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ep.91 アリシア・フェルメールという男

ー/ー



「初めまして。ハンターズカフェへ。その戸惑った様子だと、君たちはここを利用するのは初めて、ということで合っているかね」

 目線を声のするほうに向けると、目元が隠れる仮面をつけた一人の男が立っていた。
 長髪のブロンドヘアーを後ろで束ねた、いわゆるローポニーという髪型だろうか。服装は口元が隠れるオレンジのスタンドカラージャケット、ボトムは細身の深い青のスキニーパンツが似合う細身の男性だった。
 立って見下ろしている形だからというのもあるが、視線こそ分からないものの、口角の上がった口元を見るからにキザそうな印象を受けた。

「初めまして。その、店員の方、ではないですよね?」

「ああ、私はアリシア。アリシア・フェルメール。ここの常連客だ。その出会いは君たちの損になることはない。ああ、名前と顔は忘れないでくれたまえ」

「アリシアというと、あのトレジャーハンターのアリシア様、ということでしょうか」

 アリシア・フェルメール。その名前にクラマは聞き覚えがあった。
 政府公認のトレジャーハンターがいると聞いたことがある。国から認められて活動をしているトレジャーハンターのことだ。
 通常、出所が不明の宝石などを発見、発掘した場合。民法第二四一条に基づいて、発掘した財宝などは遺失物扱いとなるため報告の義務が発生する。
 この法律には所有者の権利や、発見した場所の土地主との折半などが関わってくるが、政府に認められたトレジャーハンターは特例が適用されるのだ。
 つまり、国が依頼をして動いているといってもいい。そのため公認のトレジャーハンターの仕事は、財宝の収集の他にも未解明の土地の開拓、魔獣(マインドイーター)の生態の調査なども併せて行われることが多い。
 中にはそれらの立場を利用して悪事を働く者もいるという話だが、それはどんな仕事にもいえることだろう。

「そう、私の名前はアリシアだよ。アリシア・フェルメールという名前だ。政府公認のトレジャーハンターなのだよ」

「ああうん、それは分かったって。何回も言わなくてもちゃんと覚えたよ。僕も名前ぐらいは聞いたことがあるよ。顔も……いや、なんで顔を隠しているの? やっぱ変装とか?」

 名前をこれでもかと連呼してくる男。しかし、顔が世間に晒されるのが嫌なのか、表情を悟られない為なのか、目元は仮面で隠している。

「ああ、変装なのだよ。私くらい有名になるとやっかみで絡まれることも多くてな。こうして顔を隠しておかないと後ろから刺されかねないのだよ」

 男の言うことは矛盾していた。顔を隠すなら名前も隠さなければ意味がないのではないだろうか。
 それに今回はあちらから声をかけてきたのだ。まるでこの仮面を被った男がアリシア・フェルメールだとでも言わんばかりに。

「けど、おかしいですね。アリシア様のお姿はSNSで一度拝見したことがありますが、たしか女性だった気がします。アリシアという名前も女性名詞ですし」

「ああ、未登録の遺跡を発見したって話でしょ。僕もそれなら見たことあるよ。一時期話題になってたもんね。遠目だったけどあの時君の姿も見たんだよね。君みたいにスラっとした感じじゃなくて、もっとぽっちゃりしてた気もするよ」

 ばつの悪そうな顔をする男。分かりやすく視線が泳ぐ。仮面で表情は分からないものの、頬を滴る一筋の汗が動揺を物語っていた。

「そ、それは前の話だろう! ダイエットをしたのだよ! だらしない体では調査にも支障をきたすのでね。絞りに絞った、というわけなのだよ! ほら、見たまえ、この引き締まった筋肉を!」

 そう言ってジャケットをまくり上げ、六つに分かれた見事なシックスパックを披露する。男は細マッチョだった。だから何だという話なのだが。
 もう男が自身の素性を偽っているのは誰からの目でみても明らかだった。しかし、往生際の悪い男はそれでもバレバレの嘘を貫き通そうとする。

「ねえ アリシアお兄さん! ちゅうもん いい? シャルル ピーチジュースが のみたい!」

「は? う、うん。私はここのスタッフではないが。仕方ない、おチビちゃん。この優しいアリシア・フェルメールが注文をしてあげよう」

 そう言うと、慣れた手つきでタッチパネルを操作してピーチジュースの注文を終える。

「ついでだ、君たちが飲みたいジュースも注文してあげようではないか。どうだ、ここは何でもあるぞ。オレンジジュース、リンゴジュース、キウイジュース。なんでもだ! 言ってみるとよい」

 何でジュース限定なのだろうか。と突っ込みたくなる二人だったが、外で待っている千寿流のことを考えると、ここで食事をするというのは気が引けた。
 かといって席に座って何も注文をしないというのも良くないだろう。仕方なく男の言うとおり何か注文することにする。

「炭酸ある? 僕はメロンソーダで」

「わ、私は、そうですね。オレンジジュースでよろしくお願いします」

 任せておきたまえよ、と得意げに胸を張ると二人のオーダーをとる。なんでジュースを注文しただけでそこまで誇れるのか。

「それで本題だ。君たちは何か情報求めてここにやってきたのだろう。ここは十四歳未満は入店を禁止されているハンターズカフェ。その少女、どう見ても十四歳以上には見えない。訳有りということだね」

 男は勝手に椅子に座り、こう言った。

「この男を知らないか?」と――


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「初めまして。ハンターズカフェへ。その戸惑った様子だと、君たちはここを利用するのは初めて、ということで合っているかね」
 目線を声のするほうに向けると、目元が隠れる仮面をつけた一人の男が立っていた。
 長髪のブロンドヘアーを後ろで束ねた、いわゆるローポニーという髪型だろうか。服装は口元が隠れるオレンジのスタンドカラージャケット、ボトムは細身の深い青のスキニーパンツが似合う細身の男性だった。
 立って見下ろしている形だからというのもあるが、視線こそ分からないものの、口角の上がった口元を見るからにキザそうな印象を受けた。
「初めまして。その、店員の方、ではないですよね?」
「ああ、私はアリシア。アリシア・フェルメール。ここの常連客だ。その出会いは君たちの損になることはない。ああ、名前と顔は忘れないでくれたまえ」
「アリシアというと、あのトレジャーハンターのアリシア様、ということでしょうか」
 アリシア・フェルメール。その名前にクラマは聞き覚えがあった。
 政府公認のトレジャーハンターがいると聞いたことがある。国から認められて活動をしているトレジャーハンターのことだ。
 通常、出所が不明の宝石などを発見、発掘した場合。民法第二四一条に基づいて、発掘した財宝などは遺失物扱いとなるため報告の義務が発生する。
 この法律には所有者の権利や、発見した場所の土地主との折半などが関わってくるが、政府に認められたトレジャーハンターは特例が適用されるのだ。
 つまり、国が依頼をして動いているといってもいい。そのため公認のトレジャーハンターの仕事は、財宝の収集の他にも未解明の土地の開拓、|魔獣《マインドイーター》の生態の調査なども併せて行われることが多い。
 中にはそれらの立場を利用して悪事を働く者もいるという話だが、それはどんな仕事にもいえることだろう。
「そう、私の名前はアリシアだよ。アリシア・フェルメールという名前だ。政府公認のトレジャーハンターなのだよ」
「ああうん、それは分かったって。何回も言わなくてもちゃんと覚えたよ。僕も名前ぐらいは聞いたことがあるよ。顔も……いや、なんで顔を隠しているの? やっぱ変装とか?」
 名前をこれでもかと連呼してくる男。しかし、顔が世間に晒されるのが嫌なのか、表情を悟られない為なのか、目元は仮面で隠している。
「ああ、変装なのだよ。私くらい有名になるとやっかみで絡まれることも多くてな。こうして顔を隠しておかないと後ろから刺されかねないのだよ」
 男の言うことは矛盾していた。顔を隠すなら名前も隠さなければ意味がないのではないだろうか。
 それに今回はあちらから声をかけてきたのだ。まるでこの仮面を被った男がアリシア・フェルメールだとでも言わんばかりに。
「けど、おかしいですね。アリシア様のお姿はSNSで一度拝見したことがありますが、たしか女性だった気がします。アリシアという名前も女性名詞ですし」
「ああ、未登録の遺跡を発見したって話でしょ。僕もそれなら見たことあるよ。一時期話題になってたもんね。遠目だったけどあの時君の姿も見たんだよね。君みたいにスラっとした感じじゃなくて、もっとぽっちゃりしてた気もするよ」
 ばつの悪そうな顔をする男。分かりやすく視線が泳ぐ。仮面で表情は分からないものの、頬を滴る一筋の汗が動揺を物語っていた。
「そ、それは前の話だろう! ダイエットをしたのだよ! だらしない体では調査にも支障をきたすのでね。絞りに絞った、というわけなのだよ! ほら、見たまえ、この引き締まった筋肉を!」
 そう言ってジャケットをまくり上げ、六つに分かれた見事なシックスパックを披露する。男は細マッチョだった。だから何だという話なのだが。
 もう男が自身の素性を偽っているのは誰からの目でみても明らかだった。しかし、往生際の悪い男はそれでもバレバレの嘘を貫き通そうとする。
「ねえ アリシアお兄さん! ちゅうもん いい? シャルル ピーチジュースが のみたい!」
「は? う、うん。私はここのスタッフではないが。仕方ない、おチビちゃん。この優しいアリシア・フェルメールが注文をしてあげよう」
 そう言うと、慣れた手つきでタッチパネルを操作してピーチジュースの注文を終える。
「ついでだ、君たちが飲みたいジュースも注文してあげようではないか。どうだ、ここは何でもあるぞ。オレンジジュース、リンゴジュース、キウイジュース。なんでもだ! 言ってみるとよい」
 何でジュース限定なのだろうか。と突っ込みたくなる二人だったが、外で待っている千寿流のことを考えると、ここで食事をするというのは気が引けた。
 かといって席に座って何も注文をしないというのも良くないだろう。仕方なく男の言うとおり何か注文することにする。
「炭酸ある? 僕はメロンソーダで」
「わ、私は、そうですね。オレンジジュースでよろしくお願いします」
 任せておきたまえよ、と得意げに胸を張ると二人のオーダーをとる。なんでジュースを注文しただけでそこまで誇れるのか。
「それで本題だ。君たちは何か情報求めてここにやってきたのだろう。ここは十四歳未満は入店を禁止されているハンターズカフェ。その少女、どう見ても十四歳以上には見えない。訳有りということだね」
 男は勝手に椅子に座り、こう言った。
「この男を知らないか?」と――