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ep.70 地下水道

ー/ー



「どういうことっ!?」

 二人の声がシンクロする。
 先ほどは大丈夫、信じていると口にしたものの、心のどこかでは諦めていたクラマの安否が無事かもしれないと聞いて、身を乗り出さずにはいられなかった。

「ちょ、そんながっつかなくても、っと、おわ!?」

 二人に体重をかけられ、支えきれなくなった夜深はそのまま向こう側の地面に三人とも転がり込む形となってしまった。
 危ないなあ、と頭をさすりながら身を起こす夜深。別に意地悪をするつもりはなく、順を追って説明はしてくれるつもりだったようだ。

「えひひひ、ごめん、夜深ちゃん。痛くなかった?」

「ごめん キヨミお兄さん」

 夜深の不敵な笑みにはいつも助けられてきた。傍から見たら怪しいだけの近寄りがたい人なのかもしれない。けど、こうして一緒に時間を過ごして分かることもある。
 今回も何とかしてくれる。そんな期待感というか、信頼感を寄せていた。

 夜深が言うには地下にいるのは魔獣(マインドイーター)ではなくて人だと仮定できるという話だった。
 どういった経緯でこんな地下に潜り込んでいるのかは分からないが、人だと仮定した場合、マンホールに蓋がしていない点が解消される。その人物が出入りした痕跡となるからだ。
 もし地下が魔獣(マインドイーター)の巣窟になっているのであれば、これ見よがしに目立つ痕跡は残すことはない。
 仮にここで罠だと仮定する場合、人を襲う飛竜型の魔獣(マインドイーター)が飛び交うこんな場所で罠を構えることはないと考えた。
 罠は獲物が通る場所に仕掛けることで初めて機能する。こんな人の訪れることがない場所に仕掛けること自体が無意味なのだ。
 恐らくここを根城にしていた魔獣(マインドイーター)は何か目的があってこの場所を選んだ。
 けど、何らかのイレギュラーが介入してこの場にいられなくなった。もしくは既に魔獣(マインドイーター)側が消滅している可能性もある。
 だから、意思疎通ができる人間がいると仮定してスマホを投げ入れた、とのことだった。

「僕が打った文字は『上にいる飛竜はもういませんよ』これだけだ」

 これを見れば千寿流たちが敵対している魔獣(マインドイーター)ではないことの証明になる。
 もちろん、当てが外れて魔獣(マインドイーター)が住んでいるとなったとしても、それはそれで反対の意味としての証明になるだろう。

「さて、そろそろ頃合いかな。鬼が出るか蛇が出るか。どっちに転んだとしても面白いことになりそうだよね」

 そう言いながら夜深が腰を上げ、再びマンホールのもとに向かう。
 暫く時間を置いた。スマホの文面を確認するには十分だろう。

「お、面白くないよ! 夜深ちゃん、こういう時にふざけるとあたしも怒っちゃうんだからね!」

 そのあとを頬を膨らませた千寿流がついていく。
 三人横並びになり、警戒を強めたまま恐る恐る穴を覗き込む。
 先ほどの様に真っ赤な炎が吹き付けられることはなかった。
 少しの間様子を見てもう問題ないと確信すると、夜深は穴の縁に手を付けると小さく生えた植物を活性化させ、互いに編み込み合わせた草の梯子を作り上げる。

「よし、降りてみようか、僕が先に行くよ」

「うん! 気を付けてね、夜深ちゃん!」

 地上から見れば先が視えず真っ暗なこともあり、相当に深いと予想していたが、どうやら十メートル程度しかないようだった。

「いいよ、降りてきて、千寿流ちゃ――」

「――待って!」

 暗闇の底から響いたのは少女の声。この場に不釣り合いな幼さを残すその声は、夜深の声を遮る様に唐突に響いた。

「何人来んの? 嘘言ったら燃やす」

「あと二人。大丈夫だよ、二人とも君より幼い。それに君より弱い」

「そう。わかった、いいよ」

 少女は帽子のツバをつまみそう言った。
 帽子で顔を隠しているからわかりづらかったが、口元の幼さを見るに、まだ十四、五、六の中学生ぐらいの少女だった。

 少女の許しを得て地下水道の底に立った三人。
 下水道ゆえに相当の臭い覚悟してはいたが、誰かが住んでいたのだろうか、鼻の曲がる様な汚水の臭いはしなかった。

「うわ、本当にちっさいな。マジで嘘じゃなかったんだね」

 少女はどこともなく現れた怪しい男の言うことは、頷きながらも半信半疑だったようで、千寿流たちを確認すると口に手を当てて驚いた。

「酷いな、信じてくれてなかったの?」

「っは、こんな薄暗い穴ン中まで入ってくる人間の言葉なんか誰が信じるかっての。嘘だったらマジ燃やしてたしね」

 言葉に嘘偽りがなかったことを確認でき、ほんの少しだけ警戒を解いたのか少女が近寄ってくる。

 頭に被っているのは銀學(ぎんがく)と描かれたエンブレムが縫われた学生帽。ピンク色の髪を牛柄のリボンで二つに結った、腰辺りまで伸びた艶のあるロングヘア。少女には少し不釣り合いの大きめのジャケットを首元で結び肩に羽織っていた。

ep.70 地下水道

 そして目を引くのは頭のリボンと同じ牛柄のオーバーニーソックス。牛が好きなのだろうか。

遊馬(ゆま)来希(くれあ)。あたしの名前ね。遊馬でも来希でも好きに呼んで。ところで、後ろの子たちに少し訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」


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「どういうことっ!?」
 二人の声がシンクロする。
 先ほどは大丈夫、信じていると口にしたものの、心のどこかでは諦めていたクラマの安否が無事かもしれないと聞いて、身を乗り出さずにはいられなかった。
「ちょ、そんながっつかなくても、っと、おわ!?」
 二人に体重をかけられ、支えきれなくなった夜深はそのまま向こう側の地面に三人とも転がり込む形となってしまった。
 危ないなあ、と頭をさすりながら身を起こす夜深。別に意地悪をするつもりはなく、順を追って説明はしてくれるつもりだったようだ。
「えひひひ、ごめん、夜深ちゃん。痛くなかった?」
「ごめん キヨミお兄さん」
 夜深の不敵な笑みにはいつも助けられてきた。傍から見たら怪しいだけの近寄りがたい人なのかもしれない。けど、こうして一緒に時間を過ごして分かることもある。
 今回も何とかしてくれる。そんな期待感というか、信頼感を寄せていた。
 夜深が言うには地下にいるのは|魔獣《マインドイーター》ではなくて人だと仮定できるという話だった。
 どういった経緯でこんな地下に潜り込んでいるのかは分からないが、人だと仮定した場合、マンホールに蓋がしていない点が解消される。その人物が出入りした痕跡となるからだ。
 もし地下が|魔獣《マインドイーター》の巣窟になっているのであれば、これ見よがしに目立つ痕跡は残すことはない。
 仮にここで罠だと仮定する場合、人を襲う飛竜型の|魔獣《マインドイーター》が飛び交うこんな場所で罠を構えることはないと考えた。
 罠は獲物が通る場所に仕掛けることで初めて機能する。こんな人の訪れることがない場所に仕掛けること自体が無意味なのだ。
 恐らくここを根城にしていた|魔獣《マインドイーター》は何か目的があってこの場所を選んだ。
 けど、何らかのイレギュラーが介入してこの場にいられなくなった。もしくは既に|魔獣《マインドイーター》側が消滅している可能性もある。
 だから、意思疎通ができる人間がいると仮定してスマホを投げ入れた、とのことだった。
「僕が打った文字は『上にいる飛竜はもういませんよ』これだけだ」
 これを見れば千寿流たちが敵対している|魔獣《マインドイーター》ではないことの証明になる。
 もちろん、当てが外れて|魔獣《マインドイーター》が住んでいるとなったとしても、それはそれで反対の意味としての証明になるだろう。
「さて、そろそろ頃合いかな。鬼が出るか蛇が出るか。どっちに転んだとしても面白いことになりそうだよね」
 そう言いながら夜深が腰を上げ、再びマンホールのもとに向かう。
 暫く時間を置いた。スマホの文面を確認するには十分だろう。
「お、面白くないよ! 夜深ちゃん、こういう時にふざけるとあたしも怒っちゃうんだからね!」
 そのあとを頬を膨らませた千寿流がついていく。
 三人横並びになり、警戒を強めたまま恐る恐る穴を覗き込む。
 先ほどの様に真っ赤な炎が吹き付けられることはなかった。
 少しの間様子を見てもう問題ないと確信すると、夜深は穴の縁に手を付けると小さく生えた植物を活性化させ、互いに編み込み合わせた草の梯子を作り上げる。
「よし、降りてみようか、僕が先に行くよ」
「うん! 気を付けてね、夜深ちゃん!」
 地上から見れば先が視えず真っ暗なこともあり、相当に深いと予想していたが、どうやら十メートル程度しかないようだった。
「いいよ、降りてきて、千寿流ちゃ――」
「――待って!」
 暗闇の底から響いたのは少女の声。この場に不釣り合いな幼さを残すその声は、夜深の声を遮る様に唐突に響いた。
「何人来んの? 嘘言ったら燃やす」
「あと二人。大丈夫だよ、二人とも君より幼い。それに君より弱い」
「そう。わかった、いいよ」
 少女は帽子のツバをつまみそう言った。
 帽子で顔を隠しているからわかりづらかったが、口元の幼さを見るに、まだ十四、五、六の中学生ぐらいの少女だった。
 少女の許しを得て地下水道の底に立った三人。
 下水道ゆえに相当の臭い覚悟してはいたが、誰かが住んでいたのだろうか、鼻の曲がる様な汚水の臭いはしなかった。
「うわ、本当にちっさいな。マジで嘘じゃなかったんだね」
 少女はどこともなく現れた怪しい男の言うことは、頷きながらも半信半疑だったようで、千寿流たちを確認すると口に手を当てて驚いた。
「酷いな、信じてくれてなかったの?」
「っは、こんな薄暗い穴ン中まで入ってくる人間の言葉なんか誰が信じるかっての。嘘だったらマジ燃やしてたしね」
 言葉に嘘偽りがなかったことを確認でき、ほんの少しだけ警戒を解いたのか少女が近寄ってくる。
 頭に被っているのは|銀學《ぎんがく》と描かれたエンブレムが縫われた学生帽。ピンク色の髪を牛柄のリボンで二つに結った、腰辺りまで伸びた艶のあるロングヘア。少女には少し不釣り合いの大きめのジャケットを首元で結び肩に羽織っていた。
 そして目を引くのは頭のリボンと同じ牛柄のオーバーニーソックス。牛が好きなのだろうか。
「|遊馬《ゆま》|来希《くれあ》。あたしの名前ね。遊馬でも来希でも好きに呼んで。ところで、後ろの子たちに少し訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」