【1】⑤
ー/ーその日のうちに雅に教えられたのだが、ちょうどリュウが十何人目かの『彼女』に振られたタイミングだったらしい。
「祠堂さんはさ、とにかく誰かに、あるいはみんなに『お世話してもらわ』ないと生きてけない人なわけよ」
祥真が知りたがっているのが見え見えだったのか、雅がリュウについて語り出した。
「で、郁海は逆なの。あいつは『世話したい』んだよね。料理が趣味で、いろいろ作って食べさせるの好きだし。あたしもよくご馳走になったわ。──人間としては祠堂さんがその世話焼き癖にピタっと嵌ったんだろうけど、恋愛的には違う気がするのよ」
雅が自分の考えを整理するかのように話すのを、祥真は無言で聞いていた。
恋愛に関してはともかく、彼女の言葉の意味は祥真にもよく理解できるしおそらく間違ってはいない。
郁海がリュウに対してしていることは、頼まれてできる範囲を逸脱している。本人の積極的な意思がなければ無理だろう。
「もし! もし郁海が女だったとして、同じように『誰かのお世話したい! 支えたい!』って考えた場合よ? あいつが選ぶとしたら部活のマネジャーじゃなくてむしろチアリーダーなんじゃないかって」
あまりにも突飛な雅の仮定に、祥真は二の句が告げなかった。
しかし、彼女も聞き手の反応など最初から期待していなかったようだ。
「あくまでもあたしの想像だからすっごい勝手なのは承知で聞いてね。郁海はただただ甘やかして何でもしてやって、って意味のお世話じゃなくて、一人でもちゃんと立てる相手を支えたいんじゃないかと思ったんだ。世話相手が何もできない弱いだけの人じゃないから、その分自分も努力するってのか」
正しいかどうかは祥真には判別などできない。しかし、まったくの的外れでもない気がした。
「チアってか『応援』したいんじゃないかな、ってのもそこから。まあチアリーダーはさすがに雑な例えだってスルーしてくれていい。だからさ、『恋愛相手』は祠堂さんじゃダメなのよ、たぶん。祠堂さんが男と付き合う人だったとしてもね」
チアリーダーは極端でわかりやすい例でしかなく、彼女が本当に告げたかったのは郁海が単なる「世話焼き体質」でお世話させてくれる対象を無条件に求めているのではないということ。
つまり結論として「郁海はリュウでは無理なのだ」という一点なのだろう。
「祠堂さんは自分で立つどころか、支え手がいたらどこまでも寄り掛かって来そうですからね……」
「そういうことだね」
彼を知る全員の共通認識だと思われるので、何の罪悪感もない。
「祠堂さんてとにかく面食いだから。……君は知らないかもしれないけどさ」
雅の言葉通り、祥真はリュウの相手など一人も会ったことはなかった。
特に興味もないし、何よりサークル内での関係ではないからだ。
彼にも一応良識らしきものはあり、狭い人間関係の部内では避けているのか、それとも単に正体をよく知るサークルの女性には恋愛対象にされていないだけなのか。
そこまでは不明だが、祥真から見ても前者はなさそうではある。
「あたしも全員なんてわかるわきゃないけど、見た限りはナチュラル美女ばっかだもん。あ、この『ナチュラル』は所謂ナチュラルメイクの人って意味じゃないよ? 化粧が上手いとか髪型やファッションで誤魔化す必要ない、寝起きのすっぴんパジャマでも美人なんだろーな、って女でも思うくらいの本物ってこと」
「……はぁ。でもあの祠堂さんと付き合えるってことは、女の人の方もよっぽど自分に自信ないと無理なんじゃないすか?」
「まーね。自分より『美形』と付き合うのはなかなかに勇気いりそうだもんね」
まるきり他人事のような口調からも雅はそんなことは気にもしなさそうだし、何よりも彼女はリュウにそういう意味での興味は一切ないのだろう。
自分は彼と付き合うのは無理だと一言で切って捨てていたことでもあるし。
「外見『だけ』にこだわるからすぐに失敗すんだよ! って本人はわかってない。言えるとしたら郁海だろうけど、あいつは絶対そんな口出ししないしね。思うことはあっても、祠堂さんが幸せならそれでいいわけだしさ。あの人が好きな美人と付き合えてハッピーなら郁海にとっては問題なしだから」
雅は郁海に恋はしていない。
自覚なく実は、というのとも違うと祥真にでも伝わった。
以前はどこかで疑っていた。
さり気なく、とはいえ彼女にはすべてお見通しだったのだろうが「郁海が好きなのでは?」を遠回しに訊いたこともあった。
「あたし男興味ないの。あ、女が好きなわけでもないよ? 友人としてはどっちも好き」
そうあっさり答えた彼女。
「自分が好きで一番大事なの、あたしは。偏った人間なんだよ。恋愛で他人に時間使う気ないんだ。──あたしの感覚では、『友情』ってのは50/50だから無駄だなんて思わない。でも『恋愛』は違うのよ。たぶん逆の人のが多いかもね」
よくもそこまで率直に告げてくれた、と今も驚きが勝つ。
それも「郁海に関すること」だからだと祥真は考えていた。
「恋人とか作る気ないんですか?」という訊き方なら、プライベートに踏み込む失礼を叱りつつももっとマイルドな答えを返してくれたのではないか。
雅にとって郁海は、本当の意味で大切な友人なのだろう。
親友という単語が当て嵌まるのかは定かではないが、祥真の中にある少ない語彙ではそれが最も近い。
「もし祠堂さんが男女こだわらなかったら、真っ先に惚れられんのは絶対郁海だよ。間違いない! 賭けるもんないけど」
「それ、賭けになんないです……」
自分について完全に把握した上で肯定し、生活のすべてにおいて奉仕してくれる美貌の恋人。
確かにリュウにとっては『理想』的なのかもしれない。郁海が愛想を尽かさない限りはいつまでも続きそうだ。
「だけど郁海は喜ばないんじゃないかな。あいつが欲しいのは祠堂さんの『そういう気持ち』じゃないから、きっと。彼の才能にはいくらでも尽くすけど、恋愛は別なんじゃないかな、って話よ」
雅こそが郁海の真の理解者なのではないか。
祥真は感心するとともに、この人には敵わないのだ、と少しだけ複雑な気分になった。
「祠堂さんはさ、とにかく誰かに、あるいはみんなに『お世話してもらわ』ないと生きてけない人なわけよ」
祥真が知りたがっているのが見え見えだったのか、雅がリュウについて語り出した。
「で、郁海は逆なの。あいつは『世話したい』んだよね。料理が趣味で、いろいろ作って食べさせるの好きだし。あたしもよくご馳走になったわ。──人間としては祠堂さんがその世話焼き癖にピタっと嵌ったんだろうけど、恋愛的には違う気がするのよ」
雅が自分の考えを整理するかのように話すのを、祥真は無言で聞いていた。
恋愛に関してはともかく、彼女の言葉の意味は祥真にもよく理解できるしおそらく間違ってはいない。
郁海がリュウに対してしていることは、頼まれてできる範囲を逸脱している。本人の積極的な意思がなければ無理だろう。
「もし! もし郁海が女だったとして、同じように『誰かのお世話したい! 支えたい!』って考えた場合よ? あいつが選ぶとしたら部活のマネジャーじゃなくてむしろチアリーダーなんじゃないかって」
あまりにも突飛な雅の仮定に、祥真は二の句が告げなかった。
しかし、彼女も聞き手の反応など最初から期待していなかったようだ。
「あくまでもあたしの想像だからすっごい勝手なのは承知で聞いてね。郁海はただただ甘やかして何でもしてやって、って意味のお世話じゃなくて、一人でもちゃんと立てる相手を支えたいんじゃないかと思ったんだ。世話相手が何もできない弱いだけの人じゃないから、その分自分も努力するってのか」
正しいかどうかは祥真には判別などできない。しかし、まったくの的外れでもない気がした。
「チアってか『応援』したいんじゃないかな、ってのもそこから。まあチアリーダーはさすがに雑な例えだってスルーしてくれていい。だからさ、『恋愛相手』は祠堂さんじゃダメなのよ、たぶん。祠堂さんが男と付き合う人だったとしてもね」
チアリーダーは極端でわかりやすい例でしかなく、彼女が本当に告げたかったのは郁海が単なる「世話焼き体質」でお世話させてくれる対象を無条件に求めているのではないということ。
つまり結論として「郁海はリュウでは無理なのだ」という一点なのだろう。
「祠堂さんは自分で立つどころか、支え手がいたらどこまでも寄り掛かって来そうですからね……」
「そういうことだね」
彼を知る全員の共通認識だと思われるので、何の罪悪感もない。
「祠堂さんてとにかく面食いだから。……君は知らないかもしれないけどさ」
雅の言葉通り、祥真はリュウの相手など一人も会ったことはなかった。
特に興味もないし、何よりサークル内での関係ではないからだ。
彼にも一応良識らしきものはあり、狭い人間関係の部内では避けているのか、それとも単に正体をよく知るサークルの女性には恋愛対象にされていないだけなのか。
そこまでは不明だが、祥真から見ても前者はなさそうではある。
「あたしも全員なんてわかるわきゃないけど、見た限りはナチュラル美女ばっかだもん。あ、この『ナチュラル』は所謂ナチュラルメイクの人って意味じゃないよ? 化粧が上手いとか髪型やファッションで誤魔化す必要ない、寝起きのすっぴんパジャマでも美人なんだろーな、って女でも思うくらいの本物ってこと」
「……はぁ。でもあの祠堂さんと付き合えるってことは、女の人の方もよっぽど自分に自信ないと無理なんじゃないすか?」
「まーね。自分より『美形』と付き合うのはなかなかに勇気いりそうだもんね」
まるきり他人事のような口調からも雅はそんなことは気にもしなさそうだし、何よりも彼女はリュウにそういう意味での興味は一切ないのだろう。
自分は彼と付き合うのは無理だと一言で切って捨てていたことでもあるし。
「外見『だけ』にこだわるからすぐに失敗すんだよ! って本人はわかってない。言えるとしたら郁海だろうけど、あいつは絶対そんな口出ししないしね。思うことはあっても、祠堂さんが幸せならそれでいいわけだしさ。あの人が好きな美人と付き合えてハッピーなら郁海にとっては問題なしだから」
雅は郁海に恋はしていない。
自覚なく実は、というのとも違うと祥真にでも伝わった。
以前はどこかで疑っていた。
さり気なく、とはいえ彼女にはすべてお見通しだったのだろうが「郁海が好きなのでは?」を遠回しに訊いたこともあった。
「あたし男興味ないの。あ、女が好きなわけでもないよ? 友人としてはどっちも好き」
そうあっさり答えた彼女。
「自分が好きで一番大事なの、あたしは。偏った人間なんだよ。恋愛で他人に時間使う気ないんだ。──あたしの感覚では、『友情』ってのは50/50だから無駄だなんて思わない。でも『恋愛』は違うのよ。たぶん逆の人のが多いかもね」
よくもそこまで率直に告げてくれた、と今も驚きが勝つ。
それも「郁海に関すること」だからだと祥真は考えていた。
「恋人とか作る気ないんですか?」という訊き方なら、プライベートに踏み込む失礼を叱りつつももっとマイルドな答えを返してくれたのではないか。
雅にとって郁海は、本当の意味で大切な友人なのだろう。
親友という単語が当て嵌まるのかは定かではないが、祥真の中にある少ない語彙ではそれが最も近い。
「もし祠堂さんが男女こだわらなかったら、真っ先に惚れられんのは絶対郁海だよ。間違いない! 賭けるもんないけど」
「それ、賭けになんないです……」
自分について完全に把握した上で肯定し、生活のすべてにおいて奉仕してくれる美貌の恋人。
確かにリュウにとっては『理想』的なのかもしれない。郁海が愛想を尽かさない限りはいつまでも続きそうだ。
「だけど郁海は喜ばないんじゃないかな。あいつが欲しいのは祠堂さんの『そういう気持ち』じゃないから、きっと。彼の才能にはいくらでも尽くすけど、恋愛は別なんじゃないかな、って話よ」
雅こそが郁海の真の理解者なのではないか。
祥真は感心するとともに、この人には敵わないのだ、と少しだけ複雑な気分になった。
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