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第1章 この川辺で暇をつぶすだけの青春があってもええんちゃう?〜⑦〜

ー/ー



 オッサンから興味深い話を聞いてからというもの、平日の月曜から木曜まで、大学の講義が終わったあと、書店でのバイトが始まる時間までの暇つぶしとして、その場所を訪れることがボクの日課になった。

 ここは、ショッピングモールつかしんの中心に位置し、モール内を流れる小川のほとりにあるカリヨンガーデン開放感あふれるヨーロッパ風の景観になっている広場だ。名前のとおり、その一角には象徴として高さ数十メートルのカリヨン塔がそびえ立っている。さらに、定刻になると鐘の音が響き渡り、施設内に時を告げる。

 また、 床面や周囲の建物は温かみのあるレンガタイルで統一されていて、まるで西洋の街角のような情緒漂う景観を作り出されている。

 ボクとオッサンが腰掛けている石段の近くには噴水があり、水が流れる音が心地よく響いている。夏場には子供たちが水遊びを楽しむ光景も見られる、いわゆる憩いのスポットだ。バイトのシフトが入っていない休日にこの場所を訪れることは無いので、土日や祝日の様子はわからないが、少なくとも平日は、自分たちのような人間が不審者あつかいされるほど、人出は多くない。

「今日も来たんか? 王子さまも暇やな」

 こちらの顔をチラリと見たあと、ニヤリと笑ったオッサンに、無表情のまま返答する。

「バイト前の時間潰しって言ったじゃん。ここで、バイトが始まる4時前まで過ごすのが、ちょうど、良いんだよ」

 オッサンと何度か話すうちに打ち解けたボクは、中年男性を相手にしても、いわゆるタメ(ぐち)で話すようになっていた。

「ほな、しゃあないな。今日も王子さまの暇つぶしに付き合おか。バイトが始まるまで、暇で暇で仕方ない王子くんに、今日は特別なゲームを用意してきたで」

「なんだよ、ゲームって? こっちは、なにも準備してないんだけど?」

「大丈夫、大丈夫。モノはなにも要らんから。必要なのは、ココとココだけや」

 オッサンは、そう言って自分の口元と頭を指差す。

「しゃべりだけで、なにするんだよ?」

「聞いて驚くなよ。名付けて、『きらいがある選手権』や。人や物事の特長を捉えて、より多く、()()()()()()と言えた方の勝ちや」

 ドヤ顔で語る中年を相手に、オレは深いため息をついた。

「それ『セトウツミ』の《節がある選手権》のパクリだろ?」

 ボクの指摘に、オッサンは一瞬、目を向く。初対面のときは、目の前の相手にこちらの学籍や考えていることをズバズバ当てられてしまったことが悔しかったので、こちらも遅ればせながらの反撃をくらわせたかたちだ。
 だが、オッサンは、何事も無かったような表情で、すぐに体勢を立て直して、一撃を打ち込んできた。

「ふ〜ん、王子くんは、そうやって澄ました顔で相手の揚げ足を取ろうとする()()()があるよな?」

「なっ!? もう始まってるのかよ! オッサンだって、小説やマンガのセリフをパクっては、ドヤ顔をする()()()があるだろ?」

「残念でした〜。これは、映画の影響で〜す。うん、キミには、早とちりで物事を決めつけてしまう()()()があるな」

「そこは、原作マンガでも映画でも関係ないだろ? ところで、映画好きって、すぐに、自分を主人公に投影する()()()があるけど、オッサン、もしかして、瀬戸 = 菅田将暉になったつもりか?」

「男が二人で川辺で二人でダベってたら、あの作品を思い浮かべるやろ。まあ、オレとしては、中条あやみ成分をが足りないと思ってる()()()があるけどな」

「自分のことを言うんかい! しかも、早くも苦しくなってるやんけ!」

 思わず、慣れない関西弁でツッコミを入れてしまった。いや、決して内海 = 池松壮亮になりきったつもりはないのだが……すると、オッサンは不利になりかけた展開を覆すように話題を変えてきた。

「まあ、それはともかくとして……話は変わるけど、大学の教授は、興に乗って語り始めると、自分に酔って話がとんでもなく長くなる()()()がないか? キミんところのゼミの先生は、そういう()()()はないか?」

「それを言うなら、 お笑い芸人は全般的に物事を大げさに言う()()()があるから、話半分に聞いておいた方がいいだろ? なにより、オッサン自身に、そういう()()()があるだろ?」

「いや、それはどうやろ? キミは物事の裏を読み悪い方向に捉える()()()があるからな。そこまで、慎重に考える必要もないやろ?」

「オッサンこそ、物事を楽観的に考え過ぎる()()()が無いか? 朝のレギュラー番組を一回でクビになっても平然としてるとか有り得ないから」

「それは、まだ若かったからやな。人は老化によって、仕事で守りに入ることが多くなる()()()があるからな」

「なるほど、周囲の忠告に耳を貸さない()()()がある若者の暴走ってことね?」

 綺麗にカウンターを決めたボクが、表情を変えないまま話し相手に視線を送ると、オッサンは、フッと表情を崩して答える。

「まあ、今日のところは、5対5の引き分けってことにしとこか?」

 その一言で、ボクは石段から立ち上がり、バイト先の書店に向かうことにする。

「オッサン、今日も暇つぶしに付き合ってくれてありがと。自分でも、こんなことで、時間を潰していて良いのか……とは思うけど―――」

 自嘲気味に笑うと、オッサンは、穏やかな笑みをたたえて、こう答えた。

「まあ、若いうちは焦る気持ちもあるやろうけど……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 その言葉にグッときたボクは、お笑い芸人をセミリタイアしている中年男性に言い返す。

「オッサン、さも自分が考えたみたいに良いこと言ったって顔してるけど……そのセリフも『セトウツミ』のパクリだろ!?」


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 オッサンから興味深い話を聞いてからというもの、平日の月曜から木曜まで、大学の講義が終わったあと、書店でのバイトが始まる時間までの暇つぶしとして、その場所を訪れることがボクの日課になった。
 ここは、ショッピングモールつかしんの中心に位置し、モール内を流れる小川のほとりにあるカリヨンガーデン開放感あふれるヨーロッパ風の景観になっている広場だ。名前のとおり、その一角には象徴として高さ数十メートルのカリヨン塔がそびえ立っている。さらに、定刻になると鐘の音が響き渡り、施設内に時を告げる。
 また、 床面や周囲の建物は温かみのあるレンガタイルで統一されていて、まるで西洋の街角のような情緒漂う景観を作り出されている。
 ボクとオッサンが腰掛けている石段の近くには噴水があり、水が流れる音が心地よく響いている。夏場には子供たちが水遊びを楽しむ光景も見られる、いわゆる憩いのスポットだ。バイトのシフトが入っていない休日にこの場所を訪れることは無いので、土日や祝日の様子はわからないが、少なくとも平日は、自分たちのような人間が不審者あつかいされるほど、人出は多くない。
「今日も来たんか? 王子さまも暇やな」
 こちらの顔をチラリと見たあと、ニヤリと笑ったオッサンに、無表情のまま返答する。
「バイト前の時間潰しって言ったじゃん。ここで、バイトが始まる4時前まで過ごすのが、ちょうど、良いんだよ」
 オッサンと何度か話すうちに打ち解けたボクは、中年男性を相手にしても、いわゆるタメ|口《ぐち》で話すようになっていた。
「ほな、しゃあないな。今日も王子さまの暇つぶしに付き合おか。バイトが始まるまで、暇で暇で仕方ない王子くんに、今日は特別なゲームを用意してきたで」
「なんだよ、ゲームって? こっちは、なにも準備してないんだけど?」
「大丈夫、大丈夫。モノはなにも要らんから。必要なのは、ココとココだけや」
 オッサンは、そう言って自分の口元と頭を指差す。
「しゃべりだけで、なにするんだよ?」
「聞いて驚くなよ。名付けて、『きらいがある選手権』や。人や物事の特長を捉えて、より多く、|き《・》|ら《・》|い《・》|が《・》|あ《・》|る《・》と言えた方の勝ちや」
 ドヤ顔で語る中年を相手に、オレは深いため息をついた。
「それ『セトウツミ』の《節がある選手権》のパクリだろ?」
 ボクの指摘に、オッサンは一瞬、目を向く。初対面のときは、目の前の相手にこちらの学籍や考えていることをズバズバ当てられてしまったことが悔しかったので、こちらも遅ればせながらの反撃をくらわせたかたちだ。
 だが、オッサンは、何事も無かったような表情で、すぐに体勢を立て直して、一撃を打ち込んできた。
「ふ〜ん、王子くんは、そうやって澄ました顔で相手の揚げ足を取ろうとする|き《・》|ら《・》|い《・》があるよな?」
「なっ!? もう始まってるのかよ! オッサンだって、小説やマンガのセリフをパクっては、ドヤ顔をする|き《・》|ら《・》|い《・》があるだろ?」
「残念でした〜。これは、映画の影響で〜す。うん、キミには、早とちりで物事を決めつけてしまう|き《・》|ら《・》|い《・》があるな」
「そこは、原作マンガでも映画でも関係ないだろ? ところで、映画好きって、すぐに、自分を主人公に投影する|き《・》|ら《・》|い《・》があるけど、オッサン、もしかして、瀬戸 = 菅田将暉になったつもりか?」
「男が二人で川辺で二人でダベってたら、あの作品を思い浮かべるやろ。まあ、オレとしては、中条あやみ成分をが足りないと思ってる|き《・》|ら《・》|い《・》があるけどな」
「自分のことを言うんかい! しかも、早くも苦しくなってるやんけ!」
 思わず、慣れない関西弁でツッコミを入れてしまった。いや、決して内海 = 池松壮亮になりきったつもりはないのだが……すると、オッサンは不利になりかけた展開を覆すように話題を変えてきた。
「まあ、それはともかくとして……話は変わるけど、大学の教授は、興に乗って語り始めると、自分に酔って話がとんでもなく長くなる|き《・》|ら《・》|い《・》がないか? キミんところのゼミの先生は、そういう|き《・》|ら《・》|い《・》はないか?」
「それを言うなら、 お笑い芸人は全般的に物事を大げさに言う|き《・》|ら《・》|い《・》があるから、話半分に聞いておいた方がいいだろ? なにより、オッサン自身に、そういう|き《・》|ら《・》|い《・》があるだろ?」
「いや、それはどうやろ? キミは物事の裏を読み悪い方向に捉える|き《・》|ら《・》|い《・》があるからな。そこまで、慎重に考える必要もないやろ?」
「オッサンこそ、物事を楽観的に考え過ぎる|き《・》|ら《・》|い《・》が無いか? 朝のレギュラー番組を一回でクビになっても平然としてるとか有り得ないから」
「それは、まだ若かったからやな。人は老化によって、仕事で守りに入ることが多くなる|き《・》|ら《・》|い《・》があるからな」
「なるほど、周囲の忠告に耳を貸さない|き《・》|ら《・》|い《・》がある若者の暴走ってことね?」
 綺麗にカウンターを決めたボクが、表情を変えないまま話し相手に視線を送ると、オッサンは、フッと表情を崩して答える。
「まあ、今日のところは、5対5の引き分けってことにしとこか?」
 その一言で、ボクは石段から立ち上がり、バイト先の書店に向かうことにする。
「オッサン、今日も暇つぶしに付き合ってくれてありがと。自分でも、こんなことで、時間を潰していて良いのか……とは思うけど―――」
 自嘲気味に笑うと、オッサンは、穏やかな笑みをたたえて、こう答えた。
「まあ、若いうちは焦る気持ちもあるやろうけど……|こ《・》|の《・》|川《・》|で《・》|暇《・》|を《・》|つ《・》|ぶ《・》|す《・》|だ《・》|け《・》|の《・》|青《・》|春《・》|が《・》|あ《・》|っ《・》|て《・》|も《・》|い《・》|い《・》|ん《・》|ち《・》|ゃ《・》|う《・》|か《・》?」
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「オッサン、さも自分が考えたみたいに良いこと言ったって顔してるけど……そのセリフも『セトウツミ』のパクリだろ!?」