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#19 「今度こそ」

ー/ー



「でも、前回の時点で僕も原因の一つかも知れないって気付いていたのなら、どうしてその時に言ってくれなかったの?」


 うっかり言い忘れていたのではなく、故意に黙っていたのは明らかだ。


「実は……染井君を試していました。ループ阻止が失敗して4月1日に戻った途端、掌を返して私を突き放したり、自暴自棄になって他の人や物に八つ当たりしたり、絶望してループ阻止を諦めたりと、それまでとは全く態度を変えるようだったら、染井君は信頼できない人だと見做し、この話は黙っていようと決めていました」
「あっ……」


 今朝、日捲りカレンダーや家族にみっともなく八つ当たりしてしまったことを思い出し、改めて己を恥じずにはいられなかった。


 このループは、僕と吉野さん、二人の思いが引き起こしているという仮説が正解なら、互いの意志が統一しない限り終わらない。
 吉野さんが僕を見限ってループ終了を拒絶すれば、僕もこの永遠の円環(ゼロ)から抜け出せない。
 気まずい関係のまま互いに同じ毎日を永遠に繰り返すなど、居心地が悪いなどというレベルではない。


「ごめんなさい。染井君の善意や人柄を断りも無く試して、ループを続けてしまって……気分を悪くしたと思います」


 深々と頭を下げ、吉野さんが詫びた。


「い、いや、吉野さんの過去を思えば疑うのは仕方無いよ。前回の時点でまだ僕のことを信じ切れないと前置きしていたし、逆の立場なら僕も同じことをしたかも知れない。それに……こうして打ち明けてくれたってことは、僕は合格ってことでいいのかな?」
「はい、あなたの言葉と行動に嘘は無い。染井君は信頼できる人です」


 世の中は信頼で成り立っている。
 信頼が無ければ、友情も忠誠も団結も──そして恋愛も。
 どんな人間関係も、信頼を欠けば全て偽物(ウソ)だ。


「付き合いの長かったお友達と別れてしまった寂しさというものは、私には分かりません。そういう相手が居ませんでしたから……贅沢な悩みだと、羨ましさすら覚えます」
「そう、だね……」
「会ったばかりの私では、その人たちの代わりは務まらないかも知れませんが……」


 薬指を立てた左手が差し出された。
 前回のように。


「もう一度、約束してくれますか? 染井君の高校生活初めての……お友達にしてくれるって……」


 答は決まっている。
 ほんの前回答えたばかりだ。


「約束するよ。何があっても君を見捨てず味方で居ると。君がまた進めなくなった時は、背中を押してあげると」


 と言っても、進めなくしていたのは僕だった訳だが。


 右手で握手をしたまま、左手の小指を絡ませる。
 改めて、指切り成立だ。


「終わらせましょう、一緒に。この『エイプリル・ループ』を」
「そうだね。もういい加減、終わらせなくちゃね」




 吉野さんと別れ、僕は帰宅。


 自室に戻って拾い上げたのは、日捲りカレンダー。
 今朝払い除けてから、ずっと床に転がったままになっていた。


「今度こそ……」


 僕が行くべき場所、進むべき未来を示す日付に整えて、机の上へ置いた。


 そこで彼女が待っている。


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「でも、前回の時点で僕も原因の一つかも知れないって気付いていたのなら、どうしてその時に言ってくれなかったの?」
 うっかり言い忘れていたのではなく、故意に黙っていたのは明らかだ。
「実は……染井君を試していました。ループ阻止が失敗して4月1日に戻った途端、掌を返して私を突き放したり、自暴自棄になって他の人や物に八つ当たりしたり、絶望してループ阻止を諦めたりと、それまでとは全く態度を変えるようだったら、染井君は信頼できない人だと見做し、この話は黙っていようと決めていました」
「あっ……」
 今朝、日捲りカレンダーや家族にみっともなく八つ当たりしてしまったことを思い出し、改めて己を恥じずにはいられなかった。
 このループは、僕と吉野さん、二人の思いが引き起こしているという仮説が正解なら、互いの意志が統一しない限り終わらない。
 吉野さんが僕を見限ってループ終了を拒絶すれば、僕もこの永遠の|円環《ゼロ》から抜け出せない。
 気まずい関係のまま互いに同じ毎日を永遠に繰り返すなど、居心地が悪いなどというレベルではない。
「ごめんなさい。染井君の善意や人柄を断りも無く試して、ループを続けてしまって……気分を悪くしたと思います」
 深々と頭を下げ、吉野さんが詫びた。
「い、いや、吉野さんの過去を思えば疑うのは仕方無いよ。前回の時点でまだ僕のことを信じ切れないと前置きしていたし、逆の立場なら僕も同じことをしたかも知れない。それに……こうして打ち明けてくれたってことは、僕は合格ってことでいいのかな?」
「はい、あなたの言葉と行動に嘘は無い。染井君は信頼できる人です」
 世の中は信頼で成り立っている。
 信頼が無ければ、友情も忠誠も団結も──そして恋愛も。
 どんな人間関係も、信頼を欠けば全て|偽物《ウソ》だ。
「付き合いの長かったお友達と別れてしまった寂しさというものは、私には分かりません。そういう相手が居ませんでしたから……贅沢な悩みだと、羨ましさすら覚えます」
「そう、だね……」
「会ったばかりの私では、その人たちの代わりは務まらないかも知れませんが……」
 薬指を立てた左手が差し出された。
 前回のように。
「もう一度、約束してくれますか? 染井君の高校生活初めての……お友達にしてくれるって……」
 答は決まっている。
 ほんの前回答えたばかりだ。
「約束するよ。何があっても君を見捨てず味方で居ると。君がまた進めなくなった時は、背中を押してあげると」
 と言っても、進めなくしていたのは僕だった訳だが。
 右手で握手をしたまま、左手の小指を絡ませる。
 改めて、指切り成立だ。
「終わらせましょう、一緒に。この『エイプリル・ループ』を」
「そうだね。もういい加減、終わらせなくちゃね」
 吉野さんと別れ、僕は帰宅。
 自室に戻って拾い上げたのは、日捲りカレンダー。
 今朝払い除けてから、ずっと床に転がったままになっていた。
「今度こそ……」
 僕が行くべき場所、進むべき未来を示す日付に整えて、机の上へ置いた。
 そこで彼女が待っている。