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14話 蜘蛛、襲来!

ー/ー



「結構優秀な手札が揃ってきたよな」

 俺はソファで寛ぎながら、改めて脳内モニターに映る五人の人物を見ていた。

 エルメス=バーキン、十六歳。
 過去に何をやらかしたのかまでは知らないが、悪役令嬢の末路を見事なまでに辿る少女。家族からは縁を切られているものの、一応伯爵令嬢である。
 どこぞの魔法学校に通っていたらしく、魔法の腕はかなりのものだ。

 シャネル=ココハンドル、年齢は不明。
 朝焼けの翼と呼ばれた冒険者パーティに所属していたエルフの弓使い。身体能力が高く、千里眼という特殊スキルを持ち合わせている。そのため使い勝手は抜群に良く、戦闘や隠密行動に向いている。
 ただし、これは個人的な使用感になってしまうのだが、寄生体の中でもっとも反抗的な個体でもある。

 セリーヌ=トリオンフ、二十二歳。
 商業都市オールセルテスの冒険者ギルドで働く受付嬢。特にこれといって優れている点はないが、モンスター()にとっての天敵、冒険者の情報が手に入るのはデカい。秘書的な仕事もできるので、個人的にはかなり助かっている。

 ハミルトン=カーキフィールド、二十四歳。
 フィールド商会の跡取り息子。頭は切れるが女癖が悪く、少しばかり性格に難あり。しかし、商人としての話術と情報収集能力は目を見張るものがある。ハミルトンと意識を共有するだけで、凝り固まったおっさんの脳細胞が活性化する。冴えわたるようにアイデアが次々と湧いてくるのだ。
 攻略不可能と思われたクロエを落とせたのも、このハミルトンの活躍が大きい。しかも、戦闘もこなせるというオールラウンダーでもある。男という一点を除けば、最も優れた寄生体だと思う。

 クロエ=パディントン、十八歳。
 東洋系のロリっ娘薬師。可愛らしい外見からは想像が付かないほど正義感が強い。資材を投げ売り、無償で貧困街の人々を助けようとするその姿は、まさに北里柴三郎の生まれ変わりのような少女である。
 おっさん的にロリっ娘というところもかなりポイントが高い。

 最近少しずつではあるが、彼らの魂――この場合は意識と言った方が正しいのかもしれない。それが操作感に多少なりとも影響していると思われる。詳しいことは現在調査中である。

「安心安全な芋虫ライフを送るためにも、早いところ街を牛耳りたいよな」

 いつ冒険者が攻めてくるかもわからないこの状況だと、おちおち昼寝もできやしない。

「主様、こちらの資料をお届けに参りました」
「おっ、セリーヌか」

 近頃は仕事の合間をみて、こうしてセリーヌが報告書なんかを届けてくれている。本来ならシャネルやエルメス辺りにやらせたいところなのだが、シャネルは少し反抗的な態度を見せることがある。
 目の前で仲間を殺したことが良くなかったんだろう。無意識下の拒絶というやつだ。

 エルメスに関しては論外。あれはがさつ過ぎる。送られてくる報告書はすべて、整理してスライム棚に保管している。
 一度エルメスにも棚の整理を頼んだことがあるのだが、なぜか整理を頼む前よりもめちゃくちゃになっていた。

 何をどうしたらこうなるのかと説教すれば、

『だって仕方ないじゃない。(わたくし)こういう地味な作業はすべて、下僕にやらせていたんですもの。ふんっ』

 寄生虫による自動(オート)操作のくせに、実に生意気な回答だ。
 ま、寄生虫による自動(オート)操作時は、できる限り元の人格をトレースするように命令しているので、この辺りは大目にみるのだが。

 それ以降、彼女に頼むことはなくなった。

「こちらは、新たな報告書になります」
「うん、あんがとさんっ」

 報告書を受け取り、さっと目を通していく。重要そうな部分には、あらかじめセリーヌが赤線を引いてくれている。
 こういう細やかな気遣いができるところが、エルメスちゃんとは違うんだよな。セリーヌちゃんは、マジで有能な秘書だよな。美人だし、文句のつけようがない。

「なになに……げっ!? Aランクはねぇだろッ!」

 報告書によると、ダンジョンコアの破壊を目的とした討伐パーティが着々と組まれつつあるらしいのだが、問題は集められている冒険者たちだ。
 ギルドの呼びかけで集まった冒険者の中には、Aランク冒険者がいるという。

「さすがにそれはやり過ぎだろ!」

 そんなのが攻めてきた日には、おっさん怖くてちびってしまう。というか、多分詰む。おっさんの二度目の人生はあっけなくゲームオーバーである。

「せっかくいい感じなのにっ!」

 そうならないためにも、ダンジョンコアの破壊をギルドに依頼している領主――ボッテガヴェネタ=イントレチャート子爵を早々にやらなければならない。

「カードは揃ってんだ。あとはこっちから仕掛けるだけだ」

 いまは一分一秒が惜しい。
 討伐パーティが攻めてくるのが先か、俺がボッテガヴェネタ=イントレチャート子爵を取り込むのが先か。露落ちて、花残れり、だな。

 読み終えた報告書をセリーヌに渡し、俺はクロエと意識を同調(リンク)させるため、脳内モニターに目を向ける。

「……ん? なんだ、あれ?」

 城壁のように積み重なったブラウン管モニター。基本的にはメインモニターの五つしか見ないのだが、とあるモニターに目が留まる。見慣れぬ影が映り込んでいる。

「なっ、なんだこいつ!?」

 ダンジョン内に仕掛けていた監視カメラ役の緑芋虫くんのモニターに、人間の上半身と蜘蛛の下半身を持つ異形の化物が映り込んでいた。

「あ、アラクネだと!?」

 モンスターの情報を知るべく、一度セリーヌに同調(リンク)して詳細なデータを確認する。
 そこで判明した事実は、モニターに映るこの化物が蜘蛛型モンスターの上位種――アラクネだということ。

「おいおい、冗談だろ! なんでこんなRPGゲームの終盤に出てくるような化物が、こんな初心者ダンジョンみたいな場所にいやがんだよ! 絶対に出現するダンジョン間違ってるだろ!」

 しかも、何でよりによって蜘蛛野郎の上位種なんだよ。
 ダンジョン内にはそれぞれモンスター同士による暗黙のルール、縄張りが存在する。種族ごとにテリトリーが決まっているということは、つまりモンスター同士の仲はあまりよろしくない、ということでもある。

 その中でも、俺たち芋虫族は蜘蛛が苦手だ。いや、苦手とかいう次元の話ではない。もはや天敵と言った方がいい。

 近頃では冒険者に殺される兄弟たちの数はめっきり減っているのだが、依然として若くして命を落とすものも少なくない。それに加えて最近、下層の魔物たちの動きがどことなくおかしい気がしていた。生態系が乱れているような、妙な不穏さがある。

 その一番の原因が――蜘蛛なのである。

 思い出すのは、朝焼けの翼がダンジョンコアを破壊しに来ると知った日のこと。
 俺は思いきって別種族の連中にも一緒に戦ってもらえないかと声を掛けてまわった。

 その際、蜘蛛野郎は俺を見るなり、「お前、旨そうだよな」と、じゅるりとよだれを流したのだ。

 巣に帰り着くまでの間、どれほど追いかけまわされたことか。
 今でもあの時のことを思い出すだけで、恐怖で身が縮こまってしまう。

 俺はこの世で一番、蜘蛛が嫌いなのだ!

「つーか、芋虫(ひと)の縄張りに勝手に入ってきてんじゃねぇよ! ルールくらい守れよ!」

 いくらモニター越しに吠えたところで、画面の向こうのアラクネには聞こえない。

「あっ! っにゃろうッ!」

 我が物顔で芋虫エリアを練り歩いては、次々と兄弟(ブラザー)たちを食っている。一匹、また一匹。逃げ惑う兄弟たちを、アラクネはまるで遊ぶように絡め取っていく。あっさりと。抵抗する間もなく。

 見ていられなくて目を逸らしかけた瞬間、拳が固まっていることに気づいた。

 挙句の果てには、ダンジョン内を見回し、舌なめずりをして――

「ここ、あちしがもらってあげるわね」

 縄張りの宣言をした。
 その場の芋虫たちは一斉にざわめくも、恐ろしさから抗議するものは一匹もいなかった。

「何やってんだよ! つーか、ふざけんじゃねぇぞッ! 何がもらってあげるわね、だよッ! ここは俺が唯一落ち着ける場所なんだよ! 出て行けよッ!!」

 当然、モニター越しでは伝わることもない。

 しかし、俺だって男だ。
 このまま黙って縄張りをくれてやるつもりなんて毛頭ない。

「この俺に喧嘩売ったこと、絶対に後悔させてやるからなッ!」


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次のエピソードへ進む 15話 芋虫VS蜘蛛 その1


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「結構優秀な手札が揃ってきたよな」
 俺はソファで寛ぎながら、改めて脳内モニターに映る五人の人物を見ていた。
 エルメス=バーキン、十六歳。
 過去に何をやらかしたのかまでは知らないが、悪役令嬢の末路を見事なまでに辿る少女。家族からは縁を切られているものの、一応伯爵令嬢である。
 どこぞの魔法学校に通っていたらしく、魔法の腕はかなりのものだ。
 シャネル=ココハンドル、年齢は不明。
 朝焼けの翼と呼ばれた冒険者パーティに所属していたエルフの弓使い。身体能力が高く、千里眼という特殊スキルを持ち合わせている。そのため使い勝手は抜群に良く、戦闘や隠密行動に向いている。
 ただし、これは個人的な使用感になってしまうのだが、寄生体の中でもっとも反抗的な個体でもある。
 セリーヌ=トリオンフ、二十二歳。
 商業都市オールセルテスの冒険者ギルドで働く受付嬢。特にこれといって優れている点はないが、|モンスター《俺》にとっての天敵、冒険者の情報が手に入るのはデカい。秘書的な仕事もできるので、個人的にはかなり助かっている。
 ハミルトン=カーキフィールド、二十四歳。
 フィールド商会の跡取り息子。頭は切れるが女癖が悪く、少しばかり性格に難あり。しかし、商人としての話術と情報収集能力は目を見張るものがある。ハミルトンと意識を共有するだけで、凝り固まったおっさんの脳細胞が活性化する。冴えわたるようにアイデアが次々と湧いてくるのだ。
 攻略不可能と思われたクロエを落とせたのも、このハミルトンの活躍が大きい。しかも、戦闘もこなせるというオールラウンダーでもある。男という一点を除けば、最も優れた寄生体だと思う。
 クロエ=パディントン、十八歳。
 東洋系のロリっ娘薬師。可愛らしい外見からは想像が付かないほど正義感が強い。資材を投げ売り、無償で貧困街の人々を助けようとするその姿は、まさに北里柴三郎の生まれ変わりのような少女である。
 おっさん的にロリっ娘というところもかなりポイントが高い。
 最近少しずつではあるが、彼らの魂――この場合は意識と言った方が正しいのかもしれない。それが操作感に多少なりとも影響していると思われる。詳しいことは現在調査中である。
「安心安全な芋虫ライフを送るためにも、早いところ街を牛耳りたいよな」
 いつ冒険者が攻めてくるかもわからないこの状況だと、おちおち昼寝もできやしない。
「主様、こちらの資料をお届けに参りました」
「おっ、セリーヌか」
 近頃は仕事の合間をみて、こうしてセリーヌが報告書なんかを届けてくれている。本来ならシャネルやエルメス辺りにやらせたいところなのだが、シャネルは少し反抗的な態度を見せることがある。
 目の前で仲間を殺したことが良くなかったんだろう。無意識下の拒絶というやつだ。
 エルメスに関しては論外。あれはがさつ過ぎる。送られてくる報告書はすべて、整理してスライム棚に保管している。
 一度エルメスにも棚の整理を頼んだことがあるのだが、なぜか整理を頼む前よりもめちゃくちゃになっていた。
 何をどうしたらこうなるのかと説教すれば、
『だって仕方ないじゃない。|私《わたくし》こういう地味な作業はすべて、下僕にやらせていたんですもの。ふんっ』
 寄生虫による|自動《オート》操作のくせに、実に生意気な回答だ。
 ま、寄生虫による|自動《オート》操作時は、できる限り元の人格をトレースするように命令しているので、この辺りは大目にみるのだが。
 それ以降、彼女に頼むことはなくなった。
「こちらは、新たな報告書になります」
「うん、あんがとさんっ」
 報告書を受け取り、さっと目を通していく。重要そうな部分には、あらかじめセリーヌが赤線を引いてくれている。
 こういう細やかな気遣いができるところが、エルメスちゃんとは違うんだよな。セリーヌちゃんは、マジで有能な秘書だよな。美人だし、文句のつけようがない。
「なになに……げっ!? Aランクはねぇだろッ!」
 報告書によると、ダンジョンコアの破壊を目的とした討伐パーティが着々と組まれつつあるらしいのだが、問題は集められている冒険者たちだ。
 ギルドの呼びかけで集まった冒険者の中には、Aランク冒険者がいるという。
「さすがにそれはやり過ぎだろ!」
 そんなのが攻めてきた日には、おっさん怖くてちびってしまう。というか、多分詰む。おっさんの二度目の人生はあっけなくゲームオーバーである。
「せっかくいい感じなのにっ!」
 そうならないためにも、ダンジョンコアの破壊をギルドに依頼している領主――ボッテガヴェネタ=イントレチャート子爵を早々にやらなければならない。
「カードは揃ってんだ。あとはこっちから仕掛けるだけだ」
 いまは一分一秒が惜しい。
 討伐パーティが攻めてくるのが先か、俺がボッテガヴェネタ=イントレチャート子爵を取り込むのが先か。露落ちて、花残れり、だな。
 読み終えた報告書をセリーヌに渡し、俺はクロエと意識を|同調《リンク》させるため、脳内モニターに目を向ける。
「……ん? なんだ、あれ?」
 城壁のように積み重なったブラウン管モニター。基本的にはメインモニターの五つしか見ないのだが、とあるモニターに目が留まる。見慣れぬ影が映り込んでいる。
「なっ、なんだこいつ!?」
 ダンジョン内に仕掛けていた監視カメラ役の緑芋虫くんのモニターに、人間の上半身と蜘蛛の下半身を持つ異形の化物が映り込んでいた。
「あ、アラクネだと!?」
 モンスターの情報を知るべく、一度セリーヌに|同調《リンク》して詳細なデータを確認する。
 そこで判明した事実は、モニターに映るこの化物が蜘蛛型モンスターの上位種――アラクネだということ。
「おいおい、冗談だろ! なんでこんなRPGゲームの終盤に出てくるような化物が、こんな初心者ダンジョンみたいな場所にいやがんだよ! 絶対に出現するダンジョン間違ってるだろ!」
 しかも、何でよりによって蜘蛛野郎の上位種なんだよ。
 ダンジョン内にはそれぞれモンスター同士による暗黙のルール、縄張りが存在する。種族ごとにテリトリーが決まっているということは、つまりモンスター同士の仲はあまりよろしくない、ということでもある。
 その中でも、俺たち芋虫族は蜘蛛が苦手だ。いや、苦手とかいう次元の話ではない。もはや天敵と言った方がいい。
 近頃では冒険者に殺される兄弟たちの数はめっきり減っているのだが、依然として若くして命を落とすものも少なくない。それに加えて最近、下層の魔物たちの動きがどことなくおかしい気がしていた。生態系が乱れているような、妙な不穏さがある。
 その一番の原因が――蜘蛛なのである。
 思い出すのは、朝焼けの翼がダンジョンコアを破壊しに来ると知った日のこと。
 俺は思いきって別種族の連中にも一緒に戦ってもらえないかと声を掛けてまわった。
 その際、蜘蛛野郎は俺を見るなり、「お前、旨そうだよな」と、じゅるりとよだれを流したのだ。
 巣に帰り着くまでの間、どれほど追いかけまわされたことか。
 今でもあの時のことを思い出すだけで、恐怖で身が縮こまってしまう。
 俺はこの世で一番、蜘蛛が嫌いなのだ!
「つーか、|芋虫《ひと》の縄張りに勝手に入ってきてんじゃねぇよ! ルールくらい守れよ!」
 いくらモニター越しに吠えたところで、画面の向こうのアラクネには聞こえない。
「あっ! っにゃろうッ!」
 我が物顔で芋虫エリアを練り歩いては、次々と|兄弟《ブラザー》たちを食っている。一匹、また一匹。逃げ惑う兄弟たちを、アラクネはまるで遊ぶように絡め取っていく。あっさりと。抵抗する間もなく。
 見ていられなくて目を逸らしかけた瞬間、拳が固まっていることに気づいた。
 挙句の果てには、ダンジョン内を見回し、舌なめずりをして――
「ここ、あちしがもらってあげるわね」
 縄張りの宣言をした。
 その場の芋虫たちは一斉にざわめくも、恐ろしさから抗議するものは一匹もいなかった。
「何やってんだよ! つーか、ふざけんじゃねぇぞッ! 何がもらってあげるわね、だよッ! ここは俺が唯一落ち着ける場所なんだよ! 出て行けよッ!!」
 当然、モニター越しでは伝わることもない。
 しかし、俺だって男だ。
 このまま黙って縄張りをくれてやるつもりなんて毛頭ない。
「この俺に喧嘩売ったこと、絶対に後悔させてやるからなッ!」