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ep.68 覚悟を決めろ

ー/ー



「シャルルね むこうで あやしい あなを みつけたよ!」

 一行は度重なるハプニングで疲弊し気味の身体を、元気をつけるために簡単に作った軽食を済ました後、シャルが見つけたという穴がある場所まで来ていた。
 穴とは言っていたが、どちらかというと蓋のない大きめのマンホールといった感じで、地下に下るための梯子の真ん中の部分が雑に切断されており、出来損ないのすべり棒のようなものが二本、下に向かって伸びているだけだった。
 よく見ると、梯子には透明の液体のようなものが塗ってある。触るのを躊躇う様な真っ赤な液体だった。
 また、蓋の代わりに透明な液体を固めて作られたブロック塀のようなオブジェで覆われており、ご丁寧にもここからお入りくださいと言わんばかりに、入り口がくり貫かれている。
 人為的とも自然的ともいえないような、不自然すぎる光景が一行に疑念を抱かせていた。

「どうしよう、夜深ちゃん。これ、めちゃくちゃ怪しくない? この中にもしかしてクラマちゃんがいたりしないよね」

「……」

 夜深は黙ったまま顎に手を当てて考える仕草を取る。あからさまに異常な状況に、どういった可能性が考えられるかパターンをいくつか割り出してみる。
 暫くした後、重そうに口を開く。

「仮にこのマンホールの中にクラマちゃんがいると仮定した場合、おそらく生きている可能性は限りなく少ないと、僕は思う」

 目を伏せる千寿流。
 目をむき出しにして夜深に食って掛かるシャル。
 二者は全く別の反応を示したが、夜深の言葉にショックを隠せないのは明白だった。

「キヨミお兄さん! どうして そんなこというの!? クラマは! クラマは いきてるよ! しなない! ぜったいに しぬもんか! シャルルの いないところで しんじゃうなんて うぅううぅ」

 夜深は言葉を選ぶように探して、慎重に口を開く。

「もちろん、可能性は低いと言っただけだよ。何か予想外があれば状況はどうにでも覆るからね」

 何もかも滅ぼされた都市。周りには荒野が広がる。人は誰も住んでおらず、上空には飛竜が飛び交う。インフラが完全に途絶えた黒に染まった街。

「けれど、君たちは覚悟をしておいたほうがいい。この中に何が待っていたとしても、心が壊れてしまわないように、強く、自分を保っておいてほしいんだ」

 どれをとっても劣悪すぎる環境。普通に人が住んだのであれば一週間と経たず逃げ出したくなる環境だ。
 そして、地上へ上るための梯子が破壊されたマンホール。透明な液体で造られた不自然なオブジェ。
 シャルも馬鹿じゃない。クラマの行き先が分かり、怪しい場所を見つけて行方の手掛かりを掴んだ気でいた。けれど、こんな場所で生きていく事なんてできるわけがない。

 出口のないマンホール。きっと、この場所は人を捕らえておくための牢獄のような場所なのだ。
 そして、捕らえたものは十中八九魔獣(マインドイーター)に違いないだろう。魔獣(マインドイーター)が人々を捕らえる理由なんて一つしかない。捕食のためだ。
 千寿流もシャルも、夜深の表情から薄々と感じ取っていた。

「けどっ!」

 夜深とシャルの間を遮る様に千寿流が声を挟んだ。
 可能性で考えたくなかった。
 だって、それは今までの日々を否定することになるから。
 そもそも、可能性で考えるのであれば、この小さな冒険が始まったあの日から、クラマが生きている可能性なんて半分程度しかなかったはずだ。
 クラマはシャルに一言も告げずに姿を消した。あれだけクラマを慕っているシャルに一言も声をかけなかった。そもそも、これが異常事態なのだ。
 この世界でもスマホでの通話はできる。回線が通らない場所が圧倒的に増えたという点では使用する場所は限定されるが、通話だけでなく、メールやSNSも生きている。
 けれど、シャルのスマホには留守電はおろかメールの一通も届いていない。そして、クラマが姿を消してからもう二週間以上の時間が経過している。
 こうして羅列するだけでも異常な事ばかりだ。世間ではこれを失踪というのだろう。

「けどっ! ここまで来たんだよっ!」

「ちずる……」

 二人の視線が千寿流に向いた。

「あたし、これまでも怖い目にたくさん遭ってきたよね! 橋から落ちたときは本当に死ぬかと思った! けど、ここまでこれたんだよっ!? もしこれが運だっていうならそれでもいいよ! 運が良くて良いほうに向かっていけばあたしはそれでいい!」

 覚悟を決めろ。
 そう夜深ちゃんに言われた。

「良いほうに考えなきゃ、きっと良いことなんて起きないよ! あたしは弱虫だから、まだまだ嫌な事とか考えちゃう時もあるけど、クラマちゃんのことだけはそんなこと考えたくない!」

 いいよ、決めてやる。
 けど、それはクラマちゃんの死を受け入れる覚悟じゃない。

 クラマちゃんは無事だ。
 あたしは、あたしを信じる。


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「シャルルね むこうで あやしい あなを みつけたよ!」
 一行は度重なるハプニングで疲弊し気味の身体を、元気をつけるために簡単に作った軽食を済ました後、シャルが見つけたという穴がある場所まで来ていた。
 穴とは言っていたが、どちらかというと蓋のない大きめのマンホールといった感じで、地下に下るための梯子の真ん中の部分が雑に切断されており、出来損ないのすべり棒のようなものが二本、下に向かって伸びているだけだった。
 よく見ると、梯子には透明の液体のようなものが塗ってある。触るのを躊躇う様な真っ赤な液体だった。
 また、蓋の代わりに透明な液体を固めて作られたブロック塀のようなオブジェで覆われており、ご丁寧にもここからお入りくださいと言わんばかりに、入り口がくり貫かれている。
 人為的とも自然的ともいえないような、不自然すぎる光景が一行に疑念を抱かせていた。
「どうしよう、夜深ちゃん。これ、めちゃくちゃ怪しくない? この中にもしかしてクラマちゃんがいたりしないよね」
「……」
 夜深は黙ったまま顎に手を当てて考える仕草を取る。あからさまに異常な状況に、どういった可能性が考えられるかパターンをいくつか割り出してみる。
 暫くした後、重そうに口を開く。
「仮にこのマンホールの中にクラマちゃんがいると仮定した場合、おそらく生きている可能性は限りなく少ないと、僕は思う」
 目を伏せる千寿流。
 目をむき出しにして夜深に食って掛かるシャル。
 二者は全く別の反応を示したが、夜深の言葉にショックを隠せないのは明白だった。
「キヨミお兄さん! どうして そんなこというの!? クラマは! クラマは いきてるよ! しなない! ぜったいに しぬもんか! シャルルの いないところで しんじゃうなんて うぅううぅ」
 夜深は言葉を選ぶように探して、慎重に口を開く。
「もちろん、可能性は低いと言っただけだよ。何か予想外があれば状況はどうにでも覆るからね」
 何もかも滅ぼされた都市。周りには荒野が広がる。人は誰も住んでおらず、上空には飛竜が飛び交う。インフラが完全に途絶えた黒に染まった街。
「けれど、君たちは覚悟をしておいたほうがいい。この中に何が待っていたとしても、心が壊れてしまわないように、強く、自分を保っておいてほしいんだ」
 どれをとっても劣悪すぎる環境。普通に人が住んだのであれば一週間と経たず逃げ出したくなる環境だ。
 そして、地上へ上るための梯子が破壊されたマンホール。透明な液体で造られた不自然なオブジェ。
 シャルも馬鹿じゃない。クラマの行き先が分かり、怪しい場所を見つけて行方の手掛かりを掴んだ気でいた。けれど、こんな場所で生きていく事なんてできるわけがない。
 出口のないマンホール。きっと、この場所は人を捕らえておくための牢獄のような場所なのだ。
 そして、捕らえたものは十中八九|魔獣《マインドイーター》に違いないだろう。|魔獣《マインドイーター》が人々を捕らえる理由なんて一つしかない。捕食のためだ。
 千寿流もシャルも、夜深の表情から薄々と感じ取っていた。
「けどっ!」
 夜深とシャルの間を遮る様に千寿流が声を挟んだ。
 可能性で考えたくなかった。
 だって、それは今までの日々を否定することになるから。
 そもそも、可能性で考えるのであれば、この小さな冒険が始まったあの日から、クラマが生きている可能性なんて半分程度しかなかったはずだ。
 クラマはシャルに一言も告げずに姿を消した。あれだけクラマを慕っているシャルに一言も声をかけなかった。そもそも、これが異常事態なのだ。
 この世界でもスマホでの通話はできる。回線が通らない場所が圧倒的に増えたという点では使用する場所は限定されるが、通話だけでなく、メールやSNSも生きている。
 けれど、シャルのスマホには留守電はおろかメールの一通も届いていない。そして、クラマが姿を消してからもう二週間以上の時間が経過している。
 こうして羅列するだけでも異常な事ばかりだ。世間ではこれを失踪というのだろう。
「けどっ! ここまで来たんだよっ!」
「ちずる……」
 二人の視線が千寿流に向いた。
「あたし、これまでも怖い目にたくさん遭ってきたよね! 橋から落ちたときは本当に死ぬかと思った! けど、ここまでこれたんだよっ!? もしこれが運だっていうならそれでもいいよ! 運が良くて良いほうに向かっていけばあたしはそれでいい!」
 覚悟を決めろ。
 そう夜深ちゃんに言われた。
「良いほうに考えなきゃ、きっと良いことなんて起きないよ! あたしは弱虫だから、まだまだ嫌な事とか考えちゃう時もあるけど、クラマちゃんのことだけはそんなこと考えたくない!」
 いいよ、決めてやる。
 けど、それはクラマちゃんの死を受け入れる覚悟じゃない。
 クラマちゃんは無事だ。
 あたしは、あたしを信じる。