表示設定
表示設定
目次 目次




プロローグ 断罪5.1

ー/ー



 ヴェルディナ暦五六五年。
 それは、季節はずれの雪が降りしきる日だった。

 凍えるアギア大聖堂では、火が灯っていた。

「……悪魔の子だ」

 集う者たちは口々に言う。
 神の元へと、音を立てながら車椅子は進む。
 高みには、神々と始祖王が描かれたステンドグラスが並んでいる。差し込む七色の光は、異形の彫像のように、凍りついた剥き出しの足を照らしていた。

 ——私は、今日。今ここで、死ぬ。

 乾いた口の中でする血の味。()たれた身体が、あちこち痛んだ。
 車椅子の音が止み、一瞬、がくりと体が崩れかけると、床の大理石が眩しくて意識が遠のいた。
 目の前の男は、天を()くように、そびえ立つ神像の前に立っていた。王国の王子。その瞳はもはや抜け殻だった。
 隣にいる、老いた陰湿な家臣が叫ぶ。

「落ち着かれよ! 皆の者、これは神聖な場であるぞ!」

 震える声に、胸が押し潰されそうになる。

 ——本当に、私は今、ここで死ぬのだと。

 国も、家族も、全てを失った。
 それに、ずっと死にたかった。
 悔いはない。
 そのはずだった。
 なのに、何故だろうか。
 柔らかな、彼の笑みが浮かぶ。陽の当たる声が愛おしい。
 頬が少しだけ、濡れた気がした。

 ゆっくりと一歩前に出た王子は、石の壇上で姿勢を正してから、空気を裂くような声で告げる。

「ヴェルディナ王国王女、ミア・ヴェルディナ! 貴女の行いについて、神の御前において断罪を下す!」

 次々と悪の所業が告げられ、ひときわ大きなどよめきが起きた。
 静かに視線を落とした王子は、最後の言葉を告げた。

「よって、神の御前において裁く。ミア・ヴェルディナ。死をもって罪を償うべし!」

 もう、意識はわずかだった。朦朧(もうろう)としていた。
 辺りが騒然とするなか、気づけば、王子が氷の剣を振り下ろす。

「死ね。人間よ……」

 女の声。
 聞いたことがある声だった。

 ——魔女だ。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 序章


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 ヴェルディナ暦五六五年。
 それは、季節はずれの雪が降りしきる日だった。
 凍えるアギア大聖堂では、火が灯っていた。
「……悪魔の子だ」
 集う者たちは口々に言う。
 神の元へと、音を立てながら車椅子は進む。
 高みには、神々と始祖王が描かれたステンドグラスが並んでいる。差し込む七色の光は、異形の彫像のように、凍りついた剥き出しの足を照らしていた。
 ——私は、今日。今ここで、死ぬ。
 乾いた口の中でする血の味。|打《ぶ》たれた身体が、あちこち痛んだ。
 車椅子の音が止み、一瞬、がくりと体が崩れかけると、床の大理石が眩しくて意識が遠のいた。
 目の前の男は、天を|衝《つ》くように、そびえ立つ神像の前に立っていた。王国の王子。その瞳はもはや抜け殻だった。
 隣にいる、老いた陰湿な家臣が叫ぶ。
「落ち着かれよ! 皆の者、これは神聖な場であるぞ!」
 震える声に、胸が押し潰されそうになる。
 ——本当に、私は今、ここで死ぬのだと。
 国も、家族も、全てを失った。
 それに、ずっと死にたかった。
 悔いはない。
 そのはずだった。
 なのに、何故だろうか。
 柔らかな、彼の笑みが浮かぶ。陽の当たる声が愛おしい。
 頬が少しだけ、濡れた気がした。
 ゆっくりと一歩前に出た王子は、石の壇上で姿勢を正してから、空気を裂くような声で告げる。
「ヴェルディナ王国王女、ミア・ヴェルディナ! 貴女の行いについて、神の御前において断罪を下す!」
 次々と悪の所業が告げられ、ひときわ大きなどよめきが起きた。
 静かに視線を落とした王子は、最後の言葉を告げた。
「よって、神の御前において裁く。ミア・ヴェルディナ。死をもって罪を償うべし!」
 もう、意識はわずかだった。|朦朧《もうろう》としていた。
 辺りが騒然とするなか、気づけば、王子が氷の剣を振り下ろす。
「死ね。人間よ……」
 女の声。
 聞いたことがある声だった。
 ——魔女だ。