第1話 神獣討伐と素材の売買 -1

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 1. ギルドの喧騒と絶望の歌姫
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 1500年以上の歴史を持つこの王国の王都は、人口も多く、諸国との貿易も盛んであり、繁栄を謳歌していた。

 当然ながら、王都アルテミスの冒険者ギルドは、朝から熱気に包まれていた。

 依頼を求める冒険者たちの怒号と、酒場の喧騒が入り混じり、活気に満ちた空気がギルド全体を包み込んでいる。

 そんな騒がしい空間の片隅、依頼掲示板の前に、まるで世界が終わったかのようにうずくまる人影があった。鮮やかなルビーレッドの髪が、力なく肩に垂れている。吟遊詩人アリス・ルージュ、その人だ。

「ううう……なんてこったい!」

「また大負けだぁ〜!」

 床に転がりながら、アリスはまるで子どものように大声で泣き叫んだ。その手には、見るも無残なほどにシワくちゃになった借金取りの張り紙が握られている。張り紙には、禍々しい文字で「借金返済期限、明日まで!」「返済なき場合、リュートを没収!」と書かれていた。

「このままだと、あたしの魂の友、愛しのリュートが借金のカタに取られちゃう〜!フィーネちゃ〜ん!助けてくれぇ〜!」

「アリスさん、またですか!」

 遠くからアリスの悲鳴を聞きつけたフィーネリア・アークライト、通称フィーネが、額に手を当て、深い溜め息をつきながら近づいてくる。彼女のオレンジ色のショートカットが、苛立ちを隠せないように揺れる。フィーネは、アークライト大商会の娘であり、錬金術師でもある。金銭には人一倍厳しい。

「一体いくら負けたんですか!? もう私の金銭感覚が狂いそうですよ!」
「いい加減にしてください!」

 アリスは顔を上げ、涙でぐしゃぐしゃの顔でフィーネを見上げた。

「だって、だってさぁ、フィーネちゃん!あのサイコロが、まさかあんな目になるとは思わないじゃない!」
 フィーネは、ぴしゃりと言い放った。

「サイコロのせいにするのはやめてください!いい加減にしてください!」

「あたしの勘が、今回はイケるって言ってたんだぜ!なのに、なのにぃ〜!」

 アリスは、なおも自分の直感を信じようとする。フィーネは、その言葉に呆れを通り越して、諦めの境地だった。

「勘なんて、ギャンブルじゃ何の役にも立ちません!」
「現実を見てください!」

 アリスは床に転がったまま、足をバタバタさせる。その姿は、とても希代の歌姫とは思えない。フィーネは、この光景に何度立ち会ったか、もはや数えるのも億劫になっていた。

 その時、古文書に目を落としたまま、アリスの泣き声が耳に入っていない様子で、イリス・ヴィクトリア、通称イリスが通り過ぎようとする。銀白色の長い髪が床に触れるほどだ。彼女は「図書館の魔女」の異名を持つ、伝説級の大賢者。世俗の事柄には全く興味がない。

「イリスちゃ〜ん!助けて〜!」

「先生にしか解決できない問題だよ〜!この莫大な借金をなんとかして〜!お願い、イリスちゃ〜ん!」

 アリスは、イリスのローブの裾に飛びつき、まるで溺れる者が藁をも掴むようにしがみついた。イリスは、突然の衝撃に古文書を落としそうになり、迷惑そうにアリスの手を振り払おうとする。

「ふん、くだらない。私の研究とは関係ないでしょう。だいたい、あなたはいつも…」

(言いかけるが、アリスの「先生にしか」という言葉にピクリと反応し、動きを止める)

「ん?先生にしか?」

「そうだよ!イリスちゃんなら、この世のどんな難問でも解決できるって、あたし知ってるよ!先生の知識は宇宙一だからね!」

「私の知識が宇宙一…ふむ」

「この借金も、先生の知恵があればきっと…!ね、イリスちゃ〜ん!お願い、先生の力を貸してよ!」

 イリスの瞳が、わずかに好奇の色を帯びた。彼女は「おだてられやすい」という、賢者らしからぬポンコツな一面を持っているのだ。



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 2. 賢者、おだてに乗る
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「そうだよ、イリスちゃんなら、この世のどんな難問でも解決できるって、あたし知ってるよ!
 先生の知識は宇宙一だからね!この借金も、先生の知恵があればきっと…!
 ね、イリスちゃ〜ん!お願い、先生の力を貸してよ!」

 アリスは、イリスの顔を覗き込み、涙目で訴え続ける。その言葉は、イリスの知的好奇心とプライドをこれでもかとくすぐった。イリスは、フフン、と鼻を鳴らし、少し上から目線でアリスを見下ろす。

「仕方ないわね。私の知性に頼るというのなら、考えてあげなくもないわ。
 ただし、私の研究の邪魔はしないこと。
 そして、私の貴重な時間を無駄にしないことよ。
 この世の不均衡を是正することも、私の研究の一環と捉えられなくもないわ」

「やったー!さすがイリスちゃん!」

 アリスは、嬉しそうにイリスに抱きついた。

「こ、これは口車に乗ったのではないわ、アリス。
 私の知識が、世界の不均衡を是正するために必要だとあなたが理解しただけよ」

 イリスはそう言って、胸を張った。彼女の顔には、どこか得意げな表情が浮かんでいる。

「イリス様、本当にアリスさんの口車に乗せられやすいんだから…。
 毎回このパターンですよね。
 アリスさんのトラブルに、イリス様が乗せられて、結局私が尻拭い…」

 フィーネは呆れて、頭を抱える。彼女の胃は、すでにキリキリと痛み始めていた。

「違うわ、フィーネ。
 私の知識が、世界の不均衡を是正するために必要だと彼女が理解しただけよ。
 それに、この世のあらゆる事象は、私の研究対象となりうるのだから。
 借金問題も、ある種の経済的歪みと捉えることができるわね」

 イリスは真顔で、そう付け加えた。

「経済的歪み…ですか。それが私の胃を直接歪ませてるんですけどね…」

 フィーネは、思わず本音を漏らす。イリスは、その言葉に微かに眉をひそめた。

「ふむ。それは興味深い。
 胃の歪みと経済的歪みの相関関係…」

 イリスは真面目な顔でそう言い放ち、再び古文書に目を落とした。フィーネは、これ以上何を言っても無駄だと悟り、深い溜め息をつくしかなかった。













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第1話を読んでいただきありがとうございました。

7人のヒロイン、全員美女、美少女なのに、全員ポンコツです。
ですので、毎回、計画通りには絶対に進みません。
勝手に動き回るヒロインたちの暴走をお楽しみください!!

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 1. ギルドの喧騒と絶望の歌姫
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 1500年以上の歴史を持つこの王国の王都は、人口も多く、諸国との貿易も盛んであり、繁栄を謳歌していた。
 当然ながら、王都アルテミスの冒険者ギルドは、朝から熱気に包まれていた。
 依頼を求める冒険者たちの怒号と、酒場の喧騒が入り混じり、活気に満ちた空気がギルド全体を包み込んでいる。
 そんな騒がしい空間の片隅、依頼掲示板の前に、まるで世界が終わったかのようにうずくまる人影があった。鮮やかなルビーレッドの髪が、力なく肩に垂れている。吟遊詩人アリス・ルージュ、その人だ。
「ううう……なんてこったい!」
「また大負けだぁ〜!」
 床に転がりながら、アリスはまるで子どものように大声で泣き叫んだ。その手には、見るも無残なほどにシワくちゃになった借金取りの張り紙が握られている。張り紙には、禍々しい文字で「借金返済期限、明日まで!」「返済なき場合、リュートを没収!」と書かれていた。
「このままだと、あたしの魂の友、愛しのリュートが借金のカタに取られちゃう〜!フィーネちゃ〜ん!助けてくれぇ〜!」
「アリスさん、またですか!」
 遠くからアリスの悲鳴を聞きつけたフィーネリア・アークライト、通称フィーネが、額に手を当て、深い溜め息をつきながら近づいてくる。彼女のオレンジ色のショートカットが、苛立ちを隠せないように揺れる。フィーネは、アークライト大商会の娘であり、錬金術師でもある。金銭には人一倍厳しい。
「一体いくら負けたんですか!? もう私の金銭感覚が狂いそうですよ!」
「いい加減にしてください!」
 アリスは顔を上げ、涙でぐしゃぐしゃの顔でフィーネを見上げた。
「だって、だってさぁ、フィーネちゃん!あのサイコロが、まさかあんな目になるとは思わないじゃない!」
 フィーネは、ぴしゃりと言い放った。
「サイコロのせいにするのはやめてください!いい加減にしてください!」
「あたしの勘が、今回はイケるって言ってたんだぜ!なのに、なのにぃ〜!」
 アリスは、なおも自分の直感を信じようとする。フィーネは、その言葉に呆れを通り越して、諦めの境地だった。
「勘なんて、ギャンブルじゃ何の役にも立ちません!」
「現実を見てください!」
 アリスは床に転がったまま、足をバタバタさせる。その姿は、とても希代の歌姫とは思えない。フィーネは、この光景に何度立ち会ったか、もはや数えるのも億劫になっていた。
 その時、古文書に目を落としたまま、アリスの泣き声が耳に入っていない様子で、イリス・ヴィクトリア、通称イリスが通り過ぎようとする。銀白色の長い髪が床に触れるほどだ。彼女は「図書館の魔女」の異名を持つ、伝説級の大賢者。世俗の事柄には全く興味がない。
「イリスちゃ〜ん!助けて〜!」
「先生にしか解決できない問題だよ〜!この莫大な借金をなんとかして〜!お願い、イリスちゃ〜ん!」
 アリスは、イリスのローブの裾に飛びつき、まるで溺れる者が藁をも掴むようにしがみついた。イリスは、突然の衝撃に古文書を落としそうになり、迷惑そうにアリスの手を振り払おうとする。
「ふん、くだらない。私の研究とは関係ないでしょう。だいたい、あなたはいつも…」
(言いかけるが、アリスの「先生にしか」という言葉にピクリと反応し、動きを止める)
「ん?先生にしか?」
「そうだよ!イリスちゃんなら、この世のどんな難問でも解決できるって、あたし知ってるよ!先生の知識は宇宙一だからね!」
「私の知識が宇宙一…ふむ」
「この借金も、先生の知恵があればきっと…!ね、イリスちゃ〜ん!お願い、先生の力を貸してよ!」
 イリスの瞳が、わずかに好奇の色を帯びた。彼女は「おだてられやすい」という、賢者らしからぬポンコツな一面を持っているのだ。
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 2. 賢者、おだてに乗る
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「そうだよ、イリスちゃんなら、この世のどんな難問でも解決できるって、あたし知ってるよ!
 先生の知識は宇宙一だからね!この借金も、先生の知恵があればきっと…!
 ね、イリスちゃ〜ん!お願い、先生の力を貸してよ!」
 アリスは、イリスの顔を覗き込み、涙目で訴え続ける。その言葉は、イリスの知的好奇心とプライドをこれでもかとくすぐった。イリスは、フフン、と鼻を鳴らし、少し上から目線でアリスを見下ろす。
「仕方ないわね。私の知性に頼るというのなら、考えてあげなくもないわ。
 ただし、私の研究の邪魔はしないこと。
 そして、私の貴重な時間を無駄にしないことよ。
 この世の不均衡を是正することも、私の研究の一環と捉えられなくもないわ」
「やったー!さすがイリスちゃん!」
 アリスは、嬉しそうにイリスに抱きついた。
「こ、これは口車に乗ったのではないわ、アリス。
 私の知識が、世界の不均衡を是正するために必要だとあなたが理解しただけよ」
 イリスはそう言って、胸を張った。彼女の顔には、どこか得意げな表情が浮かんでいる。
「イリス様、本当にアリスさんの口車に乗せられやすいんだから…。
 毎回このパターンですよね。
 アリスさんのトラブルに、イリス様が乗せられて、結局私が尻拭い…」
 フィーネは呆れて、頭を抱える。彼女の胃は、すでにキリキリと痛み始めていた。
「違うわ、フィーネ。
 私の知識が、世界の不均衡を是正するために必要だと彼女が理解しただけよ。
 それに、この世のあらゆる事象は、私の研究対象となりうるのだから。
 借金問題も、ある種の経済的歪みと捉えることができるわね」
 イリスは真顔で、そう付け加えた。
「経済的歪み…ですか。それが私の胃を直接歪ませてるんですけどね…」
 フィーネは、思わず本音を漏らす。イリスは、その言葉に微かに眉をひそめた。
「ふむ。それは興味深い。
 胃の歪みと経済的歪みの相関関係…」
 イリスは真面目な顔でそう言い放ち、再び古文書に目を落とした。フィーネは、これ以上何を言っても無駄だと悟り、深い溜め息をつくしかなかった。
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第1話を読んでいただきありがとうございました。
7人のヒロイン、全員美女、美少女なのに、全員ポンコツです。
ですので、毎回、計画通りには絶対に進みません。
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