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第8話:【闘争】鋼の巨像と不完全な協奏曲

ー/ー



 大地が震えていた。

 地下工房のハッチから這い出した私たちの前に、12機の鉄の巨人が円陣を組んで立ち塞がる。

 王立技術院の最高機密兵器、重装甲仕様『ゴーレム・レギオン』。全高5メートルを超える巨体が動くたびに、マナ蒸気炉が吐き出す黒煙が荒野の空を汚していく。

 駆動のたびに漏れ出す余剰マナが陽炎となって大気を歪ませ、地表の小石が磁場エラーで頼りなく浮き上がる。その圧倒的なまでの非効率な巨大質量が、こちらを見下ろしている。

「……待って。やっぱりおかしいわよ。何なの、この戦力は!」

 私はタクトを握る手を震わせながら叫んだ。

 確かに私は技術院を追放された身だが、名目は「成果なしによる予算打ち切り」だったはずだ。一介の没落研究者を捕らえるために、一国を滅ぼせるレベルの最新鋭機を12機も投入するなど、理屈が通らない。この過剰なまでの殺意――。背景に、あの赤髪の女の歪んだ執念が透けて見え、背筋に冷たいものが走った。

「計算外はない。……シスターズ、第一楽章。遠距離制圧を開始しろ」

 リュウガの号令が、MNWを通じて娘たちに伝播する。

 まず動いたのは、後方に陣取った六女ヴィオラと末っ子のクララだ。

「ターゲットロック。電磁加速プロトコル、承認。……抜きますわ」
「風速、湿度、マナ密度、すべて計算通り。……お掃除の時間ですわ」

 ヴィオラの持つ蛇腹剣が複雑に組み替わり、一振りの巨大な筒――電磁加速砲へと姿を変える。シュン、という空気を切り裂く高音。直後、先頭にいたゴーレムの頭部が、爆発もなしに物理的に消失した。

 超高速の弾丸が、重装甲を紙のように貫通し、背後の岩山ごと粉砕したのだ。間髪入れず、クララの放った一撃が別のゴーレムの関節部を正確に撃ち抜く。

「な、なによ今の!? 爆発も魔法陣も見えなかったわよ!?」
「ただの物理加速だ。……敵、接近。狙撃班は牽制しながら後退。前衛にスイッチ」

 狙撃で足止めされたゴーレムたちが、蒸気を噴き上げながら突撃してくる。

 だが、シスターズの動きに迷いはない。ヴィオラは瞬時に電磁加速砲の砲身を縮小させ、近接防衛用の多銃身マシンガンへと形態を切り替えた。

 クララもまた、狙撃銃の底部から熱せられたマナの弾倉を乾いた金属音と共に排出し、新たな高出力弾倉を装填。一瞬の隙もなく、空間を埋め尽くすようなマシンガンの弾幕をばら撒き始めた。

 そこへ、長女チェロが巨大な斧を地面に突き立てた。

「一歩も通しませんわ!」

 チェロの周囲に不可視の重力障壁が展開され、突っ込んできた数トンの鋼鉄の塊が、見えない壁に衝突したようにその場に平伏した。

 もうやけくそよ! ここまでやってしまったら言い訳もきかない!!

「ええい、今よ! コルネ、ユーフィ、突撃なさい!」

 私がタクトを振り下ろすと、前衛の三女コルネと五女ユーフィがチェロの背後から跳躍した。

 二人は空中でそれぞれの武装からブラスターを乱射し、敵ゴーレムのセンサー類を物理的に咀嚼して視界を奪う。そして、自らが放った弾丸の嵐を追い越すほどの「慣性無視」のスピードで一気に肉薄した。コルネは腰のブラスターを叩き込むと同時に、背中から巨大な大剣をシームレスに引き抜く。

「ボクの熱量についてこれるかな!?」
「あーしもドカンといっちゃうよぉ!」

 コルネの大剣が放つ紅蓮の炎と、ユーフィの薙刀が放つ不可視の衝撃波。近接戦闘に入った彼女たちの動きは、重厚なゴーレムとは比較にならないほど速い。炎が装甲を焼き切り、衝撃波が内部構造を粉砕する。

『【MNW通信】母様! 見ました!? 今、ボクが斬った瞬間に父様がこっちを見た気がします! これって実質デートですよね!?(・∀・)』
『何を言ってるのコルネちゃん! 私の衝撃波の方が父様へのアピール度は高かったはずよぉっ!』
「あんたたち、戦闘中に脳内で何を喋ってるのよ! 集中しなさい!」

 私の叱責をよそに、シスターズの連携はさらに加速する。

 ユーフィが薙刀の一撃で跳ね飛ばした敵機を、後方で待機していたヴィオラが精密狙撃で追撃。敵の装甲を削るブラスター射撃から、トドメの高周波刃による両断まで、彼女たちの武装は流れるようなシンフォニーとなって戦場を再定義していく。

「第二パターンへ移行。ルーテ、オルガ、攪乱と分解を開始しろ」

 リュウガの指示に、四女ルーテが影のように消えた。

「……加速空間、展開」

 ルーテの高周波双剣が、死角からゴーレムの足を正確に断ち切っていく。バランスを崩した巨像へ、次女オルガが優雅に槍を突き出した。

「認証エラーを誘発。……さよなら」

 オルガの槍が触れた瞬間、ゴーレムを動かしていた複雑な魔導回路がパズルのように分解され、光の粒子となって霧散する。

「信じられない……。あんな最新鋭機を、ただのガラクタみたいに……」

 私は呆然とタクトを振ることさえ忘れていた。

 だが、リュウガが私の手首を掴み、無理やりタクトを掲げさせた。

「エリー、指揮を止めるな。お前がタクトを振るたびに、彼女たちの出力は上がっている。お前の不合理な興奮が、彼女たちの基盤を加速させているんだ」
「ひゃ、ひゃあああ!? 手、手が! 近いわよリュック!」

『【実況】キター! 父様による強制的スキンシップ! エリー様の心拍数、180を突破! 娘たち、今が最大火力の出し時ですわよ!(・∀・)』
「「「「「「「了解、母様! てぇてぇパワーで焼き尽くしますわ!」」」」」」」

 シスターズのテンションが最高潮に達する。

 もはやそれは戦闘ではなく、狂騒的な祝祭(カーニバル)だった。

 ヴィオラの電磁加速砲が火を噴き、クララのマシンガンが咆哮を上げる。空になった弾倉が次々と地面に転がり、熱された排気孔から白い煙が立ち上る。

 狙撃、重力、炎、衝撃、分解。7人の娘たちの力が、私のタクトの一振りとリュウガの体温によって一つの巨大な奔流へと収束していく。



 轟音が響き、次の瞬間訪れる静寂。



 12機の鋼の巨人は、最後の一機がルーテの双剣によって細切れにされ――

 「マナの熱漏れが酷すぎるわ! あんなスパゲッティコードの塊、排熱口のファンを物理的に砕けば一瞬で自壊するわよ! ユーフィ、関節の吸気口を狙いなさい!」
「任せてっしょ、エリーちゃん!」

 私の指示通り、ユーフィの衝撃波がゴーレムの冷却機構を破壊し、跡形もなく消滅した。

 荒野に、焦げた鉄の匂いと静寂だけが戻ってくる。

「……勝った。私たち、勝ったのね?」

 私は膝をつき、激しく脈打つ胸を押さえた。

 シスターズたちが、汚れ一つない涼しい顔で駆け寄ってくる。

「母様、完璧な采配でしたわ! 父様との連携も最高でした!」

 彼女たちの賞賛の声に、私はようやく力が抜けて笑った。

 だが、リュウガだけは地平線の先をじっと見つめている。

「……初陣にしては上出来だ。だが、これで技術院も『本気』になるだろうな」

『【解析】エリー様、勝利の余韻で「私、軍師の才能あるかも?」と調子に乗っていますが、実際はリュウガ様に肩を抱かれた感触で頭がいっぱいです(・∀・)』
「ファーファ! せっかくいい雰囲気だったのに、そのログを今すぐ消去しなさーい!!」

「「「「きゃーーー、母様、いえ、奥様アツアツですわーーーー!!!!」」」」

 夜の荒野に、私の絶叫と娘たちの笑い声が響く。

 私たちの逃亡劇は、ここから加速していくことになる。




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 地下工房のハッチから這い出した私たちの前に、12機の鉄の巨人が円陣を組んで立ち塞がる。
 王立技術院の最高機密兵器、重装甲仕様『ゴーレム・レギオン』。全高5メートルを超える巨体が動くたびに、マナ蒸気炉が吐き出す黒煙が荒野の空を汚していく。
 駆動のたびに漏れ出す余剰マナが陽炎となって大気を歪ませ、地表の小石が磁場エラーで頼りなく浮き上がる。その圧倒的なまでの非効率な巨大質量が、こちらを見下ろしている。
「……待って。やっぱりおかしいわよ。何なの、この戦力は!」
 私はタクトを握る手を震わせながら叫んだ。
 確かに私は技術院を追放された身だが、名目は「成果なしによる予算打ち切り」だったはずだ。一介の没落研究者を捕らえるために、一国を滅ぼせるレベルの最新鋭機を12機も投入するなど、理屈が通らない。この過剰なまでの殺意――。背景に、あの赤髪の女の歪んだ執念が透けて見え、背筋に冷たいものが走った。
「計算外はない。……シスターズ、第一楽章。遠距離制圧を開始しろ」
 リュウガの号令が、MNWを通じて娘たちに伝播する。
 まず動いたのは、後方に陣取った六女ヴィオラと末っ子のクララだ。
「ターゲットロック。電磁加速プロトコル、承認。……抜きますわ」
「風速、湿度、マナ密度、すべて計算通り。……お掃除の時間ですわ」
 ヴィオラの持つ蛇腹剣が複雑に組み替わり、一振りの巨大な筒――電磁加速砲へと姿を変える。シュン、という空気を切り裂く高音。直後、先頭にいたゴーレムの頭部が、爆発もなしに物理的に消失した。
 超高速の弾丸が、重装甲を紙のように貫通し、背後の岩山ごと粉砕したのだ。間髪入れず、クララの放った一撃が別のゴーレムの関節部を正確に撃ち抜く。
「な、なによ今の!? 爆発も魔法陣も見えなかったわよ!?」
「ただの物理加速だ。……敵、接近。狙撃班は牽制しながら後退。前衛にスイッチ」
 狙撃で足止めされたゴーレムたちが、蒸気を噴き上げながら突撃してくる。
 だが、シスターズの動きに迷いはない。ヴィオラは瞬時に電磁加速砲の砲身を縮小させ、近接防衛用の多銃身マシンガンへと形態を切り替えた。
 クララもまた、狙撃銃の底部から熱せられたマナの弾倉を乾いた金属音と共に排出し、新たな高出力弾倉を装填。一瞬の隙もなく、空間を埋め尽くすようなマシンガンの弾幕をばら撒き始めた。
 そこへ、長女チェロが巨大な斧を地面に突き立てた。
「一歩も通しませんわ!」
 チェロの周囲に不可視の重力障壁が展開され、突っ込んできた数トンの鋼鉄の塊が、見えない壁に衝突したようにその場に平伏した。
 もうやけくそよ! ここまでやってしまったら言い訳もきかない!!
「ええい、今よ! コルネ、ユーフィ、突撃なさい!」
 私がタクトを振り下ろすと、前衛の三女コルネと五女ユーフィがチェロの背後から跳躍した。
 二人は空中でそれぞれの武装からブラスターを乱射し、敵ゴーレムのセンサー類を物理的に咀嚼して視界を奪う。そして、自らが放った弾丸の嵐を追い越すほどの「慣性無視」のスピードで一気に肉薄した。コルネは腰のブラスターを叩き込むと同時に、背中から巨大な大剣をシームレスに引き抜く。
「ボクの熱量についてこれるかな!?」
「あーしもドカンといっちゃうよぉ!」
 コルネの大剣が放つ紅蓮の炎と、ユーフィの薙刀が放つ不可視の衝撃波。近接戦闘に入った彼女たちの動きは、重厚なゴーレムとは比較にならないほど速い。炎が装甲を焼き切り、衝撃波が内部構造を粉砕する。
『【MNW通信】母様! 見ました!? 今、ボクが斬った瞬間に父様がこっちを見た気がします! これって実質デートですよね!?(・∀・)』
『何を言ってるのコルネちゃん! 私の衝撃波の方が父様へのアピール度は高かったはずよぉっ!』
「あんたたち、戦闘中に脳内で何を喋ってるのよ! 集中しなさい!」
 私の叱責をよそに、シスターズの連携はさらに加速する。
 ユーフィが薙刀の一撃で跳ね飛ばした敵機を、後方で待機していたヴィオラが精密狙撃で追撃。敵の装甲を削るブラスター射撃から、トドメの高周波刃による両断まで、彼女たちの武装は流れるようなシンフォニーとなって戦場を再定義していく。
「第二パターンへ移行。ルーテ、オルガ、攪乱と分解を開始しろ」
 リュウガの指示に、四女ルーテが影のように消えた。
「……加速空間、展開」
 ルーテの高周波双剣が、死角からゴーレムの足を正確に断ち切っていく。バランスを崩した巨像へ、次女オルガが優雅に槍を突き出した。
「認証エラーを誘発。……さよなら」
 オルガの槍が触れた瞬間、ゴーレムを動かしていた複雑な魔導回路がパズルのように分解され、光の粒子となって霧散する。
「信じられない……。あんな最新鋭機を、ただのガラクタみたいに……」
 私は呆然とタクトを振ることさえ忘れていた。
 だが、リュウガが私の手首を掴み、無理やりタクトを掲げさせた。
「エリー、指揮を止めるな。お前がタクトを振るたびに、彼女たちの出力は上がっている。お前の不合理な興奮が、彼女たちの基盤を加速させているんだ」
「ひゃ、ひゃあああ!? 手、手が! 近いわよリュック!」
『【実況】キター! 父様による強制的スキンシップ! エリー様の心拍数、180を突破! 娘たち、今が最大火力の出し時ですわよ!(・∀・)』
「「「「「「「了解、母様! てぇてぇパワーで焼き尽くしますわ!」」」」」」」
 シスターズのテンションが最高潮に達する。
 もはやそれは戦闘ではなく、狂騒的な祝祭(カーニバル)だった。
 ヴィオラの電磁加速砲が火を噴き、クララのマシンガンが咆哮を上げる。空になった弾倉が次々と地面に転がり、熱された排気孔から白い煙が立ち上る。
 狙撃、重力、炎、衝撃、分解。7人の娘たちの力が、私のタクトの一振りとリュウガの体温によって一つの巨大な奔流へと収束していく。
 轟音が響き、次の瞬間訪れる静寂。
 12機の鋼の巨人は、最後の一機がルーテの双剣によって細切れにされ――
 「マナの熱漏れが酷すぎるわ! あんなスパゲッティコードの塊、排熱口のファンを物理的に砕けば一瞬で自壊するわよ! ユーフィ、関節の吸気口を狙いなさい!」
「任せてっしょ、エリーちゃん!」
 私の指示通り、ユーフィの衝撃波がゴーレムの冷却機構を破壊し、跡形もなく消滅した。
 荒野に、焦げた鉄の匂いと静寂だけが戻ってくる。
「……勝った。私たち、勝ったのね?」
 私は膝をつき、激しく脈打つ胸を押さえた。
 シスターズたちが、汚れ一つない涼しい顔で駆け寄ってくる。
「母様、完璧な采配でしたわ! 父様との連携も最高でした!」
 彼女たちの賞賛の声に、私はようやく力が抜けて笑った。
 だが、リュウガだけは地平線の先をじっと見つめている。
「……初陣にしては上出来だ。だが、これで技術院も『本気』になるだろうな」
『【解析】エリー様、勝利の余韻で「私、軍師の才能あるかも?」と調子に乗っていますが、実際はリュウガ様に肩を抱かれた感触で頭がいっぱいです(・∀・)』
「ファーファ! せっかくいい雰囲気だったのに、そのログを今すぐ消去しなさーい!!」
「「「「きゃーーー、母様、いえ、奥様アツアツですわーーーー!!!!」」」」
 夜の荒野に、私の絶叫と娘たちの笑い声が響く。
 私たちの逃亡劇は、ここから加速していくことになる。