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11話 ロリっ娘、薬師

ー/ー



 次に俺が目をつけた人物は――クロエ=パディントン、十八歳。異国から流れてきた薬師だ。

 セリーヌの記憶によれば、小柄でお団子頭の美少女。彫りの深い顔立ちが多いこの国では珍しい、東洋系の顔立ちをしている。着ている衣服も特徴的で、ゆったりとした袖に流れるような布地――前世で見た漢服によく似ていた。

「薬師は絶対に抑えておきたいよな」

 いつもの芋虫ソファに沈みながら、まとめた情報を入念にチェックする。薬師とはこの世界における情報の結節点だ。
 怪我人、病人、冒険者、商人、貴族――あらゆる階層の人間が、必ず一度は世話になる。魔法で外傷は治せても、病気まではどうにもならない。
 だからこそ、薬師の価値は高い。

 商業都市オールセルテスには他にも腕のいい薬師が数人いる。ではなぜ、寄生対象をクロエちゃんにしたのか。
 そんなの可愛いからに決まっている。他の薬師は爺さん婆さんか男だ。論外。男はハミルトンだけで十分だ。

「ってことで、今回はシャネルちゃんでいくか」

 理由? 決まってる。
 格ゲーでもあるだろ。ずっとリュウばっか使ってると、たまには春麗とかザンゲフも触りたくなるやつ。それと同じだ。

 ……まあ、千里眼も使えるしな。


 ◆


「まずはお店の方に行ってみましょうか」

 最近はその人物にできるだけなりきるよう心がけている。どこで誰が見ているか分からない以上、"なりきり"は必須だ。

 大通りから外れた路地の一角に、古びた小さな店があった。
 異世界特有の文字で書かれた看板。でも意味は分かる――薬屋だ。

「御免くださーい」

 カランカランとドアベルを鳴らしながら扉を開ける。店内は狭く、薬草の匂いが充満していた。棚には小瓶が並び、乾燥した植物が吊るされている。

 ……だが。

「……いない?」

 カウンターには、紙切れが一枚。

 ――『出掛けています』

「鍵も掛けずに留守にするなんて、不用心ね」

 一瞬呆れるが、すぐに納得する。盗る価値のある物がほとんどないのだ。

 それに――この店、貧乏だな。

 道具は古いし、品数も少ない。だが薬の管理はちゃんとしている。並び方に無駄がない。適当にやっている人間じゃない。

「……少し待ちましょうか」

 椅子に腰掛ける。

 五分。十分。三十分。

「……遅えな」

 一時間。

「……おい」

 一時間半。

「ふざけんなよ……」

 二時間。

「店ほっぽらかして二時間もどこをほっつき歩いてんのじゃッ! 店主失格だろ!!」

 完全に素が出た。
 見つけ出して根性叩き直してやる。
 ……ま、寄生したあとは俺になるんだけどね。

 ということで、中央広場にそびえ立つ高台までやって来た。

「……絶景ね」

 街が一望できる。

「さて」

 シャネルちゃんの能力――【千里眼】を発動。瞳に魔力を込めると、視界が一気に拡張される。数キロ先、場合によっては十キロ以上先まで。自在にピント調節できる超高性能望遠鏡だ。

「おおっ! これは凄いな」

 さらに捜索時間を短縮させるため、自動(オート)操作でハミルトンにクロエの行方を調べさせる。
 おっと、噂をすればなんとやら、早速通信が入る。

『マイハニー』

 うわ、来た。

『ターゲットは北側の教会にいるらしい』
『……そう。助かるわ』
『どういたしまして、僕の子猫ちゃん』

 ダメだこいつ。
 自動(オート)にすると人格まで忠実に再現されるらしく、ハミルトンのうざったい性格がそのまま残ってしまう。
 商人としての情報収集能力が高いだけに、実に惜しい。

「……まあいい。場所は割れた」


 おっ、ちょうどそれっぽい奴が教会から出てくる。

「あれがクロエちゃんね」

 小柄でかわいい。
 十八歳のはずだが、ぱっと見は十二歳のロリっ娘だな。やっぱり東洋系は幼く見えるんだろうか。

「……あら? そんなに急いでどこへ行くのかしら」

 クロエちゃんは教会を出ると、店とは逆方向へ歩き出した。

「そっちは……貧困街の方ね」

 気になる。
 しばらく高台から監視を続けることにした。

 やがてクロエちゃんのもとへ子供が駆け寄ってくる。口元にうっすらと血。クロエちゃんはすぐにしゃがみ込んで口内を確認する。続いて脚を押さえてうずくまる女、古傷が開いた男。
 次々と人が集まってくる。

「クロエちゃん、すごく良い子じゃない!」

 ロリっ娘が献身的に人助けをする姿を見て、おっさんの目にも涙である。小学生みたいな見た目も相まって、尚更グッとくるものがある。

「だからといって、寄生対象を変更したりはしないんだけどね」

 にしても、クロエちゃんめちゃくちゃ困ってるな。助けを求めるスラムの人たちも、心なしかがっかりしているように見える。

「何を話しているんだろ」

 距離が遠く、会話は聞こえない。
 だが状況は読める。診断はできるが、治療が追いついていないというところか。

「……あらら」

 申し訳なさそうに何度も頭を下げるクロエちゃんは、そのまま背を向けてトボトボと来た道を引き返していく。
 小さな背中が、やけに寂しそうで、見ているこっちまで切なくなる。

「凄腕薬師のクロエちゃんでも、彼らを治せなかったってこと?」

 ……まあ、俺には関係のない話だ。

 それより――ハミルトンの時の教訓を活かし、下手に距離を詰めてボロが出る前に通り魔的犯行にシフトチェンジする。
 クロエちゃんの帰り道の移動ルートを割り出し、路地裏で待ち伏せることにした。

「……そろそろ、来るわね」

 物陰に身を潜め、わくわくドキドキしながらロリっ娘の到着を今か今かと待ちわびる。




 すっかり陽が暮れた路地の向こうから、カツ、カツと小さな足音が近づいてくる。

 き、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 俺は逸る気持ちを抑えきれず、物陰からパッと飛び出した。

「――――!?」

 突然の影に、クロエちゃんが尻餅をつく。

「ハァ……ハァ……」

 こういう変態チックなシチュエーションに少しばかり興奮してしまい、鼻息が荒くなる。

「な、何ですっ、あ、あなたはっ!」
「こ、怖がらなくてもいいのよ。わ、わたしが、す、すぐに楽にしてあげるからっ!」
「ひぃっ!?」

 クロエちゃんがドン引きしてるじゃねぇかよ!

 きっと今のクロエちゃんには、外套をまとった変態が強襲してきたふうに映っているんだろうな。

 ほとんど正解だけど。

 冷静になって考えると、マジでヤバイ奴だよな、俺って……。

「だ、誰かッ!」

 まずい!
 クロエちゃんが助けを求めて逃げ出してしまった。

「逃がすかッ!」

 こちとら冒険者、しかも風の加護を持つエルフだぞ。ちびっ子がシャネルちゃんから逃げられるわけねぇだろ!

 捕まえた!

「は、離すですぅッ!」
「嫌よ! 私とぶちゅっと口づけなさい!」
「へ、変態ッ!?」

 やかましいわ!

 掴んだクロエちゃんを強引に引き寄せようとした、その瞬間――

「うわぁッ!? な、なんだこれッ!?」

 クロエちゃんの胸の辺りから、凄まじい光が放たれた。

 ――刹那。

「いっ、いってぇええええッ!?」

 全身に焼けるような激痛が走る。まるで業火で炙られながら、針の山で全身を突き刺されているような感覚。

 反射的にクロエの腕を離し、後方へ跳んだ。

「な、なに……いまの!?」

 全身からドバっと脂汗が吹き出る。
 脚の震えが止まらない。

 失敗した? は? なんで? 今までこんなこと一回もなかったのに。

 一体何が起こった。
 わけがわからない。

 ただ漠然と、目の前の非力な少女が――恐ろしい。

「――――っ」
「あっ!」

 クロエちゃんが走り去っていく。
 追いかけなければ。
 そう思うのだが、痛みと恐怖で足が動かない。

「クソぉッ!!」

 この日、俺は初めて――寄生に失敗した。


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 次に俺が目をつけた人物は――クロエ=パディントン、十八歳。異国から流れてきた薬師だ。
 セリーヌの記憶によれば、小柄でお団子頭の美少女。彫りの深い顔立ちが多いこの国では珍しい、東洋系の顔立ちをしている。着ている衣服も特徴的で、ゆったりとした袖に流れるような布地――前世で見た漢服によく似ていた。
「薬師は絶対に抑えておきたいよな」
 いつもの芋虫ソファに沈みながら、まとめた情報を入念にチェックする。薬師とはこの世界における情報の結節点だ。
 怪我人、病人、冒険者、商人、貴族――あらゆる階層の人間が、必ず一度は世話になる。魔法で外傷は治せても、病気まではどうにもならない。
 だからこそ、薬師の価値は高い。
 商業都市オールセルテスには他にも腕のいい薬師が数人いる。ではなぜ、寄生対象をクロエちゃんにしたのか。
 そんなの可愛いからに決まっている。他の薬師は爺さん婆さんか男だ。論外。男はハミルトンだけで十分だ。
「ってことで、今回はシャネルちゃんでいくか」
 理由? 決まってる。
 格ゲーでもあるだろ。ずっとリュウばっか使ってると、たまには春麗とかザンゲフも触りたくなるやつ。それと同じだ。
 ……まあ、千里眼も使えるしな。
 ◆
「まずはお店の方に行ってみましょうか」
 最近はその人物にできるだけなりきるよう心がけている。どこで誰が見ているか分からない以上、"なりきり"は必須だ。
 大通りから外れた路地の一角に、古びた小さな店があった。
 異世界特有の文字で書かれた看板。でも意味は分かる――薬屋だ。
「御免くださーい」
 カランカランとドアベルを鳴らしながら扉を開ける。店内は狭く、薬草の匂いが充満していた。棚には小瓶が並び、乾燥した植物が吊るされている。
 ……だが。
「……いない?」
 カウンターには、紙切れが一枚。
 ――『出掛けています』
「鍵も掛けずに留守にするなんて、不用心ね」
 一瞬呆れるが、すぐに納得する。盗る価値のある物がほとんどないのだ。
 それに――この店、貧乏だな。
 道具は古いし、品数も少ない。だが薬の管理はちゃんとしている。並び方に無駄がない。適当にやっている人間じゃない。
「……少し待ちましょうか」
 椅子に腰掛ける。
 五分。十分。三十分。
「……遅えな」
 一時間。
「……おい」
 一時間半。
「ふざけんなよ……」
 二時間。
「店ほっぽらかして二時間もどこをほっつき歩いてんのじゃッ! 店主失格だろ!!」
 完全に素が出た。
 見つけ出して根性叩き直してやる。
 ……ま、寄生したあとは俺になるんだけどね。
 ということで、中央広場にそびえ立つ高台までやって来た。
「……絶景ね」
 街が一望できる。
「さて」
 シャネルちゃんの能力――【千里眼】を発動。瞳に魔力を込めると、視界が一気に拡張される。数キロ先、場合によっては十キロ以上先まで。自在にピント調節できる超高性能望遠鏡だ。
「おおっ! これは凄いな」
 さらに捜索時間を短縮させるため、|自動《オート》操作でハミルトンにクロエの行方を調べさせる。
 おっと、噂をすればなんとやら、早速通信が入る。
『マイハニー』
 うわ、来た。
『ターゲットは北側の教会にいるらしい』
『……そう。助かるわ』
『どういたしまして、僕の子猫ちゃん』
 ダメだこいつ。
 |自動《オート》にすると人格まで忠実に再現されるらしく、ハミルトンのうざったい性格がそのまま残ってしまう。
 商人としての情報収集能力が高いだけに、実に惜しい。
「……まあいい。場所は割れた」
 おっ、ちょうどそれっぽい奴が教会から出てくる。
「あれがクロエちゃんね」
 小柄でかわいい。
 十八歳のはずだが、ぱっと見は十二歳のロリっ娘だな。やっぱり東洋系は幼く見えるんだろうか。
「……あら? そんなに急いでどこへ行くのかしら」
 クロエちゃんは教会を出ると、店とは逆方向へ歩き出した。
「そっちは……貧困街の方ね」
 気になる。
 しばらく高台から監視を続けることにした。
 やがてクロエちゃんのもとへ子供が駆け寄ってくる。口元にうっすらと血。クロエちゃんはすぐにしゃがみ込んで口内を確認する。続いて脚を押さえてうずくまる女、古傷が開いた男。
 次々と人が集まってくる。
「クロエちゃん、すごく良い子じゃない!」
 ロリっ娘が献身的に人助けをする姿を見て、おっさんの目にも涙である。小学生みたいな見た目も相まって、尚更グッとくるものがある。
「だからといって、寄生対象を変更したりはしないんだけどね」
 にしても、クロエちゃんめちゃくちゃ困ってるな。助けを求めるスラムの人たちも、心なしかがっかりしているように見える。
「何を話しているんだろ」
 距離が遠く、会話は聞こえない。
 だが状況は読める。診断はできるが、治療が追いついていないというところか。
「……あらら」
 申し訳なさそうに何度も頭を下げるクロエちゃんは、そのまま背を向けてトボトボと来た道を引き返していく。
 小さな背中が、やけに寂しそうで、見ているこっちまで切なくなる。
「凄腕薬師のクロエちゃんでも、彼らを治せなかったってこと?」
 ……まあ、俺には関係のない話だ。
 それより――ハミルトンの時の教訓を活かし、下手に距離を詰めてボロが出る前に通り魔的犯行にシフトチェンジする。
 クロエちゃんの帰り道の移動ルートを割り出し、路地裏で待ち伏せることにした。
「……そろそろ、来るわね」
 物陰に身を潜め、わくわくドキドキしながらロリっ娘の到着を今か今かと待ちわびる。
 すっかり陽が暮れた路地の向こうから、カツ、カツと小さな足音が近づいてくる。
 き、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
 俺は逸る気持ちを抑えきれず、物陰からパッと飛び出した。
「――――!?」
 突然の影に、クロエちゃんが尻餅をつく。
「ハァ……ハァ……」
 こういう変態チックなシチュエーションに少しばかり興奮してしまい、鼻息が荒くなる。
「な、何ですっ、あ、あなたはっ!」
「こ、怖がらなくてもいいのよ。わ、わたしが、す、すぐに楽にしてあげるからっ!」
「ひぃっ!?」
 クロエちゃんがドン引きしてるじゃねぇかよ!
 きっと今のクロエちゃんには、外套をまとった変態が強襲してきたふうに映っているんだろうな。
 ほとんど正解だけど。
 冷静になって考えると、マジでヤバイ奴だよな、俺って……。
「だ、誰かッ!」
 まずい!
 クロエちゃんが助けを求めて逃げ出してしまった。
「逃がすかッ!」
 こちとら冒険者、しかも風の加護を持つエルフだぞ。ちびっ子がシャネルちゃんから逃げられるわけねぇだろ!
 捕まえた!
「は、離すですぅッ!」
「嫌よ! 私とぶちゅっと口づけなさい!」
「へ、変態ッ!?」
 やかましいわ!
 掴んだクロエちゃんを強引に引き寄せようとした、その瞬間――
「うわぁッ!? な、なんだこれッ!?」
 クロエちゃんの胸の辺りから、凄まじい光が放たれた。
 ――刹那。
「いっ、いってぇええええッ!?」
 全身に焼けるような激痛が走る。まるで業火で炙られながら、針の山で全身を突き刺されているような感覚。
 反射的にクロエの腕を離し、後方へ跳んだ。
「な、なに……いまの!?」
 全身からドバっと脂汗が吹き出る。
 脚の震えが止まらない。
 失敗した? は? なんで? 今までこんなこと一回もなかったのに。
 一体何が起こった。
 わけがわからない。
 ただ漠然と、目の前の非力な少女が――恐ろしい。
「――――っ」
「あっ!」
 クロエちゃんが走り去っていく。
 追いかけなければ。
 そう思うのだが、痛みと恐怖で足が動かない。
「クソぉッ!!」
 この日、俺は初めて――寄生に失敗した。