表示設定
表示設定
目次 目次




虎太郎、ひみつ部隊に昇格する

ー/ー



「その肩のフクロウのマークも、背中の模様も見たことねえぞ! ニセモノめー!」

 俺達の隊服の背に刻まれる刺繍は、アイノ民族独自の文様だ。渦や棘、十字などを抽象的に描いたもので、魔除け、あるいは身に着ける者の無事を願う意味合いがある。

 こういう時、レラやフンペなら上手いこと言って切り抜けるんだろうが……俺はハッキリ言って、そういうのが得意じゃない。

「何というか……レスキュー隊の中でも特殊な部隊だから。それで一般の隊員と制服が違う……んだけど」

 言い訳のようにぼそぼそ伝えると、噛みついてきたガキ大将が態度を一転して、急に目を輝かせ始めた。

「えっ? それって、ひみつ部隊ってこと!? かっけえじゃん!」

 ……なんかいい具合に解釈してくれたようだ。それならそれで好都合だが。俺はこの案外単純なガキ大将に、こっそり“疾風”とあだ名をつけることにした。

「まあ……そういうことだ。だからお前ら、俺に助けてもらったってのは秘密な。親にも言うなよ」

「わかった! 正体がバレるとひみつ部隊でいられなくなるんだよな!」

 勝手に設定を与えられたが、そう間違ってもないし、何でもいい。
 早速二人の女児にベルトを巻きつけ、俺の体とハーネスでつなぐ作業をしていると、保育士の女性が恐る恐る声をかけてきた。

「あ、あの……お一人なんでしょうか。他に救助の人は来ないんですか?」

「人手が足りないので。一人で何往復かします。子供を優先するので、先生たちは最後に」

「は、はい。それはもちろん……」

「高台の小学校まで運びます。必ず戻るので、残った子供たちをなるべく高い場所へ」

 一気にまくし立てるようにそう伝え、すぐさま窓からバッと飛び出した。
 ……下手したら、誘拐犯と思われるんじゃないか。そんな一抹の不安が残った。

 抱えた女児たちは、悲鳴をあげることすら忘れて必死に俺にしがみついている。衝撃が子供たちの負荷になってしまうので、一人で移動する時のように思い切り跳ぶことはできない。スピードを抑え、跳躍距離も短めに心がける。

 数分後、無事に避難所まで搬送して降ろし、再び同じこども園付近へと戻った。その間にも水かさは増しているようだ。意思を持った生物のような黒い水が、じわじわと建物の四方を取り囲んで行くように見えた。この勢いだと、あと数十分と持たなさそうだ。

 ……やっぱりホㇿケウに協力を仰ぐか。そう思い、口元のマイクに向かって話しかけようとした時。

「よお、虎太郎! 手伝いに来たぞ」

 背後から、妙に甲高い声が聞こえた。振り返ると、俺と同じ黒い隊服をまとう男の姿があった。長身だが均整の取れた体つきだ。全身を雨に濡らし、ヘルメットはかぶっているものの、ゴーグルは外して素顔をさらけ出している。
 クリッとした大きな瞳と、何も考えていなさそうな邪気のない笑顔。それは俺のよく見知った顔だった。

「タケ……ッ!」

 思わず本名で呼びそうになり、慌てて片手で口をふさいだ。疾風と朝陽の父である(たける)さん――コードネーム“アイヌラックㇽ”だった。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 虎太郎、アイヌラックㇽに遭遇する


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「その肩のフクロウのマークも、背中の模様も見たことねえぞ! ニセモノめー!」
 俺達の隊服の背に刻まれる刺繍は、アイノ民族独自の文様だ。渦や棘、十字などを抽象的に描いたもので、魔除け、あるいは身に着ける者の無事を願う意味合いがある。
 こういう時、レラやフンペなら上手いこと言って切り抜けるんだろうが……俺はハッキリ言って、そういうのが得意じゃない。
「何というか……レスキュー隊の中でも特殊な部隊だから。それで一般の隊員と制服が違う……んだけど」
 言い訳のようにぼそぼそ伝えると、噛みついてきたガキ大将が態度を一転して、急に目を輝かせ始めた。
「えっ? それって、ひみつ部隊ってこと!? かっけえじゃん!」
 ……なんかいい具合に解釈してくれたようだ。それならそれで好都合だが。俺はこの案外単純なガキ大将に、こっそり“疾風”とあだ名をつけることにした。
「まあ……そういうことだ。だからお前ら、俺に助けてもらったってのは秘密な。親にも言うなよ」
「わかった! 正体がバレるとひみつ部隊でいられなくなるんだよな!」
 勝手に設定を与えられたが、そう間違ってもないし、何でもいい。
 早速二人の女児にベルトを巻きつけ、俺の体とハーネスでつなぐ作業をしていると、保育士の女性が恐る恐る声をかけてきた。
「あ、あの……お一人なんでしょうか。他に救助の人は来ないんですか?」
「人手が足りないので。一人で何往復かします。子供を優先するので、先生たちは最後に」
「は、はい。それはもちろん……」
「高台の小学校まで運びます。必ず戻るので、残った子供たちをなるべく高い場所へ」
 一気にまくし立てるようにそう伝え、すぐさま窓からバッと飛び出した。
 ……下手したら、誘拐犯と思われるんじゃないか。そんな一抹の不安が残った。
 抱えた女児たちは、悲鳴をあげることすら忘れて必死に俺にしがみついている。衝撃が子供たちの負荷になってしまうので、一人で移動する時のように思い切り跳ぶことはできない。スピードを抑え、跳躍距離も短めに心がける。
 数分後、無事に避難所まで搬送して降ろし、再び同じこども園付近へと戻った。その間にも水かさは増しているようだ。意思を持った生物のような黒い水が、じわじわと建物の四方を取り囲んで行くように見えた。この勢いだと、あと数十分と持たなさそうだ。
 ……やっぱりホㇿケウに協力を仰ぐか。そう思い、口元のマイクに向かって話しかけようとした時。
「よお、虎太郎! 手伝いに来たぞ」
 背後から、妙に甲高い声が聞こえた。振り返ると、俺と同じ黒い隊服をまとう男の姿があった。長身だが均整の取れた体つきだ。全身を雨に濡らし、ヘルメットはかぶっているものの、ゴーグルは外して素顔をさらけ出している。
 クリッとした大きな瞳と、何も考えていなさそうな邪気のない笑顔。それは俺のよく見知った顔だった。
「タケ……ッ!」
 思わず本名で呼びそうになり、慌てて片手で口をふさいだ。疾風と朝陽の父である|尊《たける》さん――コードネーム“アイヌラックㇽ”だった。