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第92話 流れ着いた海人

ー/ー



メゾーヌを出て3時間ほど西へ進むと、海が見えてきた。地図によれば、「ゼアン海」という海らしい。
遠目に見ても、めちゃくちゃ水が綺麗なのがわかった。まあ海を生で見るのはほぼ初めてなのだが。
俺は内陸育ちなので、直接海を見たことがなかったのである…修学旅行で東京に行った時は別として。
ちなみに調べてみたところ、この世界でも海洋汚染の問題はあるらしい…人間界に比べるとマシなようだが。
それで、ここゼアン海はごみなどによる汚染がまだほとんどない、きれいな海であるとのことだ。

そして、このきれいな海にはエウル王が言っていた「海人」がたくさん棲息しているということもわかった。
海人とは文字通り海で生きる異人の種族で、純粋な海人という異人も存在するが、その他にかなりの数の近縁種が存在しており、これらを総称して「海人」、あるいは「海人系種族」と呼ぶこともあるそうだ。
また、海人は海の水温や水深、環境の変化に敏感であり、海洋汚染などで環境が変わると生きられなくなり、姿を消してしまうこともあるという。

そんな海人だが、幸いにもゼアン海にはまだ数多く棲んでいるようだし、種族によっては海岸や浜辺にいる地上の者に興味を持ち、近づいてきたり話しかけたりしてくる事もあるらしい。
エウルが言っていたのはそういうことか、と思った。







海岸につくなり、樹や煌汰、セルクを始めとした何人かの連中は飛び出していった。
樹はもともと海と泳ぐのが好きで、煌汰とセルクはもの珍しさから向かっていったらしい。
水着もないのに泳ぐのかよ…と言ったら、後で適当に術で乾かせばいいだろ、と言われた。
何となくだが想像つく…その乾かすのは、たぶん俺だ。
まあ、実際ものを燃やさずに水分を飛ばす火の術はあるようだし、使えるのだが。

ナイアや輝、キョウラなどは泳ぎはしないまでも、足首まで浸かったり軽く手に水を浴びたりしていた。
ラギルやタッド、康介は柳助の能力で砂に潜り、なんちゃって砂風呂を楽しんでいた…そんなに暑いわけでもないのだが。

俺は…秀典や渕部などと一緒に、近くの岩場に腰掛けて釣りをしていた。何となくだが、海に入りたくなかったのである。
まあ正確に言うと、水に入るということを体が受け付けなかった、という感じだが。
火の術…いや、火を操る能力を持つ故、水には入れない…といったところか。
まあごく自然なことではある…が、いざなるとなかなか辛いものがある。何故だか風呂には入れるから、そこは問題ないが。



「ここ、なんか釣れるのかな…」
思わずそうこぼした。
馬車に一応釣り用具があったが、餌はルアーである。
それに、俺は釣りなんてしたことない。果たして、釣れるのだろうか。


「さあな…でも、ボーッとしてるよりましだろ。それに、釣りって案外楽しいもんだぜ?」
渕部が言う。
俺は、ため息をついて首を振った。

…と、何かが針にかかった。
「おっ…!何かかかった!」

「マジか!どんな感じだ!?」

「何かって…わかんないけど、なんかかなり大物っぽい!」
何がかかったのかわからないが、やたらと重い。
ひょっとして、普通にデカい魚がかかったか?

俺は力いっぱい竿を引いた。
すると…



「えっ…?」
上がってきたのは魚ではなく、奇妙な姿をした女の子だった。
地上に引き上げてみると、それはくすんだ青色の髪に薄い水色の肌をしており、意識を失っているのか目を閉じていて全く動かない。
釣り針は髪にかかっていた。どうやらたまたま引っかかってしまったようだ。
「人…?どういう事だ?」

俺は、瞬間的に理解した。
「この子…きっと、海人だ!」

「え、海人!?」

「すぐにみんなを呼んで来てくれ!」




そうして、海岸の平坦な所に女の子を寝かせ、みんなで取り囲んだ。
「ふーむ…」
樹は顎に手をかけ、じっくりと彼女を観察していたが、やがてこちらを向いて言った。
「確かにこりゃ、海人だな。でも、真正の海人じゃあない」

「というと?」

「海人にも色々いるのさ…この子はたぶん、『水守人(みずもりびと)』だ。手足がヒレみたいになってるけど、(えら)は見当たらないからな」
言われてみれば、この子は確かに手足がちょっと平べったく、ヒレのようになっている。
それと、守人と名前に入ってはいたが、何となく俺の同族ではない気がした。

「で、どうすんだ?」

「まだ生きてるみたいだからな…とりあえず浅瀬に寝かせておこう。海人は、水に浸ってないと死んじまう異人なんだ」
樹がそう言うので、適当な浅瀬に少女を寝かせた…全身が水に浸るようにして。
そのまま少女が目覚めるまで待つことにしたのだが、いつまで待っても目覚めなかった。





夜。
俺達は馬車を砂浜の近くの崖に停め、砂浜に集まって焚き火をしていた。
ここなら、いつでも彼女が起きた事に気づけるからである。
「しかし…まあ海人が釣りの餌にかかるのはたまにあることらしいけど、特にそういう訳でもなく針にかかるなんて…」

「針が髪に引っかかって、しかも意識を失ってた…ってことは、元々気絶してたってことだよな…」
ここで、ふと寝ていたという可能性が思い浮かんだので、一応樹に確認する。
「一応確認するけど、海人って、こんな陸の近く…っていうか浅い所で寝るのか?」

「いや…まあ種族によって細かい違いはあるけど、基本的にはある程度の深さの海底で寝るって聞くぜ。こんな浅い所で寝ることは…まあ絶対にないとは言わないけど、そうそうないと思うな」

「それがわかれば十分だ。おそらく、あの子は元々もっと沖の方にいたのが、どこかで何らかの原因で意識を失い、そのまま海流で流されて、この海岸に流れ着いたんだろう」

「で、それをたまたま姜芽が釣り上げたと…」
柳助は、ふーっとため息をついた。
「それにしても、まだ目覚めないとなると厄介だな。深夜に目覚めたら、一人でどこかへ行ってしまう可能性もある」

「なら、結界か何かで逃げ出せないようにしておけばいいんじゃないか?」

「それはダメだ。彼女は恐らく、まだ成長しきっていない水守人。子供の海人はただでさえ臆病だ。もし目覚めた時に自分が見知らぬ場所で拘束されていたら、ひどく恐怖する。朝になって、まともに話を聞くことなど出来ないだろう」

「それもそうか。となると、どうすれば…」
すると、柳助が立ち上がった。

「簡単な話だ。誰かが夜通し見ていればいい。そしてそれは、俺がやろう」

「…いいのか?」

「ああ。本当は龍神がいれば適任なのだがな」

そういや、昔自分でショートスリーパーだって言ってたな。
…まったく、つくづくなんでいないんだ。

「では、皆はゆっくり休め。彼女のことは、俺に任せてくれ」
すると、煌汰と樹があらぬ心配をした。
「大丈夫かよ…?海人ってデリケートなんだぜ?不器用な柳助にうまく扱えるかな?」

「うーん…まあいいけど、怖がらせないでよ?柳助みたいなデカブツを見たら、あの子ビビっちゃうかもしれない」

柳助に睨まれ、二人は黙り込んだ。

「…とにかく、彼女の番は俺がやる。明日の朝、何があったかを話そう」


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メゾーヌを出て3時間ほど西へ進むと、海が見えてきた。地図によれば、「ゼアン海」という海らしい。遠目に見ても、めちゃくちゃ水が綺麗なのがわかった。まあ海を生で見るのはほぼ初めてなのだが。
俺は内陸育ちなので、直接海を見たことがなかったのである…修学旅行で東京に行った時は別として。
ちなみに調べてみたところ、この世界でも海洋汚染の問題はあるらしい…人間界に比べるとマシなようだが。
それで、ここゼアン海はごみなどによる汚染がまだほとんどない、きれいな海であるとのことだ。
そして、このきれいな海にはエウル王が言っていた「海人」がたくさん棲息しているということもわかった。
海人とは文字通り海で生きる異人の種族で、純粋な海人という異人も存在するが、その他にかなりの数の近縁種が存在しており、これらを総称して「海人」、あるいは「海人系種族」と呼ぶこともあるそうだ。
また、海人は海の水温や水深、環境の変化に敏感であり、海洋汚染などで環境が変わると生きられなくなり、姿を消してしまうこともあるという。
そんな海人だが、幸いにもゼアン海にはまだ数多く棲んでいるようだし、種族によっては海岸や浜辺にいる地上の者に興味を持ち、近づいてきたり話しかけたりしてくる事もあるらしい。
エウルが言っていたのはそういうことか、と思った。
海岸につくなり、樹や煌汰、セルクを始めとした何人かの連中は飛び出していった。
樹はもともと海と泳ぐのが好きで、煌汰とセルクはもの珍しさから向かっていったらしい。
水着もないのに泳ぐのかよ…と言ったら、後で適当に術で乾かせばいいだろ、と言われた。
何となくだが想像つく…その乾かすのは、たぶん俺だ。
まあ、実際ものを燃やさずに水分を飛ばす火の術はあるようだし、使えるのだが。
ナイアや輝、キョウラなどは泳ぎはしないまでも、足首まで浸かったり軽く手に水を浴びたりしていた。
ラギルやタッド、康介は柳助の能力で砂に潜り、なんちゃって砂風呂を楽しんでいた…そんなに暑いわけでもないのだが。
俺は…秀典や渕部などと一緒に、近くの岩場に腰掛けて釣りをしていた。何となくだが、海に入りたくなかったのである。
まあ正確に言うと、水に入るということを体が受け付けなかった、という感じだが。
火の術…いや、火を操る能力を持つ故、水には入れない…といったところか。
まあごく自然なことではある…が、いざなるとなかなか辛いものがある。何故だか風呂には入れるから、そこは問題ないが。
「ここ、なんか釣れるのかな…」
思わずそうこぼした。
馬車に一応釣り用具があったが、餌はルアーである。
それに、俺は釣りなんてしたことない。果たして、釣れるのだろうか。
「さあな…でも、ボーッとしてるよりましだろ。それに、釣りって案外楽しいもんだぜ?」
渕部が言う。
俺は、ため息をついて首を振った。
…と、何かが針にかかった。
「おっ…!何かかかった!」
「マジか!どんな感じだ!?」
「何かって…わかんないけど、なんかかなり大物っぽい!」
何がかかったのかわからないが、やたらと重い。
ひょっとして、普通にデカい魚がかかったか?
俺は力いっぱい竿を引いた。
すると…
「えっ…?」
上がってきたのは魚ではなく、奇妙な姿をした女の子だった。
地上に引き上げてみると、それはくすんだ青色の髪に薄い水色の肌をしており、意識を失っているのか目を閉じていて全く動かない。
釣り針は髪にかかっていた。どうやらたまたま引っかかってしまったようだ。
「人…?どういう事だ?」
俺は、瞬間的に理解した。
「この子…きっと、海人だ!」
「え、海人!?」
「すぐにみんなを呼んで来てくれ!」
そうして、海岸の平坦な所に女の子を寝かせ、みんなで取り囲んだ。
「ふーむ…」
樹は顎に手をかけ、じっくりと彼女を観察していたが、やがてこちらを向いて言った。
「確かにこりゃ、海人だな。でも、真正の海人じゃあない」
「というと?」
「海人にも色々いるのさ…この子はたぶん、『|水守人《みずもりびと》』だ。手足がヒレみたいになってるけど、|鰓《えら》は見当たらないからな」
言われてみれば、この子は確かに手足がちょっと平べったく、ヒレのようになっている。
それと、守人と名前に入ってはいたが、何となく俺の同族ではない気がした。
「で、どうすんだ?」
「まだ生きてるみたいだからな…とりあえず浅瀬に寝かせておこう。海人は、水に浸ってないと死んじまう異人なんだ」
樹がそう言うので、適当な浅瀬に少女を寝かせた…全身が水に浸るようにして。
そのまま少女が目覚めるまで待つことにしたのだが、いつまで待っても目覚めなかった。
夜。
俺達は馬車を砂浜の近くの崖に停め、砂浜に集まって焚き火をしていた。
ここなら、いつでも彼女が起きた事に気づけるからである。
「しかし…まあ海人が釣りの餌にかかるのはたまにあることらしいけど、特にそういう訳でもなく針にかかるなんて…」
「針が髪に引っかかって、しかも意識を失ってた…ってことは、元々気絶してたってことだよな…」
ここで、ふと寝ていたという可能性が思い浮かんだので、一応樹に確認する。
「一応確認するけど、海人って、こんな陸の近く…っていうか浅い所で寝るのか?」
「いや…まあ種族によって細かい違いはあるけど、基本的にはある程度の深さの海底で寝るって聞くぜ。こんな浅い所で寝ることは…まあ絶対にないとは言わないけど、そうそうないと思うな」
「それがわかれば十分だ。おそらく、あの子は元々もっと沖の方にいたのが、どこかで何らかの原因で意識を失い、そのまま海流で流されて、この海岸に流れ着いたんだろう」
「で、それをたまたま姜芽が釣り上げたと…」
柳助は、ふーっとため息をついた。
「それにしても、まだ目覚めないとなると厄介だな。深夜に目覚めたら、一人でどこかへ行ってしまう可能性もある」
「なら、結界か何かで逃げ出せないようにしておけばいいんじゃないか?」
「それはダメだ。彼女は恐らく、まだ成長しきっていない水守人。子供の海人はただでさえ臆病だ。もし目覚めた時に自分が見知らぬ場所で拘束されていたら、ひどく恐怖する。朝になって、まともに話を聞くことなど出来ないだろう」
「それもそうか。となると、どうすれば…」
すると、柳助が立ち上がった。
「簡単な話だ。誰かが夜通し見ていればいい。そしてそれは、俺がやろう」
「…いいのか?」
「ああ。本当は龍神がいれば適任なのだがな」
そういや、昔自分でショートスリーパーだって言ってたな。
…まったく、つくづくなんでいないんだ。
「では、皆はゆっくり休め。彼女のことは、俺に任せてくれ」
すると、煌汰と樹があらぬ心配をした。
「大丈夫かよ…?海人ってデリケートなんだぜ?不器用な柳助にうまく扱えるかな?」
「うーん…まあいいけど、怖がらせないでよ?柳助みたいなデカブツを見たら、あの子ビビっちゃうかもしれない」
柳助に睨まれ、二人は黙り込んだ。
「…とにかく、彼女の番は俺がやる。明日の朝、何があったかを話そう」