底に存在するもうひとつの目を開くと、暗闇にいくつかの色が滲むように浮かび上がった。
 土砂の上に立つ三人は、生命力に溢れた力強い光。
 だが、地中にある三つの光は非常に弱々しく、今にもその灯が消えてしまいそうだ。

「……ヌプリが今立っている場所から北に30メートルほど。そこに一人埋まってる」

『了解ィ!』

「カパッチㇼの東100メートルほど……青い屋根の家の中に一人。家ごと流されてる」

『承知した!』

『オレは!? オレはどこ掘りゃいい! もう一人いんだべ!?」

「アイヌラックㇽは……」

 もちろん、もう一つの色が俺には見えていた。アイヌラックㇽにその場所を伝えようとしたその時だった。
 背中の方から不吉な気配を感じた。それは色ではなく、物理的な現象――崩れた山の斜面に、パラパラと小さな石が無数に転がり始めたのだ。ほどなくして、不気味な地鳴りまでもが轟いた。

「また崩れる……また土砂が崩れる(シㇼホルッケ)!」





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次のエピソードへ進む トイトイ~土のカタマリ~


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 未だ降り止まない豪雨の中、現地へ戻ると、そこにあったはずの山が形を変えていた。
 目算で300メートルほどの範囲の山肌が崩れ、流れ出た土砂と倒木があたり一帯を覆いつくしている。腐敗した土の匂いが立ち込め、その場の凄惨さを物語る。
 いくつもの家屋が巻き込まれ、原形を留めていない。
「したけどよ、避難が済んだ後で|良《い》かったな」
「そや。カッケンが予測しとらんかったら、人がぎょーさん飲み込まれとったで。お手柄や」
 アイヌラックㇽとヌプリが、冷や汗を拭うようにそう漏らした。だが、安堵する気にはとてもなれない。
 その嫌な予感が的中するかのように、ホㇿケウからの通信が入った。
『避難命令に応じず、家に残っていた人間がいるらしい。東端地区の住人で、連絡が取れていないのは現時点で三名。いずれも家族からの通報だ。土砂崩れに巻き込まれたかもしれないとの事』
 詳細を聞くと、高齢女性が一人と中年男性が二人ということだ。
 「自分はこの家を守らなければならない」だとか、「死ぬならこの家で」だとか。そういう意地からなのだろう。
 先ほどまでとはまるで違う光景になった一帯を睨みつけながら、俺はポケットに手を入れてビー玉に触れた。すると、カパッチㇼがポンと俺の肩に手を置いた。
「カッケン、またすべて背負い込むでないぞ」
「分かってる。俺らはできる限りのことをやった。その上での結果だ」
 だが、それで終わるつもりもない。
 マイクの電源を入れ、本部に呼びかけた。
「……ホㇿケウ、雨雲レーダーが今、どんな感じか教えてくれ」
『そうだな……降水のピークは越えたと言っていいだろう。あと数十分で線状降水帯が北に抜けそうではある』
「分かった。二次災害の危険がないか確認できるまで、公設隊は近付けないよう伝えてくれ」
 了解、という返事を聞き届けて通信を終え、俺は現場にいる面々に向き直った。
「ヌプリ。消防署までひとっ走り、頼めるか。スコップと照明機器一式を借りてきてほしい。大至急」
「おお、掘り起こすんやな。がってんやで~」
 返答すると同時に、ヌプリは早速その場を離れて駆け出した。その間に土砂の流入した付近へさらに近付き、足元の状態を確認する。かなりぬかるんでいるが、注意深く場所を選べば立てないこともなさそうだった。
「カパッチㇼ。俺がぶっ倒れたら、その後の指揮権は返す。それでもいいか」
「ふむ……構わんが。使うつもりか、あれを」
 俺は首を縦に振り、次はアイヌラックㇽへ視線を向けた。
「それと、アイヌラックㇽ……万が一の時は頼んます」
「よっしゃ、任せろ」
 そうしている間に、ヌプリはものの数分で俺が頼んだものをかき集めて戻った。
 土砂から突き出した太い木の枝に大型の照明器具を吊るし、現場のなるべく広範囲を照らせるよう固定した。
 そして他の三人にスコップを持たせ、俺は斜面を少し登った。集落全体を見渡せる場所でゴーグルとグローブを外し、大きく息を吸い込み、深く吐く。
 掌をすり合わせ、丁寧に|礼拝《オンカミ》の動作をした。
 まぶたを閉じ、代わりに自分の奥底に存在するもうひとつの目を開くと、暗闇にいくつかの色が滲むように浮かび上がった。
 土砂の上に立つ三人は、生命力に溢れた力強い光。
 だが、地中にある三つの光は非常に弱々しく、今にもその灯が消えてしまいそうだ。
「……ヌプリが今立っている場所から北に30メートルほど。そこに一人埋まってる」
『了解ィ!』
「カパッチㇼの東100メートルほど……青い屋根の家の中に一人。家ごと流されてる」
『承知した!』
『オレは!? オレはどこ掘りゃいい! もう一人いんだべ!?」
「アイヌラックㇽは……」
 もちろん、もう一つの色が俺には見えていた。アイヌラックㇽにその場所を伝えようとしたその時だった。
 背中の方から不吉な気配を感じた。それは色ではなく、物理的な現象――崩れた山の斜面に、パラパラと小さな石が無数に転がり始めたのだ。ほどなくして、不気味な地鳴りまでもが轟いた。
「また崩れる……また|土砂が崩れる《シㇼホルッケ》!」