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第一章「出会い」

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 今年で六歳になる女の子――相田美和は、いつも遊ぶ公園で花を摘んでいた。

 手にはたくさんの花がある。公園にある桜はまだつぼみだった。今朝、高知で桜が開花したニュースを美和は聞いていた。

 東京も暖かくなると、テレビで言っていた。もうじき桜のお花が咲くよ! と美和はワクワクしている。満開になったら、お母さんとお花見をするんだ、と楽しみにしているのだ。

 美和に父はいない。

 美和が生まれてすぐに、病気で亡くなっていた。美和は父の実を写真でしか知らなかった。

 けれど寂しくないとも思っていた。美和の心の拠り所でもある。
 
 ママがいるから! と。

 美和の母・美波は今、公園の離れた場所で仕事の電話をかけている。休みを取って娘を公園に連れてきたのに、忙しないことだった。

 美和は、不意に遊んでいた手を止めた。 風に導かれるままに振り返る。

 そして、漆黒の瞳を瞬かせた。 木に寄りかかっている、都を発見したのである。けがもしているのか服も血に染まっていた。花を捨ててかけよった。

 自分と同い年ぐらいに見える。美和は都の頬に手をあてた。異常ともいえる体温の低さに美和は鳥肌が立つ。

 生きて眠っているだけなのだろうか。
 最悪、死んでいるのか。

 美和では判断ができないし、 大人の力が必要だ。おいていっていいか迷った。美和は助けを呼ぼうと立ち上がる。

 美和では命を救えない。
 悩んでいても助かる命も助からない。

 ところが、急に美和の視界が反転した。気づけば男の子が上になっていた。背中に土のひんやりとした感触を感じる。

 上になっている体が軽いせいもあって、圧迫感はなかった。美和と都の視線があった。のぞいているのは、金色の冷たい瞳だった。

 ――なんてきれいな目をしているの。

 美和は思わず引き込まれそうになった。

 ――今はほかのことを考えられないの。

 首をふって集中する。

 警戒されていると彼女は思った。 美和は背中にとっさに手を回す。動かずにじっとしている。抵抗できる体力がないのだろうと、美和は察した。

 ――わたしはわるものじゃないわ。

 背中をさすっていると、電話を終えた美波がやってきた。

「遅くなってごめんね」

 美和は肩の力を抜く。 もう、大丈夫と思ったら、彼女は気が抜けてペタリと座り込む。情けない姿を見せるつもりはなかった。

 ごまかすために。笑ってみせた。美和は美波の力を借りて、立ち上がる。二人の漆黒の髪と瞳は同じだった。

「ママ」
「美和。彼は?」

「体調が悪いみたいね」

 二人で周囲を見渡しても、友達や両親らしき人物はいない。服を引っ張られて、振り返った。美和は助けを呼ぶのははやめてほしいと、都は弱々しい声で訴えてくる。

 児童相談所か警察に電話をしようとしている美波に伝えた。美和が片付けている間に、美波は都を背負った。

「美和。荷物を持って歩ける?」
「歩けるよ。わたしは平気」

「家まで頑張ろうね」
「治るの?」

「頑張って手当てするわ。安心して」
「一緒に遊べるよね? 仲良くなれるよね? 」

「そうね」
「手伝うわ」

「ありがとう。お願いね」
「手当をするなら早く帰ろう」

 二人はゆっくりと歩き始めた。





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 今年で六歳になる女の子――相田美和は、いつも遊ぶ公園で花を摘んでいた。
 手にはたくさんの花がある。公園にある桜はまだつぼみだった。今朝、高知で桜が開花したニュースを美和は聞いていた。
 東京も暖かくなると、テレビで言っていた。もうじき桜のお花が咲くよ! と美和はワクワクしている。満開になったら、お母さんとお花見をするんだ、と楽しみにしているのだ。
 美和に父はいない。
 美和が生まれてすぐに、病気で亡くなっていた。美和は父の実を写真でしか知らなかった。
 けれど寂しくないとも思っていた。美和の心の拠り所でもある。
 ママがいるから! と。
 美和の母・美波は今、公園の離れた場所で仕事の電話をかけている。休みを取って娘を公園に連れてきたのに、忙しないことだった。
 美和は、不意に遊んでいた手を止めた。 風に導かれるままに振り返る。
 そして、漆黒の瞳を瞬かせた。 木に寄りかかっている、都を発見したのである。けがもしているのか服も血に染まっていた。花を捨ててかけよった。
 自分と同い年ぐらいに見える。美和は都の頬に手をあてた。異常ともいえる体温の低さに美和は鳥肌が立つ。
 生きて眠っているだけなのだろうか。
 最悪、死んでいるのか。
 美和では判断ができないし、 大人の力が必要だ。おいていっていいか迷った。美和は助けを呼ぼうと立ち上がる。
 美和では命を救えない。
 悩んでいても助かる命も助からない。
 ところが、急に美和の視界が反転した。気づけば男の子が上になっていた。背中に土のひんやりとした感触を感じる。
 上になっている体が軽いせいもあって、圧迫感はなかった。美和と都の視線があった。のぞいているのは、金色の冷たい瞳だった。
 ――なんてきれいな目をしているの。
 美和は思わず引き込まれそうになった。
 ――今はほかのことを考えられないの。
 首をふって集中する。
 警戒されていると彼女は思った。 美和は背中にとっさに手を回す。動かずにじっとしている。抵抗できる体力がないのだろうと、美和は察した。
 ――わたしはわるものじゃないわ。
 背中をさすっていると、電話を終えた美波がやってきた。
「遅くなってごめんね」
 美和は肩の力を抜く。 もう、大丈夫と思ったら、彼女は気が抜けてペタリと座り込む。情けない姿を見せるつもりはなかった。
 ごまかすために。笑ってみせた。美和は美波の力を借りて、立ち上がる。二人の漆黒の髪と瞳は同じだった。
「ママ」
「美和。彼は?」
「体調が悪いみたいね」
 二人で周囲を見渡しても、友達や両親らしき人物はいない。服を引っ張られて、振り返った。美和は助けを呼ぶのははやめてほしいと、都は弱々しい声で訴えてくる。
 児童相談所か警察に電話をしようとしている美波に伝えた。美和が片付けている間に、美波は都を背負った。
「美和。荷物を持って歩ける?」
「歩けるよ。わたしは平気」
「家まで頑張ろうね」
「治るの?」
「頑張って手当てするわ。安心して」
「一緒に遊べるよね? 仲良くなれるよね? 」
「そうね」
「手伝うわ」
「ありがとう。お願いね」
「手当をするなら早く帰ろう」
 二人はゆっくりと歩き始めた。