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#3

ー/ー



「悪りぃな、サチ」
「一応、私の方が年上なんだけど?ヤンキーは年功序列にうるさいんじゃなかったっけ」
「いうても、サチはガキにしか見えへんからなぁ……」

 外見で人を判断するけしからんイサミの足に蹴りを入れたけど、さすが勇者だけあってびくともしない。
 腑に落ちない。
 ちなみにイサミがヤンキーだというのは本人に聞いた。

 なんでも中学時代までは剣道を頑張ってたそうだけど、高校に入ってからは部活も辞めて盛り場でたむろするテンプレ不良をやっているそうだ。
 まぁ家庭の事情は人それぞれだから、詳しいことは聞かなかったけど、本人は割とあっけらかんとした様子で語ったので私が配慮する必要はないのだろう。

 ともあれ、魔王を助け姫を倒す……いや、逆だ。姫を助け魔王を倒すための旅が始まった。
 もちろん倒すのはイサミの役目で、私はただ物見遊山的に同行するだけだけど。


 で、その旅の主役であるイサミは勇者だけあって強かった。
 魔王の城がある場所――私のナビだと、エデンの街を出発する時点で前方207Km先だと表示されていた――へ向かう途中、何度か魔物やら盗賊やらに襲われたけど、余裕で全て撃退してたんだ。

「ね、それが勇者のチートパワーって奴?それとも勇者ソードのおかげ?」
「なんやねん、勇者ソードて。そんなんちゃうわ」

 どうやらイサミが使っているのは国王が最初にくれた50ゴールドで買った鉄の剣らしく、お金が足りなくて防具は革の鎧になったそうだ。
 いや、なんで国の命運を託す勇者に端金しか渡さないよ、国王。

 けど最初の街で買えそうな装備でかなり強そうな魔物をばったばったと倒している所をみると、やはりイサミは勇者なんだと、今さらになって感心したものだ。

 ただし方向音痴は相変わらずで、分岐点がある度にほぼ確実に間違った方向へイサミは進もうとした。
 これはある種の才能かもしれない。
 いや、イサミだけに勇み足ってやつか……。
 そんな事を思いながら、私はイサミが道を誤る度に告げる。


「勇者様、魔王はそちらではありません!」


 そして魔王の城があるという深い森に到着した。
 ギルドで聞いた話ではここは迷いの森と呼ばれているらしく、下手に足を踏み入れると進むことも戻る事もできない恐ろしい場所なのだそうだ。
 うん、方向音痴のイサミにとっては死の罠(出ずトラップ)になりかねない凶悪な森だよね。

「ナビ、魔王の城へのルートを出して」

 私の言葉に眼鏡に前方300mで右折、さらにその先50mで左折という情報が表示される。
 どうやら迷いの森だけど、一切迷わず攻略できそうだ。

 そうだというか、徒歩20分で私たちは迷いの森を通過した。

 眼鏡に表示された「目的地に到着しました。案内を終了します」という文字を見るまでもなく、私達の目の前にはいかにもな魔王城がそびえている。

「……サチ、すげぇな」
「私じゃなくてナビが凄いんだよ。それで、魔王城まで来たけど……魔王のこと、覚えてる?名前はなんだった?」
「……だんだん畑」
「どこの農家なのよ、それ。ダンタリオンでしょ」
「名前なんかどうでもええやろ!顔がぎょおさんあるバケモノなんやから、顔の数数えて倒したらしまいや」
「まぁ、姫様に顔は複数ついてないと思うけど……ついてないよね?」
「俺に聞くなや!」

 お姫様が双頭だったりしないことを祈りながら、私たちは魔王の城へと足を踏み入れる。
 外見上の禍々しさとは裏腹に、城の中は整然としていて魔物がいそうな気配すら無い。
 これならナビ無しでも魔王のいるところまで辿り着けるだろう。
 だって城門から真っ直ぐ進んだ先に大きくて立派な扉が見えるし、あそこ以外に魔王がいたら逆にびっくりしそうだし。

「魔王、覚悟せぇや!姫さん、助けに来たで!」
「……不意打ちとか、闇討ちとかしたほうが楽そうだけど……まぁいいや」

 豪華な扉を開き、馬鹿正直に大声で訪問目的を告げるイサミに頭痛を感じながら、私も玉座の間に足を踏み入れる。

 そこにいたのは……複数の頭を持ち二足歩行する醜悪な魔物と、部屋の隅で怯えた様子を見せる少女の姿だった。

「サチ!こいつやんな!?」
「Groooowl!」

 イサミの言葉に眼前の魔物、魔王ダンタリオンが吠え声で応える。
 剣を構えたイサミはその吠え声に警戒しつつ、斬り込む隙をうかがっている。

 ……けど、私は違和感を感じた。

 魔王と呼ばれている存在が言葉を話さず、ただ吠えるだけなんて事があるんだろうか?
 それに……そもそもソロモン王の悪魔であるダンタリオンって知性枠だったはずだけど。

 そう考えた私は無意識のうちに叫んでいた。

「ナビ、魔王の位置を教えて!」

 眼鏡に表示された内容は……左に曲がった矢印と「直進方向10m先を左折」の文字。そして、その矢印が指す場所にいるのは――!

 私は今まさに魔王(・・)に斬りかからんとするイサミに対して、大声で叫んだ。


「勇者様、魔王はそちらではありません!」


 私の言葉にイサミは振り上げた剣を途中で止め、困惑した表情で私を見る。

「え?なんや!?どういうことや!?」
「ナビ、姫様の位置を教えて!」

 続けて私が発した言葉に眼鏡が表示したのは「目的地に到着しました」の文字だった。
 やっぱり!

「イサミ!これは姫様!魔王は……部屋の奥で姫様のフリをしてるアイツだよ!」

 そう、悪魔ダンタリオンの持つ能力は人の思考を自在に操り、自在に幻像を投影できるというものだ。
 なら邪悪な魔王が姫様と自分の姿を入れ替えて、勇者であるイサミに姫殺しをさせようとする可能性は高い!

「ほんまか!?斬ってから姫さんとかやったら、洒落にならんで!?」
「私と魔王、どっちを信じるの!」
「……そりゃ、サチやな!」

 そう言うとイサミは部屋の片隅にいた姫――の姿をした魔王――に斬りかかった。


「いや、サチのおかげで姫殺しにならんですんだわ!」
「びっくりだよね。まさかこんな罠を仕掛けてくるなんて」
「ああ、勇者様!助けて頂き、ありがとうございました!是非王城にてお礼を……」
「あー、わりぃ。俺そういうのはいらんから。サチ、次の魔王はどこや?」
「……ん、左方向397Km先って出てるよ」
「じゃ、ちゃっちゃと次も片付けにいくか」
「勇者さま!?お待ちを……」

 イサミは姫を放置して、魔王城を後にする。
 ……まぁ、迷わなければいつかは姫様も外に出られるだろう。

 私はそんな事を思いながら、見当違いの方向へ向かって自信満々に歩き出す勇者(イサミ)の後を追う。

001

「勇者様、魔王はそちらではありません!」


~~~~~~~

 猫の女神はため息をつくと、傍らにいた白い子猫に話しかけた。

「……これで、良かったのですか?」
「うむ。連中に目を付けられんようにするためには、こうやって体裁を整える必要がある」
「でも、主様が子猫のフリをしてまで、こんなことを……」
「あの娘がおれば、ネズミ共に対する嫌がらせぐらいはできるじゃろうからな」

 二股になった尻尾を優雅に振る白い子猫は、空間に投影されたサチ達の姿を見ながら、そう呟いた――


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「悪りぃな、サチ」
「一応、私の方が年上なんだけど?ヤンキーは年功序列にうるさいんじゃなかったっけ」
「いうても、サチはガキにしか見えへんからなぁ……」
 外見で人を判断するけしからんイサミの足に蹴りを入れたけど、さすが勇者だけあってびくともしない。
 腑に落ちない。
 ちなみにイサミがヤンキーだというのは本人に聞いた。
 なんでも中学時代までは剣道を頑張ってたそうだけど、高校に入ってからは部活も辞めて盛り場でたむろするテンプレ不良をやっているそうだ。
 まぁ家庭の事情は人それぞれだから、詳しいことは聞かなかったけど、本人は割とあっけらかんとした様子で語ったので私が配慮する必要はないのだろう。
 ともあれ、魔王を助け姫を倒す……いや、逆だ。姫を助け魔王を倒すための旅が始まった。
 もちろん倒すのはイサミの役目で、私はただ物見遊山的に同行するだけだけど。
 で、その旅の主役であるイサミは勇者だけあって強かった。
 魔王の城がある場所――私のナビだと、エデンの街を出発する時点で前方207Km先だと表示されていた――へ向かう途中、何度か魔物やら盗賊やらに襲われたけど、余裕で全て撃退してたんだ。
「ね、それが勇者のチートパワーって奴?それとも勇者ソードのおかげ?」
「なんやねん、勇者ソードて。そんなんちゃうわ」
 どうやらイサミが使っているのは国王が最初にくれた50ゴールドで買った鉄の剣らしく、お金が足りなくて防具は革の鎧になったそうだ。
 いや、なんで国の命運を託す勇者に端金しか渡さないよ、国王。
 けど最初の街で買えそうな装備でかなり強そうな魔物をばったばったと倒している所をみると、やはりイサミは勇者なんだと、今さらになって感心したものだ。
 ただし方向音痴は相変わらずで、分岐点がある度にほぼ確実に間違った方向へイサミは進もうとした。
 これはある種の才能かもしれない。
 いや、イサミだけに勇み足ってやつか……。
 そんな事を思いながら、私はイサミが道を誤る度に告げる。
「勇者様、魔王はそちらではありません!」
 そして魔王の城があるという深い森に到着した。
 ギルドで聞いた話ではここは迷いの森と呼ばれているらしく、下手に足を踏み入れると進むことも戻る事もできない恐ろしい場所なのだそうだ。
 うん、方向音痴のイサミにとっては|死の罠《出ずトラップ》になりかねない凶悪な森だよね。
「ナビ、魔王の城へのルートを出して」
 私の言葉に眼鏡に前方300mで右折、さらにその先50mで左折という情報が表示される。
 どうやら迷いの森だけど、一切迷わず攻略できそうだ。
 そうだというか、徒歩20分で私たちは迷いの森を通過した。
 眼鏡に表示された「目的地に到着しました。案内を終了します」という文字を見るまでもなく、私達の目の前にはいかにもな魔王城がそびえている。
「……サチ、すげぇな」
「私じゃなくてナビが凄いんだよ。それで、魔王城まで来たけど……魔王のこと、覚えてる?名前はなんだった?」
「……だんだん畑」
「どこの農家なのよ、それ。ダンタリオンでしょ」
「名前なんかどうでもええやろ!顔がぎょおさんあるバケモノなんやから、顔の数数えて倒したらしまいや」
「まぁ、姫様に顔は複数ついてないと思うけど……ついてないよね?」
「俺に聞くなや!」
 お姫様が双頭だったりしないことを祈りながら、私たちは魔王の城へと足を踏み入れる。
 外見上の禍々しさとは裏腹に、城の中は整然としていて魔物がいそうな気配すら無い。
 これならナビ無しでも魔王のいるところまで辿り着けるだろう。
 だって城門から真っ直ぐ進んだ先に大きくて立派な扉が見えるし、あそこ以外に魔王がいたら逆にびっくりしそうだし。
「魔王、覚悟せぇや!姫さん、助けに来たで!」
「……不意打ちとか、闇討ちとかしたほうが楽そうだけど……まぁいいや」
 豪華な扉を開き、馬鹿正直に大声で訪問目的を告げるイサミに頭痛を感じながら、私も玉座の間に足を踏み入れる。
 そこにいたのは……複数の頭を持ち二足歩行する醜悪な魔物と、部屋の隅で怯えた様子を見せる少女の姿だった。
「サチ!こいつやんな!?」
「Groooowl!」
 イサミの言葉に眼前の魔物、魔王ダンタリオンが吠え声で応える。
 剣を構えたイサミはその吠え声に警戒しつつ、斬り込む隙をうかがっている。
 ……けど、私は違和感を感じた。
 魔王と呼ばれている存在が言葉を話さず、ただ吠えるだけなんて事があるんだろうか?
 それに……そもそもソロモン王の悪魔であるダンタリオンって知性枠だったはずだけど。
 そう考えた私は無意識のうちに叫んでいた。
「ナビ、魔王の位置を教えて!」
 眼鏡に表示された内容は……左に曲がった矢印と「直進方向10m先を左折」の文字。そして、その矢印が指す場所にいるのは――!
 私は今まさに|魔王《・・》に斬りかからんとするイサミに対して、大声で叫んだ。
「勇者様、魔王はそちらではありません!」
 私の言葉にイサミは振り上げた剣を途中で止め、困惑した表情で私を見る。
「え?なんや!?どういうことや!?」
「ナビ、姫様の位置を教えて!」
 続けて私が発した言葉に眼鏡が表示したのは「目的地に到着しました」の文字だった。
 やっぱり!
「イサミ!これは姫様!魔王は……部屋の奥で姫様のフリをしてるアイツだよ!」
 そう、悪魔ダンタリオンの持つ能力は人の思考を自在に操り、自在に幻像を投影できるというものだ。
 なら邪悪な魔王が姫様と自分の姿を入れ替えて、勇者であるイサミに姫殺しをさせようとする可能性は高い!
「ほんまか!?斬ってから姫さんとかやったら、洒落にならんで!?」
「私と魔王、どっちを信じるの!」
「……そりゃ、サチやな!」
 そう言うとイサミは部屋の片隅にいた姫――の姿をした魔王――に斬りかかった。
「いや、サチのおかげで姫殺しにならんですんだわ!」
「びっくりだよね。まさかこんな罠を仕掛けてくるなんて」
「ああ、勇者様!助けて頂き、ありがとうございました!是非王城にてお礼を……」
「あー、わりぃ。俺そういうのはいらんから。サチ、次の魔王はどこや?」
「……ん、左方向397Km先って出てるよ」
「じゃ、ちゃっちゃと次も片付けにいくか」
「勇者さま!?お待ちを……」
 イサミは姫を放置して、魔王城を後にする。
 ……まぁ、迷わなければいつかは姫様も外に出られるだろう。
 私はそんな事を思いながら、見当違いの方向へ向かって自信満々に歩き出す|勇者《イサミ》の後を追う。
「勇者様、魔王はそちらではありません!」
~~~~~~~
 猫の女神はため息をつくと、傍らにいた白い子猫に話しかけた。
「……これで、良かったのですか?」
「うむ。連中に目を付けられんようにするためには、こうやって体裁を整える必要がある」
「でも、主様が子猫のフリをしてまで、こんなことを……」
「あの娘がおれば、ネズミ共に対する嫌がらせぐらいはできるじゃろうからな」
 二股になった尻尾を優雅に振る白い子猫は、空間に投影されたサチ達の姿を見ながら、そう呟いた――