142. 底なしの悪意

ー/ー



 五人が、身構える。

「そこだ! 曲がり角!」

 レオンが、鋭く叫んだ。

 その瞬間――。

「させない!」

 ルナが、即座に反応した。

 両手を前に突き出し、魔力を集中させる。深紅の魔力が彼女の周囲に渦を巻き、形を成していった。

「ファイヤースピアー!!」

 ルナの叫びと共に――巨大な炎の槍がすっ飛んでいく。

 それは、三メートルはある巨大な槍。純粋な炎でできており、槍先は白熱し、周囲の空気が歪むほどの熱を放っている。

 ゴオオオッ!

 炎の槍が、轟音を立てて回廊を駆け抜け、一気に曲がり角を回り込んでいった――――。

 ズドォォォンッ!!

 凄まじい爆発が、回廊を満たし、赤い炎が吹き出して天井まで届く。

 グギャァァ!!

 狂信者たちは吹き飛ばされ、炎に包まれ地面に転がった。

 衝撃波が吹き荒れ、熱風が一行の顔を撫で、目を細めさせる――。

 やがて、煙が晴れると――狂信者たちは黒焦げになって倒れていた。もう、動かない。

「やった……!」

 ルナが、小さくガッツポーズをする。

「ナイス! ルナ!」

 レオンが、満面の笑みで両手を高く上げた。

「えへへっ!」

 ルナが、ニヤッと笑い、小さな体で、ぴょんっ! と高く飛び上がる。

 パァン!

 空中で、レオンの手のひらとルナの小さな手のひらからいい音が響いた。

 ハイタッチ。

 それは、絆の証だった。
 

       ◇


 この後も、狂信者たちによる攻撃が続いた。

 回廊の曲がり角、部屋の入り口、至る所に狂信者たちが待ち構えていた。不協和音の歌を歌いながら、執拗に攻撃を仕掛けてくる。

 けれど、アルカナは動じなかった。

 もう、恐怖はない。戸惑いもない。ただ、戦うべき敵がいて、それを倒すだけ。

「左から三体! ミーシャ、シエル!」

 レオンが、的確に指示を出す。

「わかりました」「了解です!」

 ミーシャが敵の足元に沼を作り、身動きできなくしたところでシエルが矢を放つ。狂信者たちに着弾し、吹き飛ばした。

「右からも来るぞ! ルナ!」

「任せて! フレイムバースト!」

 ルナが、火球を放ち、狂信者たちを焼き払う。

「前方、エリナ!」

「了解!」

 エリナが、剣を構えて突進する。瞬足で接近し、一閃。狂信者が倒れる。

 完璧な連携。

 お互いの弱点を補い、強みを活かし、支え合う。それが、アルカナの強さだった。

 戦いながら、奥へ、奥へと進んでいく。


     ◇


「こっちに、何かありますわ……」

 ミーシャが、ふと立ち止まり、回廊の脇に続く通路を指さした。

 その通路は、他の場所よりもさらに暗く、冷たい空気が流れ出している。そして、奥から何か、不気味な音が聞こえてきた。

 ドクン……ドクン……。

 まるで、巨大な心臓が脈打つような音。

「……行ってみよう」

 レオンはその不気味さに顔をしかめ――覚悟を決めるように言った。


      ◇


 五人は、その通路へと足を踏み入れた。

 通路は、下へ、下へと続いている。階段を降り、さらに降り。どこまで続くのか分からない。空気が、どんどん重くなっていく。息苦しい。圧迫感がある。

 やがて、一行がたどり着いたのは――。

 人の手によるものとは思えない、巨大な地下大聖堂だった。

「なっ……!」

 五人が、息を呑んだ。

 その光景は、悪夢そのものだった。

 天井は、目視できないほど高く闇に沈んでいる。

 そして、その闇から――無数の大きな赤黒い繭が、吊り下げられていた。

 百個、千個どころじゃない。数え切れないほどの、無数の繭。それらが、まるで鍾乳洞の鍾乳石のように、びっしりと天井から垂れ下がっている。

 その一つ一つが、人間の体ほどの大きさ。いや、それ以上に大きいものもある。

 そして――。

 ドクン……ドクン……ドクン……

 その繭が、まるで巨大な心臓のように、不気味に脈打っている。

 リズムは不規則で、けれど確実に生きている。

 繭は半透明で、中には――異形の魔物が眠っているのが見えた。

 ゴブリン、オーク、ワーウルフ、そして見たこともない奇怪な生物。それらが、胎児のように丸まって、繭の中で眠っている。

「な、なに……これ……」

 ルナが、震える声で呟く。その顔は、恐怖で蒼白になっている。

「これは……大変だ……」

 レオンが慌てて大聖堂全体を見渡した。

 その数は――。

 一目で、万を超えている。

 いや、万では足りない。大聖堂の奥は、深淵のような闇に沈んでおり、そこにもまだ無数の繭が続いているようだった。

 十万。いや、それ以上。

 繭と天井は、まるで血管のように太い管で繋がれていた。その管の中を、赤黒い液体が流れているのが見える。脈打つたびに、液体が流れ、繭に栄養を送っているのだ。

 施設全体が、一つの巨大な生命体であるかのように蠢いていた。

「……なんてこと……」

 レオンの声が、戦慄に震える。

「これが……奴らの魔物プラント……」

 その言葉が、重く響く。

 これが、スタンピードを生み出す正体。無数の魔物が、ここで生み出され、育てられ、そして解き放たれる。王都を、いや、世界を滅ぼすために。

 アルカナの五人はその底なしの悪意にしばし言葉を失っていた。




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 五人が、身構える。
「そこだ! 曲がり角!」
 レオンが、鋭く叫んだ。
 その瞬間――。
「させない!」
 ルナが、即座に反応した。
 両手を前に突き出し、魔力を集中させる。深紅の魔力が彼女の周囲に渦を巻き、形を成していった。
「ファイヤースピアー!!」
 ルナの叫びと共に――巨大な炎の槍がすっ飛んでいく。
 それは、三メートルはある巨大な槍。純粋な炎でできており、槍先は白熱し、周囲の空気が歪むほどの熱を放っている。
 ゴオオオッ!
 炎の槍が、轟音を立てて回廊を駆け抜け、一気に曲がり角を回り込んでいった――――。
 ズドォォォンッ!!
 凄まじい爆発が、回廊を満たし、赤い炎が吹き出して天井まで届く。
 グギャァァ!!
 狂信者たちは吹き飛ばされ、炎に包まれ地面に転がった。
 衝撃波が吹き荒れ、熱風が一行の顔を撫で、目を細めさせる――。
 やがて、煙が晴れると――狂信者たちは黒焦げになって倒れていた。もう、動かない。
「やった……!」
 ルナが、小さくガッツポーズをする。
「ナイス! ルナ!」
 レオンが、満面の笑みで両手を高く上げた。
「えへへっ!」
 ルナが、ニヤッと笑い、小さな体で、ぴょんっ! と高く飛び上がる。
 パァン!
 空中で、レオンの手のひらとルナの小さな手のひらからいい音が響いた。
 ハイタッチ。
 それは、絆の証だった。
       ◇
 この後も、狂信者たちによる攻撃が続いた。
 回廊の曲がり角、部屋の入り口、至る所に狂信者たちが待ち構えていた。不協和音の歌を歌いながら、執拗に攻撃を仕掛けてくる。
 けれど、アルカナは動じなかった。
 もう、恐怖はない。戸惑いもない。ただ、戦うべき敵がいて、それを倒すだけ。
「左から三体! ミーシャ、シエル!」
 レオンが、的確に指示を出す。
「わかりました」「了解です!」
 ミーシャが敵の足元に沼を作り、身動きできなくしたところでシエルが矢を放つ。狂信者たちに着弾し、吹き飛ばした。
「右からも来るぞ! ルナ!」
「任せて! フレイムバースト!」
 ルナが、火球を放ち、狂信者たちを焼き払う。
「前方、エリナ!」
「了解!」
 エリナが、剣を構えて突進する。瞬足で接近し、一閃。狂信者が倒れる。
 完璧な連携。
 お互いの弱点を補い、強みを活かし、支え合う。それが、アルカナの強さだった。
 戦いながら、奥へ、奥へと進んでいく。
     ◇
「こっちに、何かありますわ……」
 ミーシャが、ふと立ち止まり、回廊の脇に続く通路を指さした。
 その通路は、他の場所よりもさらに暗く、冷たい空気が流れ出している。そして、奥から何か、不気味な音が聞こえてきた。
 ドクン……ドクン……。
 まるで、巨大な心臓が脈打つような音。
「……行ってみよう」
 レオンはその不気味さに顔をしかめ――覚悟を決めるように言った。
      ◇
 五人は、その通路へと足を踏み入れた。
 通路は、下へ、下へと続いている。階段を降り、さらに降り。どこまで続くのか分からない。空気が、どんどん重くなっていく。息苦しい。圧迫感がある。
 やがて、一行がたどり着いたのは――。
 人の手によるものとは思えない、巨大な地下大聖堂だった。
「なっ……!」
 五人が、息を呑んだ。
 その光景は、悪夢そのものだった。
 天井は、目視できないほど高く闇に沈んでいる。
 そして、その闇から――無数の大きな赤黒い繭が、吊り下げられていた。
 百個、千個どころじゃない。数え切れないほどの、無数の繭。それらが、まるで鍾乳洞の鍾乳石のように、びっしりと天井から垂れ下がっている。
 その一つ一つが、人間の体ほどの大きさ。いや、それ以上に大きいものもある。
 そして――。
 ドクン……ドクン……ドクン……
 その繭が、まるで巨大な心臓のように、不気味に脈打っている。
 リズムは不規則で、けれど確実に生きている。
 繭は半透明で、中には――異形の魔物が眠っているのが見えた。
 ゴブリン、オーク、ワーウルフ、そして見たこともない奇怪な生物。それらが、胎児のように丸まって、繭の中で眠っている。
「な、なに……これ……」
 ルナが、震える声で呟く。その顔は、恐怖で蒼白になっている。
「これは……大変だ……」
 レオンが慌てて大聖堂全体を見渡した。
 その数は――。
 一目で、万を超えている。
 いや、万では足りない。大聖堂の奥は、深淵のような闇に沈んでおり、そこにもまだ無数の繭が続いているようだった。
 十万。いや、それ以上。
 繭と天井は、まるで血管のように太い管で繋がれていた。その管の中を、赤黒い液体が流れているのが見える。脈打つたびに、液体が流れ、繭に栄養を送っているのだ。
 施設全体が、一つの巨大な生命体であるかのように蠢いていた。
「……なんてこと……」
 レオンの声が、戦慄に震える。
「これが……奴らの魔物プラント……」
 その言葉が、重く響く。
 これが、スタンピードを生み出す正体。無数の魔物が、ここで生み出され、育てられ、そして解き放たれる。王都を、いや、世界を滅ぼすために。
 アルカナの五人はその底なしの悪意にしばし言葉を失っていた。