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【1‐2】 王立アリストリア高等魔術学園入学式

ー/ー



 人の視線を気にするロミエにとって、人の多いところは苦手だ。

 たとえその視線が向いていないと分かっていても、何かの拍子に全員の視線が向いて糾弾される──。
 そんな錯覚を覚えてしまうロミエにとって、人が多いところは拷問も同然である。

(あ、あの石像みたいに、私も(はりつけ)にされるのかなぁぁぁ……)

 かつての自分を模した石像が磔にされていたり、なんなら踏み絵もさせられたロミエは、いつもにも増して周囲の視線を気にしていた。

「これより、アリストリア高等魔術学園入学式を執り行う――」

 学園長の演説と共に、入学式が始まった。

 アリストリア高等魔術学園入学式典。
 この国において、国民全員は教育を受ける義務がある。
 故に、大講堂の中には千人弱の新入生徒がいた。

 ロミエはいつ視線が向けられるかと、ありもしない錯覚に怯えながら俯き続ける。
 本当はこんな所からさっさと逃げ出したいが、それをしたら余計目立つことくらいわかる。
 それに、今年はこの国の王子も入学するらしく、どうやらそれもあって余計に人が多いのだ。

(は、早く終わってよぉぉぉ……)

 嫌だ嫌だ、生徒も多いうえに観覧席にも大勢人が居る。
 当然、彼ら彼女らは、英雄ロンドを見捨てたロミエ(ニヒリア)を嫌っているだろう。
 まして、欠陥だらけの世界を創ってしまった罪もある。

(も、もしわたしがニヒリアだってバレたら……)

 ――殺される。あの石像みたいに磔にされて。

 ゴクリ……と、ロミエは生唾を飲み込んだ。
 簡単に殺してくれるならまだいい。最悪、拷問とか実験の対象として解剖されたりするんだろうか。

(それでも…………最期に何かの役に立てれたら、いい、かな)

 何も成果を残せなかったニヒリア(ロミエ)には、もう何も成し遂げる力が無い。
 魔術も理解しているのに、心のどこかで拒絶してしまって、結果失敗してしまう。

 (どうせ、できない。どうせ、失敗する。どうせ、意味ない。どうせ、不完全。どうせ、認められない。どうせ、使わない。どうせ、どうせ、どうせどうせどうせ――誰も、褒めてくれないから……っ)

 「どうせどうせ」と、卑下する単語がロミエの頭を埋め尽くしていく。
 そんな自分が嫌なのに、できない自分を嫌って蔑むことで、少しだけ笑みがこぼれた。

「……ふへっ」

(ああそうだ。いっそこの世の全ての苦しみを、ニヒリア()が身代わりとして受けられたらいいのに)

 ──それが私にできる、最低限の罪滅ぼしなんだ。

 そうやってぎこちなく笑みを零したロミエは、いっそう首の角度を下げるのだった。


――――――――――


 式典中ずっと俯いていたロミエは気が付かなかった。

 隣の席に座る、星の軌道を彷彿とさせる髪飾りをつけた少女の「背筋伸ばしなさいよ! 目立ってるわよ……!?」という視線。

 ステージの上にある生徒会席に座り、新入生を見渡していた生徒会長の「キョロキョロしてたり、眠そうでウトウトする生徒は珍しくないけど、あそこまで猫背だと逆に目立つんだなぁ」という視線。

 そして、観覧席からロミエだけに視線を向ける一人の令嬢。
 彼女はキツネの毛皮を用いたマフラーを撫でながら、「うふふっ……やっとこの時が来ましたわ」と、意味深な笑みを浮かべていた。

 すでにロミエを巻き込む環境は、整いつつあったのだ。


――――――――――


「──それでは、諸君らの健やかな成長と、魔術師としての門出を祝い、ここに王立アリストリア高等魔術学園への入校を許可する。以上で式典は終わりだ」

 粛々と進んだ入学式典は、最後に学園長の挨拶で締めくくられる。
 来賓が退出した後、新入生はそれぞれのグループに分かれて、指定された講義室へ向かうことになった────。

 ロミエが向かったのは、教諭の立つステージを中心に扇状に開かれた講義室。
 生徒の座席は一階と二階に分かれ、そのすべての席に生徒が座っている。

(う、後ろから変な目で見られたりしないかなぁぁ……)

 ロミエは前でも後ろでもない、ちょうど真ん中あたりに座っていた。
 故に、特に後ろからは目線を向けられやすく、逆にこちらから確認することはできない。

(嫌だ嫌だ……どんな目で見られてるんだろぅ……)

 アリストリア高等魔術学園には国中から子供が集まり、通っている。そのため、この中に初等科時代のロミエを知る人物が居てもおかしくない。

 彼ら彼女らは、ロミエの事をどう思っているだろう。
 先生達や色んな人の期待を裏切った、期待外れの劣等生……だろうか。

(でもそれは、ロミエが劣等生なんじゃない……)

──(ニヒリア)が転生したからだ。

 「ロミエ・ハルベリィ」という少女として生まれてしまったニヒリアは、その罪悪感にかられて沢山勉強して、なんでも自分で出来るように頑張った。
 ニヒリアはダメダメでも、「ロミエ・ハルベリィ」という少女が悪いわけじゃないんだと証明するために、いっぱいいっぱい努力した。

 それでも思うのだ。

 ニヒリア(自分)の不甲斐なさのせいで、ニヒリア(自分)が出来損ないなせいで、ロミエが後ろ指を指されるんじゃないか――と。

(私はニヒリア()で……忌み嫌われる存在だから、蔑まれて当然……だけど、ロミエ・ハルベリィは違う)

 お父様が言ってくれた。お前は自慢の娘だ――と。

 お母様が言ってくれた。あなたは自分だけの幸せを見つけて、それを受け止めていい──と。

 ……友達が、言ってくれた。うちの友達のロミエは何でも知ってて、とっても賢いんだぞ――って……。

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――。……わたしに、ロミエにはこんなに期待してくれているのに、どうしてニヒリア()は答えられないんだろう)

 ニヒリア()が出来損ないだから、ロミエも「出来損ないだ」と罵られる。馬鹿にされる、蔑(さげす)まれる。

 ──悪いのは全て、ニヒリアなのに……。

「……ぅ、くっ」

 いけない、わっと涙が浮かんだ。涙が出たら、周りに迷惑をかけてしまう。
 ロミエは涙を噛み殺し、一層身を縮こませた。

(今ので変な動きしなかったかな……もしそれで注目されたら嫌だよぅ……泣いてるって思われたらいやだ……後ろが、周りが怖いよぉぅ……)

 どうせなら一番後ろの端っこが良かったなぁ――などと思っていると。

「ねえ貴女(あなた)、もう少し背筋を伸ばしてはどう?」

 不意に誰かがロミエの肩に手を置いた。


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 人の視線を気にするロミエにとって、人の多いところは苦手だ。
 たとえその視線が向いていないと分かっていても、何かの拍子に全員の視線が向いて糾弾される──。
 そんな錯覚を覚えてしまうロミエにとって、人が多いところは拷問も同然である。
(あ、あの石像みたいに、私も磔《はりつけ》にされるのかなぁぁぁ……)
 かつての自分を模した石像が磔にされていたり、なんなら踏み絵もさせられたロミエは、いつもにも増して周囲の視線を気にしていた。
「これより、アリストリア高等魔術学園入学式を執り行う――」
 学園長の演説と共に、入学式が始まった。
 アリストリア高等魔術学園入学式典。
 この国において、国民全員は教育を受ける義務がある。
 故に、大講堂の中には千人弱の新入生徒がいた。
 ロミエはいつ視線が向けられるかと、ありもしない錯覚に怯えながら俯き続ける。
 本当はこんな所からさっさと逃げ出したいが、それをしたら余計目立つことくらいわかる。
 それに、今年はこの国の王子も入学するらしく、どうやらそれもあって余計に人が多いのだ。
(は、早く終わってよぉぉぉ……)
 嫌だ嫌だ、生徒も多いうえに観覧席にも大勢人が居る。
 当然、彼ら彼女らは、英雄ロンドを見捨てた|ロミエ《ニヒリア》を嫌っているだろう。
 まして、欠陥だらけの世界を創ってしまった罪もある。
(も、もしわたしがニヒリアだってバレたら……)
 ――殺される。あの石像みたいに磔にされて。
 ゴクリ……と、ロミエは生唾を飲み込んだ。
 簡単に殺してくれるならまだいい。最悪、拷問とか実験の対象として解剖されたりするんだろうか。
(それでも…………最期に何かの役に立てれたら、いい、かな)
 何も成果を残せなかった|ニヒリア《ロミエ》には、もう何も成し遂げる力が無い。
 魔術も理解しているのに、心のどこかで拒絶してしまって、結果失敗してしまう。
 (どうせ、できない。どうせ、失敗する。どうせ、意味ない。どうせ、不完全。どうせ、認められない。どうせ、使わない。どうせ、どうせ、どうせどうせどうせ――誰も、褒めてくれないから……っ)
 「どうせどうせ」と、卑下する単語がロミエの頭を埋め尽くしていく。
 そんな自分が嫌なのに、できない自分を嫌って蔑むことで、少しだけ笑みがこぼれた。
「……ふへっ」
(ああそうだ。いっそこの世の全ての苦しみを、|ニヒリア《私》が身代わりとして受けられたらいいのに)
 ──それが私にできる、最低限の罪滅ぼしなんだ。
 そうやってぎこちなく笑みを零したロミエは、いっそう首の角度を下げるのだった。
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 式典中ずっと俯いていたロミエは気が付かなかった。
 隣の席に座る、星の軌道を彷彿とさせる髪飾りをつけた少女の「背筋伸ばしなさいよ! 目立ってるわよ……!?」という視線。
 ステージの上にある生徒会席に座り、新入生を見渡していた生徒会長の「キョロキョロしてたり、眠そうでウトウトする生徒は珍しくないけど、あそこまで猫背だと逆に目立つんだなぁ」という視線。
 そして、観覧席からロミエだけに視線を向ける一人の令嬢。
 彼女はキツネの毛皮を用いたマフラーを撫でながら、「うふふっ……やっとこの時が来ましたわ」と、意味深な笑みを浮かべていた。
 すでにロミエを巻き込む環境は、整いつつあったのだ。
――――――――――
「──それでは、諸君らの健やかな成長と、魔術師としての門出を祝い、ここに王立アリストリア高等魔術学園への入校を許可する。以上で式典は終わりだ」
 粛々と進んだ入学式典は、最後に学園長の挨拶で締めくくられる。
 来賓が退出した後、新入生はそれぞれのグループに分かれて、指定された講義室へ向かうことになった────。
 ロミエが向かったのは、教諭の立つステージを中心に扇状に開かれた講義室。
 生徒の座席は一階と二階に分かれ、そのすべての席に生徒が座っている。
(う、後ろから変な目で見られたりしないかなぁぁ……)
 ロミエは前でも後ろでもない、ちょうど真ん中あたりに座っていた。
 故に、特に後ろからは目線を向けられやすく、逆にこちらから確認することはできない。
(嫌だ嫌だ……どんな目で見られてるんだろぅ……)
 アリストリア高等魔術学園には国中から子供が集まり、通っている。そのため、この中に初等科時代のロミエを知る人物が居てもおかしくない。
 彼ら彼女らは、ロミエの事をどう思っているだろう。
 先生達や色んな人の期待を裏切った、期待外れの劣等生……だろうか。
(でもそれは、ロミエが劣等生なんじゃない……)
──|私《ニヒリア》が転生したからだ。
 「ロミエ・ハルベリィ」という少女として生まれてしまったニヒリアは、その罪悪感にかられて沢山勉強して、なんでも自分で出来るように頑張った。
 ニヒリアはダメダメでも、「ロミエ・ハルベリィ」という少女が悪いわけじゃないんだと証明するために、いっぱいいっぱい努力した。
 それでも思うのだ。
 |ニヒリア《自分》の不甲斐なさのせいで、|ニヒリア《自分》が出来損ないなせいで、ロミエが後ろ指を指されるんじゃないか――と。
(私は|ニヒリア《神》で……忌み嫌われる存在だから、蔑まれて当然……だけど、ロミエ・ハルベリィは違う)
 お父様が言ってくれた。お前は自慢の娘だ――と。
 お母様が言ってくれた。あなたは自分だけの幸せを見つけて、それを受け止めていい──と。
 ……友達が、言ってくれた。うちの友達のロミエは何でも知ってて、とっても賢いんだぞ――って……。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――。……わたしに、ロミエにはこんなに期待してくれているのに、どうして|ニヒリア《私》は答えられないんだろう)
 |ニヒリア《私》が出来損ないだから、ロミエも「出来損ないだ」と罵られる。馬鹿にされる、蔑《さげす》まれる。
 ──悪いのは全て、ニヒリアなのに……。
「……ぅ、くっ」
 いけない、わっと涙が浮かんだ。涙が出たら、周りに迷惑をかけてしまう。
 ロミエは涙を噛み殺し、一層身を縮こませた。
(今ので変な動きしなかったかな……もしそれで注目されたら嫌だよぅ……泣いてるって思われたらいやだ……後ろが、周りが怖いよぉぅ……)
 どうせなら一番後ろの端っこが良かったなぁ――などと思っていると。
「ねえ貴女《あなた》、もう少し背筋を伸ばしてはどう?」
 不意に誰かがロミエの肩に手を置いた。