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28.浮かれて味わう、夜の輝き

ー/ー



 永遠に続く夜の都でありながら、その街は眠らない。
 ほとんどが繁華街として成り立ち、賑やかに、明るい色の提灯が張り巡らされている居住域。
 ただの通り道にすらいくつもの屋台が立ち、訪れた旅人たちを楽しませてくれている。

「相変わらず騒がしく落ち着きがないな……」
「あにぃ、あれ……食べたい」
「果実を串に刺したものか……どれどれ」

 気落ちしながらも、喜ぶミウの行動には逆らえないアダルヘルム……財布の紐はどんどん緩んでいく。

「宿代は残せよ」
「わかっている!これは私の個人資産だ、心配するな」
「アダルくんさ……お兄ちゃんっていうか、おじいちゃんみたいダヨ」
「……っんゔん!クロエ嬢、これは宿代とは別のもの、あなた達も好きに飲み食いしたらいい、ミウは私が見ている」

 手のひらサイズの革袋をクロエに手渡し、ミウに引っ張られて人混みに消えていったアダルヘルム。

「あいつ、財布いくつに分けて持ってやがんだ?」
「用心深いと言うかなんというか……」
「なんでもいいよ〜、おこづかいもらったならボクらもいこ?」
「お前の口に合うもんなんか普通のところじゃ出てこねぇよ」

 騒がしい屋台通りから1本脇に入り、高級酒場が並ぶ静かな通りに移動し、店を探す。
 逆さ吊りにされた女性の罪人が掘られた木の看板を見つけ入店する。

「……いつもので?」

 石の粗雑なレンガで作られている店内は薄暗く、ヒンヤリとしている。雰囲気がある、と言えばそうかもしれない。

「よく覚えてんな?ついでに食い物も頼むわ」
「かしこまりました、お好きな……いえ、いつものお席へどうぞ」

 入店し、ゼン達が席に着く前に声をかけたのは、カウンターでグラスを磨いていた店主の若い男。
 古い瓶と氷の入ったグラスを2つと、奇妙に発光する薬草が1本刺さったカクテルがテーブルに運ばれた。

「これ痺れる感じがして美味しいんだよネ!」
「毒だからな」
「ふふ……料理も、きましたよゼン」

 料理の乗った皿と一緒に運ばれたのは、折りたたまれた数枚の紙。
 酒を味わうのと同じように、じっくりと目を通していくゼン。

「さすがに、害をなす異物の流入はさせなかったか」
「ふふ……彼女が世界の王であれば、もっと変わっていたかもしれませんね」
「下品な店もあるくせに、堕落せず秩序が守られ至るのは、この規模の領地だからだ。自分の声が隙なく浸透し、力を使って支配できる限界を、あの女は分かってる」

 支配の仕方は上に立つ者によって様々だ。

「独裁国家ではあるのに、不思議なものね」
「そこはあの女の人徳もあんだろーよ」
「グスッ……ボクは上に立つべきじゃなかったのカナ」

 気付けば5杯目のグラスを空にしていたファインは、ゼンの話を聞いて泣いていた。

「泣き上戸かよ、めんどくせぇ」
「だってぇ……こことエリュシオンはそんなに変わらないのにボクが魔王辞める時誰もとめなかったし煙たがられてたしこの間まで療養してたのにお見舞いに来てくれる眷属なんてひとりもいなかったもんんん」
「当時は退いた理由が理由ですし、この間の帰省はお忍びの上、あなたの眷属はあなたを主と認識させないよう復活させ……聞いてますか?ファイン?」
「お前は魔族なんだ、そもそも人間社会の規律とは別もんだろーが」
「うぇぇぇん」
「グリゼルダとそっくりだな」

 魔族の血の繋がりも、人と大して変わらないらしい。
 クロエにファインを任せ、全ての紙に目を通していく。

「げっ」

 あまり出さない声を発したゼンに驚き、視線を向けるクロエとファイン。

「そうかよ、ここでもか」
「あら……神のご都合、のようですね」
「ククク!いいだろう、そんなにつきまとうんなら、相手してやるよ」
「わぁるぃ顔ぉ……かっこいいぃ……」

 紙を握りつぶし、粉々に溶かし『破壊』する。

「思い通りにならないこと、証明してやる」

 腹を満たしたミウとアダルヘルムと宿で合流部屋の確保だけをして、ギルド支部に移動した。

「本来ならここにギルドがあってはならないのだが……」
「お気に入りのギルド長様たってのお願いだったもんなぁ、女王様は本当にお優しい」
「あなたがそうするようにしたのだろう!まったく……勝手が利くことになったことが……喜ばしく、腹の立つことになるとはな」

 廃坑から持ち帰った完了証明、怪物の骨の一部を荷物の中から取り出した。

「こっちで良かったの?」
「我々の本来の目的に必要になるのはこれではないだろう?ゼン・セクズにとっても、依頼なんてものはついで……簡単なものでいいだろう」

 ゴトンっと重たい音を出し、カウンターに置いた。

「簡単とは……親父……そんなこと言うと他の冒険者が自信無くして辞めちまうよ」
「かまわん……その程度で辞めるのなら、必要ない」
「おぉ怖い怖い…………確かに、討伐ご苦労様でした」
「報酬はギルド資金にすべて入るように処理してくれ……短い時間ですまない、ここは支部の中でも優秀で言う事はない、引き続き頼むコーエン」

 名前を呼ばれた支部長の中年男は優しく笑った。

「いつ親父の抜き打ちが来るかわからなくて家族みんなヒヤヒヤしてる、お手柔らかに頼みたいもんだ……いってらっしゃい、気をつけてな、親父!」

 少しだけ、アダルヘルムの緊張がほぐれた様だ。
 領主の館……ほぼ城と言ってもいいくらいの建造物に向かう足取りに重さは感じない。
 門番がいたが、顔パスだった……まるで、ここへ来ることが分かっていたようだった。

「はぁ……入るぞ」

 意を決して……そんな面持ちで、豪華な作りの両扉をゆっくりと開く。
 扉の大きさの割に奥行きがない部屋……天井だけは高く、輝きの一端を見せている。

「お久しぶりです、アラリケ様」

 膝をつき、頭を下げ……まるで王様に謁見するかのような挨拶をするアダルヘルム……他の面子は、立ったまま。

「礼儀を知っているのはやはり我が子だけのようね?お帰りなさいアダル、可愛い可愛い我が息子……」

 天井から吊り下げられた薄い布の幕越しに聞こえる声……優しく美しい声だ。

「それに比べて……あいも変わらず太々しい態度ねゼン・セクズ、クロエ、ファイン・ゾンダーリング……ミウちゃんはそのままでいいのよ?気にしないでね?」
「……ミウに甘々なのは、血かな?クロエちゃん」
「孫みたいなものでしょうから……」

 ヒソヒソと話すファインとクロエを他所に、なぜかミウが声を上げた。

「あのね……あにぃ、ね?ママの事……尊敬してて、大事なんだって……言ってた」
「ミ、ミウ?!」
「あらぁうふふ?そうなの?それは……嬉しいわね!」

 ミウなりに、ご機嫌をとろうとした様だった。

「俺は庇わねぇからな」

 頭を抱えてそっぽを向くゼン。
 なにを言われるのか、事前に情報は手にしていた。
 だからこその諦めだ……機嫌が良い時程、冴えることも知っている。

「そんなに大事な母であるのなら、助けてくれるわよね?アダル?」
「……仰せのままに」
「本当に良い子になって……あの時が嘘のよう、ねぇ?」
「若気の至りと……笑ってください……」

 布越しにでもわかる鋭い視線に、汗をにじませるアダルヘルム。

溢れ出す魔力(オーバーフローター)が欲しいのよ、アダル」
「欲しい……ですか?」
「そう……あなたの手で、あなたひとりの手で」
「はいはーい!ボクの持ってるやつあるヨ!」

 ダンッと床を叩く音が響く。

「お黙り魔族!お前たちの保有する穢れた魔力など我が王国のためになぞならんわ!!弁えよ!!」
「……はい」

 肩を落とし、人間の威勢に負けるその姿は元魔王の見る影も無かった。
 膝をついたままのアダルヘルムに近づき見下ろしながら告げるアラリケ。

「期限は3日……尊敬しているというのであれば、母の為に尽力し、献上することなぞ簡単でしょう?ある贈り物を……待っているわよアダルヘルム」
「……御意に」

 静かに礼をして退室しようとした。

「あぁ、そうだわ……アダル?」

 背を向けたまま振り向かず聞くアダルヘルム。

「生死は問わないわ」

 無言のまま宿に戻り、ひとり部屋に引きこもるアダルヘルム。
 部屋の前でしょんぼりと、扉に触れて呟くミウ。

「(ミウ……余計なことしちゃった?)」

 入るか入らまいか悩んでいる様子のミウを見つけたのは、

「なにしてんだ?」
「ゼン……」

 湯浴み帰りの、ゼンだった。


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次のエピソードへ進む 29-①.誰を抱き、悪夢を見るか


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 永遠に続く夜の都でありながら、その街は眠らない。 ほとんどが繁華街として成り立ち、賑やかに、明るい色の提灯が張り巡らされている居住域。
 ただの通り道にすらいくつもの屋台が立ち、訪れた旅人たちを楽しませてくれている。
「相変わらず騒がしく落ち着きがないな……」
「あにぃ、あれ……食べたい」
「果実を串に刺したものか……どれどれ」
 気落ちしながらも、喜ぶミウの行動には逆らえないアダルヘルム……財布の紐はどんどん緩んでいく。
「宿代は残せよ」
「わかっている!これは私の個人資産だ、心配するな」
「アダルくんさ……お兄ちゃんっていうか、おじいちゃんみたいダヨ」
「……っんゔん!クロエ嬢、これは宿代とは別のもの、あなた達も好きに飲み食いしたらいい、ミウは私が見ている」
 手のひらサイズの革袋をクロエに手渡し、ミウに引っ張られて人混みに消えていったアダルヘルム。
「あいつ、財布いくつに分けて持ってやがんだ?」
「用心深いと言うかなんというか……」
「なんでもいいよ〜、おこづかいもらったならボクらもいこ?」
「お前の口に合うもんなんか普通のところじゃ出てこねぇよ」
 騒がしい屋台通りから1本脇に入り、高級酒場が並ぶ静かな通りに移動し、店を探す。
 逆さ吊りにされた女性の罪人が掘られた木の看板を見つけ入店する。
「……いつもので?」
 石の粗雑なレンガで作られている店内は薄暗く、ヒンヤリとしている。雰囲気がある、と言えばそうかもしれない。
「よく覚えてんな?ついでに食い物も頼むわ」
「かしこまりました、お好きな……いえ、いつものお席へどうぞ」
 入店し、ゼン達が席に着く前に声をかけたのは、カウンターでグラスを磨いていた店主の若い男。
 古い瓶と氷の入ったグラスを2つと、奇妙に発光する薬草が1本刺さったカクテルがテーブルに運ばれた。
「これ痺れる感じがして美味しいんだよネ!」
「毒だからな」
「ふふ……料理も、きましたよゼン」
 料理の乗った皿と一緒に運ばれたのは、折りたたまれた数枚の紙。
 酒を味わうのと同じように、じっくりと目を通していくゼン。
「さすがに、害をなす異物の流入はさせなかったか」
「ふふ……彼女が世界の王であれば、もっと変わっていたかもしれませんね」
「下品な店もあるくせに、堕落せず秩序が守られ至るのは、この規模の領地だからだ。自分の声が隙なく浸透し、力を使って支配できる限界を、あの女は分かってる」
 支配の仕方は上に立つ者によって様々だ。
「独裁国家ではあるのに、不思議なものね」
「そこはあの女の人徳もあんだろーよ」
「グスッ……ボクは上に立つべきじゃなかったのカナ」
 気付けば5杯目のグラスを空にしていたファインは、ゼンの話を聞いて泣いていた。
「泣き上戸かよ、めんどくせぇ」
「だってぇ……こことエリュシオンはそんなに変わらないのにボクが魔王辞める時誰もとめなかったし煙たがられてたしこの間まで療養してたのにお見舞いに来てくれる眷属なんてひとりもいなかったもんんん」
「当時は退いた理由が理由ですし、この間の帰省はお忍びの上、あなたの眷属はあなたを主と認識させないよう復活させ……聞いてますか?ファイン?」
「お前は魔族なんだ、そもそも人間社会の規律とは別もんだろーが」
「うぇぇぇん」
「グリゼルダとそっくりだな」
 魔族の血の繋がりも、人と大して変わらないらしい。
 クロエにファインを任せ、全ての紙に目を通していく。
「げっ」
 あまり出さない声を発したゼンに驚き、視線を向けるクロエとファイン。
「そうかよ、ここでもか」
「あら……神のご都合、のようですね」
「ククク!いいだろう、そんなにつきまとうんなら、相手してやるよ」
「わぁるぃ顔ぉ……かっこいいぃ……」
 紙を握りつぶし、粉々に溶かし『破壊』する。
「思い通りにならないこと、証明してやる」
 腹を満たしたミウとアダルヘルムと宿で合流部屋の確保だけをして、ギルド支部に移動した。
「本来ならここにギルドがあってはならないのだが……」
「お気に入りのギルド長様たってのお願いだったもんなぁ、女王様は本当にお優しい」
「あなたがそうするようにしたのだろう!まったく……勝手が利くことになったことが……喜ばしく、腹の立つことになるとはな」
 廃坑から持ち帰った完了証明、怪物の骨の一部を荷物の中から取り出した。
「こっちで良かったの?」
「我々の本来の目的に必要になるのはこれではないだろう?ゼン・セクズにとっても、依頼なんてものはついで……簡単なものでいいだろう」
 ゴトンっと重たい音を出し、カウンターに置いた。
「簡単とは……親父……そんなこと言うと他の冒険者が自信無くして辞めちまうよ」
「かまわん……その程度で辞めるのなら、必要ない」
「おぉ怖い怖い…………確かに、討伐ご苦労様でした」
「報酬はギルド資金にすべて入るように処理してくれ……短い時間ですまない、ここは支部の中でも優秀で言う事はない、引き続き頼むコーエン」
 名前を呼ばれた支部長の中年男は優しく笑った。
「いつ親父の抜き打ちが来るかわからなくて家族みんなヒヤヒヤしてる、お手柔らかに頼みたいもんだ……いってらっしゃい、気をつけてな、親父!」
 少しだけ、アダルヘルムの緊張がほぐれた様だ。
 領主の館……ほぼ城と言ってもいいくらいの建造物に向かう足取りに重さは感じない。
 門番がいたが、顔パスだった……まるで、ここへ来ることが分かっていたようだった。
「はぁ……入るぞ」
 意を決して……そんな面持ちで、豪華な作りの両扉をゆっくりと開く。
 扉の大きさの割に奥行きがない部屋……天井だけは高く、輝きの一端を見せている。
「お久しぶりです、アラリケ様」
 膝をつき、頭を下げ……まるで王様に謁見するかのような挨拶をするアダルヘルム……他の面子は、立ったまま。
「礼儀を知っているのはやはり我が子だけのようね?お帰りなさいアダル、可愛い可愛い我が息子……」
 天井から吊り下げられた薄い布の幕越しに聞こえる声……優しく美しい声だ。
「それに比べて……あいも変わらず太々しい態度ねゼン・セクズ、クロエ、ファイン・ゾンダーリング……ミウちゃんはそのままでいいのよ?気にしないでね?」
「……ミウに甘々なのは、血かな?クロエちゃん」
「孫みたいなものでしょうから……」
 ヒソヒソと話すファインとクロエを他所に、なぜかミウが声を上げた。
「あのね……あにぃ、ね?ママの事……尊敬してて、大事なんだって……言ってた」
「ミ、ミウ?!」
「あらぁうふふ?そうなの?それは……嬉しいわね!」
 ミウなりに、ご機嫌をとろうとした様だった。
「俺は庇わねぇからな」
 頭を抱えてそっぽを向くゼン。
 なにを言われるのか、事前に情報は手にしていた。
 だからこその諦めだ……機嫌が良い時程、冴えることも知っている。
「そんなに大事な母であるのなら、助けてくれるわよね?アダル?」
「……仰せのままに」
「本当に良い子になって……あの時が嘘のよう、ねぇ?」
「若気の至りと……笑ってください……」
 布越しにでもわかる鋭い視線に、汗をにじませるアダルヘルム。
「|溢れ出す魔力《オーバーフローター》が欲しいのよ、アダル」
「欲しい……ですか?」
「そう……あなたの手で、あなたひとりの手で」
「はいはーい!ボクの持ってるやつあるヨ!」
 ダンッと床を叩く音が響く。
「お黙り魔族!お前たちの保有する穢れた魔力など我が王国のためになぞならんわ!!弁えよ!!」
「……はい」
 肩を落とし、人間の威勢に負けるその姿は元魔王の見る影も無かった。
 膝をついたままのアダルヘルムに近づき見下ろしながら告げるアラリケ。
「期限は3日……尊敬しているというのであれば、母の為に尽力し、献上することなぞ簡単でしょう?ある贈り物を……待っているわよアダルヘルム」
「……御意に」
 静かに礼をして退室しようとした。
「あぁ、そうだわ……アダル?」
 背を向けたまま振り向かず聞くアダルヘルム。
「生死は問わないわ」
 無言のまま宿に戻り、ひとり部屋に引きこもるアダルヘルム。
 部屋の前でしょんぼりと、扉に触れて呟くミウ。
「(ミウ……余計なことしちゃった?)」
 入るか入らまいか悩んでいる様子のミウを見つけたのは、
「なにしてんだ?」
「ゼン……」
 湯浴み帰りの、ゼンだった。