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第1話 カミサマはいるの?

ー/ー



 1999年某日────後に【Y2Kミレニアム合衆國事変】と、ごく一部ではその日を【お姉妹の血祭りの日】と呼ばれることとなる大事件が現在発生していた。

「カミサマはイタンだよ! ママの言った通りだったんだよーっ!!」

 一方は長く伸ばされウェーブする熱狂と破滅、もう片方は短く切り揃った愛と無垢と、左右で髪の色味と長さが異なっている。
 街中を歩く彼女の足元に転がっている数々の肉塊は、つい数分前までは人間だったものだ。

 キュポンッ

 背中に背負う、大(たい)それた圧縮空気砲。
 そのカウンターの数値は人を殺める度に跳ね上がり、殺めた数に応じて幼女の顔に──微小の亀裂が(はし)った。
 頬にある亀裂は生命(いのち)の数に比例して成長し、()った魂にある負の感情を倍増させ、新たな狂気へと昇華させる。

「あの日、ママはカミサマはいるって、言ったよね。ニナニナ、悪い子だから、カミサマなんていないって、ずっとそう思ってたの。でもね、ママ。ニナニナ、クーちゃんと会えたっ!! だいすきなクーちゃんと会えたのっ! ママ。ニナニナ、今すっごーーーーく、幸せだよ──っ!!」

 ベチャッ、ベチョッ──!!

 興奮で血への渇望が抑え切れず、千切れかけの肉塊を虚空にこれでもかと振り回し、勢い余って壁へと投げつけてしまう。

 キュポンッ

 亀裂が容赦なくまた頬を裂いた。
 返り血を浴びた彼女の笑顔は、あの頃と何も変わらない無垢な太陽だった。
 しかし、その髪色を言葉で表現するにはあまりにも不気味で、口に出すことすらも(はばから)れる空気が漂っていた。

 ふと、視界の端を十字架のヘアピンで留めた長い髪が風により(なび)くと、彼女の古い記憶が呼び起こされる──

「ねぇ、ママァーーッ!!」

 トーストに厚くマーマレードを塗り、キッチンでフィッシュ・アンド・チップスの準備をしていた女性に、幼いニナニナが駆け寄る。
 窓の外にはどんよりとした灰色の空が広がり、遠くでビッグベンの鐘の音が、重く湿った空気を震わせていた。
「なあに、ニナニナ?」
 背中まで届く、柔らかなロングヘアを揺らす少女に、女性は手を止めて目線を合わせる。

「カミサマって、いるんでしょっ!?」

 ニナニナは、深い森の奥を思わせるメドグリーンの瞳をキラキラと輝かせ、ママを見上げた。
「えぇ、カミサマはいるわよ。私たちのことを、お空から見守っていてくれてるわ」
「本当に……?」
「本当よ。だからニナニナ。いい子にしていれば、いつか必ず大切な人にカミサマは会わせてくれるわ」

「……そっか。やっぱり、って……いるんだねっ!!」

 期待通りの返答が、少女の目をすうっと濁らせた。
「でもどうしたの? そんなこと突然聞いてきて──」
「ううん、聞いてみただけっ!」
 すぐさま貼り付けた満面の笑みに、彼女は「そっかー」と疑いもなく笑い、ニナニナのさらさらした髪をくしゃりと撫でる。

「えへへ〜っ」

(……なんだろうこの気持ち……ママに撫でられると……とてもふわふわする)
 その手のひらの温かさは、紅茶に溶ける角砂糖のように甘く、そして──酷く退屈だった。



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 1999年某日────後に【Y2Kミレニアム合衆國事変】と、ごく一部ではその日を【お姉妹の血祭りの日】と呼ばれることとなる大事件が現在発生していた。
「カミサマはイタンだよ! ママの言った通りだったんだよーっ!!」
 一方は長く伸ばされウェーブする熱狂と破滅、もう片方は短く切り揃った愛と無垢と、左右で髪の色味と長さが異なっている。
 街中を歩く彼女の足元に転がっている数々の肉塊は、つい数分前までは人間だったものだ。
 キュポンッ
 背中に背負う、大《たい》それた圧縮空気砲。
 そのカウンターの数値は人を殺める度に跳ね上がり、殺めた数に応じて幼女の顔に──微小の亀裂が奔《はし》った。
 頬にある亀裂は生命《いのち》の数に比例して成長し、《《すくい》》盗《と》った魂にある負の感情を倍増させ、新たな狂気へと昇華させる。
「あの日、ママはカミサマはいるって、言ったよね。ニナニナ、悪い子だから、カミサマなんていないって、ずっとそう思ってたの。でもね、ママ。ニナニナ、クーちゃんと会えたっ!! だいすきなクーちゃんと会えたのっ! ママ。ニナニナ、今すっごーーーーく、幸せだよ──っ!!」
 ベチャッ、ベチョッ──!!
 興奮で血への渇望が抑え切れず、千切れかけの肉塊を虚空にこれでもかと振り回し、勢い余って壁へと投げつけてしまう。
 キュポンッ
 亀裂が容赦なくまた頬を裂いた。
 返り血を浴びた彼女の笑顔は、あの頃と何も変わらない無垢な太陽だった。
 しかし、その髪色を言葉で表現するにはあまりにも不気味で、口に出すことすらも憚《はばから》れる空気が漂っていた。
 ふと、視界の端を十字架のヘアピンで留めた長い髪が風により靡《なび》くと、彼女の古い記憶が呼び起こされる──
「ねぇ、ママァーーッ!!」
 トーストに厚くマーマレードを塗り、キッチンでフィッシュ・アンド・チップスの準備をしていた女性に、幼いニナニナが駆け寄る。
 窓の外にはどんよりとした灰色の空が広がり、遠くでビッグベンの鐘の音が、重く湿った空気を震わせていた。
「なあに、ニナニナ?」
 背中まで届く、柔らかなロングヘアを揺らす少女に、女性は手を止めて目線を合わせる。
「カミサマって、いるんでしょっ!?」
 ニナニナは、深い森の奥を思わせるメドグリーンの瞳をキラキラと輝かせ、ママを見上げた。
「えぇ、カミサマはいるわよ。私たちのことを、お空から見守っていてくれてるわ」
「本当に……?」
「本当よ。だからニナニナ。いい子にしていれば、いつか必ず大切な人にカミサマは会わせてくれるわ」
「……そっか。やっぱり、《《カミサマ》》って……いるんだねっ!!」
 期待通りの返答が、少女の目をすうっと濁らせた。
「でもどうしたの? そんなこと突然聞いてきて──」
「ううん、聞いてみただけっ!」
 すぐさま貼り付けた満面の笑みに、彼女は「そっかー」と疑いもなく笑い、ニナニナのさらさらした髪をくしゃりと撫でる。
「えへへ〜っ」
(……なんだろうこの気持ち……ママに撫でられると……とてもふわふわする)
 その手のひらの温かさは、紅茶に溶ける角砂糖のように甘く、そして──酷く退屈だった。