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朝陽、白雪王子となぜか身の上話をする

ー/ー



「今朝はごめんね。読書の邪魔をしちゃったね」

 彼がそう言い出したので、あたしは口の中のものをごくんと飲み込んでから答えた。

「ああ、だいじょぶ。あの、えっと……」

 さっき友人たちから同級生と聞いたので、敬語はやめた。でも二人に教えてもらった彼の名前を早くも失念し、宙を見つめた。すると、銀髪くんはそれを察してくれたようだ。

「僕かい? 海理だよ。岬海理」

「そうそう、岬くん。編入生なんだってね。新都大学からって聞いたけど」

 そう、と頷く彼。
 新都大といえば、大和でトップレベルの学府だ。大和とここ守吏里は、戦後80年の歴史を経て現在は友好的な関係にある。人や物の往来も割合自由だけど、それでもなんでまた、そんなすごい所からわざわざ国境をまたいでまでこんな辺境に……

 と思ったのが顔に出たらしく、彼は自ら経緯を話してくれた。

「実は僕、災害科学を学びたくてね。新都大に行っておけば間違いないだろうと思ってたんだけど、最近になってこの大学にその道の優秀な人がいるって知って。それで、その人のいるところで学べたらなあと思って編入を決めたんだ。檜山さんって方なんだけど……」

「あー、虎太郎ね」

 さらっと相槌を打つと、彼――岬くんは小さく頷いた。
 虎太郎は仕事の時以外、はっきり言って無気力でボーッとしている。だけどそう見えて、実は災害科学の界隈で名の知れた存在らしい。この前発表した論文が、有名な学術誌に載ったとか何とか。あたしは読んでもさっぱり意味が分からなかったけど。

「瀬名さん、檜山さんと親しいんだってね」

「うん? ああ、幼馴染で。歳はあたしとほぼ一緒なんだけど、ギフテッドっていうの? めちゃくちゃ頭良くてさあ、飛び級で修士号取って、今博士課程にいるよ」

「そうなんだね」

 それよりも、あたしは彼の発言で気になったことがあった。

「ねえ、そういえば、なんであたしの名前知ってたの?」

 名乗った記憶はなかった。すると、彼は可笑しそうに肩を震わせた。

「あちこちで君の噂を聞くよ。高嶺の花だって言う人もいた」

「高嶺の花〜!?」

 あたしは思わず吹き出してしまった。

「誰がそんなこと言ってんの? こんな庶民的なのに」

「そうだね、高嶺の花っていうのはちょっと語弊があるかもしれない。今少し話しただけだけど、とても気さくな人だなって分かったから。やっぱり、噂なんてアテにならないね」

「ホントだよ。でも、岬くんは噂通りなんじゃない? さっき友達から聞いたけど、ずいぶんモテるんだってね」

 何の気はなしに言うと、岬くんの蒼い目がふっと下を向いた。口元には微笑を浮かべたままで。

「みんな、中身まで知ってて騒いでるわけじゃないよ。僕の表面しか見ていないんだよ。君も、そう感じることはない?」

 最後には、また視線を上げてあたしの目を見つめてきた。
 問われて、つい先ほどまで会話していた二人の友達――柚乃と心春のことが頭に浮かんだ。二人のことは決して嫌いじゃない。むしろ一緒にいて心地がいい。けど。

「岬くんの言ってるのとちょっと違うかもしれないけど……あたしのことを全部分かってる人って、そんなにいないかもしれない。それは……ちょっと分かる、かな」

「……うん。君なら分かってくれるんじゃないかなと思った」

 そう言った彼は、どこか嬉しそうに見えた。

 その顔を、改めて正面から眺める。線が細くて、儚げで。言われてみれば確かに綺麗な雪(ピㇼカウパㇱ)みたいな人だな、と思った。
 右も左もむさ苦しいコタンコㇿ・エージェンシー(あたしのまわり)には、まずいないタイプだ。


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「今朝はごめんね。読書の邪魔をしちゃったね」
 彼がそう言い出したので、あたしは口の中のものをごくんと飲み込んでから答えた。
「ああ、だいじょぶ。あの、えっと……」
 さっき友人たちから同級生と聞いたので、敬語はやめた。でも二人に教えてもらった彼の名前を早くも失念し、宙を見つめた。すると、銀髪くんはそれを察してくれたようだ。
「僕かい? 海理だよ。岬海理」
「そうそう、岬くん。編入生なんだってね。新都大学からって聞いたけど」
 そう、と頷く彼。
 新都大といえば、大和でトップレベルの学府だ。大和とここ守吏里は、戦後80年の歴史を経て現在は友好的な関係にある。人や物の往来も割合自由だけど、それでもなんでまた、そんなすごい所からわざわざ国境をまたいでまでこんな辺境に……
 と思ったのが顔に出たらしく、彼は自ら経緯を話してくれた。
「実は僕、災害科学を学びたくてね。新都大に行っておけば間違いないだろうと思ってたんだけど、最近になってこの大学にその道の優秀な人がいるって知って。それで、その人のいるところで学べたらなあと思って編入を決めたんだ。檜山さんって方なんだけど……」
「あー、虎太郎ね」
 さらっと相槌を打つと、彼――岬くんは小さく頷いた。
 虎太郎は仕事の時以外、はっきり言って無気力でボーッとしている。だけどそう見えて、実は災害科学の界隈で名の知れた存在らしい。この前発表した論文が、有名な学術誌に載ったとか何とか。あたしは読んでもさっぱり意味が分からなかったけど。
「瀬名さん、檜山さんと親しいんだってね」
「うん? ああ、幼馴染で。歳はあたしとほぼ一緒なんだけど、ギフテッドっていうの? めちゃくちゃ頭良くてさあ、飛び級で修士号取って、今博士課程にいるよ」
「そうなんだね」
 それよりも、あたしは彼の発言で気になったことがあった。
「ねえ、そういえば、なんであたしの名前知ってたの?」
 名乗った記憶はなかった。すると、彼は可笑しそうに肩を震わせた。
「あちこちで君の噂を聞くよ。高嶺の花だって言う人もいた」
「高嶺の花〜!?」
 あたしは思わず吹き出してしまった。
「誰がそんなこと言ってんの? こんな庶民的なのに」
「そうだね、高嶺の花っていうのはちょっと語弊があるかもしれない。今少し話しただけだけど、とても気さくな人だなって分かったから。やっぱり、噂なんてアテにならないね」
「ホントだよ。でも、岬くんは噂通りなんじゃない? さっき友達から聞いたけど、ずいぶんモテるんだってね」
 何の気はなしに言うと、岬くんの蒼い目がふっと下を向いた。口元には微笑を浮かべたままで。
「みんな、中身まで知ってて騒いでるわけじゃないよ。僕の表面しか見ていないんだよ。君も、そう感じることはない?」
 最後には、また視線を上げてあたしの目を見つめてきた。
 問われて、つい先ほどまで会話していた二人の友達――柚乃と心春のことが頭に浮かんだ。二人のことは決して嫌いじゃない。むしろ一緒にいて心地がいい。けど。
「岬くんの言ってるのとちょっと違うかもしれないけど……あたしのことを全部分かってる人って、そんなにいないかもしれない。それは……ちょっと分かる、かな」
「……うん。君なら分かってくれるんじゃないかなと思った」
 そう言った彼は、どこか嬉しそうに見えた。
 その顔を、改めて正面から眺める。線が細くて、儚げで。言われてみれば確かに|綺麗な雪《ピㇼカウパㇱ》みたいな人だな、と思った。
 右も左もむさ苦しい|コタンコㇿ・エージェンシー《あたしのまわり》には、まずいないタイプだ。