プロローグ
ー/ー『存在の深き眠り』
:ジェームス三木
《一九八三年 京都》
決まって、月のない夜だった。
「決まって」といっても、そのことは、ミクの母親の真雪が高校の同窓だった夫と別れ、一歳の娘を連れて実家に戻ってから、ミクが小学校に上がるまでの数年間の内に二度しか起こらなかった。その内の一度は、京都府の中でもごく限られた地域の方言で、雨が「ぴりぴり」と形容される、目に見えないくらいに細かい雨の降る夜更けだった。
ミクの啜り泣く声が聞こえた。ユキヱが襖を開けると、赤い甚平を着た五歳の孫娘は、薄暗がりの中で市松模様の粗末な布団の上に半身を起こし、両手で顔を覆ってひどく怯えていた。
「どうした。怖い夢見たんか」
ユキヱが電気を点け、肩を抱いてあやしてやると、孫はかぶりを振って、「夢に知らん外国の兵隊さんが出てくる」「髪の毛黒うて目だけ青い」と訴えた。
ユキヱも、残業から帰ってその話を聞いた真雪も、それが特に奇妙な訴えだと思うことはなかった。自分たち大人がよくTVで観ている映画やドキュメンタリーを横で見ていて、それがやや不穏な記憶となっていたのだろう。
実際、ユキヱが慰めてやっている間に、ミクはすぐに泣き止んで、何ごともなかったように、また安らかな眠りに落ちた。
そのことは二度あったのだが、その後、ミクを含めた誰一人として、思い出すことはなかった。
:ジェームス三木
《一九八三年 京都》
決まって、月のない夜だった。
「決まって」といっても、そのことは、ミクの母親の真雪が高校の同窓だった夫と別れ、一歳の娘を連れて実家に戻ってから、ミクが小学校に上がるまでの数年間の内に二度しか起こらなかった。その内の一度は、京都府の中でもごく限られた地域の方言で、雨が「ぴりぴり」と形容される、目に見えないくらいに細かい雨の降る夜更けだった。
ミクの啜り泣く声が聞こえた。ユキヱが襖を開けると、赤い甚平を着た五歳の孫娘は、薄暗がりの中で市松模様の粗末な布団の上に半身を起こし、両手で顔を覆ってひどく怯えていた。
「どうした。怖い夢見たんか」
ユキヱが電気を点け、肩を抱いてあやしてやると、孫はかぶりを振って、「夢に知らん外国の兵隊さんが出てくる」「髪の毛黒うて目だけ青い」と訴えた。
ユキヱも、残業から帰ってその話を聞いた真雪も、それが特に奇妙な訴えだと思うことはなかった。自分たち大人がよくTVで観ている映画やドキュメンタリーを横で見ていて、それがやや不穏な記憶となっていたのだろう。
実際、ユキヱが慰めてやっている間に、ミクはすぐに泣き止んで、何ごともなかったように、また安らかな眠りに落ちた。
そのことは二度あったのだが、その後、ミクを含めた誰一人として、思い出すことはなかった。
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