第79話 退屈な聖女
ー/ー 王都でいろいろと動きが出ている中、クロナは暇な日々を過ごしていた。
「はあ、暇ですね……」
隠れ住んでいる洞窟の中で、クロナはごろりと転がっている。
しばらくの間、ずっと王国の民から命を狙われまくっていたこともあって、まったく誰も来ない状況に退屈しているようだった。
あの時に比べれば、気の休まる状態ではあるものの、何もなければ何もないで退屈というものである。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
下半身がアサシンスパイダーの体になったブラナがやってくる。眉間にしわを寄せて機嫌の悪そうな顔をするクロナの姿を見て、かなり心配しているような表情を見せている。
「ねえ、ブラナ」
「はい、お嬢様」
クロナの呼び掛けに、ブラナはすぐに反応している。
「最近、静かだと思いませんか?」
クロナに質問されて、ブラナはこくりと頷いている。
「そうでございますね。王国軍にしても傭兵にしても、近くにやってくる気配がありません」
イトナたちの見回りでも、そういった報告は上がっていない。すっかり最近は静かなのである。
「お嬢様が神と名乗る存在からお聞きした話では、王国の民から敵意を向けられ続けるというお話でしたよね?」
「ええ、あの役立たずのじじいの話ですと、そういうことのようです」
精神が壊れてしまった影響なのか、本来は信仰を捧げるはずの神に対してこの言い分である。この呼び方には、ブラナも分からない程度に表情を歪ませている。
とはいえ、下手な反応を見せて主であるクロナの機嫌を損ねるわけにはいかないと、ブラナは平静を保ち続ける。
コークロッチヌス子爵に敗れてからのブラナは、とにかくクロナのメイドとしてずっと忠義を尽くし続けているのだ。
「となりますと、やはり先日、領地を襲った魔族が関係しているのでしょうかね。私が手伝ったことで被害はかなり抑えられましたが、コークロッチヌス子爵領ですら手を焼くような相手でしたからね」
「……なるほど、本物の魔族の脅威に警戒を強めているというわけですね」
「はい、そのように思われます」
クロナが口元に手を当てながら考え込むと、ブラナはその考えを肯定していた。ブラナからしても、同じ意見を持ったからである。
正直なところ、今のクロナには王国への関心はあまりない。ひどい目に遭わされ続けたことで、心が壊れてしまったからだ。それからというもの、クロナの方も、今までの考え方が完全に裏返ってしまったのだ。
しかし、神がすべての運命を元に戻すと宣言している十三歳の誕生日まではまだ時間がある。その間に王国がなくなってしまっては、はたして本当に元に戻るのか疑わしい。
無関心を決め込んだはずのクロナも、さすがに魔族の動向が気になってしまう。
「はあ……、面倒くさいですね……」
気になってきたクロナは大きなため息をついてしまっている。
「お嬢様」
様子を見かねたブラナは、クロナに声をかけている。
「なんですか、ブラナ」
「こういう時こそ、今のお嬢様の力を活用すべきかと存じます」
「……私の力ですか」
ブラナに言われて、クロナは首を傾げてしまっている。聖女の力など、ここで役に立つのかと考えてしまったようなのだ。
「お嬢様、聖女の力ではありません」
「それでは、なんだと申されるのですか?」
クロナは疑問をブラナにぶつけている。
ブラナはその質問を受けて、真剣な表情をクロナに向ける。
そうかと思えば、自分の姿や、周りのスチールアントたちに視線を向け始める。
その姿を見て、クロナは何かに気が付いたようだ。
「そうですか。虫を眷属にする力ですか。……それがありましたね」
今さらながらに、クロナは自分の能力を思い出していた。
そう、クロナは自分の誕生日に、頭に触角が生えた時点から、虫との間で意思疎通ができるようになっていた。
現在いるイトナやスチールアント、外を警戒して回るキラーホーネットなども、触覚が生えたことによる影響によって眷属化した存在なのである。
「はい。小さな虫を使えば、誰にも気づかれることなく、王都の中の様子を探れると思うのです。それこそ、視界などの共有が行えればいいのでしょうが」
ブラナは提案しながらも、様子を知るための問題点も認識していた。
現在も直に報告をもらわなければ何も分からないのだから。なので、そこをどうにかしなければならないというわけである。
ところが、クロナは意外にもにこやかな表情を浮かべている。
「やってみる価値はあります。この近くに生息していて、そこそこの強さを持つ虫であるなら、小さくてもどうにかなるでしょう」
クロナは近くで働くスチールアントに問いかける。
「あなたたち、この辺りでよさそうな小さな虫はいますかね」
『はい、聖女様。それならばちょうどよさそうな虫がおります』
クロナの質問に対し、スチールアントはすんなりと答えを返していた。
ならば、すぐに連れてくるようにと、クロナはスチールアントたちに命令する。スチールアントたちは、すぐさま外へと向かって走り出した。
どうやらこれで、クロナが懸念することはひとつ解消できそうである。
だが、十三歳の誕生日を迎えるまで、下手に出歩くわけにはいかない。
クロナの引きこもり生活は、まだまだ続きそうなのである。
「はあ、暇ですね……」
隠れ住んでいる洞窟の中で、クロナはごろりと転がっている。
しばらくの間、ずっと王国の民から命を狙われまくっていたこともあって、まったく誰も来ない状況に退屈しているようだった。
あの時に比べれば、気の休まる状態ではあるものの、何もなければ何もないで退屈というものである。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
下半身がアサシンスパイダーの体になったブラナがやってくる。眉間にしわを寄せて機嫌の悪そうな顔をするクロナの姿を見て、かなり心配しているような表情を見せている。
「ねえ、ブラナ」
「はい、お嬢様」
クロナの呼び掛けに、ブラナはすぐに反応している。
「最近、静かだと思いませんか?」
クロナに質問されて、ブラナはこくりと頷いている。
「そうでございますね。王国軍にしても傭兵にしても、近くにやってくる気配がありません」
イトナたちの見回りでも、そういった報告は上がっていない。すっかり最近は静かなのである。
「お嬢様が神と名乗る存在からお聞きした話では、王国の民から敵意を向けられ続けるというお話でしたよね?」
「ええ、あの役立たずのじじいの話ですと、そういうことのようです」
精神が壊れてしまった影響なのか、本来は信仰を捧げるはずの神に対してこの言い分である。この呼び方には、ブラナも分からない程度に表情を歪ませている。
とはいえ、下手な反応を見せて主であるクロナの機嫌を損ねるわけにはいかないと、ブラナは平静を保ち続ける。
コークロッチヌス子爵に敗れてからのブラナは、とにかくクロナのメイドとしてずっと忠義を尽くし続けているのだ。
「となりますと、やはり先日、領地を襲った魔族が関係しているのでしょうかね。私が手伝ったことで被害はかなり抑えられましたが、コークロッチヌス子爵領ですら手を焼くような相手でしたからね」
「……なるほど、本物の魔族の脅威に警戒を強めているというわけですね」
「はい、そのように思われます」
クロナが口元に手を当てながら考え込むと、ブラナはその考えを肯定していた。ブラナからしても、同じ意見を持ったからである。
正直なところ、今のクロナには王国への関心はあまりない。ひどい目に遭わされ続けたことで、心が壊れてしまったからだ。それからというもの、クロナの方も、今までの考え方が完全に裏返ってしまったのだ。
しかし、神がすべての運命を元に戻すと宣言している十三歳の誕生日まではまだ時間がある。その間に王国がなくなってしまっては、はたして本当に元に戻るのか疑わしい。
無関心を決め込んだはずのクロナも、さすがに魔族の動向が気になってしまう。
「はあ……、面倒くさいですね……」
気になってきたクロナは大きなため息をついてしまっている。
「お嬢様」
様子を見かねたブラナは、クロナに声をかけている。
「なんですか、ブラナ」
「こういう時こそ、今のお嬢様の力を活用すべきかと存じます」
「……私の力ですか」
ブラナに言われて、クロナは首を傾げてしまっている。聖女の力など、ここで役に立つのかと考えてしまったようなのだ。
「お嬢様、聖女の力ではありません」
「それでは、なんだと申されるのですか?」
クロナは疑問をブラナにぶつけている。
ブラナはその質問を受けて、真剣な表情をクロナに向ける。
そうかと思えば、自分の姿や、周りのスチールアントたちに視線を向け始める。
その姿を見て、クロナは何かに気が付いたようだ。
「そうですか。虫を眷属にする力ですか。……それがありましたね」
今さらながらに、クロナは自分の能力を思い出していた。
そう、クロナは自分の誕生日に、頭に触角が生えた時点から、虫との間で意思疎通ができるようになっていた。
現在いるイトナやスチールアント、外を警戒して回るキラーホーネットなども、触覚が生えたことによる影響によって眷属化した存在なのである。
「はい。小さな虫を使えば、誰にも気づかれることなく、王都の中の様子を探れると思うのです。それこそ、視界などの共有が行えればいいのでしょうが」
ブラナは提案しながらも、様子を知るための問題点も認識していた。
現在も直に報告をもらわなければ何も分からないのだから。なので、そこをどうにかしなければならないというわけである。
ところが、クロナは意外にもにこやかな表情を浮かべている。
「やってみる価値はあります。この近くに生息していて、そこそこの強さを持つ虫であるなら、小さくてもどうにかなるでしょう」
クロナは近くで働くスチールアントに問いかける。
「あなたたち、この辺りでよさそうな小さな虫はいますかね」
『はい、聖女様。それならばちょうどよさそうな虫がおります』
クロナの質問に対し、スチールアントはすんなりと答えを返していた。
ならば、すぐに連れてくるようにと、クロナはスチールアントたちに命令する。スチールアントたちは、すぐさま外へと向かって走り出した。
どうやらこれで、クロナが懸念することはひとつ解消できそうである。
だが、十三歳の誕生日を迎えるまで、下手に出歩くわけにはいかない。
クロナの引きこもり生活は、まだまだ続きそうなのである。
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