第70話 痛み分けの決着
ー/ー「うわぁっ!」
少年の魔族が、魔力の塊に飲み込まれる。
しばらくして、その飛んできた方へと視線を向ける。そこには、ブラナにとって懐かしい人物の姿があった。
「旦那様……?」
「魔族がっ! これ以上、俺の領地で好き勝手はさせんぞ!」
そう、そこにいたのはコークロッチヌス子爵だった。
「ちぃっ! お早いお着きでーすねーっ!」
クラウンはブチブチと糸を切り刻み、ようやくブラナの拘束から脱出していた。
「あっ!」
ぼーっとしている間に脱出されてしまったことで、ブラナはつい声をあげてしまう。
「さーすがにー、ユーと子爵を同ー時に相手すーるのはー、分ーが悪いというもーのでーす! こーこはー、いーちど下がーるのですー」
クラウンはそう言うと、ぴょんと後方へと飛び退いていく。
「待ちなさい!」
追いかけようとするブラナだが、コークロッチヌス子爵も近付いてきている状況では、下手に追うことができなかった。なぜなら、油断をすれば自分の方がコークロッチヌス子爵によってやられてしまうからだ。
「ミーはクラウンと申しまーす。ユーの名前をー、教えていただけまーすかー?」
「お前のような道化に名乗る名前はない! 今日のところは見逃してあげますから、さっさと目の前から失せなさい!」
「ひゃーっひゃっひゃ! 手ー厳しいでーすねーっ!」
ブラナの名前を聞き損ねたクラウンは、実に悲しそうに笑っている。
その時のクラウンの表情には、ブラナは寒気を感じてしまう。
「まーたお会ーいしましょう、勇敢なーメーイドさーん」
クラウンはそう言うと、ボフンという音ともにその場から姿を消してしまった。
取り逃がしてしまったことを悔しがるブラナだが、自分も早く退却しないと命の危険がある。
「旦那様、領地はお守りいたしました。ですが、私はまだ死ぬわけにはまいりません。必ずや、お嬢様と和解できると信じております」
ブラナは視線をコークロッチヌス子爵から外したまま叫ぶと、アサシンスパイダーの能力を使ってその場からさっさと立ち去って行ってしまった。
「逃すか!」
コークロッチヌス子爵がブラナに対して攻撃を放つも、アサシンスパイダーの能力で精一杯の速度で逃げるブラナを捉えることはできなかった。
結果、剣から放たれた風圧で何本かの木々がなぎ倒されていっただけだった。
「くそっ、魔族を全部逃してしまうとはな!」
コークロッチヌス子爵は、ブラナとクラウンを逃したことをとても悔しがっているようだ。
「子爵様!」
「なんだ」
「魔族を一匹だけ仕留めたようです。いかが致しましょうか」
同行していた兵士が、その場でこと切れた魔族を見つけ、コークロッチヌス子爵へと意見を仰いでいる。
「ふん。領地で好き勝手に暴れてくれた輩だ。領地の民からよく見える場所で好きなようにいたぶってやれ」
「はっ!」
魔族を二体逃してしまったことが悔しいのか、コークロッチヌス子爵は冷たい声で部下に命じていた。その目には、人としての温かさが微塵も感じられないほどの厳しさが宿っている。
部下が魔族の死体の後始末をしに行くと、コークロッチヌス子爵はその場に転がっている魔族との戦いで犠牲になった兵士たちの姿を確認している。
「なんということだ。我が領の兵士がこれほどまでに犠牲になるとはな……」
領地を守るために命を散らした兵士たちを見て、コークロッチヌス子爵はなんともいえない気持ちになってくる。
「残った者で手分けして、この者たちを領地の墓地に運んでくれ。丁重に葬ってやらねばな」
「はっ!」
コークロッチヌス子爵の命令で、同行してきた兵士の手によって、魔族との戦いで命を落とした兵士たちは領主邸へと運ばれていく。
砕かれた鎧の跡などを見る限り、どのような戦いを仕掛けられたのかがよく分かる。コークロッチヌス子爵はなんともいたたまれない気持ちになってしまう。
無事に兵士たちを全員回収することができたコークロッチヌス子爵は、自身も屋敷へと引き揚げていった。
魔族と戦った兵士たちから聞き取りをしたコークロッチヌス子爵は、驚いた表情を見せていた。
「そんなわけがあるはずない!」
声を荒げるくらいの驚きだった。
「いえ、そうは申されましても……。あの下半身がクモの魔族が注意を逸らしてくれなければ、今頃我々はもっと壊滅状態になっておりました」
「魔族が、我々に手を貸してきたというのか?」
「結果的には、そうなるかと……」
兵士たちの証言に、コークロッチヌス子爵は黙り込んでしまう。
魔族同士で戦いを始め、領地を守ってくれたなど、誰が信用できるというのだろうか。コークロッチヌス子爵が唸り出すのも無理ないという話だ。
「魔族同士による、縄張り争いでもあったのだろう。結果として運がよかったのかもしれないな」
「そう、なるでしょうかね」
納得はいかないものの、コークロッチヌス子爵たちはそのように結論付けて無理やり納得させるしかなかった。
魔族が人間のために手を貸すなど、普通に考えると絶対にありえない話なのだから。
だが、結果として、魔族同士が戦ってくれたことでコークロッチヌス子爵領は守られたのだ。その事実だけは受け入れるしかなかった。
「とりあえず、被害状況をはっきりとさせて、対応策を講じることとしよう」
「はっ! では、すぐにでも調査に向かいます」
コークロッチヌス子爵の命令に、部下はすぐさま屋敷を飛び出していった。
一人になったコークロッチヌス子爵は、大きなため息をついてしまうのだった。
少年の魔族が、魔力の塊に飲み込まれる。
しばらくして、その飛んできた方へと視線を向ける。そこには、ブラナにとって懐かしい人物の姿があった。
「旦那様……?」
「魔族がっ! これ以上、俺の領地で好き勝手はさせんぞ!」
そう、そこにいたのはコークロッチヌス子爵だった。
「ちぃっ! お早いお着きでーすねーっ!」
クラウンはブチブチと糸を切り刻み、ようやくブラナの拘束から脱出していた。
「あっ!」
ぼーっとしている間に脱出されてしまったことで、ブラナはつい声をあげてしまう。
「さーすがにー、ユーと子爵を同ー時に相手すーるのはー、分ーが悪いというもーのでーす! こーこはー、いーちど下がーるのですー」
クラウンはそう言うと、ぴょんと後方へと飛び退いていく。
「待ちなさい!」
追いかけようとするブラナだが、コークロッチヌス子爵も近付いてきている状況では、下手に追うことができなかった。なぜなら、油断をすれば自分の方がコークロッチヌス子爵によってやられてしまうからだ。
「ミーはクラウンと申しまーす。ユーの名前をー、教えていただけまーすかー?」
「お前のような道化に名乗る名前はない! 今日のところは見逃してあげますから、さっさと目の前から失せなさい!」
「ひゃーっひゃっひゃ! 手ー厳しいでーすねーっ!」
ブラナの名前を聞き損ねたクラウンは、実に悲しそうに笑っている。
その時のクラウンの表情には、ブラナは寒気を感じてしまう。
「まーたお会ーいしましょう、勇敢なーメーイドさーん」
クラウンはそう言うと、ボフンという音ともにその場から姿を消してしまった。
取り逃がしてしまったことを悔しがるブラナだが、自分も早く退却しないと命の危険がある。
「旦那様、領地はお守りいたしました。ですが、私はまだ死ぬわけにはまいりません。必ずや、お嬢様と和解できると信じております」
ブラナは視線をコークロッチヌス子爵から外したまま叫ぶと、アサシンスパイダーの能力を使ってその場からさっさと立ち去って行ってしまった。
「逃すか!」
コークロッチヌス子爵がブラナに対して攻撃を放つも、アサシンスパイダーの能力で精一杯の速度で逃げるブラナを捉えることはできなかった。
結果、剣から放たれた風圧で何本かの木々がなぎ倒されていっただけだった。
「くそっ、魔族を全部逃してしまうとはな!」
コークロッチヌス子爵は、ブラナとクラウンを逃したことをとても悔しがっているようだ。
「子爵様!」
「なんだ」
「魔族を一匹だけ仕留めたようです。いかが致しましょうか」
同行していた兵士が、その場でこと切れた魔族を見つけ、コークロッチヌス子爵へと意見を仰いでいる。
「ふん。領地で好き勝手に暴れてくれた輩だ。領地の民からよく見える場所で好きなようにいたぶってやれ」
「はっ!」
魔族を二体逃してしまったことが悔しいのか、コークロッチヌス子爵は冷たい声で部下に命じていた。その目には、人としての温かさが微塵も感じられないほどの厳しさが宿っている。
部下が魔族の死体の後始末をしに行くと、コークロッチヌス子爵はその場に転がっている魔族との戦いで犠牲になった兵士たちの姿を確認している。
「なんということだ。我が領の兵士がこれほどまでに犠牲になるとはな……」
領地を守るために命を散らした兵士たちを見て、コークロッチヌス子爵はなんともいえない気持ちになってくる。
「残った者で手分けして、この者たちを領地の墓地に運んでくれ。丁重に葬ってやらねばな」
「はっ!」
コークロッチヌス子爵の命令で、同行してきた兵士の手によって、魔族との戦いで命を落とした兵士たちは領主邸へと運ばれていく。
砕かれた鎧の跡などを見る限り、どのような戦いを仕掛けられたのかがよく分かる。コークロッチヌス子爵はなんともいたたまれない気持ちになってしまう。
無事に兵士たちを全員回収することができたコークロッチヌス子爵は、自身も屋敷へと引き揚げていった。
魔族と戦った兵士たちから聞き取りをしたコークロッチヌス子爵は、驚いた表情を見せていた。
「そんなわけがあるはずない!」
声を荒げるくらいの驚きだった。
「いえ、そうは申されましても……。あの下半身がクモの魔族が注意を逸らしてくれなければ、今頃我々はもっと壊滅状態になっておりました」
「魔族が、我々に手を貸してきたというのか?」
「結果的には、そうなるかと……」
兵士たちの証言に、コークロッチヌス子爵は黙り込んでしまう。
魔族同士で戦いを始め、領地を守ってくれたなど、誰が信用できるというのだろうか。コークロッチヌス子爵が唸り出すのも無理ないという話だ。
「魔族同士による、縄張り争いでもあったのだろう。結果として運がよかったのかもしれないな」
「そう、なるでしょうかね」
納得はいかないものの、コークロッチヌス子爵たちはそのように結論付けて無理やり納得させるしかなかった。
魔族が人間のために手を貸すなど、普通に考えると絶対にありえない話なのだから。
だが、結果として、魔族同士が戦ってくれたことでコークロッチヌス子爵領は守られたのだ。その事実だけは受け入れるしかなかった。
「とりあえず、被害状況をはっきりとさせて、対応策を講じることとしよう」
「はっ! では、すぐにでも調査に向かいます」
コークロッチヌス子爵の命令に、部下はすぐさま屋敷を飛び出していった。
一人になったコークロッチヌス子爵は、大きなため息をついてしまうのだった。
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