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大雨警報が出たので北に向かっています

ー/ー



 大学で岬くんと言葉を交わした日の夜、カッコウの鳴き声を聞いた。

「あら。夜にカッコウが声を出すのは、洪水の前触れっていうのよ」

 母に話すと、アイノのそんなことわざを教えてくれた。

 それから数日経った今、あたしは北へ向かっている。
 集中豪雨が予測される現場へ向かうため、コタンコㇿ・エージェンシーが所有するワンボックスカーでの移動中だ。緊急の時は自分の足で走って行くけど、人目につくことを避けるため、時間的に余裕がある時はこうして乗り物を使うこともある。特に今回は大人数での移動だ。

(フンペ)。この前のヒグマの頭、どえりゃあド派手にかち割ったなあ。直すん大変だったがや」

 運転席のコードネーム“ヌプリ”が、笑い混じりに話しかけてきた。山という意味通りどっしりガタイがよく、そして嘘くさい方言で喋る。本名は浅野(あさの)大地(だいち)。あたしたちより七つ年上で、虎太郎の従兄に当たる。

「ごめんて~。でも、手加減してたらこっちも危ないしさ」

「めんこい顔して、相変わらずおっそろしい娘や」

 ダイちゃん、もといヌプリは、コタンコㇿ・エージェンシーで裏方の役目を担う人だ。狩った熊の肉を解体処理して、自身が経営するジビエ料理店で提供したり。時には依頼主とのパイプ役も務めたりもする。

「それより照平爺さん(カパッチㇼ)、今回は虎太郎(カッケン)に司令塔任せたんやて?」

「おお、そうじゃ」

 遡ること二時間前。
 守吏里全土に大雨警報が発令されたとニュースが流れた。

『明日未明から停滞前線が留まり、長時間にわたって暴風雨が続く恐れがあります。気象台によりますと、水上(みなかみ)町周辺で特に甚大な被害が予測されるとの事です。水上町は、過去にも川の氾濫など水害に見舞われており――……』

 テレビを見ながら、仕事が来るかなと思っていたら、やはりカパッチㇼから招集があった。そういうわけで今現在、あたしたちは星蘭からおよそ300㎞北に位置する水上町へ向かっている。

 集まった時にカッケンがいないのでなんでか聞いたら、下見のため現場に先行しているという。

「世代交代じゃ。わし、もう隠居したいも~ん。カッケンに代表を継げと言っとるんじゃが、本人がなかなか首を縦に振らん。今回はとりあえずお試しでと言って、無理くりやらせてやったわ」

 じいちゃんは鼻をほじりながらそう宣った。年齢的にそういうことを考えるのは分からなくないけど、あと100年は生きそうなのに。
 でも、カッケンが代表を継ぐことに異論はない。頭の弱いあたしたち一家にそんな大役が務まるわけがないし、元々あたしたちの世代ではリーダーみたいなものだ。

 そういうわけで、運転席のヌプリ以下、同乗者はあたしとレラ、カパッチㇼ、そして、虎太郎のお父さんの(まこと)おじさん――コードネーム“(ホㇿケウ)”。
 そのホㇿケウが、すでに現場入りしているカッケンとさっきから電話で話をしている。通話を終えた後、あたしたちはその指示を聞かされた。

「カッケンから、水上町のハザードマップと過去の主な水害の概要が来ている。着くまでに最低でも現地の地理だけは頭に入れといてくれ、だそうだ。お前たちのスマホにも転送するぞ」

「あいあいさー」

 災害救助の仕事は、長期戦になることもある。
 嵐の間はヘリも飛べないし、公設救助隊もできることが限られる。そういう時こそ、過酷な環境下でも生身で動けるあたしたちにできることがある。

 ひとまず、暴風雨が去るまでの救助要請に応える――それが今回の依頼内容。
 依頼主は、コタンコㇿ・エージェンシー(あたしたち)と業務提携の間柄にある公設救助隊――モシリアン・レスキューだ。この関係に至るまで紆余曲折あったみたいだけど、それはあたしたちの世代が生まれる前のお話。

「あーあ。この仕事、来週末までに終わるかなあ。土曜日、マチアプで知り合った娘とデートなんだけど」

 レラがそんな呑気なことを言い出した。専門学校を休むことは心配せんのかい。
 とはいえ、そういえばあたしも土曜日に約束があるんだよなあ……と言いかけたけど、ホㇿケウの冷ややかな眼差しを見てやめた。このおじさん、カッケンのお父さんだけあって知的なナイスミドルなんだけど、威圧感があって超怖いのだ。
 だけど、一応学生の身でもあるあたしたちに配慮してくれる優しい一面もある。

 


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 大学で岬くんと言葉を交わした日の夜、カッコウの鳴き声を聞いた。
「あら。夜にカッコウが声を出すのは、洪水の前触れっていうのよ」
 母に話すと、アイノのそんなことわざを教えてくれた。
 それから数日経った今、あたしは北へ向かっている。
 集中豪雨が予測される現場へ向かうため、コタンコㇿ・エージェンシーが所有するワンボックスカーでの移動中だ。緊急の時は自分の足で走って行くけど、人目につくことを避けるため、時間的に余裕がある時はこうして乗り物を使うこともある。特に今回は大人数での移動だ。
「|鯨《フンペ》。この前のヒグマの頭、どえりゃあド派手にかち割ったなあ。直すん大変だったがや」
 運転席のコードネーム“ヌプリ”が、笑い混じりに話しかけてきた。山という意味通りどっしりガタイがよく、そして嘘くさい方言で喋る。本名は|浅野《あさの》|大地《だいち》。あたしたちより七つ年上で、虎太郎の従兄に当たる。
「ごめんて~。でも、手加減してたらこっちも危ないしさ」
「めんこい顔して、相変わらずおっそろしい娘や」
 ダイちゃん、もといヌプリは、コタンコㇿ・エージェンシーで裏方の役目を担う人だ。狩った熊の肉を解体処理して、自身が経営するジビエ料理店で提供したり。時には依頼主とのパイプ役も務めたりもする。
「それより|照平爺さん《カパッチㇼ》、今回は|虎太郎《カッケン》に司令塔任せたんやて?」
「おお、そうじゃ」
 遡ること二時間前。
 守吏里全土に大雨警報が発令されたとニュースが流れた。
『明日未明から停滞前線が留まり、長時間にわたって暴風雨が続く恐れがあります。気象台によりますと、|水上《みなかみ》町周辺で特に甚大な被害が予測されるとの事です。水上町は、過去にも川の氾濫など水害に見舞われており――……』
 テレビを見ながら、仕事が来るかなと思っていたら、やはりカパッチㇼから招集があった。そういうわけで今現在、あたしたちは星蘭からおよそ300㎞北に位置する水上町へ向かっている。
 集まった時にカッケンがいないのでなんでか聞いたら、下見のため現場に先行しているという。
「世代交代じゃ。わし、もう隠居したいも~ん。カッケンに代表を継げと言っとるんじゃが、本人がなかなか首を縦に振らん。今回はとりあえずお試しでと言って、無理くりやらせてやったわ」
 じいちゃんは鼻をほじりながらそう宣った。年齢的にそういうことを考えるのは分からなくないけど、あと100年は生きそうなのに。
 でも、カッケンが代表を継ぐことに異論はない。頭の弱いあたしたち一家にそんな大役が務まるわけがないし、元々あたしたちの世代ではリーダーみたいなものだ。
 そういうわけで、運転席のヌプリ以下、同乗者はあたしとレラ、カパッチㇼ、そして、虎太郎のお父さんの|誠《まこと》おじさん――コードネーム“|狼《ホㇿケウ》”。
 そのホㇿケウが、すでに現場入りしているカッケンとさっきから電話で話をしている。通話を終えた後、あたしたちはその指示を聞かされた。
「カッケンから、水上町のハザードマップと過去の主な水害の概要が来ている。着くまでに最低でも現地の地理だけは頭に入れといてくれ、だそうだ。お前たちのスマホにも転送するぞ」
「あいあいさー」
 災害救助の仕事は、長期戦になることもある。
 嵐の間はヘリも飛べないし、公設救助隊もできることが限られる。そういう時こそ、過酷な環境下でも生身で動けるあたしたちにできることがある。
 ひとまず、暴風雨が去るまでの救助要請に応える――それが今回の依頼内容。
 依頼主は、|コタンコㇿ・エージェンシー《あたしたち》と業務提携の間柄にある公設救助隊――モシリアン・レスキューだ。この関係に至るまで紆余曲折あったみたいだけど、それはあたしたちの世代が生まれる前のお話。
「あーあ。この仕事、来週末までに終わるかなあ。土曜日、マチアプで知り合った娘とデートなんだけど」
 レラがそんな呑気なことを言い出した。専門学校を休むことは心配せんのかい。
 とはいえ、そういえばあたしも土曜日に約束があるんだよなあ……と言いかけたけど、ホㇿケウの冷ややかな眼差しを見てやめた。このおじさん、カッケンのお父さんだけあって知的なナイスミドルなんだけど、威圧感があって超怖いのだ。
 だけど、一応学生の身でもあるあたしたちに配慮してくれる優しい一面もある。