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第3話:断絶の血脈

ー/ー



瑞穂と刹那は、社の裏手に広がる竹林を抜け、焔木の屋敷へと続く道を静かに歩いていた。夜風が木々を揺らし、葉擦れの音が彼女たちの胸のざわめきと重なる。

「……あいつ、目がまるで死んでたよ」

刹那がぽつりと呟いた。
それに対し、瑞穂は口を噤んだまま、少しだけ歩調を速める。

すると、一本道の先に人影が現れた。
五人――いや、六人の男たちが、道の中央を塞ぐように立ちはだかっていた。

「……また、厄介なのが来たわね」

瑞穂が小さく息をついた瞬間、男たちの中から一人がぬっと前に出る。
月明かりに照らされたその男の顔を、瑞穂はすぐに識別した。

焔木健太(ほむらぎ けんた)。

焔木一族の本家に連なる名門の嫡男であり、そして――瑞穂の婚約者だ。しかし、互いに情愛など微塵も抱いていない。

それは表面上の“血の契約”にすぎず、今やその関係は、むしろ冷え切っているどころか敵対に近い。

「よう、瑞穂。随分とご立派な顔をしてるじゃねぇか」健太は唇を歪めて嗤った。

「ちゃんと伝えたか? “処刑日”のことをよ。あの無能に」

瑞穂の目が鋭くなる。

「……“試練”です。彼に与えられたのは。あなたのような腐った人間には理解できないでしょうけど」

「はっ。お前、まだあいつに幻想抱いてんのか? 力がある? 笑わせるなよ。
あんなの、子どもを半殺しにした暴れ馬じゃねぇか」

「黙りなさい健太。あなたの立場を弁えなさい」

「俺の立場? 瑞穂、お前こそ分かってるか? お前が当主の座を狙う以上、俺がその影の支配者になるんだ。俺に口出す資格がないとでも?」

健太の言葉には、明らかに支配欲が滲んでいた。
それは、婚約者という立場を使って瑞穂を操ろうとする、見下しの感情に満ちていた。

「健太……」

怒気を帯びた声が背後から割って入った。刹那だ。

「さっきから聞いてりゃいい気になって……それ以上言ったら、マジでぶっ飛ばすよ」

「おー怖い怖い。さすが護衛崩れ。血の気だけは一人前だな」

健太はせせら笑いながら一歩下がると、背後の部下に目配せをした。
男たちは無言のまま、まるで何事もなかったかのように踵を返して去っていく。
去り際、健太が振り返り、捨て台詞を投げつけた。

「せいぜい祈ってな、瑞穂。お前の可哀想な落ちこぼれが三日持ちますようにってな」

健太たちの気配が完全に消えるまで、瑞穂はその場を動かなかった。

「……瑞穂、大丈夫?」

刹那が小声で問いかけると、瑞穂は静かに首を横に振った。

「……情けないですね。あの程度の男に、私が婚約者と呼ばれているなんて」

「いや、あれはさすがに最低すぎるよ。人の命を処分とか言って笑うなんて……!」

「今の焔木一族には、ああいう者が多い。上に立つ者ほど、力のない者を見下し、捨て駒として扱う……」

瑞穂の拳が、無意識に強く握りしめられていた。

「だからこそ、私は当主になる。力なき者を切り捨てる一族ではなく、力を信じ、導く一族に変えるために」

彼女の言葉には、揺るぎない意志が宿っていた。
刹那はそっと頷く。

その目には、瑞穂という存在への尊敬と、海人への希望が同時に宿っていた。

「……海人は、必ず生きて帰ってくるよ。あいつ、ああ見えてタフだからさ」

「ええ。私たちが、そう信じて待っていなければなりませんね」

二人の歩みが再び始まる。
その先には、焔木一族の腐敗と、再生の物語が待っている。

瑞穂はもう迷わない。
過去に縛られるのではなく、未来を自分の手で切り拓くために。


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瑞穂と刹那は、社の裏手に広がる竹林を抜け、焔木の屋敷へと続く道を静かに歩いていた。夜風が木々を揺らし、葉擦れの音が彼女たちの胸のざわめきと重なる。
「……あいつ、目がまるで死んでたよ」
刹那がぽつりと呟いた。
それに対し、瑞穂は口を噤んだまま、少しだけ歩調を速める。
すると、一本道の先に人影が現れた。
五人――いや、六人の男たちが、道の中央を塞ぐように立ちはだかっていた。
「……また、厄介なのが来たわね」
瑞穂が小さく息をついた瞬間、男たちの中から一人がぬっと前に出る。
月明かりに照らされたその男の顔を、瑞穂はすぐに識別した。
焔木健太(ほむらぎ けんた)。
焔木一族の本家に連なる名門の嫡男であり、そして――瑞穂の婚約者だ。しかし、互いに情愛など微塵も抱いていない。
それは表面上の“血の契約”にすぎず、今やその関係は、むしろ冷え切っているどころか敵対に近い。
「よう、瑞穂。随分とご立派な顔をしてるじゃねぇか」健太は唇を歪めて嗤った。
「ちゃんと伝えたか? “処刑日”のことをよ。あの無能に」
瑞穂の目が鋭くなる。
「……“試練”です。彼に与えられたのは。あなたのような腐った人間には理解できないでしょうけど」
「はっ。お前、まだあいつに幻想抱いてんのか? 力がある? 笑わせるなよ。
あんなの、子どもを半殺しにした暴れ馬じゃねぇか」
「黙りなさい健太。あなたの立場を弁えなさい」
「俺の立場? 瑞穂、お前こそ分かってるか? お前が当主の座を狙う以上、俺がその影の支配者になるんだ。俺に口出す資格がないとでも?」
健太の言葉には、明らかに支配欲が滲んでいた。
それは、婚約者という立場を使って瑞穂を操ろうとする、見下しの感情に満ちていた。
「健太……」
怒気を帯びた声が背後から割って入った。刹那だ。
「さっきから聞いてりゃいい気になって……それ以上言ったら、マジでぶっ飛ばすよ」
「おー怖い怖い。さすが護衛崩れ。血の気だけは一人前だな」
健太はせせら笑いながら一歩下がると、背後の部下に目配せをした。
男たちは無言のまま、まるで何事もなかったかのように踵を返して去っていく。
去り際、健太が振り返り、捨て台詞を投げつけた。
「せいぜい祈ってな、瑞穂。お前の可哀想な落ちこぼれが三日持ちますようにってな」
健太たちの気配が完全に消えるまで、瑞穂はその場を動かなかった。
「……瑞穂、大丈夫?」
刹那が小声で問いかけると、瑞穂は静かに首を横に振った。
「……情けないですね。あの程度の男に、私が婚約者と呼ばれているなんて」
「いや、あれはさすがに最低すぎるよ。人の命を処分とか言って笑うなんて……!」
「今の焔木一族には、ああいう者が多い。上に立つ者ほど、力のない者を見下し、捨て駒として扱う……」
瑞穂の拳が、無意識に強く握りしめられていた。
「だからこそ、私は当主になる。力なき者を切り捨てる一族ではなく、力を信じ、導く一族に変えるために」
彼女の言葉には、揺るぎない意志が宿っていた。
刹那はそっと頷く。
その目には、瑞穂という存在への尊敬と、海人への希望が同時に宿っていた。
「……海人は、必ず生きて帰ってくるよ。あいつ、ああ見えてタフだからさ」
「ええ。私たちが、そう信じて待っていなければなりませんね」
二人の歩みが再び始まる。
その先には、焔木一族の腐敗と、再生の物語が待っている。
瑞穂はもう迷わない。
過去に縛られるのではなく、未来を自分の手で切り拓くために。