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ep.55 荒廃した地に住む男2

ー/ー



「クラマ、ね。ああ、あるぜ。ちぃの嬢ちゃん、シィの嬢ちゃん、お前さんらが言ってくれた人物像に間違いねえ」

 千寿流とシャルにクラマの特徴を詳しく聞いたタクミは、少し間を開けた後ゆっくりとそう言った。
 ようやく見つけた手掛かりに、手を取り合って喜ぶ千寿流とシャル。
 しかし、そう呟いたタクミの表情は少し翳っていた。

「そのクラマっていう嬢ちゃんがお前さんらの知り合いってのは分かった。だがよ、ありゃなんだ、とても十代の女の子のする表情じゃなかったぜ? お前さんらに心当たりがないってんだったら、随分ときな臭い話じゃねえか」

 そう言われて互いの顔を見合わせる二人。当然なのだが全く心当たりなどはない。いったいクラマの身に何が起こっているのだろうか。
 手がかりを見つけた半面、その裏側に不安の芽を植え付けられたようで、素直に喜ぶことはできなかった。
 シャルは別にそうだとしても、自分が元気づけれるから大丈夫と胸を叩いて見せたが千寿流は違った。
 あの時の恐怖がまた顔を覗かせ、足元をぐっと強く掴むのだ。
 足元に目を向ける。
 大丈夫、何もない。冷静になるんだ。そう言い聞かせる。
 千寿流はあの時見た気持ちの悪い夢が関係しているのかと考えもしたが、クラマが夢の中に現れたというだけであり関連性はない。
 シャルや夜深に相談するという手もあるが、気分が滅入りそうな話をわざわざぶり返したくなかった。
 漠然とした不安の芽はその形状すら分からないままで、答えを導くことができない。正体が分からないからこそ、心は余計に不安定になる。一体何が怖いのか、考えすぎるほどに分からなくなる。
 夜深はそんな千寿流を見て考え込むような仕草を取った。

「ねえ、千寿流ちゃん。クラマちゃんのことが大切なのはわかるよ? でもさ、僕たちって人間でしょ。足は二つしかないし、手も二つだけだ。できることなんてたかが知れてる」

 突然声をかけられ我に返る。

「う、うん……」

(うん、そうだよ……なんていうか最近のあたしはちょっと考え過ぎなのかもしれない)

 きっと、上手くいかないことが多くて気が落ち込んでいたのかもしれない。
 らしくもないな、なんて漠然と思った。

「何がどうあれ、会えば解決できる。でしょ?」

 あたしは顔を上げる。
 そうだ、クラマちゃんに会ってしまえばきっと解決できるのに。
 会えばいいんだ。会ってしまえばこんな不安など一瞬で摘み取れるのだ。じゃあ、どこに向かったのか訊けばいい。初めからそのつもりだったはずだ。
 なのにちょっとのことで落ち込んで、あたしは何をやってるんだ。

 タクミはクラマと会話したと言っている。そして千寿流たちはこれまでの道のりでクラマの噂や姿などを一度も確認していない。そして先の会話、夜深が言うにはクラマは今連絡を取れない状況にあるということ。
 ならばもう取るべき道なんか一つしかない。いや、始めから一つしかなかったんだ。
 今までと同じ。クラマの足取りを確かに、追いかけ続ければいいだけだ。

「その、タクちゃん! クラマちゃんがどっちに向かったか教えてくれませんか!?」

 タクミに詰め寄りそう言った。もう千寿流の瞳に憂いや恐怖は映っていなかった。
 タクミは詰め寄られてポリポリと頭をかいて、どう返事をするべきか迷っているようだった。
 話したいけど話してしまっていいのか悩んでいる――そう見えた。

「あのよ、今更なんだって話だが、正直なところよ、おめえさんらに話しちまっていいのか迷ってるんだわ」

 ばつの悪そうな顔を見られないように明後日の方向を向くタクミ。その方角に千寿流は回り込んで頭を下げてお願いする。
 その際に少し落ち込んだ様子のシャルが目に入った。あたしはあの子のためにここまで来たんだ。あの子の笑顔を曇らせたくない。

「その、お願いします! あたしたち、クラマちゃんのためにここまで来たんです! だから、諦めたくないんです! だから、お願いします! 教えてください!」

 千寿流なりの精いっぱいだった。たぶん、今の千寿流に土下座をしろと言えば、迷わず土下座をすることも辞さないだろう。

「分かったよ。俺の負けだ。顔上げな嬢ちゃん」

 観念したとばかりに手を上げ降参のポーズをとる。その後、いまだに頭を下げ続けている千寿流の頭に手をやりそう言った。

「ま、勝負してたわけじゃねえんだけどよ。お前さんらのためっつうか、そのな」

「というと、クラマちゃんの向かった先はそれなりに危険なところ、ということなんですね?」

断崖都市(だんがいとし) 大口(おーく)。聞いたことねえかい?」


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「クラマ、ね。ああ、あるぜ。ちぃの嬢ちゃん、シィの嬢ちゃん、お前さんらが言ってくれた人物像に間違いねえ」
 千寿流とシャルにクラマの特徴を詳しく聞いたタクミは、少し間を開けた後ゆっくりとそう言った。
 ようやく見つけた手掛かりに、手を取り合って喜ぶ千寿流とシャル。
 しかし、そう呟いたタクミの表情は少し翳っていた。
「そのクラマっていう嬢ちゃんがお前さんらの知り合いってのは分かった。だがよ、ありゃなんだ、とても十代の女の子のする表情じゃなかったぜ? お前さんらに心当たりがないってんだったら、随分ときな臭い話じゃねえか」
 そう言われて互いの顔を見合わせる二人。当然なのだが全く心当たりなどはない。いったいクラマの身に何が起こっているのだろうか。
 手がかりを見つけた半面、その裏側に不安の芽を植え付けられたようで、素直に喜ぶことはできなかった。
 シャルは別にそうだとしても、自分が元気づけれるから大丈夫と胸を叩いて見せたが千寿流は違った。
 あの時の恐怖がまた顔を覗かせ、足元をぐっと強く掴むのだ。
 足元に目を向ける。
 大丈夫、何もない。冷静になるんだ。そう言い聞かせる。
 千寿流はあの時見た気持ちの悪い夢が関係しているのかと考えもしたが、クラマが夢の中に現れたというだけであり関連性はない。
 シャルや夜深に相談するという手もあるが、気分が滅入りそうな話をわざわざぶり返したくなかった。
 漠然とした不安の芽はその形状すら分からないままで、答えを導くことができない。正体が分からないからこそ、心は余計に不安定になる。一体何が怖いのか、考えすぎるほどに分からなくなる。
 夜深はそんな千寿流を見て考え込むような仕草を取った。
「ねえ、千寿流ちゃん。クラマちゃんのことが大切なのはわかるよ? でもさ、僕たちって人間でしょ。足は二つしかないし、手も二つだけだ。できることなんてたかが知れてる」
 突然声をかけられ我に返る。
「う、うん……」
(うん、そうだよ……なんていうか最近のあたしはちょっと考え過ぎなのかもしれない)
 きっと、上手くいかないことが多くて気が落ち込んでいたのかもしれない。
 らしくもないな、なんて漠然と思った。
「何がどうあれ、会えば解決できる。でしょ?」
 あたしは顔を上げる。
 そうだ、クラマちゃんに会ってしまえばきっと解決できるのに。
 会えばいいんだ。会ってしまえばこんな不安など一瞬で摘み取れるのだ。じゃあ、どこに向かったのか訊けばいい。初めからそのつもりだったはずだ。
 なのにちょっとのことで落ち込んで、あたしは何をやってるんだ。
 タクミはクラマと会話したと言っている。そして千寿流たちはこれまでの道のりでクラマの噂や姿などを一度も確認していない。そして先の会話、夜深が言うにはクラマは今連絡を取れない状況にあるということ。
 ならばもう取るべき道なんか一つしかない。いや、始めから一つしかなかったんだ。
 今までと同じ。クラマの足取りを確かに、追いかけ続ければいいだけだ。
「その、タクちゃん! クラマちゃんがどっちに向かったか教えてくれませんか!?」
 タクミに詰め寄りそう言った。もう千寿流の瞳に憂いや恐怖は映っていなかった。
 タクミは詰め寄られてポリポリと頭をかいて、どう返事をするべきか迷っているようだった。
 話したいけど話してしまっていいのか悩んでいる――そう見えた。
「あのよ、今更なんだって話だが、正直なところよ、おめえさんらに話しちまっていいのか迷ってるんだわ」
 ばつの悪そうな顔を見られないように明後日の方向を向くタクミ。その方角に千寿流は回り込んで頭を下げてお願いする。
 その際に少し落ち込んだ様子のシャルが目に入った。あたしはあの子のためにここまで来たんだ。あの子の笑顔を曇らせたくない。
「その、お願いします! あたしたち、クラマちゃんのためにここまで来たんです! だから、諦めたくないんです! だから、お願いします! 教えてください!」
 千寿流なりの精いっぱいだった。たぶん、今の千寿流に土下座をしろと言えば、迷わず土下座をすることも辞さないだろう。
「分かったよ。俺の負けだ。顔上げな嬢ちゃん」
 観念したとばかりに手を上げ降参のポーズをとる。その後、いまだに頭を下げ続けている千寿流の頭に手をやりそう言った。
「ま、勝負してたわけじゃねえんだけどよ。お前さんらのためっつうか、そのな」
「というと、クラマちゃんの向かった先はそれなりに危険なところ、ということなんですね?」
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