表示設定
表示設定
目次 目次




【逃走】

ー/ー




 とにかくピエロの視界から逃れるように、マイケルは商品棚の影に潜り込む。
 背を低くして、ジェシカを守るようにしながら、ゆっくりと影の中を進んで行く。
 棚には隙間があり、そこからピエロの動きを盗み見ると、ピエロは立ち止まっていた。
 
(なんだ、アイツは)
 
 マイケルはそう思いながら、ピエロから距離をとるために、更に進んだ。
 
「出ておいでー」
 
 そう言ってから、ピエロはケタケタと笑う。
 そして、急に斧を振り回し、棚の商品を破壊した。
 
 床にトマト缶が転がり、傷ついた缶から中身がこぼれる。
 大きな音に怯えるように、マイケルの腕の中でジェシカが震えた。
 
「ぱぱ」
 
 消え入りそうな声で、ジェシカが言う。
 マイケルは「しー」と声を出さぬよう、ジェシカに伝え、屈んだまま進んだ。
 
 このフロアの中では、いつか見つかってしまう。
 そう思ったマイケルは、ピエロが出てきた奥の方へと向かうことにした。
 
(あっちは確か、従業員用通路があったな)
 
 店のフロアよりは隠れる場所も多いだろうと思い、マイケルはピエロの動きを覗きつつ、従業員用通路を目指して歩きだす。
 ジェシカはマイケルにぎゅっと掴まり、顔をマイケルの肩にすりよせた。
 
 その温もりを二度と離さないよう、マイケルはしっかりとジェシカの背中を抱く。
 棚の影に隠れ、ピエロの動きを見ながら、何とか従業員用通路の入り口についた。
 あとは従業員用通路とフロアを隔てるドアを開ければ中に入れる。
 しかし、音を立てたならばピエロに気付かれるだろう。
 
 マイケルは慎重にドアを押す。
 
 音を立てぬよう……。
 
 しかし、無情にも『キィ』と音が立った。
 その瞬間、ピエロの首がぐるりと回り、マイケル達のいる店の奥の方へと向く。
 
「そこかい?」
 
 楽しそうにピエロが声を上げる。
 直ぐ様マイケルは立ち上がり、従業員用通路の中へと駆け込んだ。
 そして入ってすぐの場所にあった在庫置き場に入り込む。
 箱の影に行き、マイケルは息を殺した。
 
「どこだーい? 一緒に遊ぼう?」
 
 ピエロがそう言いながら歩いて来る。
 マイケルはピエロが来ないことを祈りながら、ジェシカをぎゅっと抱きしめた。
 
 コッツン、コッツン。
 
 ピエロの足音が響く。
 その足音は、在庫置き場の前で止まった。
 
 マイケルはそっとピエロの様子を覗く。
 ピエロは、首をぐるぐると回している。
 明らかに人間ではない。
 首が回っても平気でいるなど、人形としか思えないとマイケルは感じる。
 
 ピエロの首がぴたりと動きを止め、笑い声を上げると、またフロアの方へと戻って行った。
 
(何とかなったか)
 
 ほっと息をつき、マイケルは箱に背を預けながら脱力する。
 ジェシカを膝に乗せ、額を濡らす汗を拭った。
 
「ぱぱ、大丈夫?」
 
 ジェシカが心配そうに聞いてくる。
 マイケルは優しく微笑み、ジェシカの小さな頭を撫でた。
 
「大丈夫……心配ない」
 
 マイケルが言うと、ジェシカはうんと頷く。
 
 五年前、行方不明になった時のままの姿をしたジェシカに、マイケルは少しの不安を抱く。
 
 なぜ、ジェシカは成長していないのか?
 
 そもそも、ここはどうなってしまっているのか?
 
 頭の中にそんな疑問が浮かんだ。
 
 もしかしたらこれは夢で、本当はジェシカと再会などしていないのではないかと、急に不安になってしまう。
 
「どうしたの?」
 
 ジェシカの声に、マイケルはハッとした。
 そして笑顔を見せて「なんでもない」と返す。
 
(これが夢でもなんでもいい。 ジェシカと帰りたい)
 
 そう思い、マイケルはジェシカの頬を優しく撫でた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 【画面に映るもの】


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 とにかくピエロの視界から逃れるように、マイケルは商品棚の影に潜り込む。
 背を低くして、ジェシカを守るようにしながら、ゆっくりと影の中を進んで行く。
 棚には隙間があり、そこからピエロの動きを盗み見ると、ピエロは立ち止まっていた。
(なんだ、アイツは)
 マイケルはそう思いながら、ピエロから距離をとるために、更に進んだ。
「出ておいでー」
 そう言ってから、ピエロはケタケタと笑う。
 そして、急に斧を振り回し、棚の商品を破壊した。
 床にトマト缶が転がり、傷ついた缶から中身がこぼれる。
 大きな音に怯えるように、マイケルの腕の中でジェシカが震えた。
「ぱぱ」
 消え入りそうな声で、ジェシカが言う。
 マイケルは「しー」と声を出さぬよう、ジェシカに伝え、屈んだまま進んだ。
 このフロアの中では、いつか見つかってしまう。
 そう思ったマイケルは、ピエロが出てきた奥の方へと向かうことにした。
(あっちは確か、従業員用通路があったな)
 店のフロアよりは隠れる場所も多いだろうと思い、マイケルはピエロの動きを覗きつつ、従業員用通路を目指して歩きだす。
 ジェシカはマイケルにぎゅっと掴まり、顔をマイケルの肩にすりよせた。
 その温もりを二度と離さないよう、マイケルはしっかりとジェシカの背中を抱く。
 棚の影に隠れ、ピエロの動きを見ながら、何とか従業員用通路の入り口についた。
 あとは従業員用通路とフロアを隔てるドアを開ければ中に入れる。
 しかし、音を立てたならばピエロに気付かれるだろう。
 マイケルは慎重にドアを押す。
 音を立てぬよう……。
 しかし、無情にも『キィ』と音が立った。
 その瞬間、ピエロの首がぐるりと回り、マイケル達のいる店の奥の方へと向く。
「そこかい?」
 楽しそうにピエロが声を上げる。
 直ぐ様マイケルは立ち上がり、従業員用通路の中へと駆け込んだ。
 そして入ってすぐの場所にあった在庫置き場に入り込む。
 箱の影に行き、マイケルは息を殺した。
「どこだーい? 一緒に遊ぼう?」
 ピエロがそう言いながら歩いて来る。
 マイケルはピエロが来ないことを祈りながら、ジェシカをぎゅっと抱きしめた。
 コッツン、コッツン。
 ピエロの足音が響く。
 その足音は、在庫置き場の前で止まった。
 マイケルはそっとピエロの様子を覗く。
 ピエロは、首をぐるぐると回している。
 明らかに人間ではない。
 首が回っても平気でいるなど、人形としか思えないとマイケルは感じる。
 ピエロの首がぴたりと動きを止め、笑い声を上げると、またフロアの方へと戻って行った。
(何とかなったか)
 ほっと息をつき、マイケルは箱に背を預けながら脱力する。
 ジェシカを膝に乗せ、額を濡らす汗を拭った。
「ぱぱ、大丈夫?」
 ジェシカが心配そうに聞いてくる。
 マイケルは優しく微笑み、ジェシカの小さな頭を撫でた。
「大丈夫……心配ない」
 マイケルが言うと、ジェシカはうんと頷く。
 五年前、行方不明になった時のままの姿をしたジェシカに、マイケルは少しの不安を抱く。
 なぜ、ジェシカは成長していないのか?
 そもそも、ここはどうなってしまっているのか?
 頭の中にそんな疑問が浮かんだ。
 もしかしたらこれは夢で、本当はジェシカと再会などしていないのではないかと、急に不安になってしまう。
「どうしたの?」
 ジェシカの声に、マイケルはハッとした。
 そして笑顔を見せて「なんでもない」と返す。
(これが夢でもなんでもいい。 ジェシカと帰りたい)
 そう思い、マイケルはジェシカの頬を優しく撫でた。