表示設定
表示設定
目次 目次




第9話:消えた英雄

ー/ー



異様な沈黙が満ちていた。
処刑台の爆発の報が伝令によって王の元に泥板。

王の前に跪く伝令は、青ざめた顔で声を震わせる。

「し、処刑場にて……爆発が発生。
 対象は……黒煙の中で視認できず……姿を消しました!」

「結界班、魔術封じも突破され、対応が――っ」

王エルヴァンは、静かに手を上げ、伝令の言葉を止めた。

「……姿を消した?」

「死体の痕跡は一切なし……完全に姿を消しました」

玉座に腰を下ろした王は、しばし思案するように口を開いた。

「まさか逃げたのか?この厳戒態勢からどうやって?」

王エルヴァンは、静かに玉座に腰を下ろしていた。
白金の装飾に囲まれた謁見の間に、足音だけが響く。

ロイ副団長とフィリアが膝をつき、報告を始めた。
セリスの肩が、わずかに震えた。
王の隣に座す聖女の顔から、血の気が引いていた。

(……生きてる?カイン……)

王の視線が彼女に向いた。

「(忌々しい男だ。ここで死んでいれば聖女は完全に私のモノになり、すべて上手くいったものを)」

王は怒りに震えながら処刑台を見下ろした。

焦げた木材と崩れた石材の中、騎士団の魔術班が複雑な結界痕を分析していた。
その中央に立つのは、フィリア。
彼女は微細な魔力の揺らぎを感じながら、眉をひそめていた。

「これは……普通の爆破じゃない」

副団長ロイが背後から近づく。

「どういう意味だ?」

フィリアは静かに指を掲げた。

「爆心地の魔力痕、火と風の属性があるにはある。
 でも……中心にある術式構造が爆破のそれじゃない」

「むしろ……座標指定型の転移術式。
 しかも、かなり古くて、禁書級の魔術よ」

ロイの表情が固まる。

「転移……? どこかへ飛んだ?または飛ばされたと?」

「おそらく、どこか別の場所へ強制的に送り出すための術式」

「移動先はわかりそうか?」

フィリアは無言で首を振った。

「無理。術の気配をまったく感じない。……恐ろしく高度な魔術みたい」

「……もしかすると、人の術式じゃないのかもしれない」

場に沈黙が落ちる。
ロイが静かに告げる。

「人でないとすると魔族の術式かもしれん。王には報告する必要があるな」

王エルヴァンは、静かに玉座に腰を下ろしていた。
白金の装飾に囲まれた謁見の間に、足音だけが響く。

ロイ副団長とフィリアが膝をつき、報告を始めた。

「陛下、調査の結果がまとまりました。
 処刑場の爆発は“煙幕”に過ぎず、極めて高度な転移魔術による発動が原因でした」

王のまなざしが鋭くなる。

「……転移?」

フィリアが口を継ぐ。

「はい。王国で記録されているどの系統の魔術とも異なる、古式の転位術痕を確認しました」

王の指が、肘掛けをトン、と軽く叩いた。

しばし沈黙――

そして、低く笑う。

「ふむ。……面白い」

その笑いには、冷静と怒りが混ざっていた。

「ただの逃走ではないな。魔族の仕業の可能性があるな」

フィリアがわずかに唇を噛む。
ロイは黙って顔を伏せた。

「騎士団は速やかに捜索を開始せよ。
 可能であれば拘束し、抵抗するなら――排除せよ」

その声は感情を殺したまま、冷徹に響いた。
重い沈黙が広がったのち、ロイとフィリアが静かに頭を垂れる。

「……謹んで、拝命いたします」

それ以上、言葉は出なかった。
彼らは無言のまま玉座の間を後にした。

背を向けながらも、胸の奥に残ったのは忠誠ではなく、言いようのない重苦しさだった。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第10話:封じられた存在


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



異様な沈黙が満ちていた。
処刑台の爆発の報が伝令によって王の元に泥板。
王の前に跪く伝令は、青ざめた顔で声を震わせる。
「し、処刑場にて……爆発が発生。
 対象は……黒煙の中で視認できず……姿を消しました!」
「結界班、魔術封じも突破され、対応が――っ」
王エルヴァンは、静かに手を上げ、伝令の言葉を止めた。
「……姿を消した?」
「死体の痕跡は一切なし……完全に姿を消しました」
玉座に腰を下ろした王は、しばし思案するように口を開いた。
「まさか逃げたのか?この厳戒態勢からどうやって?」
王エルヴァンは、静かに玉座に腰を下ろしていた。
白金の装飾に囲まれた謁見の間に、足音だけが響く。
ロイ副団長とフィリアが膝をつき、報告を始めた。
セリスの肩が、わずかに震えた。
王の隣に座す聖女の顔から、血の気が引いていた。
(……生きてる?カイン……)
王の視線が彼女に向いた。
「(忌々しい男だ。ここで死んでいれば聖女は完全に私のモノになり、すべて上手くいったものを)」
王は怒りに震えながら処刑台を見下ろした。
焦げた木材と崩れた石材の中、騎士団の魔術班が複雑な結界痕を分析していた。
その中央に立つのは、フィリア。
彼女は微細な魔力の揺らぎを感じながら、眉をひそめていた。
「これは……普通の爆破じゃない」
副団長ロイが背後から近づく。
「どういう意味だ?」
フィリアは静かに指を掲げた。
「爆心地の魔力痕、火と風の属性があるにはある。
 でも……中心にある術式構造が爆破のそれじゃない」
「むしろ……座標指定型の転移術式。
 しかも、かなり古くて、禁書級の魔術よ」
ロイの表情が固まる。
「転移……? どこかへ飛んだ?または飛ばされたと?」
「おそらく、どこか別の場所へ強制的に送り出すための術式」
「移動先はわかりそうか?」
フィリアは無言で首を振った。
「無理。術の気配をまったく感じない。……恐ろしく高度な魔術みたい」
「……もしかすると、人の術式じゃないのかもしれない」
場に沈黙が落ちる。
ロイが静かに告げる。
「人でないとすると魔族の術式かもしれん。王には報告する必要があるな」
王エルヴァンは、静かに玉座に腰を下ろしていた。
白金の装飾に囲まれた謁見の間に、足音だけが響く。
ロイ副団長とフィリアが膝をつき、報告を始めた。
「陛下、調査の結果がまとまりました。
 処刑場の爆発は“煙幕”に過ぎず、極めて高度な転移魔術による発動が原因でした」
王のまなざしが鋭くなる。
「……転移?」
フィリアが口を継ぐ。
「はい。王国で記録されているどの系統の魔術とも異なる、古式の転位術痕を確認しました」
王の指が、肘掛けをトン、と軽く叩いた。
しばし沈黙――
そして、低く笑う。
「ふむ。……面白い」
その笑いには、冷静と怒りが混ざっていた。
「ただの逃走ではないな。魔族の仕業の可能性があるな」
フィリアがわずかに唇を噛む。
ロイは黙って顔を伏せた。
「騎士団は速やかに捜索を開始せよ。
 可能であれば拘束し、抵抗するなら――排除せよ」
その声は感情を殺したまま、冷徹に響いた。
重い沈黙が広がったのち、ロイとフィリアが静かに頭を垂れる。
「……謹んで、拝命いたします」
それ以上、言葉は出なかった。
彼らは無言のまま玉座の間を後にした。
背を向けながらも、胸の奥に残ったのは忠誠ではなく、言いようのない重苦しさだった。