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タイフーン・シグナル(前編)

ー/ー



 魔動トロッコがカタコトと揺れる。
 西日が差し込む窓際の席で、モチコは本を読んでいた。

 タワーへの最寄り駅が近づく。
 今日は出勤前に寄り道をして、先輩のご飯をつくるための食材を買うつもりだった。

 もうすぐ駅に着くというあたりで、突然、大きな音が聞こえてくる。

 キンコン、カーン――。

 街中に鳴り響く、鐘のような音。
 さらにアナウンスが続く。

「――台風が接近中です。ただいまより、タイフーンシグナル・ナンバー(シックス)を発令します」

 台風警戒信号(タイフーンシグナル)だ。
 しかも、シグナル6!

 シグナル6は、かなり脅威度の高い台風だ。
 モチコはまだ任務で経験したことがない。今までに戦った最も大きな台風でもシグナル4だった。
 全身に緊張が走る。
 
「――繰り返します。タイフーンシグナル・ナンバー6が発令されました。規則に従い、すみやかに行動願います」

 アナウンスが終わると、魔導トロッコの中が、ざわざわと慌ただしくなった。
 乗客たちがみな窓の外を心配そうに眺めている。

 食材の買い出しは中止しよう。
 駅につくと、モチコは高鳴る心臓を抑えて、急いでタワーへ直行することにした。

 タワーのある離れ小島へとつながる橋を、早歩きで渡っていく。
 その途中で、風が一気に強くなった。
 強風によろめきながらも、なんとか橋を渡り切る。
 もう少し来るのが遅くなっていたら、渡れなかったかもしれない。


 タワーに着くころには、強風で髪の毛がもしゃもしゃになっていた。
 待機室(ラウンジ)に入ると、ミライアとリサがテーブルで作戦を話しあっている。
 シズゥはあちこち駆け回って情報を集めていた。

 モチコもすぐに話に加わった。
 リサが説明を始める。

「現時点のシグナルは6。いま赤組が安全飛行限界(フライトライン)ギリギリのところでアタック中よ」
「6か。さすがに赤組だけじゃ厳しいね」
「そうね。赤組はなんとかして5まで落とすと言っているわ」
「5でも、街に大きな被害が出るのは避けられないか」
「ええ。そのあと白組が引き継いで、4以下に落としたいの」

 朝番がシグナル6を5まで落とし、夜番でさらに4以下に落とすのがミッションのようだ。
 地図で台風の位置を確認していると、シズゥがやってきた。

「ほい~。破けてたモッチーの制服、直しておいたから~」
「わ! ありがとうございます。すごい、完全に元どおりですね」
「まあね~。糸仕事は得意なんだ~」

 シズゥから受け取った制服を見て、その完璧な仕上がりに感動する。
 さっそく制服に着替えることにした。

 更衣室で私服を脱ぎ、制服に着替える。
 今日は服の下に、作ったペンダントをつけてきた。
 凛々しい赤の輝きを湛えた鉱石のペンダントを、制服のなかにひっそりと隠しておく。
 なんだかそれだけでドキドキした。

 更衣室から出ると、ミライアがスカーフを手にして待っていた。
 アルビレオの伝統。
 任務の前に、無事を祈ってお互いのスカーフを巻き合うのだ。

 モチコがミライアの前に立つ。
 少しかがんだミライアが、抱きしめるように両手をモチコの背中へと回す。

 このとき、いつもミライアから百合の花のような良い香りがするのだが、今日は変に緊張して香りを感じる余裕がない。
 スカーフを巻くときに、ペンダントがばれないだろうか。

 ミライアの手がセーラー服の襟のなかに入って、モチコの肩に触れ、胸の前に出る。
 スカーフ留めに通したスカーフの形を整え終わると、ミライアの手が離れた。

「よし。モチコ、オッケー」

 ペンダントを付けたネックレスチェーンは細く長いので、制服の中にうまくしまえば外からはチェーンも含めて全く見えない。
 どうやら無事、ばれずに乗りきったようだ。
 思わず、ふう、と息を吐く。

 そのあと、モチコがミライアにスカーフを巻いて、準備が整った。


 螺旋階段を上って中央展望室(コントロールルーム)へ移動すると、ちょうど朝番のメンバーがフライトから戻ってきたところだった。
 クールな声が耳に飛び込んでくる。

「ミライア」
「アリサ、お疲れ様」

 アリサ隊長から、さっそく情報の引き継ぎをする。
 それによると、赤組のふたりで計4発もの凍結スクロールを台風へ撃ち込み、シグナル5まで落とすことに成功したそうだ。

 少し遅れて、マルシャが螺旋階段を降りて来た。

「ミライア様ぁぁ、おつかれさまですぅぅ」
「ああ、マルシャ。お疲れ様」

 マルシャはミライアに挨拶したあと、今度はモチコの方を向いた。

「おう、白かっぱ。おつかれ」
「マルシャ、びしょ濡れだね」

 ホウキを手に持って立つマルシャは、全身ずぶ濡れだった。
 タマネギの芽みたいな短いツインテールも、ボサボサに乱れている。

「シグナル6だと、さすがに濡れるわね」
「雨避けのスクロールでも防げないなんて、すごい台風だ」
「今回のは結構でかいわよ。近づくのに骨が折れるったらありゃしないわぁぁ。しかものろまだし」

 今回の台風は動きが遅いらしい。
 進むのが遅い台風は、長い時間をかけて街を通るので、被害が大きくなる。

「白かっぱ、あとは頼んだわよ」
「うん。がんばります」

 そう言うと、マルシャは螺旋階段を下へ降りていった。
 ずぶ濡れなのでシャワーを浴びて着替えるのだろう。

 あとは頼んだ――。
 マルシャのその言葉は、メンバーとして信頼されている証だ。
 それはモチコにとって、とても嬉しいことだった。

(後編へ続く)


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次のエピソードへ進む タイフーン・シグナル(後編)


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 魔動トロッコがカタコトと揺れる。
 西日が差し込む窓際の席で、モチコは本を読んでいた。
 タワーへの最寄り駅が近づく。
 今日は出勤前に寄り道をして、先輩のご飯をつくるための食材を買うつもりだった。
 もうすぐ駅に着くというあたりで、突然、大きな音が聞こえてくる。
 キンコン、カーン――。
 街中に鳴り響く、鐘のような音。
 さらにアナウンスが続く。
「――台風が接近中です。ただいまより、タイフーンシグナル・ナンバー|6《シックス》を発令します」
 |台風警戒信号《タイフーンシグナル》だ。
 しかも、シグナル6!
 シグナル6は、かなり脅威度の高い台風だ。
 モチコはまだ任務で経験したことがない。今までに戦った最も大きな台風でもシグナル4だった。
 全身に緊張が走る。
「――繰り返します。タイフーンシグナル・ナンバー6が発令されました。規則に従い、すみやかに行動願います」
 アナウンスが終わると、魔導トロッコの中が、ざわざわと慌ただしくなった。
 乗客たちがみな窓の外を心配そうに眺めている。
 食材の買い出しは中止しよう。
 駅につくと、モチコは高鳴る心臓を抑えて、急いでタワーへ直行することにした。
 タワーのある離れ小島へとつながる橋を、早歩きで渡っていく。
 その途中で、風が一気に強くなった。
 強風によろめきながらも、なんとか橋を渡り切る。
 もう少し来るのが遅くなっていたら、渡れなかったかもしれない。
 タワーに着くころには、強風で髪の毛がもしゃもしゃになっていた。
 |待機室《ラウンジ》に入ると、ミライアとリサがテーブルで作戦を話しあっている。
 シズゥはあちこち駆け回って情報を集めていた。
 モチコもすぐに話に加わった。
 リサが説明を始める。
「現時点のシグナルは6。いま赤組が|安全飛行限界《フライトライン》ギリギリのところでアタック中よ」
「6か。さすがに赤組だけじゃ厳しいね」
「そうね。赤組はなんとかして5まで落とすと言っているわ」
「5でも、街に大きな被害が出るのは避けられないか」
「ええ。そのあと白組が引き継いで、4以下に落としたいの」
 朝番がシグナル6を5まで落とし、夜番でさらに4以下に落とすのがミッションのようだ。
 地図で台風の位置を確認していると、シズゥがやってきた。
「ほい~。破けてたモッチーの制服、直しておいたから~」
「わ! ありがとうございます。すごい、完全に元どおりですね」
「まあね~。糸仕事は得意なんだ~」
 シズゥから受け取った制服を見て、その完璧な仕上がりに感動する。
 さっそく制服に着替えることにした。
 更衣室で私服を脱ぎ、制服に着替える。
 今日は服の下に、作ったペンダントをつけてきた。
 凛々しい赤の輝きを湛えた鉱石のペンダントを、制服のなかにひっそりと隠しておく。
 なんだかそれだけでドキドキした。
 更衣室から出ると、ミライアがスカーフを手にして待っていた。
 アルビレオの伝統。
 任務の前に、無事を祈ってお互いのスカーフを巻き合うのだ。
 モチコがミライアの前に立つ。
 少しかがんだミライアが、抱きしめるように両手をモチコの背中へと回す。
 このとき、いつもミライアから百合の花のような良い香りがするのだが、今日は変に緊張して香りを感じる余裕がない。
 スカーフを巻くときに、ペンダントがばれないだろうか。
 ミライアの手がセーラー服の襟のなかに入って、モチコの肩に触れ、胸の前に出る。
 スカーフ留めに通したスカーフの形を整え終わると、ミライアの手が離れた。
「よし。モチコ、オッケー」
 ペンダントを付けたネックレスチェーンは細く長いので、制服の中にうまくしまえば外からはチェーンも含めて全く見えない。
 どうやら無事、ばれずに乗りきったようだ。
 思わず、ふう、と息を吐く。
 そのあと、モチコがミライアにスカーフを巻いて、準備が整った。
 螺旋階段を上って|中央展望室《コントロールルーム》へ移動すると、ちょうど朝番のメンバーがフライトから戻ってきたところだった。
 クールな声が耳に飛び込んでくる。
「ミライア」
「アリサ、お疲れ様」
 アリサ隊長から、さっそく情報の引き継ぎをする。
 それによると、赤組のふたりで計4発もの凍結スクロールを台風へ撃ち込み、シグナル5まで落とすことに成功したそうだ。
 少し遅れて、マルシャが螺旋階段を降りて来た。
「ミライア様ぁぁ、おつかれさまですぅぅ」
「ああ、マルシャ。お疲れ様」
 マルシャはミライアに挨拶したあと、今度はモチコの方を向いた。
「おう、白かっぱ。おつかれ」
「マルシャ、びしょ濡れだね」
 ホウキを手に持って立つマルシャは、全身ずぶ濡れだった。
 タマネギの芽みたいな短いツインテールも、ボサボサに乱れている。
「シグナル6だと、さすがに濡れるわね」
「雨避けのスクロールでも防げないなんて、すごい台風だ」
「今回のは結構でかいわよ。近づくのに骨が折れるったらありゃしないわぁぁ。しかものろまだし」
 今回の台風は動きが遅いらしい。
 進むのが遅い台風は、長い時間をかけて街を通るので、被害が大きくなる。
「白かっぱ、あとは頼んだわよ」
「うん。がんばります」
 そう言うと、マルシャは螺旋階段を下へ降りていった。
 ずぶ濡れなのでシャワーを浴びて着替えるのだろう。
 あとは頼んだ――。
 マルシャのその言葉は、メンバーとして信頼されている証だ。
 それはモチコにとって、とても嬉しいことだった。
(後編へ続く)