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禿

ー/ー



 3月も半ばを過ぎ、空気の暖かさを感じる様になったある日の事だった。

 いつもの学校、退屈な授業、クラスメートとの下らないが貴重なやり取り………そんな日常が崩れたのは、昼休みが終わり、いつもの面子と教室へ戻った時だった。


「おい、お前等大変だぞっ!」


 戻った俺達を見て早々、田嶋を掛けたフックが血相を変えて話し掛けてきた。


「なんジャ……?」
「どうしたんですか?田嶋君」
「どっちが喋ってんだ?お前はフックか?田嶋か?」

「田嶋だ!ボケェ!!」
「そうか、遂にフックを支配して “一つになった” んだな!おめでとう!!」
「アホかぁ〜〜〜〜!!!!!」

「横島さん、話を変な方向に持って行かないで下さい……」
「い、一体何があったんジャ?田嶋君」
「青春よ♪」


 んだよ、折角のお祝い(?)ムードに水を指しやがって……と言うか、ドサクサに紛れてボケるな愛子。


「ああ……そうだそうだ、職員室に悪霊が出たらしいんだよ!そいつが暴れて、今大変らしい!!」
「本当ですか!?」
「た、大変ジャー!!」
「青春………じゃないわね」
「頑張って来い……」


 職員室で暴れてるなら、教師は来ねぇな………丁度腹も膨れて眠くなってきたんだ。机で惰眠でも貪るか。


「はあっ!?こういう時こそ、除霊委員の出番だろ?」
「そうですよ、横島さん!こういう時にアピールすれば、彼等の横島さんはの好感度も上がりますよ」
「そうジャ!横島さんは特に先生達に嫌われているんジャ!!?」
「青春よ♪」
「うるせぇ!!俺を嫌ってる連中の為に貴重な霊力使って堪るか!大体お前らだって、前から「タダ働きは嫌だ」って言ってたろうに」


 どいつもこいつも(1人変なのが混じってるけど……)、口々に駄目出ししやがって………まぁ、教師達が俺を嫌ってるのは以前の俺の奇行が原因なんだけど。


「それは、そうジャけど……」
「でも、今すでに暴れてるんでしょ!?手遅れになるかもしれない」
「そうだ、そうだ!普段、不真面目なんだから、ここで働けよ!」
「青春よ♪」
「余計なお世話だ!!」


 こうなったら意地だ。

 誰が何と言おうと、絶対やらねぇぞ!


「とにかく、奴らの為に動くのは嫌だ!気になるならお前達だけで行って来い!」

「仕方ありません………タイガー行きましょう」
「了解ジャ……」
「青春の逆ね………」
「役立たず!!」
「ヲイ…………」




    ◇◇◇


 “キーン・コーン・カーン・コーン” 

 
「………………本当に置いてきやがった」
「当然じゃない。横島君、今からでも行かないと本当に退学になっちゃうよ」


 ガタッ


「解ったよ!行けば良いんだろ!!行けば!」


 少し乱暴に椅子を引いて立ち上がる!

 ったく、悪霊が出たのは俺のせいじゃねぇだろ…………




    ◇◇◇


 ピート達から数分遅れて職員室へ来た俺だったが、その頃には、廊下が騒ぎを聞き付けた教師や生徒達でごった返していた。


「おい、横島!どこ行ってたんだ?今、中は凄い騒ぎになってるぞ」
「今、さっき聞いて慌てて来たんですよ」


 野次馬の中にいた顔見知りの教師に文句を言われたが、それっぽい噓でやり過ごす。


 萩原に叱咤されて来たはいいけど、正直そんなに心配はしていない。

 怨霊は基本的に暗く、人の居ない空間を好む。そう言った状況で猛威を振るう……何かの拍子で昼の人の多い学校に出ることもあるけど、そんな怨霊なんてタカが知れてる。 

 それを物ともしない強力な怨霊も確かにいるけど、そんなのが出たならフックが来る前にとっくに気づく。

 要するに、そんな怨霊ピート達だけで十分って思ったわけだ。糞共が、どうにかなっちまえばいいと思ったのも本当だけど………


 でも、ここまで来たら一応見とかなきゃな。


「ちょっと失礼……」


 そう言いながら、教師や生徒達を掻き分けながら職員室の中へ入る。


 

「…………何か、面倒くさいことになってるな」


 それが騒ぎの現状を見た、俺の印象だった……

 倒された机や椅子、散乱する書類、割れた窓ガラス…………まぁ、これは怨霊、悪霊が騒いだ場所のあるある(・・・・)だ。もぅ、見慣れ過ぎて自然に思えてくる。

 ただ、問題なのはそれじゃなかった。
 

「ギャーーーーーーー!!!!!」
「落ち着いて下さい!校長!!」
「駄目ジャ。完全に乗り移られとる!」


 散乱する机の上に立って、奇声を上げるハゲ(校長)とそれを遠巻きに宥めようとする、ピートとステルス……

 なるほど……憑依されちまったのね。ハゲの目が完全にイッてる。フックは怨霊が暴れてるって言ってたけど、正確には怨霊に取り憑かれたハゲが暴れてたわけだ。

 奴から大した霊気は感じないけど、あのハゲを気にして2人は手が出せないんだ。でも……


「横島君……」
「ん?」


 声のした方を向くと倒れた古机が一つ…………愛子だな。ハゲに投げられたのか?

 そう思ってると、丁度上を向いていた引き出しから上半身だけ覗かせる。


「大丈夫か?」
「私は平気よ、周囲に溶け込めるようにワザと倒れたの」


 そこまでして、中に来る必要あるか?

 ……と言う突っ込みは、何故か野暮な気がしたので黙ってた。

 
「校長は、あの絵に取り憑いていた悪霊に乗り換えられちゃったみたいなのよ。他の先生が言ってたわ!」


 そう言う愛子の指した方を見ると、赤と黒を基調とした何とも不気味な絵が壁に飾ってある。


「何が、描いてあるんだ?アレ……」
「解らない……創立記念日ってことで昨日、贈答された物みたいだけど、あの不気味な絵が怨霊の温床になっちゃったのね」


 …………糞迷惑な話だな。

 でも、乗り換えられたってことは、あのハゲ “不気味な絵” 以上に怨霊から気に入られたってことか?それは、それでヤバいな。

 まぁ、今はそんな事より。


「何でピートは、ハゲを “祓って” やらないんだ?あいつの得意技だろ」


 師匠である神父から、そう言った技術はいくつか伝授されてるって聞いてる。

 怨霊の殲滅ばかりに特化してる俺達とは、物が違う(悲しい)筈だ。


「あなたが来る前に、何度かしてたわよ!でも、全く効かないの……多分、怨霊と校長の体質がベストマッチしちゃったんだわ」
「嫌なマッチだな…………」


 怨霊と相性ピッタリなんて、最悪だ。

 ……でも、決して他人事じゃない。俺達は、一般人より接する機会が多い分、余計出会う可能性が高いと思うと気が滅入るわ。


「卒業式がこの前あったばかりだし、忙しくて心労が溜まってたみたいよ………そこを “つけ込まれた” のかもしれないわ」


 …………確かに弱った人間を怨霊は好むけど……


「良く知ってるな」
「こんなの知ってて当たり前よ、女子の情報網を甘く見ないで欲しいわ」


 そんなもんかね……?

 変なところで胸を張る机妖怪に感心とも、呆れとも言えない微妙な感情を抱いてると愛子は更に口を開く。


「横島君の文珠で、校長を祓ってあげてよ。あなたの力なら出来るでしょ」
「出来るだろうけどねぇ……」


 1個は無理かもしれないが、2個の文珠に『御』『祓』と刻めば一発だろう…………


「何か問題があるの?」
「ハゲは、マジで俺を毛嫌いしてやがるからな……」


 元が自分のせいとは言え、あんな奴の為に貴重な文珠を使う事に、どうしても踏ん切りが付かない。いっそハゲの命ごと、除霊してやろうかなんて気さえしてくる……


「そんなこと、言ってる場合じゃないでしょ!」
「ん〜〜〜〜〜〜〜…………………………」


 駄目だ……愛子の言ってることが、正しいのは頭ではしっかり理解してるのに、心が頑なに “NO” と言って譲らない。

 だが、状況はそんな俺の深い(?)葛藤など、お構いなしに進んで行く。勿論、悪い方向に……


「聖なる父の名において、永遠の追放を、固く結ばれ__」
「ぎゃーーーーーー!!!」
「あっ、そっちに行ったんジャー!」


 ピートが何度目になるか解らない退魔呪文を唱えてる最中だった。

 今まで効かなかったとは言え、流石に何度も呪文を喰らうのは奴も嫌だったようだ。ハゲはピート達から逃げ出した。

 俺と愛子の方へ……


「えっ!?ちょっ、ヤダッ!!横島君、早く何とかしてよ!」
「ん〜〜〜……」


 全く踏ん切りが付かないけど、ハゲ止めなきゃ不味いよな?俺の後ろには、愛子や大勢の野次馬(見てねぇで、どっかいけよ……)が居るんだ。


「ぎゃーーー “ドバキッ!” ぶべらっっ……!」


 俺は、霊手を拳に固めてハゲ(顔面)を殴り飛ばした!愛子や皆を守る為だ(決してドサクサに紛れて、鬱憤を晴らしたわけじゃない)………


「キャーーッ!!何で殴るのっ!?文珠で祓ってよ!」
「いや……今、持ってないんだ」


 本当はあるけど、やっぱ使うの嫌だ…………これで、分離(寧ろ死なねぇかな?)してくんねぇかな?

 背中から床に勢い良くぶっ飛ぶハゲを見ながら、そう願うが…………


「ぐぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!」


 駄目だこりゃ……もっと強く殴りゃ良かったか?でも、あれ以上強くしたら死ぬしな(やるか?)。


 ガシッ!!


「ぎゃ!?」
「横島さん!!」


 そう思っていた矢先、ピートとステルスが両側からハゲを羽交い締めにした。ハゲは必死に2人を振り払わんとするが、ガッシリと固められて上手くいかない。

 通常怨霊に取り憑かれると、その人間は身体能力ギリギリまで引き出されるから、ただの一般人でも暴れられると押さえるのに苦労する。

 それでも、人間より遥かに高い身体能力を誇るヴァンパイア・ハーフと、身長2メートル越えで丸太のような腕を持つ獣人モドキの2人に掛かればどうにもならないようだ。ぶっちゃけ、片方だけでも十分な気がする……


「ワッシ等で押さえとるんジャ!」
「そうです、その間に横島さんは文珠を作って下さい!今、校長を救えるのはあなただけです!」
「そうよ!横島君、今のうちに!!」
「……………………」


 
 ………………馬鹿野郎〜〜〜!!
 
 

 こんなシチュにされたら、今更「本当はあるよ」なんて言えねぇだろうが!!! 





 ……………………でも、いいか。押さえてくれるなら、やり易い。


 意を決っした俺は、2人に押さえられたハゲにゆっくりと近づく。

 
「よ、横島さん……?」
「早く文珠を……」


 ハゲの前に立つと、戸惑う2人には構わず慎重に手を伸ばす。
 
 そして、見事なつるつる頭を両手でペタペタ撫で回しながら、ハゲの耳元でこう囁いた……


「少々髪が傷んでいるな……トリートメントは、しているか?手入れは十分した方がいい。冬場は、傷みやすいからなぁ………」
「「「…………………………………………」」」
 
 

※『GS美神』の “横島” ではなく、『幽遊白書』の “鴉” の声をイメージして脳内補完して下さい。知らない方はYouTubeで調べて下さい。


「よ、横島さん……」
「そりゃ、いくらなんでも……」
「トリートメント……」


 駄目か……?まぁ、無理なら文珠(いや、やっぱもっと強く殴るか?)でも…………
 
 
 
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
 “ぎゃ、ぎゃ……!?”



 プッククククク……♪♪ 効いた効いた♪


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁーーーーーーーーーー!!!!!」
 “ぎゃ〜〜〜…………”

 ハゲ(本人)の身を斬るような叫びによって、怨霊の支配が揺らぐ!
 

「オラァッ!!」


 ゴス!!


「ぐぇっ……!」
“ギギャッ!!?”
 

 そんな隙見逃すかよ、糞怨霊が!

 タイミング良く鳩尾に膝蹴りをブチ込んでやったら、簡単にハゲから出てきた。


「今だ、ピート!」
「ええっ!?あ、あ……はい!」


 パァーー!! バシュッ!
  

 ピートの方へ逃げていった怨霊は、そのまま奴の左手の放った閃光(ダンピール・フラッシュ)で簡単に消滅した。


 …………手こずらせやがって。

 低級霊なんて、憑依さえされなきゃこんなもんだ。


「終わったか……お手柄だな、ピート♪」
「い、いや……あの…………」
「校長……どうするんジャ?」


 改めてハゲを見る……眼鏡はぶっ飛び、鼻血ダボダボ、口から泡を吹いた上に痙攣してる。心なしか顔面も変形してるように見えるな。


「気の毒にな……これも全部悪霊のせいだ!」
「いや…………全部、あんたがやったんジャ……?」
「それより、心のダメージの方が心配です………横島さんウチの先生(神父)にはしないで下さいよ」
「大丈夫なの!?こんなことしちゃったら、横島君退学になっちゃうわよ!」


 ……う〜ん、流石にやり過ぎたか?まぁ、結構楽しかったしいいか。

 俺はポッケから、文珠を一つ取り出す。


「治しといてやるか♪」
「「「って、あるんかい!!?」」」


 …………学校は、今日も平和だ。

 


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 3月も半ばを過ぎ、空気の暖かさを感じる様になったある日の事だった。
 いつもの学校、退屈な授業、クラスメートとの下らないが貴重なやり取り………そんな日常が崩れたのは、昼休みが終わり、いつもの面子と教室へ戻った時だった。
「おい、お前等大変だぞっ!」
 戻った俺達を見て早々、田嶋を掛けたフックが血相を変えて話し掛けてきた。
「なんジャ……?」
「どうしたんですか?田嶋君」
「どっちが喋ってんだ?お前はフックか?田嶋か?」
「田嶋だ!ボケェ!!」
「そうか、遂にフックを支配して “一つになった” んだな!おめでとう!!」
「アホかぁ〜〜〜〜!!!!!」
「横島さん、話を変な方向に持って行かないで下さい……」
「い、一体何があったんジャ?田嶋君」
「青春よ♪」
 んだよ、折角のお祝い(?)ムードに水を指しやがって……と言うか、ドサクサに紛れてボケるな愛子。
「ああ……そうだそうだ、職員室に悪霊が出たらしいんだよ!そいつが暴れて、今大変らしい!!」
「本当ですか!?」
「た、大変ジャー!!」
「青春………じゃないわね」
「頑張って来い……」
 職員室で暴れてるなら、教師は来ねぇな………丁度腹も膨れて眠くなってきたんだ。机で惰眠でも貪るか。
「はあっ!?こういう時こそ、除霊委員の出番だろ?」
「そうですよ、横島さん!こういう時にアピールすれば、彼等の横島さんはの好感度も上がりますよ」
「そうジャ!横島さんは特に先生達に嫌われているんジャ!!?」
「青春よ♪」
「うるせぇ!!俺を嫌ってる連中の為に貴重な霊力使って堪るか!大体お前らだって、前から「タダ働きは嫌だ」って言ってたろうに」
 どいつもこいつも(1人変なのが混じってるけど……)、口々に駄目出ししやがって………まぁ、教師達が俺を嫌ってるのは以前の俺の奇行が原因なんだけど。
「それは、そうジャけど……」
「でも、今すでに暴れてるんでしょ!?手遅れになるかもしれない」
「そうだ、そうだ!普段、不真面目なんだから、ここで働けよ!」
「青春よ♪」
「余計なお世話だ!!」
 こうなったら意地だ。
 誰が何と言おうと、絶対やらねぇぞ!
「とにかく、奴らの為に動くのは嫌だ!気になるならお前達だけで行って来い!」
「仕方ありません………タイガー行きましょう」
「了解ジャ……」
「青春の逆ね………」
「役立たず!!」
「ヲイ…………」
    ◇◇◇
 “キーン・コーン・カーン・コーン” 
「………………本当に置いてきやがった」
「当然じゃない。横島君、今からでも行かないと本当に退学になっちゃうよ」
 ガタッ
「解ったよ!行けば良いんだろ!!行けば!」
 少し乱暴に椅子を引いて立ち上がる!
 ったく、悪霊が出たのは俺のせいじゃねぇだろ…………
    ◇◇◇
 ピート達から数分遅れて職員室へ来た俺だったが、その頃には、廊下が騒ぎを聞き付けた教師や生徒達でごった返していた。
「おい、横島!どこ行ってたんだ?今、中は凄い騒ぎになってるぞ」
「今、さっき聞いて慌てて来たんですよ」
 野次馬の中にいた顔見知りの教師に文句を言われたが、それっぽい噓でやり過ごす。
 萩原に叱咤されて来たはいいけど、正直そんなに心配はしていない。
 怨霊は基本的に暗く、人の居ない空間を好む。そう言った状況で猛威を振るう……何かの拍子で昼の人の多い学校に出ることもあるけど、そんな怨霊なんてタカが知れてる。 
 それを物ともしない強力な怨霊も確かにいるけど、そんなのが出たならフックが来る前にとっくに気づく。
 要するに、そんな怨霊ピート達だけで十分って思ったわけだ。糞共が、どうにかなっちまえばいいと思ったのも本当だけど………
 でも、ここまで来たら一応見とかなきゃな。
「ちょっと失礼……」
 そう言いながら、教師や生徒達を掻き分けながら職員室の中へ入る。
「…………何か、面倒くさいことになってるな」
 それが騒ぎの現状を見た、俺の印象だった……
 倒された机や椅子、散乱する書類、割れた窓ガラス…………まぁ、これは怨霊、悪霊が騒いだ場所の|あるある《・・・・》だ。もぅ、見慣れ過ぎて自然に思えてくる。
 ただ、問題なのはそれじゃなかった。
「ギャーーーーーーー!!!!!」
「落ち着いて下さい!校長!!」
「駄目ジャ。完全に乗り移られとる!」
 散乱する机の上に立って、奇声を上げる|ハゲ《校長》とそれを遠巻きに宥めようとする、ピートとステルス……
 なるほど……憑依されちまったのね。ハゲの目が完全にイッてる。フックは怨霊が暴れてるって言ってたけど、正確には怨霊に取り憑かれたハゲが暴れてたわけだ。
 奴から大した霊気は感じないけど、あのハゲを気にして2人は手が出せないんだ。でも……
「横島君……」
「ん?」
 声のした方を向くと倒れた古机が一つ…………愛子だな。ハゲに投げられたのか?
 そう思ってると、丁度上を向いていた引き出しから上半身だけ覗かせる。
「大丈夫か?」
「私は平気よ、周囲に溶け込めるようにワザと倒れたの」
 そこまでして、中に来る必要あるか?
 ……と言う突っ込みは、何故か野暮な気がしたので黙ってた。
「校長は、あの絵に取り憑いていた悪霊に乗り換えられちゃったみたいなのよ。他の先生が言ってたわ!」
 そう言う愛子の指した方を見ると、赤と黒を基調とした何とも不気味な絵が壁に飾ってある。
「何が、描いてあるんだ?アレ……」
「解らない……創立記念日ってことで昨日、贈答された物みたいだけど、あの不気味な絵が怨霊の温床になっちゃったのね」
 …………糞迷惑な話だな。
 でも、乗り換えられたってことは、あのハゲ “不気味な絵” 以上に怨霊から気に入られたってことか?それは、それでヤバいな。
 まぁ、今はそんな事より。
「何でピートは、ハゲを “祓って” やらないんだ?あいつの得意技だろ」
 師匠である神父から、そう言った技術はいくつか伝授されてるって聞いてる。
 怨霊の殲滅ばかりに特化してる俺達とは、物が違う(悲しい)筈だ。
「あなたが来る前に、何度かしてたわよ!でも、全く効かないの……多分、怨霊と校長の体質がベストマッチしちゃったんだわ」
「嫌なマッチだな…………」
 怨霊と相性ピッタリなんて、最悪だ。
 ……でも、決して他人事じゃない。俺達は、一般人より接する機会が多い分、余計出会う可能性が高いと思うと気が滅入るわ。
「卒業式がこの前あったばかりだし、忙しくて心労が溜まってたみたいよ………そこを “つけ込まれた” のかもしれないわ」
 …………確かに弱った人間を怨霊は好むけど……
「良く知ってるな」
「こんなの知ってて当たり前よ、女子の情報網を甘く見ないで欲しいわ」
 そんなもんかね……?
 変なところで胸を張る机妖怪に感心とも、呆れとも言えない微妙な感情を抱いてると愛子は更に口を開く。
「横島君の文珠で、校長を祓ってあげてよ。あなたの力なら出来るでしょ」
「出来るだろうけどねぇ……」
 1個は無理かもしれないが、2個の文珠に『御』『祓』と刻めば一発だろう…………
「何か問題があるの?」
「ハゲは、マジで俺を毛嫌いしてやがるからな……」
 元が自分のせいとは言え、あんな奴の為に貴重な文珠を使う事に、どうしても踏ん切りが付かない。いっそハゲの命ごと、除霊してやろうかなんて気さえしてくる……
「そんなこと、言ってる場合じゃないでしょ!」
「ん〜〜〜〜〜〜〜…………………………」
 駄目だ……愛子の言ってることが、正しいのは頭ではしっかり理解してるのに、心が頑なに “NO” と言って譲らない。
 だが、状況はそんな俺の深い(?)葛藤など、お構いなしに進んで行く。勿論、悪い方向に……
「聖なる父の名において、永遠の追放を、固く結ばれ__」
「ぎゃーーーーーー!!!」
「あっ、そっちに行ったんジャー!」
 ピートが何度目になるか解らない退魔呪文を唱えてる最中だった。
 今まで効かなかったとは言え、流石に何度も呪文を喰らうのは奴も嫌だったようだ。ハゲはピート達から逃げ出した。
 俺と愛子の方へ……
「えっ!?ちょっ、ヤダッ!!横島君、早く何とかしてよ!」
「ん〜〜〜……」
 全く踏ん切りが付かないけど、ハゲ止めなきゃ不味いよな?俺の後ろには、愛子や大勢の野次馬(見てねぇで、どっかいけよ……)が居るんだ。
「ぎゃーーー “ドバキッ!” ぶべらっっ……!」
 俺は、霊手を拳に固めてハゲ(顔面)を殴り飛ばした!愛子や皆を守る為だ(決してドサクサに紛れて、鬱憤を晴らしたわけじゃない)………
「キャーーッ!!何で殴るのっ!?文珠で祓ってよ!」
「いや……今、持ってないんだ」
 本当はあるけど、やっぱ使うの嫌だ…………これで、分離(寧ろ死なねぇかな?)してくんねぇかな?
 背中から床に勢い良くぶっ飛ぶハゲを見ながら、そう願うが…………
「ぐぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!」
 駄目だこりゃ……もっと強く殴りゃ良かったか?でも、あれ以上強くしたら死ぬしな(やるか?)。
 ガシッ!!
「ぎゃ!?」
「横島さん!!」
 そう思っていた矢先、ピートとステルスが両側からハゲを羽交い締めにした。ハゲは必死に2人を振り払わんとするが、ガッシリと固められて上手くいかない。
 通常怨霊に取り憑かれると、その人間は身体能力ギリギリまで引き出されるから、ただの一般人でも暴れられると押さえるのに苦労する。
 それでも、人間より遥かに高い身体能力を誇るヴァンパイア・ハーフと、身長2メートル越えで丸太のような腕を持つ獣人モドキの2人に掛かればどうにもならないようだ。ぶっちゃけ、片方だけでも十分な気がする……
「ワッシ等で押さえとるんジャ!」
「そうです、その間に横島さんは文珠を作って下さい!今、校長を救えるのはあなただけです!」
「そうよ!横島君、今のうちに!!」
「……………………」
 ………………馬鹿野郎〜〜〜!!
 こんなシチュにされたら、今更「本当はあるよ」なんて言えねぇだろうが!!! 
 ……………………でも、いいか。押さえてくれるなら、やり易い。
 意を決っした俺は、2人に押さえられたハゲにゆっくりと近づく。
「よ、横島さん……?」
「早く文珠を……」
 ハゲの前に立つと、戸惑う2人には構わず慎重に手を伸ばす。
 そして、見事なつるつる頭を両手でペタペタ撫で回しながら、ハゲの耳元でこう囁いた……
「少々髪が傷んでいるな……トリートメントは、しているか?手入れは十分した方がいい。冬場は、傷みやすいからなぁ………」
「「「…………………………………………」」」
※『GS美神』の “横島” ではなく、『幽遊白書』の “鴉” の声をイメージして脳内補完して下さい。知らない方はYouTubeで調べて下さい。
「よ、横島さん……」
「そりゃ、いくらなんでも……」
「トリートメント……」
 駄目か……?まぁ、無理なら文珠(いや、やっぱもっと強く殴るか?)でも…………
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
 “ぎゃ、ぎゃ……!?”
 プッククククク……♪♪ 効いた効いた♪
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁーーーーーーーーーー!!!!!」
 “ぎゃ〜〜〜…………”
 ハゲ(本人)の身を斬るような叫びによって、怨霊の支配が揺らぐ!
「オラァッ!!」
 ゴス!!
「ぐぇっ……!」
“ギギャッ!!?”
 そんな隙見逃すかよ、糞怨霊が!
 タイミング良く鳩尾に膝蹴りをブチ込んでやったら、簡単にハゲから出てきた。
「今だ、ピート!」
「ええっ!?あ、あ……はい!」
 パァーー!! バシュッ!
 ピートの方へ逃げていった怨霊は、そのまま奴の左手の放った閃光(ダンピール・フラッシュ)で簡単に消滅した。
 …………手こずらせやがって。
 低級霊なんて、憑依さえされなきゃこんなもんだ。
「終わったか……お手柄だな、ピート♪」
「い、いや……あの…………」
「校長……どうするんジャ?」
 改めてハゲを見る……眼鏡はぶっ飛び、鼻血ダボダボ、口から泡を吹いた上に痙攣してる。心なしか顔面も変形してるように見えるな。
「気の毒にな……これも全部悪霊のせいだ!」
「いや…………全部、あんたがやったんジャ……?」
「それより、心のダメージの方が心配です………横島さんウチの|先生《神父》にはしないで下さいよ」
「大丈夫なの!?こんなことしちゃったら、横島君退学になっちゃうわよ!」
 ……う〜ん、流石にやり過ぎたか?まぁ、結構楽しかったしいいか。
 俺はポッケから、文珠を一つ取り出す。
「治しといてやるか♪」
「「「って、あるんかい!!?」」」
 …………学校は、今日も平和だ。