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第7話:【指揮】不協和音の指揮者(コンダクター)

ー/ー



「指揮」という行為は、私にとって憧れであり、同時に最も忌まわしい記憶の象徴でもあった。

 王立技術院の本隊が到着するまで、残された時間はわずか3時間。地下工房は、急ピッチで進められる迎撃準備の熱気と、シスターズたちの騒がしい声に包まれていた。

「いい、あんたたち。目覚めて数日で大規模な実戦なんて正気の沙汰じゃないけど、やるしかないわ。……リュック、あんたがさっきから言っている『調整』とやらを最終確認させなさい」

 私はタクトを握り直し、工房の中央に整列した7人の娘たちを見上げた。彼女たちはこれから始まる命懸けの戦闘を前にしているというのに、まるでお茶会の準備でもするかのような平熱の空気感を漂わせている。

 長女チェロにいたっては、数トンはあるアークの外殻装甲板を片手でひょいと持ち上げ、その隙間にナノマシンを直接流し込みながら、もう片方の手で優雅に私へお茶を差し出すという、物理法則を冒涜したようなマルチタスクをこなしていた。

「了解した。……まずは前衛、チェロ」

 リュウガが名前を呼ぶと、おかっぱ頭の長女が重厚な斧を掲げた。

「彼女は重力制御による防衛担当だ。管理者権限により、ナノマシンの局所質量を引き上げるシールドを最適化した」

「次にオルガ。敵の魔法障壁を直接分解する『解体』のスペシャリストだ」
「皆様、安らかな眠りを。……母様をいじめてはいけませんわ(微笑)」

 オルガが優雅に槍を回した。その槍先が空気を切り裂くたび、一切の風切り音なしに空間が極小の火花を散らす。管理者権限によって空気抵抗というノイズが物理的に排除されている証だった。

「次は攻撃の要、コルネ、ユーフィ」

「ボクの炎で道を作るよ!」
「あーしも暴れるっしょ! 衝撃波、いくよぉ!」

「コルネは熱を直接励起する火炎担当、ユーフィは運動エネルギー増幅による衝撃波だ。二人で近接飽和攻撃を担当する」

「ルーテは加速空間による隠密と、高周波双剣による近接暗殺。……そして、ヴィオラ、クララ」

 彼が二人の名を呼ぶと、彼女たちは近接武器の他に、見たこともない形状の長細い筒のようなものを取り出した。

「ヴィオラは広域管制に加え、蛇腹剣を電磁加速砲に組み替える精密狙撃。クララは気圧制御により風の影響を排除する超長距離射撃。この二人は遠距離の制圧火力としても機能する」

「……ちょ、ちょっと、ストップ! ストップォォォォォプ!!」

 私は頭を抱えて叫んだ。

「何なのよ、さっきから! 電磁加速砲? 聞いたことないわよ、そんなの! あんたが何を言ってるのか、半分も理解できないわよ!」

 私はタクトを振り回してまくし立てた。

「いい、よく聞きなさい! 私はただ、見た目が完璧で、最高に可愛い『究極のメイドさん』を作りたかっただけなの! 趣味の裁縫を活かして、夜なべしてでも世界一可愛いメイド服を着せてあげようって、そのために彼女たちの寸法だってミリ単位でこだわったのよ! お茶を淹れて、掃除をして、時々私を敬ってくれる、そんな乙女たちをね!」

 ハァハァと肩で息を吐きながら、私は続けた。

「なのに何よ、電磁なんとか砲って! 狙撃って! 没落したってアルテミシアの矜持はあるわ! 私の理想は、フリルとレースに包まれた乙女たちが、優雅にティータイムの給仕をしてくれる光景なの! 軍隊みたいな物騒な言葉を私の娘たちに植え付けないで! 私は軍人じゃないのよぉぉぉ!!」

「不合理なパニックだな。言葉の定義はどうでもいい。お前がこだわった『ミリ単位の寸法』と『完璧な関節構造』が、結果として軍事転用に耐えうる超高精度なフレームを完成させたんだ。お前の愛が、彼女たちを最強にした」
「たまたまでそんな物騒なものができるわけないでしょ、バカァー! ヴィオラが持ってるその筒だって、元々は電子レンジの摩擦熱を応用して、一瞬で美味しい紅茶を沸かすために私が配線した『瞬間湯沸かし器』のはずでしょ!? なんでそれが装甲をブチ抜く兵器になってるのよぉぉ!」」

 私の絶叫に、シスターズたちは顔を見合わせ、それから揃ってリュウガの前に膝を突いた。

 だが、三女コルネなどは、私の剣幕に怯えるどころか「エリーちゃん、顔が真っ赤で可愛い!!」と、大剣の刃先で器用にリンゴの皮を剥いて差し出してくる始末。戦場へ向かう緊張感など、彼女たちのナノマシンで構成された思考回路には一ミリも書き込まれていないようだった。

「母様、悲しまないでください。言葉の意味は分からずとも、私たちは父様と母様の盾であり、矛です。……それと同時に」

 長女で委員長キャラのチェロが代表して顔を上げ、凛とした、けれど慈愛に満ちた瞳で私を見つめた。

「私たちは、お二人の身の回りのすべてを完璧にお世話する『最強のメイド隊』でもありますわ。戦いが終わったら、母様こだわりのメイド服を、ぜひ私たちに着せてくださいませ」
「そうですわ。母様を世界一幸せな奥様にするのが、私たちのプロトコルですから(微笑)」

 オルガの言葉に、他の姉妹たちも「「「はい、母様!」」」と声を揃える。

「あんたたち……。……わかったわよ、もうヤケよ! 最高のメイド服、山ほど縫ってやるわよ! その代わり、傷一つつけずに帰ってきなさい!」

『【解析】エリー様、2000年前の専門用語に脳が拒絶反応を起こしていますが、娘たちの健気な宣言により「創作意欲」へと置換されました。なお、リュウガ様と「お二人」と言われたことに内心ニヤけています(・∀・)』
「ファーファ! 実況してないで迎撃準備を急ぎなさい!」

「マスターと奥様の共同作業、モチベーション向上フェーズ終了。……てぇてぇ……でございます。録画、永久保存」

 末っ子のクララが無表情で銃口を点検しながらログを刻むと、他の姉妹たちがMNW(マナ・ネットワーク)で――この時初めて、リュウガと私が開発した彼女たち専用の脳内データ回線を、リュウガがそう呼んだ――一斉に囃し立てた。

「「「母様のツンデレ、てぇてぇですわー!」」」

 その時、工房全体が凄まじい振動に襲われた。

 同時に、鼻を突く強烈なオゾンの匂いと、空間を無駄に加熱する不快な熱気が地下にまで漏れ出してくる。教団の魔導師たちが、その非効率な詠唱を完成させ、マナを物理的な暴力へと変換し始めた予兆だ。

 警報が真っ赤な光となって旋回する。

「……来たわ。技術院本隊……」

 私は、再びタクトを強く握りしめた。

 地下工房の重厚なハッチが、重々しい音を立てて開放される。

 地上へと這い出した私たちの前に立ちはだかっていたのは、12体の、そして私の絶望を具現化したような『鋼の巨人』たちだった。

「……嘘でしょ? 『ゴーレム・レギオン』――。それも、量産型じゃなくてアカデミー最新鋭の重装甲仕様じゃない……」

 視界を埋め尽くすのは、全高5メートルを超える武骨なシルエット。その胸部のコアには、王都の工場数個分に匹敵する出力を叩き出す魔力炉が唸りを上げている。駆動のたびに漏れ出す余剰マナが陽炎となって大気を歪ませ、地表の小石が磁場エラーで頼りなく浮き上がる。

 一体だけでも小規模な城塞を粉砕し、「移動要塞」と称される最高機密兵器。それが12体。

 没落した一研究者の隠れ家を潰すために出すには、あまりにも過剰で、殺意に満ちた暴力の物量だった。

 リュウガが私の隣に立ち、管理者の瞳を黄金色に輝かせる。

「準備はいいか、エリー」
「ああああ、もう覚悟した!! もうやるしかないのよね!? 私の娘たちが奏でる不協和音で、あの老害どもの耳をブチ壊してやるわ!」

 私たちの、本当の「初陣」が始まる。




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「指揮」という行為は、私にとって憧れであり、同時に最も忌まわしい記憶の象徴でもあった。
 王立技術院の本隊が到着するまで、残された時間はわずか3時間。地下工房は、急ピッチで進められる迎撃準備の熱気と、シスターズたちの騒がしい声に包まれていた。
「いい、あんたたち。目覚めて数日で大規模な実戦なんて正気の沙汰じゃないけど、やるしかないわ。……リュック、あんたがさっきから言っている『調整』とやらを最終確認させなさい」
 私はタクトを握り直し、工房の中央に整列した7人の娘たちを見上げた。彼女たちはこれから始まる命懸けの戦闘を前にしているというのに、まるでお茶会の準備でもするかのような平熱の空気感を漂わせている。
 長女チェロにいたっては、数トンはあるアークの外殻装甲板を片手でひょいと持ち上げ、その隙間にナノマシンを直接流し込みながら、もう片方の手で優雅に私へお茶を差し出すという、物理法則を冒涜したようなマルチタスクをこなしていた。
「了解した。……まずは前衛、チェロ」
 リュウガが名前を呼ぶと、おかっぱ頭の長女が重厚な斧を掲げた。
「彼女は重力制御による防衛担当だ。管理者権限により、ナノマシンの局所質量を引き上げるシールドを最適化した」
「次にオルガ。敵の魔法障壁を直接分解する『解体』のスペシャリストだ」
「皆様、安らかな眠りを。……母様をいじめてはいけませんわ(微笑)」
 オルガが優雅に槍を回した。その槍先が空気を切り裂くたび、一切の風切り音なしに空間が極小の火花を散らす。管理者権限によって空気抵抗というノイズが物理的に排除されている証だった。
「次は攻撃の要、コルネ、ユーフィ」
「ボクの炎で道を作るよ!」
「あーしも暴れるっしょ! 衝撃波、いくよぉ!」
「コルネは熱を直接励起する火炎担当、ユーフィは運動エネルギー増幅による衝撃波だ。二人で近接飽和攻撃を担当する」
「ルーテは加速空間による隠密と、高周波双剣による近接暗殺。……そして、ヴィオラ、クララ」
 彼が二人の名を呼ぶと、彼女たちは近接武器の他に、見たこともない形状の長細い筒のようなものを取り出した。
「ヴィオラは広域管制に加え、蛇腹剣を電磁加速砲に組み替える精密狙撃。クララは気圧制御により風の影響を排除する超長距離射撃。この二人は遠距離の制圧火力としても機能する」
「……ちょ、ちょっと、ストップ! ストップォォォォォプ!!」
 私は頭を抱えて叫んだ。
「何なのよ、さっきから! 電磁加速砲? 聞いたことないわよ、そんなの! あんたが何を言ってるのか、半分も理解できないわよ!」
 私はタクトを振り回してまくし立てた。
「いい、よく聞きなさい! 私はただ、見た目が完璧で、最高に可愛い『究極のメイドさん』を作りたかっただけなの! 趣味の裁縫を活かして、夜なべしてでも世界一可愛いメイド服を着せてあげようって、そのために彼女たちの寸法だってミリ単位でこだわったのよ! お茶を淹れて、掃除をして、時々私を敬ってくれる、そんな乙女たちをね!」
 ハァハァと肩で息を吐きながら、私は続けた。
「なのに何よ、電磁なんとか砲って! 狙撃って! 没落したってアルテミシアの矜持はあるわ! 私の理想は、フリルとレースに包まれた乙女たちが、優雅にティータイムの給仕をしてくれる光景なの! 軍隊みたいな物騒な言葉を私の娘たちに植え付けないで! 私は軍人じゃないのよぉぉぉ!!」
「不合理なパニックだな。言葉の定義はどうでもいい。お前がこだわった『ミリ単位の寸法』と『完璧な関節構造』が、結果として軍事転用に耐えうる超高精度なフレームを完成させたんだ。お前の愛が、彼女たちを最強にした」
「たまたまでそんな物騒なものができるわけないでしょ、バカァー! ヴィオラが持ってるその筒だって、元々は電子レンジの摩擦熱を応用して、一瞬で美味しい紅茶を沸かすために私が配線した『瞬間湯沸かし器』のはずでしょ!? なんでそれが装甲をブチ抜く兵器になってるのよぉぉ!」」
 私の絶叫に、シスターズたちは顔を見合わせ、それから揃ってリュウガの前に膝を突いた。
 だが、三女コルネなどは、私の剣幕に怯えるどころか「エリーちゃん、顔が真っ赤で可愛い!!」と、大剣の刃先で器用にリンゴの皮を剥いて差し出してくる始末。戦場へ向かう緊張感など、彼女たちのナノマシンで構成された思考回路には一ミリも書き込まれていないようだった。
「母様、悲しまないでください。言葉の意味は分からずとも、私たちは父様と母様の盾であり、矛です。……それと同時に」
 長女で委員長キャラのチェロが代表して顔を上げ、凛とした、けれど慈愛に満ちた瞳で私を見つめた。
「私たちは、お二人の身の回りのすべてを完璧にお世話する『最強のメイド隊』でもありますわ。戦いが終わったら、母様こだわりのメイド服を、ぜひ私たちに着せてくださいませ」
「そうですわ。母様を世界一幸せな奥様にするのが、私たちのプロトコルですから(微笑)」
 オルガの言葉に、他の姉妹たちも「「「はい、母様!」」」と声を揃える。
「あんたたち……。……わかったわよ、もうヤケよ! 最高のメイド服、山ほど縫ってやるわよ! その代わり、傷一つつけずに帰ってきなさい!」
『【解析】エリー様、2000年前の専門用語に脳が拒絶反応を起こしていますが、娘たちの健気な宣言により「創作意欲」へと置換されました。なお、リュウガ様と「お二人」と言われたことに内心ニヤけています(・∀・)』
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「「「母様のツンデレ、てぇてぇですわー!」」」
 その時、工房全体が凄まじい振動に襲われた。
 同時に、鼻を突く強烈なオゾンの匂いと、空間を無駄に加熱する不快な熱気が地下にまで漏れ出してくる。教団の魔導師たちが、その非効率な詠唱を完成させ、マナを物理的な暴力へと変換し始めた予兆だ。
 警報が真っ赤な光となって旋回する。
「……来たわ。技術院本隊……」
 私は、再びタクトを強く握りしめた。
 地下工房の重厚なハッチが、重々しい音を立てて開放される。
 地上へと這い出した私たちの前に立ちはだかっていたのは、12体の、そして私の絶望を具現化したような『鋼の巨人』たちだった。
「……嘘でしょ? 『ゴーレム・レギオン』――。それも、量産型じゃなくてアカデミー最新鋭の重装甲仕様じゃない……」
 視界を埋め尽くすのは、全高5メートルを超える武骨なシルエット。その胸部のコアには、王都の工場数個分に匹敵する出力を叩き出す魔力炉が唸りを上げている。駆動のたびに漏れ出す余剰マナが陽炎となって大気を歪ませ、地表の小石が磁場エラーで頼りなく浮き上がる。
 一体だけでも小規模な城塞を粉砕し、「移動要塞」と称される最高機密兵器。それが12体。
 没落した一研究者の隠れ家を潰すために出すには、あまりにも過剰で、殺意に満ちた暴力の物量だった。
 リュウガが私の隣に立ち、管理者の瞳を黄金色に輝かせる。
「準備はいいか、エリー」
「ああああ、もう覚悟した!! もうやるしかないのよね!? 私の娘たちが奏でる不協和音で、あの老害どもの耳をブチ壊してやるわ!」
 私たちの、本当の「初陣」が始まる。