表示設定
表示設定
目次 目次




1章 5節

ー/ー



翌日。例に漏れず寝不足である。
だが、珍しく異能者出現の情報はないため、登校をすることになったのだが。
「…お前なんでいるんだ」
この言い様である。
全くもって酷いものだ。
担任の先生であるのに、担当生徒にそんなことを言っていいのか。
「もう一度言うぞ。何でここにいる」
「嫌だな、登校するために決まっているじゃないですか」
「教室にいるなら俺も納得するぞ。だがな、何で屋上にいるのかと聞いているんだよ」
「どこにいようと俺の勝手じゃないですか」
「お前に勝手されると俺が困るんだよ」
全くあれとこれと注文が多い。
登校はしろ、平均点は取れと。
その次は教室にいろか。
まぁ当たり前のことだろうが、屋上で黄昏ると言うアニメのようなことをさせてくれてもいいと思うが。
「いやいや、現実だから。アニメはフィクションだから」
「まぁそうですが、事実は小説よりも奇なりというじゃないですか」
異能も現実に存在することだし。
「はぁ、まぁいいや。俺もついでにタバコを吸っていくか」
「ちょ、副流煙」
「うるせぇ、不良生徒にはいい薬だろうが」
カチカチとライターを鳴らし、胸元から取り出したタバコへと火をつける。
「白水先生、今日は無理するなとか言わないんですか」
「もう言っても無駄だろうが。昨日もやってたみたいだからな」
「…何でわかるんですか」
「勘ってやつだよ。勘」
最初からそうであったが、白水先生は俺が何かしらのことをしていることを知っている。仕事の詳細は聞いては来ないが、おそらくわかっているんだろう。
「して、先生は何でいつも右手に包帯してるんですか?その年齢で厨二を患ってるんですか?」
「まずそれを疑うのかよ。怪我とか考えないのかよ」
「いやいや、全力で逃げる俺を意味のわからない動きで捕えたことがあるんですから。まず怪我とかしないでしょ」
「まぁ、怪我とかじゃねぇけど」
「じゃあ、厨二ですか」
「あぁ、じゃあそれで」
白水はタバコをふかしながら、どうでもよさそうに回答をする。
「さて、俺は帰ろうかな」
タバコをを地面へと擦り付けて火を消し、携帯灰皿へと放り込む。
「お前に言うことはもうないがーー」
そう言いながらポケットに手を入れ、出口へと向かう。
「学校に来ないようになるなんてやめろよ」
担任らしい言葉に少し驚き振り向いたが、パタンと扉の音だけ聞こえた。
「余計なお世話だ…と言いたい所だけど、まぁ気にしてくれるだけいいってことか」
好きの反対は無関心という。
不良の俺に心配してくれているというだけで、かなり優しい先生ということにはなる。
「さて、修多羅の観察の続きだ」
千里さんがわざわざ俺に忠告したということは、何かが起きるというわけだが、恐ろしく何もない。
「はぁ、退屈だ」
彼女とは中学の頃からの付き合いだが、父親との軋轢は何となく知っている。だから、その間で何かあったのかと思ったが、昨日の質問で何もないとわかった。嘘をついている可能性もなくはないが、そんなことで嘘をつくような性格ではない。
「とか、わかったような口を聞くと、怒られそうなものだがな」
軽い脳震盪を起こすデコピンなど2度と喰らいたくはないが。
キーンコーンカーンコーン。
くだらないことを考えていたら、どうやら昼食のチャイムが鳴ったようだ。
「学食でもいくか」
時刻は12時。
腹を満たすにはちょうどいい時間だ。
「唐揚げ丼ひとつ」
唐揚げ丼。それは至高の食べ物。
勘違いしないでほしいが、唐揚げ丼はご飯の上に唐揚げをただのせた代物ではなく、唐揚げとタレを絡めて、ご飯と一緒にかき込むとシナジーが…。
「あれ、なんだ」
そこにいたのは修多羅だった。
横にいるのは、前に言ってた走か。
「友達できたんだな」
と言っても、俺の友達は修多羅だけだから、数としては負けているんだが。
「チッ、調子に乗って」
その二人を恨めしそうに女性とは睨め付けており、周囲の人もひそひそと話していた。
「中学の時もあったな。あんなこと」
一応話を聞いておくか。
「おーーー」
「歴木君」
この声は。まさか。
冷や汗を滲ませながら振り向くと、そこにいたのは生活指導の先生だった。
「い、櫟野先生」
「白水先生に聞いたが、屋上で授業も受けずにダラダラしてたって?」
「あいつ」
担任のくせに、生徒を売りやがった!
「あいつ?白水先生ことですよね?恨めしそうな顔をしていますが、白水先生は仕事をしているだけですよ」
「い、いや俺も勉強をしているんですよ。最近唐揚げ丼に関する論文を書いていまして、唐揚げ丼は知識の探究に不可欠な至高の食べ物だと僕は広めないと」
脊髄反射でテキトーな言葉がポンポンと口をつく。
「ふむ、いくらくだらないものでも論文を書くことは結構なことだ。それは後で目を通すとして、とりあえず生徒指導室に行こうか」
がっしりと足を掴まれ、持ち上げられた拍子に地面に尻餅をつく。
「か、唐揚げど」
「それは後で食えます!さぁ、行きますよ!」
「う、うわぁ」
抵抗虚しくずりずりと引きずられ、俺は生徒指導室で学生の本分のなんたるかを5時間以上の遠回りをしながら説教をされた。
「はぁ、食堂閉まってるよな」
時刻は17時を過ぎており、すでに放課後である。もちろん、食堂は閉まっている。
「腹減ったな」
教室に向かう気力もなく、ダラダラと当てもなくあるていると、近くの生徒が一塊で話しているのが見えた。
「なんか、誰かが屋上でいじめに遭っているらしいよ」
「それほんとなの?」
「ほんとだよ!私屋上に行く人たち見たもん!」
はぁ、時代錯誤な。
正義の味方を気取るわけではないが、話を聞いた以上止めに行ったほうがいいか。
「いくか」
辟易しながら一歩を踏み出した瞬間、わずかに空気が振動した。
「何だ…これ」
嫌な予感が胸をざわつかせる。
「まさか…、修多羅じゃねぇよな」
急いで廊下を駆け抜け、階段を駆け上がる。すると、上から女の子が落ちてきた。
その女の子は顔面が凹んでおり、柔らかいというようなものではなく、ぐにゃぐにゃとスライムのような状態になっていた。
「……いや、やめておこう」
治癒の言霊を使おうとしたが、こいつらがいじめの元凶であることも捨てきれない。
「そうじゃなければ後で治すし、そうだったら因果応報ってやつだな」
階段をゆっくりと上がる。
閉じられた屋上への扉を開くと、そこには異能者となった修多羅がいた。
「ツノが…生えて…」
闘華さんが言っていたことはこういうことか。くそ、やっぱり俺は"後手"に回ってしまうのかよ。
って、自省なんざしている場合じゃねぇ。
「どっちかはわからないが、走を害したんだ。念入りにぶっ壊す!」
あんなの人間が食らったら間違いなく死ぬ。
間に合ってくれ!
必死に手を伸ばし、修多羅の腕を何とか掴むことに成功する。
「よう、修多羅。元気そうじゃねぇか」
「言葉…か。邪魔しないでよ、殺すわよ」
かつてないほどの殺気だ。
だが、それよりも問題がある。
腕を掴んでわかったが、推し量れないほどの膂力を持っている。
「ハハッ、元気だな。いつもみたいに辛気臭そうな顔をしてない」
「くッ!邪魔なのよ!」
薙ぎ払いで空間が歪み、掠めた顎が出血する。
「元気なのはいいが、感情に呑まれるなんて、随分とらしくねぇじゃねぇか」
膂力だけで、空間ごと抉るのか。
致命傷なんてかわいいもんじゃすまねぇぞ。
「お前を殺す!」
「かかってこいよ」
「ハァァ!」
「ッ!」
捌けたが、こんな奇跡みたいもの何度も。
「ガァァァァ!」
「ガハァ」
膝蹴りだと。
だが、ちょうどいい。
瞬間的に腕を伸ばし、修多羅の膝を掴み取る。
「いい蹴りだ。お前にも付き合ってもらうがな!『吹っ飛べッ!』」
言霊を自身に叩き込み、修多羅と共に勢いよく跳躍する。
「くそ、離せぇ!」
振り解こうと揺さぶられるだけで、ミシミシと腕がぎしつきやがる。
このまま校舎で闘えば、どんな被害が出るかわからん。
「行くぞ修多羅!」
勢いよく全身を捻り、無理矢理運動場へと落下の方向を変える。
「くそがああ!」
もつれ合いながら落下し、砂を薙ぎ払いながら勢いよく叩きつけられる。
背骨やら何やらが砕け散ったが、そんなことはどうでもいい。
「ハァハァ、言葉ァ!」
無傷か。
こっちは骨が砕け散ったというのに、肉体強度も尋常じゃないな。
「異能者同士だから、遠慮なんかいらねぇよな。武術家なんだろ?拳を交わそうぜ、修多羅」
夕焼けが落ちると共に夜になった瞬間、示し合わせたように二人は激突する。
「ハァァ!」
「オォォ!」
互いの拳は勢いよくぶつかり合う。
衝撃で空気は薙ぎ払われ、校舎の窓が一斉に割れる。
「ぐっ」
互角に見えた衝突。
だが、ミシミシと鈍い音ともに言葉の拳にヒビが入った瞬間、拳ごと言葉の腕が粉砕する。
「マジかよ」
「その程度。くたばれ」
粉砕した直後、修多羅は一気に距離を詰め、言葉の顎を蹴り上げる。
蹴り上げられた言葉は花火のように打ち上がり、無抵抗に空中を舞う。
「『治れ』」
粉砕された全身の骨をつなぎ合わせ、あるはずの痛みを完全に無に帰す。
「『死…』いや、『吹っ…』。くそ」
相手は異能者だ。
言霊を使わなきゃ殺される。
だけど、あれは修多羅だ。
「戦闘中に考え事とは呑気ね」
異能を使うことに戸惑っていると、目の前に修多羅の蹴りが迫っていた。
「くそ」
防御をしようとして腕を交差したが、修多羅の蹴りはその防御ごと粉砕しながら吹き飛ばす。勢いそのまま校舎へと激突し、壁を突き破りながら言葉は外へと放り出される。
「ガハッ」
頭蓋骨から血を垂れ流しながら空中を舞う。視界は血で真っ赤に染まり、痛みで一瞬だけ失神する。
「……ッ!」
ぐるりと眼球を素早く動かして、目の前の光景を捉える。そこには、強襲する修多羅が写っていた。
「『な、なお』」
「遅い!」
腹部に重撃が入り、地面へと容赦なく叩きつけられる。
「お、あ、あぁ」
叩きつけられた勢いで下半身は肉片となり、血と共に周囲へと無惨に散らばる。
「諦めなさい。全身ズタズタなんだから。というかなんでその状態で生きてられるのよ」
心底気持ち悪そうな顔を浮かべる修多羅とは対照的に、言葉はわずかに口角を上げながら言葉を紡ぐ。
「『な…、お…れ』」
ミシミシと鈍い音を立てながら体は修復していく。砕け散った骨を無理矢理つなぎ合わせ、削られた脳は修復される。
「ハァハァ…」
「厄介ね。それ」
「『言霊』っていう異能でね、すげぇ便利で助かってるんだよ」
「そう、サンドバッグになりたいってことね」
「消えっ」
移動する残像すら見えず、周囲のコンクリートがただ凹んでいく。
「こっちか!」
「惜しい。こっちよ!」
頬を綺麗に撃ち抜かれ、再び運動場へと吹き飛ばされる。今度は言霊を挟む余地があり、何とかダメージを抑えることが成功する。
「ハァハァ…、もうやめろ…、やめてくれ、修多羅」
「何よ、今更説教でもするつもり」
「ハァハァ…、あぁいくらでもしてやるよ。お前が元に戻るならな」
修復が全く間に合ってない。
神経も筋肉もズタズタになってやがる。
はっ、立っているのが奇跡だな。
「そんな状態でよく話せるわね。いつくたばってもおかしくないというのに」
「その状態ならまだ戻れる。俺はお前に異能を使いたくねぇんだよ」
「何?手加減してやってるとでも言いたいわけ?不愉快ね」
ボロボロの言葉に向かって、修多羅は一歩ずつ踏み締める。
「そうやっていつもあなたはどこかで他人を見下しているのよ。私はそういう所が嫌いだったのよ!」
「そうか、俺はそうやって辛気臭い顔して、世界で1番不幸なのは私みたいな雰囲気醸し出しているのが嫌いだった」
運命を受け入れよう。
俺と修多羅は。
「そう、死ね」
心臓を貫手で貫かれ、隙間から血液が溢れ出す。
「あ…、あぁ」
意識がどんどんと薄れていき、目の前が視界の端から黒くなっていく。
「すたらぁ…」
必死に伸ばした手は修多羅に触れる事なく、後ろ向きにばったりと倒れた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 1章 6節


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



翌日。例に漏れず寝不足である。
だが、珍しく異能者出現の情報はないため、登校をすることになったのだが。
「…お前なんでいるんだ」
この言い様である。
全くもって酷いものだ。
担任の先生であるのに、担当生徒にそんなことを言っていいのか。
「もう一度言うぞ。何でここにいる」
「嫌だな、登校するために決まっているじゃないですか」
「教室にいるなら俺も納得するぞ。だがな、何で屋上にいるのかと聞いているんだよ」
「どこにいようと俺の勝手じゃないですか」
「お前に勝手されると俺が困るんだよ」
全くあれとこれと注文が多い。
登校はしろ、平均点は取れと。
その次は教室にいろか。
まぁ当たり前のことだろうが、屋上で黄昏ると言うアニメのようなことをさせてくれてもいいと思うが。
「いやいや、現実だから。アニメはフィクションだから」
「まぁそうですが、事実は小説よりも奇なりというじゃないですか」
異能も現実に存在することだし。
「はぁ、まぁいいや。俺もついでにタバコを吸っていくか」
「ちょ、副流煙」
「うるせぇ、不良生徒にはいい薬だろうが」
カチカチとライターを鳴らし、胸元から取り出したタバコへと火をつける。
「白水先生、今日は無理するなとか言わないんですか」
「もう言っても無駄だろうが。昨日もやってたみたいだからな」
「…何でわかるんですか」
「勘ってやつだよ。勘」
最初からそうであったが、白水先生は俺が何かしらのことをしていることを知っている。仕事の詳細は聞いては来ないが、おそらくわかっているんだろう。
「して、先生は何でいつも右手に包帯してるんですか?その年齢で厨二を患ってるんですか?」
「まずそれを疑うのかよ。怪我とか考えないのかよ」
「いやいや、全力で逃げる俺を意味のわからない動きで捕えたことがあるんですから。まず怪我とかしないでしょ」
「まぁ、怪我とかじゃねぇけど」
「じゃあ、厨二ですか」
「あぁ、じゃあそれで」
白水はタバコをふかしながら、どうでもよさそうに回答をする。
「さて、俺は帰ろうかな」
タバコをを地面へと擦り付けて火を消し、携帯灰皿へと放り込む。
「お前に言うことはもうないがーー」
そう言いながらポケットに手を入れ、出口へと向かう。
「学校に来ないようになるなんてやめろよ」
担任らしい言葉に少し驚き振り向いたが、パタンと扉の音だけ聞こえた。
「余計なお世話だ…と言いたい所だけど、まぁ気にしてくれるだけいいってことか」
好きの反対は無関心という。
不良の俺に心配してくれているというだけで、かなり優しい先生ということにはなる。
「さて、修多羅の観察の続きだ」
千里さんがわざわざ俺に忠告したということは、何かが起きるというわけだが、恐ろしく何もない。
「はぁ、退屈だ」
彼女とは中学の頃からの付き合いだが、父親との軋轢は何となく知っている。だから、その間で何かあったのかと思ったが、昨日の質問で何もないとわかった。嘘をついている可能性もなくはないが、そんなことで嘘をつくような性格ではない。
「とか、わかったような口を聞くと、怒られそうなものだがな」
軽い脳震盪を起こすデコピンなど2度と喰らいたくはないが。
キーンコーンカーンコーン。
くだらないことを考えていたら、どうやら昼食のチャイムが鳴ったようだ。
「学食でもいくか」
時刻は12時。
腹を満たすにはちょうどいい時間だ。
「唐揚げ丼ひとつ」
唐揚げ丼。それは至高の食べ物。
勘違いしないでほしいが、唐揚げ丼はご飯の上に唐揚げをただのせた代物ではなく、唐揚げとタレを絡めて、ご飯と一緒にかき込むとシナジーが…。
「あれ、なんだ」
そこにいたのは修多羅だった。
横にいるのは、前に言ってた走か。
「友達できたんだな」
と言っても、俺の友達は修多羅だけだから、数としては負けているんだが。
「チッ、調子に乗って」
その二人を恨めしそうに女性とは睨め付けており、周囲の人もひそひそと話していた。
「中学の時もあったな。あんなこと」
一応話を聞いておくか。
「おーーー」
「歴木君」
この声は。まさか。
冷や汗を滲ませながら振り向くと、そこにいたのは生活指導の先生だった。
「い、櫟野先生」
「白水先生に聞いたが、屋上で授業も受けずにダラダラしてたって?」
「あいつ」
担任のくせに、生徒を売りやがった!
「あいつ?白水先生ことですよね?恨めしそうな顔をしていますが、白水先生は仕事をしているだけですよ」
「い、いや俺も勉強をしているんですよ。最近唐揚げ丼に関する論文を書いていまして、唐揚げ丼は知識の探究に不可欠な至高の食べ物だと僕は広めないと」
脊髄反射でテキトーな言葉がポンポンと口をつく。
「ふむ、いくらくだらないものでも論文を書くことは結構なことだ。それは後で目を通すとして、とりあえず生徒指導室に行こうか」
がっしりと足を掴まれ、持ち上げられた拍子に地面に尻餅をつく。
「か、唐揚げど」
「それは後で食えます!さぁ、行きますよ!」
「う、うわぁ」
抵抗虚しくずりずりと引きずられ、俺は生徒指導室で学生の本分のなんたるかを5時間以上の遠回りをしながら説教をされた。
「はぁ、食堂閉まってるよな」
時刻は17時を過ぎており、すでに放課後である。もちろん、食堂は閉まっている。
「腹減ったな」
教室に向かう気力もなく、ダラダラと当てもなくあるていると、近くの生徒が一塊で話しているのが見えた。
「なんか、誰かが屋上でいじめに遭っているらしいよ」
「それほんとなの?」
「ほんとだよ!私屋上に行く人たち見たもん!」
はぁ、時代錯誤な。
正義の味方を気取るわけではないが、話を聞いた以上止めに行ったほうがいいか。
「いくか」
辟易しながら一歩を踏み出した瞬間、わずかに空気が振動した。
「何だ…これ」
嫌な予感が胸をざわつかせる。
「まさか…、修多羅じゃねぇよな」
急いで廊下を駆け抜け、階段を駆け上がる。すると、上から女の子が落ちてきた。
その女の子は顔面が凹んでおり、柔らかいというようなものではなく、ぐにゃぐにゃとスライムのような状態になっていた。
「……いや、やめておこう」
治癒の言霊を使おうとしたが、こいつらがいじめの元凶であることも捨てきれない。
「そうじゃなければ後で治すし、そうだったら因果応報ってやつだな」
階段をゆっくりと上がる。
閉じられた屋上への扉を開くと、そこには異能者となった修多羅がいた。
「ツノが…生えて…」
闘華さんが言っていたことはこういうことか。くそ、やっぱり俺は"後手"に回ってしまうのかよ。
って、自省なんざしている場合じゃねぇ。
「どっちかはわからないが、走を害したんだ。念入りにぶっ壊す!」
あんなの人間が食らったら間違いなく死ぬ。
間に合ってくれ!
必死に手を伸ばし、修多羅の腕を何とか掴むことに成功する。
「よう、修多羅。元気そうじゃねぇか」
「言葉…か。邪魔しないでよ、殺すわよ」
かつてないほどの殺気だ。
だが、それよりも問題がある。
腕を掴んでわかったが、推し量れないほどの膂力を持っている。
「ハハッ、元気だな。いつもみたいに辛気臭そうな顔をしてない」
「くッ!邪魔なのよ!」
薙ぎ払いで空間が歪み、掠めた顎が出血する。
「元気なのはいいが、感情に呑まれるなんて、随分とらしくねぇじゃねぇか」
膂力だけで、空間ごと抉るのか。
致命傷なんてかわいいもんじゃすまねぇぞ。
「お前を殺す!」
「かかってこいよ」
「ハァァ!」
「ッ!」
捌けたが、こんな奇跡みたいもの何度も。
「ガァァァァ!」
「ガハァ」
膝蹴りだと。
だが、ちょうどいい。
瞬間的に腕を伸ばし、修多羅の膝を掴み取る。
「いい蹴りだ。お前にも付き合ってもらうがな!『吹っ飛べッ!』」
言霊を自身に叩き込み、修多羅と共に勢いよく跳躍する。
「くそ、離せぇ!」
振り解こうと揺さぶられるだけで、ミシミシと腕がぎしつきやがる。
このまま校舎で闘えば、どんな被害が出るかわからん。
「行くぞ修多羅!」
勢いよく全身を捻り、無理矢理運動場へと落下の方向を変える。
「くそがああ!」
もつれ合いながら落下し、砂を薙ぎ払いながら勢いよく叩きつけられる。
背骨やら何やらが砕け散ったが、そんなことはどうでもいい。
「ハァハァ、言葉ァ!」
無傷か。
こっちは骨が砕け散ったというのに、肉体強度も尋常じゃないな。
「異能者同士だから、遠慮なんかいらねぇよな。武術家なんだろ?拳を交わそうぜ、修多羅」
夕焼けが落ちると共に夜になった瞬間、示し合わせたように二人は激突する。
「ハァァ!」
「オォォ!」
互いの拳は勢いよくぶつかり合う。
衝撃で空気は薙ぎ払われ、校舎の窓が一斉に割れる。
「ぐっ」
互角に見えた衝突。
だが、ミシミシと鈍い音ともに言葉の拳にヒビが入った瞬間、拳ごと言葉の腕が粉砕する。
「マジかよ」
「その程度。くたばれ」
粉砕した直後、修多羅は一気に距離を詰め、言葉の顎を蹴り上げる。
蹴り上げられた言葉は花火のように打ち上がり、無抵抗に空中を舞う。
「『治れ』」
粉砕された全身の骨をつなぎ合わせ、あるはずの痛みを完全に無に帰す。
「『死…』いや、『吹っ…』。くそ」
相手は異能者だ。
言霊を使わなきゃ殺される。
だけど、あれは修多羅だ。
「戦闘中に考え事とは呑気ね」
異能を使うことに戸惑っていると、目の前に修多羅の蹴りが迫っていた。
「くそ」
防御をしようとして腕を交差したが、修多羅の蹴りはその防御ごと粉砕しながら吹き飛ばす。勢いそのまま校舎へと激突し、壁を突き破りながら言葉は外へと放り出される。
「ガハッ」
頭蓋骨から血を垂れ流しながら空中を舞う。視界は血で真っ赤に染まり、痛みで一瞬だけ失神する。
「……ッ!」
ぐるりと眼球を素早く動かして、目の前の光景を捉える。そこには、強襲する修多羅が写っていた。
「『な、なお』」
「遅い!」
腹部に重撃が入り、地面へと容赦なく叩きつけられる。
「お、あ、あぁ」
叩きつけられた勢いで下半身は肉片となり、血と共に周囲へと無惨に散らばる。
「諦めなさい。全身ズタズタなんだから。というかなんでその状態で生きてられるのよ」
心底気持ち悪そうな顔を浮かべる修多羅とは対照的に、言葉はわずかに口角を上げながら言葉を紡ぐ。
「『な…、お…れ』」
ミシミシと鈍い音を立てながら体は修復していく。砕け散った骨を無理矢理つなぎ合わせ、削られた脳は修復される。
「ハァハァ…」
「厄介ね。それ」
「『言霊』っていう異能でね、すげぇ便利で助かってるんだよ」
「そう、サンドバッグになりたいってことね」
「消えっ」
移動する残像すら見えず、周囲のコンクリートがただ凹んでいく。
「こっちか!」
「惜しい。こっちよ!」
頬を綺麗に撃ち抜かれ、再び運動場へと吹き飛ばされる。今度は言霊を挟む余地があり、何とかダメージを抑えることが成功する。
「ハァハァ…、もうやめろ…、やめてくれ、修多羅」
「何よ、今更説教でもするつもり」
「ハァハァ…、あぁいくらでもしてやるよ。お前が元に戻るならな」
修復が全く間に合ってない。
神経も筋肉もズタズタになってやがる。
はっ、立っているのが奇跡だな。
「そんな状態でよく話せるわね。いつくたばってもおかしくないというのに」
「その状態ならまだ戻れる。俺はお前に異能を使いたくねぇんだよ」
「何?手加減してやってるとでも言いたいわけ?不愉快ね」
ボロボロの言葉に向かって、修多羅は一歩ずつ踏み締める。
「そうやっていつもあなたはどこかで他人を見下しているのよ。私はそういう所が嫌いだったのよ!」
「そうか、俺はそうやって辛気臭い顔して、世界で1番不幸なのは私みたいな雰囲気醸し出しているのが嫌いだった」
運命を受け入れよう。
俺と修多羅は。
「そう、死ね」
心臓を貫手で貫かれ、隙間から血液が溢れ出す。
「あ…、あぁ」
意識がどんどんと薄れていき、目の前が視界の端から黒くなっていく。
「すたらぁ…」
必死に伸ばした手は修多羅に触れる事なく、後ろ向きにばったりと倒れた。