第26話:猫の遊びと、リスの誤算。-1
ー/ー 魔王城の最深部、その巨大な空間は、世界の終焉を告げるかのような魔力の嵐に包まれていた。
魔王シエルは、巨大な貯蔵装置のクリスタルに、その身の丈をはるかに超える膨大な魔力を注ぎ込み、世界の魔力を根こそぎ吸い上げようとしている。クリスタルは、まばゆいばかりの光を放ち、その輝きは城全体を、そして世界の空の一部をも染め上げていた。
その光景は、人間軍にとっては絶望の象徴であり、魔王軍にとっては長きにわたる苦難の末に掴む勝利の象徴だった。
「フフフ…あと少しだ…!この世界の魔力は、全て私のものとなる…!大いなる冬は、もう怖くない…!このシエル様が、新たな世界の支配者となるのだ!誰も私を止めることはできん!この世界は、私の備蓄によって、永遠に安泰となるのだ!」
シエルは、狂気にも似た歓喜の表情で呟いた。
彼のリスとしての本能が、備蓄が満たされていくことに、最高の満足感と絶対的な安心感を与えていた。
彼の体は、吸い上げた魔力で満たされ、力が漲っていくのを感じていた。彼の脳裏には、来るべき「大いなる冬」を乗り越え、新たな世界を統べる自身の姿が鮮明に描かれていた。
しかし、その目の前には、彼の完璧な計画を根底から覆す、予測不能な「邪魔者」がいた。
リリアーナだ。彼女は、城の通路をまるで散歩するかのように進み、シエルの放つ魔力弾の嵐の中を、まるで無関係であるかのように、悠然と歩みを進めていた。
リリアーナは、クリスタルのまばゆい輝きに目を奪われていた。
それは、これまでのどんな「おもちゃ」よりも魅力的で、そして危険な輝きを放っていた。その光は、彼女の瞳を吸い込み、猫としての純粋な好奇心を極限まで刺激した。
「んニャー!すごいキラキラニャ!これ、面白そうニャ!」
リリアーナは、歓喜の声を上げ、クリスタルにじゃれつくように、指先を伸ばした。
その足取りは、まるで獲物に飛びかかる猫のように軽やかだった。
彼女の意識は、ただ目の前の「キラキラ」にしか向いていない。シエルは、リリアーナの接近に気づき、その無邪気なまでの行動に、本能的な警戒心を露わにした。
彼のリスとしての本能が、再び貯蔵品が脅かされることに、最大の危険信号を発していた。この「あの女」は、彼の備蓄をことごとく邪魔してきた存在だ。
「キィィィィィィィッ!あの女め…!どこから現れた!?私の神聖なる貯蔵の儀を邪魔する気か!私の備蓄を狙うな!今度こそ、貴様を消し去ってやる!」
シエルは、そう叫びながら、貯め込んだ魔力を凝縮した、無数の魔力弾をリリアーナ目掛けて放った。それは、彼の「無限の備蓄(インフィニット・ストック)」による、まさに弾幕のような攻撃だった。
炎の弾、氷の槍、雷の矢、闇の波動、光の刃…魔力弾は、様々な色に輝き、唸りを上げてリリアーナへと殺到する。
その一つ一つが、城壁を砕き、大地を穿つほどの威力を持っていた。魔王城の空間は、瞬く間に破壊と魔力の嵐に包まれた。
リリアーナは、その魔力弾が、まるで大きな「光る玉」のように見えた。ミーコは、動くもの、特に光るものが大好きだった。目の前に現れた、色とりどりの「光る玉」は、ミーコにとって最高の遊び道具だった。彼女の瞳は、獲物を追いかける猫のように、キラキラと輝いている。
「ニャー!キラキラしてて面白いニャ!もっと出してニャ!」
リリアーナは、そう叫びながら、無意識に「猫の気まぐれ(カオス・キャット)」を発動した。
魔力弾は、リリアーナに当たる寸前で、まるで意思を持ったかのように、あらぬ方向へと逸れていく。その動きは、物理法則を無視し、シエルの予測を完全に裏切るものだった。
いくつかは、魔王城の強固な壁に激突し、大きな音を立てて砕け散った。いくつかは天井を突き破り、夜空へと消えていった。いくつかは、魔族の兵士たちに直撃し、彼らを混乱させた。兵士たちは、味方の攻撃に巻き込まれ、悲鳴を上げながら倒れていく。
「な、なんだと!?私の攻撃が…!何故当たらん!?何が起こっているのだ!?」
シエルは、自分の攻撃がリリアーナに全く当たらないことに混乱していた。
彼の「超高速思考」は、あらゆる状況を分析し、最適な行動を導き出すはずだった。
しかし、リリアーナの予測不能な動きには、その思考が全く追いつかない。リスが、目の前で獲物が、理解不能な行動を取っているかのような、焦燥感が彼を襲う。それは、彼のリスとしての本能が、根底から揺さぶられる感覚だった。
「くっ…あの女の行動は読めん!何故あのような無意味な動きを…!?いや、これこそが真の策略か…!私の無限の備蓄を、遊びのように翻弄するとは…!何という恐るべき存在だ…!まるで、私の思考を嘲笑うかのような…!」
ゼノスは、魔王の動揺を目の当たりにし、顔面蒼白になった。彼の額には、冷や汗が滲んでいる。魔王がこれほどまでに困惑する姿は、彼にとっても滅多に見るものではなかった。
「魔王様…!あの女は、魔王様の攻撃を全て無力化している…!何という恐るべき力…!これは、我々を内部から崩壊させるための、巧妙な戦略に違いありません!魔王様の攻撃を、まるで手玉に取るかのように…!」
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