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第20話:怠惰の観測者、ベランダに立つ

ー/ー



 ――翌朝。

 俺はベランダに出て、昨日ルミナショッピング(日本版)で買った望遠鏡を構えた。
 最新式の高倍率レンズ、軽量ボディ、スマホ連動機能付き。
 異世界に来てまで文明の利器に頼る俺、最高だと思う。(だって楽だし)

「……おお、見える見える……!」

 望遠鏡の先には、フェルゼンの町並みが広がっていた。

 石畳の大通り。
 木骨造りの家々がぎっしり並び、赤茶色の屋根が朝日に照らされて輝いている。
 煙突からは白い煙がゆらゆらと立ち上り、パン屋の前には焼きたての香りに釣られた人々が列を作っていた。

(うわ……中世ヨーロッパって感じだな……ゲームで見たやつそのまんまじゃん)

 市場の広場では、露店が色とりどりの布を広げていた。
 青、赤、緑、金糸入りの布が風に揺れ、果物の山が積まれ、香辛料の匂いが漂ってきそうな気がした。

(あれ絶対高いだろ……いや、買わないけど。外出るの面倒だし)

 さらに望遠鏡を動かすと、城壁の上で騎士たちが巡回しているのが見えた。
 重装鎧が朝日に反射してキラキラ光っている。

(あれ……なんか人数増えてない? てか動きが軽いな……シフト制導入したからか?)

 城下町の奥には、フェルゼン領主邸、フェルゼン城の塔がそびえていた。
 白い石造りの塔は、まるで巨大な槍のように空へ突き刺さっている。

(あそこに呼ばれたんだよな……行かないけど)

 望遠鏡をさらに動かすと、町の外れに新しい建物が見えた。

「……あれ、詰め所じゃね?」

 木材が積まれ、職人たちが忙しそうに作業している。
 どう見ても“俺が落書きした図面”を元に建てられた詰め所だった。

(うわ、本当に作ってる……俺の落書きが現実になってる……)

 たまが足元で「ナァ」と鳴いた。

「……たま、見ろよ。俺の落書き、建物になってるぞ」

「ナァ(あんたのせいで領地が本気出してるのよ)」

「いや、俺はただ……楽したいだけなんだけどな」

 望遠鏡を下ろし、俺は深く息を吐いた。

(……フェルゼン、思ったよりちゃんとしてるな。てか、俺が何もしなくても勝手に発展していく感じ……悪くないな)

 だが、望遠鏡の画面に映る“新着ポイント”の通知が目に入った。

【フェルゼン領・改革進捗:+12,000L】

「……おお、また増えてる!」

(やっぱり……フェルゼンが動けばポイントが入る……!)

 俺は望遠鏡を握りしめた。

(……よし。もっとポイント欲しいし……もうちょいフェルゼン改革するか)

 たまが「ナァァ!?」と叫んだ。

(いや違うんだよたま……俺はただ……“怠惰の玉座”が欲しいだけなんだ……)

 -----

 ――同時刻・神界。

 巨大な水晶盤に、ベランダで望遠鏡を構えるゼクトの姿が映し出されていた。

「……ルミナ。あれは何をしている?」

「観察です! ついにゼクト様が、この世界に“興味”を持ち始めました!」

 ルミナは胸を張り、どや顔で言い切った。

「……興味、だと?」

「はい! 見てください主神様、あの真剣な眼差し! あれは完全に“世界に関心を持った人の目”です!」

「いや、あれは……ただの望遠鏡で遊んでいるだけではないか?」

「遊んでるんじゃありません! 観察です! 観察は立派な第一歩です!」

「……」

 主神は眉間を押さえた。

「そもそも、なぜ望遠鏡など持っている?」

「日本版ルミナショッピングで買ったんですよ!」

「なぜ買った?」

「欲しかったからです!」

「……」

 主神は深くため息をついた。

「ルミナ。お前、ゼクトに“この世界の商品”を追加したな?」

「はい! もちろんです!」

 ルミナは満面の笑みでうなずいた。

「ゼクト様は“引きこもりでネットショッピング好き”という性質をお持ちです。なので、釣るために高額商品を追加しました!」

「釣るために……?」

「はい! “怠惰の玉座”とか“魔導ベッド”とか“自動掃除式魔導ハウス”とか! ああいうの絶対好きだと思って!」

「……お前、神界の通販を釣り堀か何かと勘違いしていないか?」

「してません! 戦略です!」

「戦略……?」

「はい! ゼクト様は“欲しい物のためなら最低限は動く”タイプです! だから高額商品を置いておけば、勝手に世界を改革してポイントを稼いでくれます!」

「……」

 主神は水晶盤を見つめた。

 ゼクトは望遠鏡を覗きながら、フェルゼンの町並みに感心している。

「……本当に動き始めているな」

「でしょ!? 私の作戦、大成功です!」

「……だが、動機が“怠惰の玉座が欲しいから”というのはどうなんだ」

「動機なんてどうでもいいんです! 結果が出れば!」

「……」

「実際、ゼクト様が動いた瞬間、フェルゼンの改革が加速してますし! ポイントも増えてますし! 神力も爆増してますし!」

「……ルミナ」

「はい!」

「お前……完全に開き直っているな?」

「はい! だって結果出てますから!」

「……」

 主神は天を仰いだ。

「……ゼクトは本当に“怠惰のために世界を動かす男”なのか……?」

「そうです! だからこそ、最高なんです!」

「最高かどうかは知らんが……」

 主神は水晶盤を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「……このままでは、本当にゼクトが世界を支配するぞ」

「いいじゃないですか! 怠惰で平和な世界になりますよ!」

「よくない!!」

「私は好きですけど!」

「お前が好きかどうかは関係ない!!」

「でも結果出てますよ?」

「……」

 主神は胃を押さえた。

「……ルミナ。ゼクトを監視しろ。だが――」

「だが?」

「絶対に調子に乗らせるな」

「無理です! もう乗ってます!」

「……やはりか……」





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次のエピソードへ進む 第21話:フェルゼンの町並み


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 ――翌朝。
 俺はベランダに出て、昨日ルミナショッピング(日本版)で買った望遠鏡を構えた。
 最新式の高倍率レンズ、軽量ボディ、スマホ連動機能付き。
 異世界に来てまで文明の利器に頼る俺、最高だと思う。(だって楽だし)
「……おお、見える見える……!」
 望遠鏡の先には、フェルゼンの町並みが広がっていた。
 石畳の大通り。
 木骨造りの家々がぎっしり並び、赤茶色の屋根が朝日に照らされて輝いている。
 煙突からは白い煙がゆらゆらと立ち上り、パン屋の前には焼きたての香りに釣られた人々が列を作っていた。
(うわ……中世ヨーロッパって感じだな……ゲームで見たやつそのまんまじゃん)
 市場の広場では、露店が色とりどりの布を広げていた。
 青、赤、緑、金糸入りの布が風に揺れ、果物の山が積まれ、香辛料の匂いが漂ってきそうな気がした。
(あれ絶対高いだろ……いや、買わないけど。外出るの面倒だし)
 さらに望遠鏡を動かすと、城壁の上で騎士たちが巡回しているのが見えた。
 重装鎧が朝日に反射してキラキラ光っている。
(あれ……なんか人数増えてない? てか動きが軽いな……シフト制導入したからか?)
 城下町の奥には、フェルゼン領主邸、フェルゼン城の塔がそびえていた。
 白い石造りの塔は、まるで巨大な槍のように空へ突き刺さっている。
(あそこに呼ばれたんだよな……行かないけど)
 望遠鏡をさらに動かすと、町の外れに新しい建物が見えた。
「……あれ、詰め所じゃね?」
 木材が積まれ、職人たちが忙しそうに作業している。
 どう見ても“俺が落書きした図面”を元に建てられた詰め所だった。
(うわ、本当に作ってる……俺の落書きが現実になってる……)
 たまが足元で「ナァ」と鳴いた。
「……たま、見ろよ。俺の落書き、建物になってるぞ」
「ナァ(あんたのせいで領地が本気出してるのよ)」
「いや、俺はただ……楽したいだけなんだけどな」
 望遠鏡を下ろし、俺は深く息を吐いた。
(……フェルゼン、思ったよりちゃんとしてるな。てか、俺が何もしなくても勝手に発展していく感じ……悪くないな)
 だが、望遠鏡の画面に映る“新着ポイント”の通知が目に入った。
【フェルゼン領・改革進捗:+12,000L】
「……おお、また増えてる!」
(やっぱり……フェルゼンが動けばポイントが入る……!)
 俺は望遠鏡を握りしめた。
(……よし。もっとポイント欲しいし……もうちょいフェルゼン改革するか)
 たまが「ナァァ!?」と叫んだ。
(いや違うんだよたま……俺はただ……“怠惰の玉座”が欲しいだけなんだ……)
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 ――同時刻・神界。
 巨大な水晶盤に、ベランダで望遠鏡を構えるゼクトの姿が映し出されていた。
「……ルミナ。あれは何をしている?」
「観察です! ついにゼクト様が、この世界に“興味”を持ち始めました!」
 ルミナは胸を張り、どや顔で言い切った。
「……興味、だと?」
「はい! 見てください主神様、あの真剣な眼差し! あれは完全に“世界に関心を持った人の目”です!」
「いや、あれは……ただの望遠鏡で遊んでいるだけではないか?」
「遊んでるんじゃありません! 観察です! 観察は立派な第一歩です!」
「……」
 主神は眉間を押さえた。
「そもそも、なぜ望遠鏡など持っている?」
「日本版ルミナショッピングで買ったんですよ!」
「なぜ買った?」
「欲しかったからです!」
「……」
 主神は深くため息をついた。
「ルミナ。お前、ゼクトに“この世界の商品”を追加したな?」
「はい! もちろんです!」
 ルミナは満面の笑みでうなずいた。
「ゼクト様は“引きこもりでネットショッピング好き”という性質をお持ちです。なので、釣るために高額商品を追加しました!」
「釣るために……?」
「はい! “怠惰の玉座”とか“魔導ベッド”とか“自動掃除式魔導ハウス”とか! ああいうの絶対好きだと思って!」
「……お前、神界の通販を釣り堀か何かと勘違いしていないか?」
「してません! 戦略です!」
「戦略……?」
「はい! ゼクト様は“欲しい物のためなら最低限は動く”タイプです! だから高額商品を置いておけば、勝手に世界を改革してポイントを稼いでくれます!」
「……」
 主神は水晶盤を見つめた。
 ゼクトは望遠鏡を覗きながら、フェルゼンの町並みに感心している。
「……本当に動き始めているな」
「でしょ!? 私の作戦、大成功です!」
「……だが、動機が“怠惰の玉座が欲しいから”というのはどうなんだ」
「動機なんてどうでもいいんです! 結果が出れば!」
「……」
「実際、ゼクト様が動いた瞬間、フェルゼンの改革が加速してますし! ポイントも増えてますし! 神力も爆増してますし!」
「……ルミナ」
「はい!」
「お前……完全に開き直っているな?」
「はい! だって結果出てますから!」
「……」
 主神は天を仰いだ。
「……ゼクトは本当に“怠惰のために世界を動かす男”なのか……?」
「そうです! だからこそ、最高なんです!」
「最高かどうかは知らんが……」
 主神は水晶盤を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……このままでは、本当にゼクトが世界を支配するぞ」
「いいじゃないですか! 怠惰で平和な世界になりますよ!」
「よくない!!」
「私は好きですけど!」
「お前が好きかどうかは関係ない!!」
「でも結果出てますよ?」
「……」
 主神は胃を押さえた。
「……ルミナ。ゼクトを監視しろ。だが――」
「だが?」
「絶対に調子に乗らせるな」
「無理です! もう乗ってます!」
「……やはりか……」