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1話

ー/ー



Q.高校を卒業する意味は何ですか?次の選択肢の中から選びなさい。

1.学歴のため。

2.青春を送るため。

3.そういうものだと思っているから。

4.その他。


 私はね、選択肢[1]だった。学歴のために通ってた。友達もいないし、青春なんて送っていない。
 それでも中卒より高卒の方が給料が良いとか、そんなよくある理由。

 そんな高校二年生の冬、医者は私にこう告げた。

「貴方の余命は、約二年です」

 二年後に未来がないと言うのなら、もう高校に通う必要すら感じない。だって、行く意味が無いから。

 医者に余命宣告された翌日、私は不登校になった。

深冬(みふゆ)、今日は何する?」
「うーん、テレビゲーム! 今日も私が勝ったら、夕飯は私の好きな物でもいい?」
「よし、その勝負お母さん乗った!」

 高校に行かなくなった私に両親は何も言わなかった。きっと、私の気持ちも分かるのだろう。

「あ、そういえばお母さん。私、もう高校行かないから退学しようと思うの。学費だけかかっても勿体ないでしょ?」
「良いわよ、それくらい。深冬の高校、制服も可愛いじゃない。もし、着ようと思う日が一日でもあった時のために学籍だけ置いときなさい」
「はーい」

 そんな日、二度と来ないと思うけど。
 だって勉強に追われた日々とか、友達のいない休み時間より、ずっと家の方が楽しい。余生を楽しむのに最適だもの。

 余命宣告されてから二ヶ月、私は高校三年生になった。どうやら、二年の冬までに出席日数は足りていたらしい。
 高校三年生になってから、一週間。今日も私は家での生活を楽しんでいた。

 プルルルル、と家の固定電話が鳴る。お母さんは料理中で手が離せそうになく、お父さんは二階で仕事中。私は、仕方なく受話器を持ち上げた。

「はい、天音(あまね)です」
「あ、天音さん。初めまして、私、天音さんの担任の日下部(くさかべ)です」

 ああ、この電話、絶対に出なきゃ良かった。
 あれ、ちょっと待って。もう二度と高校にも行かないし、この担任にも会わない。じゃあ、切っても良くない?

 ブチっ、と通話が切れる音が耳に響く。

 気づいたら、私は受話器を置いていた。何故かスゥっと、心が冷めていくのを感じる。

「深冬、どうしたの?」

 お母さんが台所から顔を出す。

「……担任から電話があったの。絶対面倒臭いこと言われるし、もう二度と会うこともないし…なんなら私は二年後には死ぬでしょ?だから、電話を切ったの、だけど……」
「うん、それで?」
「なんか悪いことした気持ちになった。いや、実際失礼なことしたんだけど、なんか……」

 お母さんは嬉しそうに微笑んだ。

「ねぇ、深冬。お母さん、人生で後悔は付き物だと思うの。でも、人生で後悔しないコツを一つだけ知ってるの」
「何?」
「その時、その時で自分が最善だと思うことを選ぶこと。そうすれば後で後悔する結果になっても、あの時最善を選んだから気にしない、と思える。そこからの解決策を考えるようになるわ。……今の深冬にとっての最善策は何?」
「電話を掛け直して謝りたい、かも……?」
「じゃあ、そうすればいいわ」

 それだけ言うと、お母さんは台所に戻って行った。私はもう一度受話器を持ち、高校の電話番号を打ち込む。

「はい、霧野高校の佐倉です」
「あ、すみません。三年二組の天音 深冬です。日下部先生はいらっしゃいますか?」
「はい、今電話をお繋ぎします」

 待機中の電話から流れる音楽がとても長く感じる。

「はい、かわりました、日下部です」
「あ、あの……私、天音 深冬……で、あの……」

 上手く言葉が出て来ない。

「ゆっくりで大丈夫よ、天音さん」

 日下部先生は優しい声色でそう言った。

「えっと、先ほど電話を下さったのに切ってしまってすみません……」
「……天音さん、私、天音さんのお母さんから天音さんの状況を聞いたわ。その上で在籍を続けさせて欲しい、とも」

 お母さんはいつの間に、そんなことをお願いしていたのだろう。

「ねぇ、天音さん。学校には来たくない?」
「……はい。残りの少ない人生を楽しく過ごしたいので」
「つまり、学校は楽しくない、と?」
「あ、えっと……」
「はっきり言って良いのよ」
「……はい、私は学歴のために高校に行っていたので、友達もいなかったし」
「そうね、じゃあ、来ない方が良いわね。あ、これは高校の先生として言っちゃ不味かったかしら」
「え?」
「私だって天音さんの状況だったら一番したいことをするわ。お金だって使い切るし、可愛い服だって買っちゃうもの……天音さん、私との電話の時間は天音さんの人生に必要かしら?」
「えっと……」
「ここで、はっきり『要らない』と答えないのは天音さんの優しさね。分かったわ。じゃあ、もう電話もかけない。でも、最後に一つだけ。楽しい行事だけ来るって言うのはどう?」
「楽しい行事、ですか……?」

 日下部先生は、自信満々に話し始める。

「そう! 今度、新クラスのオリエンテーションがあるの。オリエンテーションと言う名のただの体育館での遊び大会ね。うちのクラスでは、フットサルをする予定なの……楽しくなさそうでしょう? 友達もいなかったら、そんなの楽しいはずがないわ。問題はここから。クラスのみんなは、体育館。つまり、教室には誰もいない。一人きりの教室って最高じゃない? 本当は施錠するんだけど、特別に開けてあげるわ。確か、天音さんは美術部だったわよね。しかもとっても上手で、賞もたくさんとってる……ねぇ、黒板アートを描いてくれないかしら?」
「はい?」
「楽しくなかったら、途中で帰ってもいいわ。なんなら、始めから来なくてもいい。まぁ、考えておいて。来週の金曜日だから」
「えっと、あの……」

「あ、私は天音さんと話すの楽しかったわよ。じゃあね」

 そう言うと、日下部先生は電話を切ってしまった。お母さんがもう一度、台所から顔を出す。

「深冬、どうだった?」
「黒板アートを描いて欲しいって……」
「良いじゃない! 深冬は嫌なの?」
「描いてみたかったけど、でも……」
「仕方ないわねぇ。もし、行くならお母さんが高校まで送ってあげる。あ、そうだ! 帰り道、一緒にプリクラ撮りに行かない?」
「プリクラ!? お母さん、撮ったことなんてないでしょ?」
「撮ってみたかったの! 制服の深冬とプリクラ!」

 お母さんがノリノリで近くで高校の近くでプリクラが撮れる場所を調べている。その時、二階からお父さんも降りてきた。

「お、お父さんも深冬とプリクラ撮りた……」
「あら、お父さんは仕事でしょ?」

 お母さんがお父さんを軽くあしらって、お父さんがしょげている。嬉しそうなお母さんとつまらないことでしょげているお父さんを見ていたら、少しだけ元気が出てきた気がした。
 


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Q.高校を卒業する意味は何ですか?次の選択肢の中から選びなさい。
1.学歴のため。
2.青春を送るため。
3.そういうものだと思っているから。
4.その他。
 私はね、選択肢[1]だった。学歴のために通ってた。友達もいないし、青春なんて送っていない。
 それでも中卒より高卒の方が給料が良いとか、そんなよくある理由。
 そんな高校二年生の冬、医者は私にこう告げた。
「貴方の余命は、約二年です」
 二年後に未来がないと言うのなら、もう高校に通う必要すら感じない。だって、行く意味が無いから。
 医者に余命宣告された翌日、私は不登校になった。
「|深冬《みふゆ》、今日は何する?」
「うーん、テレビゲーム! 今日も私が勝ったら、夕飯は私の好きな物でもいい?」
「よし、その勝負お母さん乗った!」
 高校に行かなくなった私に両親は何も言わなかった。きっと、私の気持ちも分かるのだろう。
「あ、そういえばお母さん。私、もう高校行かないから退学しようと思うの。学費だけかかっても勿体ないでしょ?」
「良いわよ、それくらい。深冬の高校、制服も可愛いじゃない。もし、着ようと思う日が一日でもあった時のために学籍だけ置いときなさい」
「はーい」
 そんな日、二度と来ないと思うけど。
 だって勉強に追われた日々とか、友達のいない休み時間より、ずっと家の方が楽しい。余生を楽しむのに最適だもの。
 余命宣告されてから二ヶ月、私は高校三年生になった。どうやら、二年の冬までに出席日数は足りていたらしい。
 高校三年生になってから、一週間。今日も私は家での生活を楽しんでいた。
 プルルルル、と家の固定電話が鳴る。お母さんは料理中で手が離せそうになく、お父さんは二階で仕事中。私は、仕方なく受話器を持ち上げた。
「はい、|天音《あまね》です」
「あ、天音さん。初めまして、私、天音さんの担任の|日下部《くさかべ》です」
 ああ、この電話、絶対に出なきゃ良かった。
 あれ、ちょっと待って。もう二度と高校にも行かないし、この担任にも会わない。じゃあ、切っても良くない?
 ブチっ、と通話が切れる音が耳に響く。
 気づいたら、私は受話器を置いていた。何故かスゥっと、心が冷めていくのを感じる。
「深冬、どうしたの?」
 お母さんが台所から顔を出す。
「……担任から電話があったの。絶対面倒臭いこと言われるし、もう二度と会うこともないし…なんなら私は二年後には死ぬでしょ?だから、電話を切ったの、だけど……」
「うん、それで?」
「なんか悪いことした気持ちになった。いや、実際失礼なことしたんだけど、なんか……」
 お母さんは嬉しそうに微笑んだ。
「ねぇ、深冬。お母さん、人生で後悔は付き物だと思うの。でも、人生で後悔しないコツを一つだけ知ってるの」
「何?」
「その時、その時で自分が最善だと思うことを選ぶこと。そうすれば後で後悔する結果になっても、あの時最善を選んだから気にしない、と思える。そこからの解決策を考えるようになるわ。……今の深冬にとっての最善策は何?」
「電話を掛け直して謝りたい、かも……?」
「じゃあ、そうすればいいわ」
 それだけ言うと、お母さんは台所に戻って行った。私はもう一度受話器を持ち、高校の電話番号を打ち込む。
「はい、霧野高校の佐倉です」
「あ、すみません。三年二組の天音 深冬です。日下部先生はいらっしゃいますか?」
「はい、今電話をお繋ぎします」
 待機中の電話から流れる音楽がとても長く感じる。
「はい、かわりました、日下部です」
「あ、あの……私、天音 深冬……で、あの……」
 上手く言葉が出て来ない。
「ゆっくりで大丈夫よ、天音さん」
 日下部先生は優しい声色でそう言った。
「えっと、先ほど電話を下さったのに切ってしまってすみません……」
「……天音さん、私、天音さんのお母さんから天音さんの状況を聞いたわ。その上で在籍を続けさせて欲しい、とも」
 お母さんはいつの間に、そんなことをお願いしていたのだろう。
「ねぇ、天音さん。学校には来たくない?」
「……はい。残りの少ない人生を楽しく過ごしたいので」
「つまり、学校は楽しくない、と?」
「あ、えっと……」
「はっきり言って良いのよ」
「……はい、私は学歴のために高校に行っていたので、友達もいなかったし」
「そうね、じゃあ、来ない方が良いわね。あ、これは高校の先生として言っちゃ不味かったかしら」
「え?」
「私だって天音さんの状況だったら一番したいことをするわ。お金だって使い切るし、可愛い服だって買っちゃうもの……天音さん、私との電話の時間は天音さんの人生に必要かしら?」
「えっと……」
「ここで、はっきり『要らない』と答えないのは天音さんの優しさね。分かったわ。じゃあ、もう電話もかけない。でも、最後に一つだけ。楽しい行事だけ来るって言うのはどう?」
「楽しい行事、ですか……?」
 日下部先生は、自信満々に話し始める。
「そう! 今度、新クラスのオリエンテーションがあるの。オリエンテーションと言う名のただの体育館での遊び大会ね。うちのクラスでは、フットサルをする予定なの……楽しくなさそうでしょう? 友達もいなかったら、そんなの楽しいはずがないわ。問題はここから。クラスのみんなは、体育館。つまり、教室には誰もいない。一人きりの教室って最高じゃない? 本当は施錠するんだけど、特別に開けてあげるわ。確か、天音さんは美術部だったわよね。しかもとっても上手で、賞もたくさんとってる……ねぇ、黒板アートを描いてくれないかしら?」
「はい?」
「楽しくなかったら、途中で帰ってもいいわ。なんなら、始めから来なくてもいい。まぁ、考えておいて。来週の金曜日だから」
「えっと、あの……」
「あ、私は天音さんと話すの楽しかったわよ。じゃあね」
 そう言うと、日下部先生は電話を切ってしまった。お母さんがもう一度、台所から顔を出す。
「深冬、どうだった?」
「黒板アートを描いて欲しいって……」
「良いじゃない! 深冬は嫌なの?」
「描いてみたかったけど、でも……」
「仕方ないわねぇ。もし、行くならお母さんが高校まで送ってあげる。あ、そうだ! 帰り道、一緒にプリクラ撮りに行かない?」
「プリクラ!? お母さん、撮ったことなんてないでしょ?」
「撮ってみたかったの! 制服の深冬とプリクラ!」
 お母さんがノリノリで近くで高校の近くでプリクラが撮れる場所を調べている。その時、二階からお父さんも降りてきた。
「お、お父さんも深冬とプリクラ撮りた……」
「あら、お父さんは仕事でしょ?」
 お母さんがお父さんを軽くあしらって、お父さんがしょげている。嬉しそうなお母さんとつまらないことでしょげているお父さんを見ていたら、少しだけ元気が出てきた気がした。