秘密の宝石は親愛の証(中編)
ー/ー
本屋を出ると、魔法学校の制服を着た女学生たちが街を歩いていた。
ちょうど学校の帰りだろうか。
モチコは学生だった頃を思い出す。
あのときは、一緒におでかけする友達なんていなかったな。
ランランは友達だけど、やつは全然ショッピングなんていかないし。
今日こうして、ともに過ごせる仲間がいることが、なんてありがたいことか。
これも元をたどれば、先輩が相方に選んでくれたおかげだ。
「先輩には、感謝してもしきれないな……」
モチコはつぶやく。
と、どこからか呼びかける声が聞こえた。
どうやら、街を歩いていた女学生たちから声をかけられたらしい。
女学生たちは、マルシャとチャンチャルに話があるようだった。
この街にある魔法学校の生徒たちにとって、シグナスは憧れの就職先のひとつだ。
まして、アルビレオとなれば花形。
現役のアルビレオとして活躍するマルシャやチャンチャルの顔は、学生たちにも知られていた。
女学生たちは憧れのアルビレオを見つけて、思わず声をかけたようだ。
お仕事は大変ですか、とか。
応援してます、とか。話が盛り上がっている。
新入りのモチコはまだ認知されていないようで、会話に参加できず端の方でぼんやりとしていた。
特に悲しいわけでは無いが、手持ち無沙汰だ。
仕方なくまわりを眺めていると、別の女学生たちが近くのお店から出てきたのに気づく。
「お、何のお店だろ?」
女学生たちが、とても楽しそうにきゃあきゃあ言いながら出てきたので、ちょっと気になった。
外に看板がないうえに、中が暗くて見えないので、何のお店か分からない。
試しに入ってみよう。
足を踏み入れると、薄暗い店内に、ちらちらと輝く光のつぶつぶが見えた。
「わっ、すごい!」
それは、たくさんの鉱石たちの輝きだった。
さまざまな石がところ狭しと並べられている。
あえて店内を暗くして、魔導ランプの光を当てることで、鉱石をまるで宝石のように輝かせているのだ。
「鉱石のアクセサリーのお店だ」
ガラスケースの中には高価な魔導鉱石も売られていたが、テーブルには安価なガラス玉なんかもあった。
女学生たちでも買える値段のものもあるようだ。
「……な、な、なにかお探し、でしょうか……?」
奥の暗がりから、自信なさげに震える声が聞こえてきた。
丸メガネをかけた店員さんが、オドオドとした様子で立っている。
「あ、えっと――」
たまたま立ち寄っただけ、と言おうとした。
が、新たに店に入って来た女学生たちの大きな笑い声でかき消された。
女学生たちは手頃な石のコーナーを見て、どれにしようかと盛り上がっている。
その手には『ひみしん』が携えられていた。
そういえば、ちーちゃんが言っていたな。
ひみしんの影響で、相手の瞳とおなじ色の石でペンダントを作るのが流行ってるって。
女学生たちが盛り上がっているのは、これか。
「ぺ、ぺ、ペンダント用の石でしたら、こ、こちらがお勧めです」
丸メガネの店員さんは、モチコが女学生の方を見ていたので同じ目的だと思ったようだ。
どもりながらも懸命に説明をし始めた。
予算別にお勧めの石とか、ペンダントに適した石の大きさとか、石の形が輝きに及ぼす影響とか。
なぜか店員さんは終始テンパっていて、丸メガネの奥の瞳はぐるぐる回っているような状態だったけれど、親身にサポートしようとする気持ちが伝わってくる。
最初は買うつもりの無かったモチコも、せっかくだからひとつ買っていこうかな、という気持ちになっていた。
「じゃあ……、赤い石はどのあたりにありますか?」
モチコはそう尋ねた。
感謝の気持ちを示すのであれば、やっぱり先輩だろう。
店員さんが案内してくれたテーブルには、いろんな種類の赤い石が並んでいた。
「赤だけでも、こんなにいっぱいあるんですね」
「は、は、はい……。ひとくちに赤色といっても、ひ、百種類以上はありますから」
赤色だけで多くのバリエーションがあり、見る角度や、光の加減でさらに色が変化するそうだ。
細かいことまで考えるよりも、見たときの直感で選ぶのが良いとアドバイスをくれた。
ミライアの瞳を思い出しながら、並べられた赤い石たちを眺めていく。
どれも赤色なので、だんだん違いが分からなくなりかけたとき、ぴたりとひとつの石に目が留まった。
「この石……」
尽きない情熱と強い意志を感じさせるような赤。
ミライアの瞳の色だった。
「……い、い、いい色ですね。り、凛々しさを湛えた赤です」
「はい。これにします」
モチコはその石を購入することにした。
わりと高価な石だったそうだが、サイズが小さいものを選んだので、それほど高くつかずに済んだ。
「さ、さ、サービスで、ペンダントをつくる材料も差し上げますね」
そう言って店員さんが差し出したのは、ネックレスのチェーンと、いくつかの小さい金具だった。
「う、う、うちの店で加工もできますけど、こ、このペンダントはご自身でつくることに意味がありますので」
「こんなにサービスしてもらって、いいんですか?」
「ふ、ふ、ふふ。また来てください。ふ、普段使いのアクセサリーにぴったりの石もたくさんありますから」
モチコは丸メガネの店員さんにお礼を言い、赤い石とペンダントの材料をトートバックに入れて店を出た。
店員さんは最後までテンパって目もぐるぐるしていたけど、不思議と心に響く接客だった。
また来たいな。
(後編へ続く)
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ちょうど学校の帰りだろうか。
モチコは学生だった頃を思い出す。
あのときは、一緒におでかけする友達なんていなかったな。
ランランは友達だけど、やつは全然ショッピングなんていかないし。
今日こうして、ともに過ごせる仲間がいることが、なんてありがたいことか。
これも元をたどれば、先輩が相方に選んでくれたおかげだ。
「先輩には、感謝してもしきれないな……」
モチコはつぶやく。
と、どこからか呼びかける声が聞こえた。
どうやら、街を歩いていた女学生たちから声をかけられたらしい。
女学生たちは、マルシャとチャンチャルに話があるようだった。
この街にある魔法学校の生徒たちにとって、シグナスは憧れの就職先のひとつだ。
まして、アルビレオとなれば花形。
現役のアルビレオとして活躍するマルシャやチャンチャルの顔は、学生たちにも知られていた。
女学生たちは憧れのアルビレオを見つけて、思わず声をかけたようだ。
お仕事は大変ですか、とか。
応援してます、とか。話が盛り上がっている。
新入りのモチコはまだ認知されていないようで、会話に参加できず端の方でぼんやりとしていた。
特に悲しいわけでは無いが、手持ち無沙汰だ。
仕方なくまわりを眺めていると、別の女学生たちが近くのお店から出てきたのに気づく。
「お、何のお店だろ?」
女学生たちが、とても楽しそうにきゃあきゃあ言いながら出てきたので、ちょっと気になった。
外に看板がないうえに、中が暗くて見えないので、何のお店か分からない。
試しに入ってみよう。
足を踏み入れると、薄暗い店内に、ちらちらと輝く光のつぶつぶが見えた。
「わっ、すごい!」
それは、たくさんの鉱石たちの輝きだった。
さまざまな石がところ狭しと並べられている。
あえて店内を暗くして、魔導ランプの光を当てることで、鉱石をまるで宝石のように輝かせているのだ。
「鉱石のアクセサリーのお店だ」
ガラスケースの中には高価な魔導鉱石も売られていたが、テーブルには安価なガラス玉なんかもあった。
女学生たちでも買える値段のものもあるようだ。
「……な、な、なにかお探し、でしょうか……?」
奥の暗がりから、自信なさげに震える声が聞こえてきた。
丸メガネをかけた店員さんが、オドオドとした様子で立っている。
「あ、えっと――」
たまたま立ち寄っただけ、と言おうとした。
が、新たに店に入って来た女学生たちの大きな笑い声でかき消された。
女学生たちは手頃な石のコーナーを見て、どれにしようかと盛り上がっている。
その手には『ひみしん』が携えられていた。
そういえば、ちーちゃんが言っていたな。
ひみしんの影響で、相手の瞳とおなじ色の石でペンダントを作るのが流行ってるって。
女学生たちが盛り上がっているのは、これか。
「ぺ、ぺ、ペンダント用の石でしたら、こ、こちらがお勧めです」
丸メガネの店員さんは、モチコが女学生の方を見ていたので同じ目的だと思ったようだ。
どもりながらも懸命に説明をし始めた。
予算別にお勧めの石とか、ペンダントに適した石の大きさとか、石の形が輝きに及ぼす影響とか。
なぜか店員さんは終始テンパっていて、丸メガネの奥の瞳はぐるぐる回っているような状態だったけれど、親身にサポートしようとする気持ちが伝わってくる。
最初は買うつもりの無かったモチコも、せっかくだからひとつ買っていこうかな、という気持ちになっていた。
「じゃあ……、赤い石はどのあたりにありますか?」
モチコはそう尋ねた。
感謝の気持ちを示すのであれば、やっぱり先輩だろう。
店員さんが案内してくれたテーブルには、いろんな種類の赤い石が並んでいた。
「赤だけでも、こんなにいっぱいあるんですね」
「は、は、はい……。ひとくちに赤色といっても、ひ、百種類以上はありますから」
赤色だけで多くのバリエーションがあり、見る角度や、光の加減でさらに色が変化するそうだ。
細かいことまで考えるよりも、見たときの直感で選ぶのが良いとアドバイスをくれた。
ミライアの瞳を思い出しながら、並べられた赤い石たちを眺めていく。
どれも赤色なので、だんだん違いが分からなくなりかけたとき、ぴたりとひとつの石に目が留まった。
「この石……」
尽きない情熱と強い意志を感じさせるような赤。
ミライアの瞳の色だった。
「……い、い、いい色ですね。り、凛々しさを湛えた赤です」
「はい。これにします」
モチコはその石を購入することにした。
わりと高価な石だったそうだが、サイズが小さいものを選んだので、それほど高くつかずに済んだ。
「さ、さ、サービスで、ペンダントをつくる材料も差し上げますね」
そう言って店員さんが差し出したのは、ネックレスのチェーンと、いくつかの小さい金具だった。
「う、う、うちの店で加工もできますけど、こ、このペンダントはご自身でつくることに意味がありますので」
「こんなにサービスしてもらって、いいんですか?」
「ふ、ふ、ふふ。また来てください。ふ、普段使いのアクセサリーにぴったりの石もたくさんありますから」
モチコは丸メガネの店員さんにお礼を言い、赤い石とペンダントの材料をトートバックに入れて店を出た。
店員さんは最後までテンパって目もぐるぐるしていたけど、不思議と心に響く接客だった。
また来たいな。
(後編へ続く)