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第64話 血で血を洗う

ー/ー



 屋上へのドアを蹴り破った一矢が目にしたのは伯爵という想定外の人物だった。

「伯爵……!? 何故お前がここにいる!」

「それはこちらの台詞でもありますがね。ミスター・アマガセ。しかし今回はあなたの頑張りだけではどうにもなりません」

 伯爵は一矢の姿を見てうんざりしたように、しかしほくそ笑みながら言った。

「最早全てが遅い。私を殺しても、伯爵を殺しても無駄だ。それでも抗うか? アマガセ・カズヤ」

「時間稼ぎのつもりか? そんなこと……」

「おいロデリック! 幹部の反応がみんな消えた! 捨て石にしたのか!? 吸血鬼の世を作るんじゃなかったのか!?」

 一矢を遮るようにビアンカが叫ぶ。その表情はかつてなく真剣だった。

「裏切り者に語ることなどないが、強いて言えば彼らは吸血鬼が人を支配する世界の礎になった。吸血鬼など今後いくらでも増える」

「こんの腐れ外道が!」

 一矢が止める暇もなくビアンカがロデリックに飛び掛かる。

 伯爵は一歩下がり、ロデリックが血剣を抜く。

 ビアンカの両手の手斧を受け止めるロデリック。そしてその血剣に霊力が集束していく。

「ビアンカ! 逃げろ!」

 一矢も走っているが、それよりも早くロデリックの放った飛ぶ斬撃が至近距離からビアンカを胸部から両断していた。

「再生を阻害しておきましょう。今さら何もできないでしょうが、我々の計画成就は厳かでなければなりませんから」

「不要だ。私の血液が既にそうしている」

「それは結構なことで」

 吹き飛ばされたビアンカの半身を抱きとめる一矢。

 だが胸部から上だけになった彼女はそれを押しのけるようにもがいた。

「裏切ったアタシが言えることじゃないけど、あの野郎! 最初から全員騙してたんだ!」

 護符で姿を消していた椿が伯爵を狙撃するが、その弾丸は彼の歯に止められてしまう。

 弾丸を吐き出すと、伯爵は笑みを崩さずにロデリックへ告げる。

「この歴史的瞬間にこのような異物が紛れ込んでいるというのは些か興覚めというもの。あなた自身の不始末でもあるのですから。ご自身で決着を付けられたらいかがですか?」

「言われなくてもそのつもりだ。が、俺とお前は対等なはずだろう? 細々と指図するな」

 そういうとロデリックは一矢に向けて血牙を構える。

「椿さん、ビアンカを頼みます。俺はあいつをやります」

 椿が頷くのを確認すると一矢は権能で能力をロデリックのものに切り替え、血牙空亡(けつがくうぼう)を手のひらから引き抜く。

 じりじりと距離を詰める二人。

 ロデリックも不意打ちの飛ぶ血牙斬(けつがざん)が最早通用しないことを理解している。

「お前たちの目的は何だ? ただ吸血鬼狩りに立ち向かうだけならその力を手に入れる力を手に入れるだけで十分だっただろう!」

 急接近した一矢がロデリックの血剣に空亡をぶつける。赤黒い破片が飛び散る。

「そんな力を手にすることをヴァルキリーが許しておくものか、特にあのヘルムヴィーゲはな」

 以前と同様に至近距離での血牙斬を放とうとするロデリックの血牙。

 すかさず一矢の刀がその血液を吸収する。

「所詮は借り物の力ではあるが、この短時間で少しはやるようになったな」

「死神に対抗したいなら別の手段があったはずだ! 分かれた派閥で力を合わせるとか、何でもいい! どうして伯爵なんかと組んで世の中をめちゃくちゃにするような真似をする!」

 ロデリックの言葉を無視し、一矢は再び問いかける。

 吸収した血液で血牙空亡の出力を強化しすると、それを見よう見まねで解き放つ。

 赤色の爆発が起き、ロデリックと一矢の両者が吹き飛ばされ再び両者に距離が開く。

「所詮は死神の理屈だな。その世の中をめちゃくちゃにすること自体が目的だったらお前はどうする?」

「止めるだけだ!」

 爆発の煙が消えると、ロデリックは黒い霧状になって一矢を取り囲んでいた。

「最早遅いと言ったはずだ。『人の世』が崩壊すれば魔の跋扈する世が再び到来する。そうすれば吸血鬼は人類を支配する上位種として正しく君臨することが出来る。壊世の時だ」

 霧に包まれた一矢には周囲全体から声が聞こえるように感じる。

 前回は反応する暇もなく胸を貫かれた。

「だから死神を殺したと言いたいのか!? 秩序が破壊されて多くの人間が死ぬんだぞ! 困るのはお前たちだって同じだ!」

「だからこちらも数を減らした。この戦乱でな」

 突如として出現した剣が一矢の胸を貫く。今回こそ弱点である心臓を突いたものに思えた。

「狩りを自由にする目的で同族を間引くだと? それこそお前だけの理屈だ!」

 一矢の左胸は確かにロデリックの血剣に貫かれていた。

 が、その心臓部分だけ黒い霧のように実体がなくなり剣を素通りさせている。

 そして血を纏った両手でロデリックの血牙の力を吸収する一矢。

 霧から腕だけしか実体化していないロデリックは血液の奪取に抗えない。血剣が実体を保てなくなると血液となって屋上の床を汚す。

 霧状になったロデリックは集束し、一矢の前方に姿を現した。

 全身で空気を切り裂く突きを繰り出しながら。

赤口(しゃっこう)借ります!」

 一矢は血牙空亡に霊力を纏わせ、赤口改(しゃっこうあらため)とする。

 未知の気配への警戒心からロデリックの踏み込みが甘くなる。

 振り抜かれる赤口改。だがロデリックが勢いを弱めたことにより、彼の首に届くはずだった斬撃は空を切る。かに見えた。

 急速に伸びた赤口改の刃がロデリックの首筋を深々と切り裂いていた。

 ロデリックが血を吐き、勢いよく血液が飛び散る。未知の痛みに困惑するロデリック。

 傷口を急速再生する隙を突いて一矢が距離を詰めるが、ロデリックは両足から血液を爆発させるように噴射してさらに距離を取った。

「……やってくれたな。だがその技、貴様の霊力ではそう何度も使えまい」

「お前の血液を大分取り込ませてもらった。心配無用だ」

 そこまで無感情に見えたロデリックは、そこで初めて一矢に怒りの感情を見せたかに思えた。

「何故我々は生きているだけで殺される対象とならなければならないのか! 本来食物連鎖の頂点は我々吸血鬼だ! 貴様は人間だった頃、牛や豚を殺すことに咎を受けていたのか!」

「違うな! お前たちは人間がいなければ仲間も増やせない! 人間に依存した存在だ! お前自身も、『血戦派』の実績で着飾っただけの小物に過ぎない!」

 当初の冷静さを失ったロデリックに一矢は叫び返す。

「盛り上がっているところすみませんがね。来ましたよ」

 後方の伯爵が口角を吊り上げながらロデリックに告げた。

「見ろ! 貴様がいくら喚こうが我々の勝利だ!」

 気が付くと一矢の遥か上空に巨大な石造りの扉が浮いていた。

 その両開きの扉から漏れ出ている霊力だけでもとてつもなく忌まわしいものであることが一矢でも理解できた。

 この瞬間、ロデリックと伯爵、二人の計画が成就しようとしていた。


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 屋上へのドアを蹴り破った一矢が目にしたのは伯爵という想定外の人物だった。
「伯爵……!? 何故お前がここにいる!」
「それはこちらの台詞でもありますがね。ミスター・アマガセ。しかし今回はあなたの頑張りだけではどうにもなりません」
 伯爵は一矢の姿を見てうんざりしたように、しかしほくそ笑みながら言った。
「最早全てが遅い。私を殺しても、伯爵を殺しても無駄だ。それでも抗うか? アマガセ・カズヤ」
「時間稼ぎのつもりか? そんなこと……」
「おいロデリック! 幹部の反応がみんな消えた! 捨て石にしたのか!? 吸血鬼の世を作るんじゃなかったのか!?」
 一矢を遮るようにビアンカが叫ぶ。その表情はかつてなく真剣だった。
「裏切り者に語ることなどないが、強いて言えば彼らは吸血鬼が人を支配する世界の礎になった。吸血鬼など今後いくらでも増える」
「こんの腐れ外道が!」
 一矢が止める暇もなくビアンカがロデリックに飛び掛かる。
 伯爵は一歩下がり、ロデリックが血剣を抜く。
 ビアンカの両手の手斧を受け止めるロデリック。そしてその血剣に霊力が集束していく。
「ビアンカ! 逃げろ!」
 一矢も走っているが、それよりも早くロデリックの放った飛ぶ斬撃が至近距離からビアンカを胸部から両断していた。
「再生を阻害しておきましょう。今さら何もできないでしょうが、我々の計画成就は厳かでなければなりませんから」
「不要だ。私の血液が既にそうしている」
「それは結構なことで」
 吹き飛ばされたビアンカの半身を抱きとめる一矢。
 だが胸部から上だけになった彼女はそれを押しのけるようにもがいた。
「裏切ったアタシが言えることじゃないけど、あの野郎! 最初から全員騙してたんだ!」
 護符で姿を消していた椿が伯爵を狙撃するが、その弾丸は彼の歯に止められてしまう。
 弾丸を吐き出すと、伯爵は笑みを崩さずにロデリックへ告げる。
「この歴史的瞬間にこのような異物が紛れ込んでいるというのは些か興覚めというもの。あなた自身の不始末でもあるのですから。ご自身で決着を付けられたらいかがですか?」
「言われなくてもそのつもりだ。が、俺とお前は対等なはずだろう? 細々と指図するな」
 そういうとロデリックは一矢に向けて血牙を構える。
「椿さん、ビアンカを頼みます。俺はあいつをやります」
 椿が頷くのを確認すると一矢は権能で能力をロデリックのものに切り替え、|血牙空亡《けつがくうぼう》を手のひらから引き抜く。
 じりじりと距離を詰める二人。
 ロデリックも不意打ちの飛ぶ|血牙斬《けつがざん》が最早通用しないことを理解している。
「お前たちの目的は何だ? ただ吸血鬼狩りに立ち向かうだけならその力を手に入れる力を手に入れるだけで十分だっただろう!」
 急接近した一矢がロデリックの血剣に空亡をぶつける。赤黒い破片が飛び散る。
「そんな力を手にすることをヴァルキリーが許しておくものか、特にあのヘルムヴィーゲはな」
 以前と同様に至近距離での血牙斬を放とうとするロデリックの血牙。
 すかさず一矢の刀がその血液を吸収する。
「所詮は借り物の力ではあるが、この短時間で少しはやるようになったな」
「死神に対抗したいなら別の手段があったはずだ! 分かれた派閥で力を合わせるとか、何でもいい! どうして伯爵なんかと組んで世の中をめちゃくちゃにするような真似をする!」
 ロデリックの言葉を無視し、一矢は再び問いかける。
 吸収した血液で血牙空亡の出力を強化しすると、それを見よう見まねで解き放つ。
 赤色の爆発が起き、ロデリックと一矢の両者が吹き飛ばされ再び両者に距離が開く。
「所詮は死神の理屈だな。その世の中をめちゃくちゃにすること自体が目的だったらお前はどうする?」
「止めるだけだ!」
 爆発の煙が消えると、ロデリックは黒い霧状になって一矢を取り囲んでいた。
「最早遅いと言ったはずだ。『人の世』が崩壊すれば魔の跋扈する世が再び到来する。そうすれば吸血鬼は人類を支配する上位種として正しく君臨することが出来る。壊世の時だ」
 霧に包まれた一矢には周囲全体から声が聞こえるように感じる。
 前回は反応する暇もなく胸を貫かれた。
「だから死神を殺したと言いたいのか!? 秩序が破壊されて多くの人間が死ぬんだぞ! 困るのはお前たちだって同じだ!」
「だからこちらも数を減らした。この戦乱でな」
 突如として出現した剣が一矢の胸を貫く。今回こそ弱点である心臓を突いたものに思えた。
「狩りを自由にする目的で同族を間引くだと? それこそお前だけの理屈だ!」
 一矢の左胸は確かにロデリックの血剣に貫かれていた。
 が、その心臓部分だけ黒い霧のように実体がなくなり剣を素通りさせている。
 そして血を纏った両手でロデリックの血牙の力を吸収する一矢。
 霧から腕だけしか実体化していないロデリックは血液の奪取に抗えない。血剣が実体を保てなくなると血液となって屋上の床を汚す。
 霧状になったロデリックは集束し、一矢の前方に姿を現した。
 全身で空気を切り裂く突きを繰り出しながら。
「|赤口《しゃっこう》借ります!」
 一矢は血牙空亡に霊力を纏わせ、|赤口改《しゃっこうあらため》とする。
 未知の気配への警戒心からロデリックの踏み込みが甘くなる。
 振り抜かれる赤口改。だがロデリックが勢いを弱めたことにより、彼の首に届くはずだった斬撃は空を切る。かに見えた。
 急速に伸びた赤口改の刃がロデリックの首筋を深々と切り裂いていた。
 ロデリックが血を吐き、勢いよく血液が飛び散る。未知の痛みに困惑するロデリック。
 傷口を急速再生する隙を突いて一矢が距離を詰めるが、ロデリックは両足から血液を爆発させるように噴射してさらに距離を取った。
「……やってくれたな。だがその技、貴様の霊力ではそう何度も使えまい」
「お前の血液を大分取り込ませてもらった。心配無用だ」
 そこまで無感情に見えたロデリックは、そこで初めて一矢に怒りの感情を見せたかに思えた。
「何故我々は生きているだけで殺される対象とならなければならないのか! 本来食物連鎖の頂点は我々吸血鬼だ! 貴様は人間だった頃、牛や豚を殺すことに咎を受けていたのか!」
「違うな! お前たちは人間がいなければ仲間も増やせない! 人間に依存した存在だ! お前自身も、『血戦派』の実績で着飾っただけの小物に過ぎない!」
 当初の冷静さを失ったロデリックに一矢は叫び返す。
「盛り上がっているところすみませんがね。来ましたよ」
 後方の伯爵が口角を吊り上げながらロデリックに告げた。
「見ろ! 貴様がいくら喚こうが我々の勝利だ!」
 気が付くと一矢の遥か上空に巨大な石造りの扉が浮いていた。
 その両開きの扉から漏れ出ている霊力だけでもとてつもなく忌まわしいものであることが一矢でも理解できた。
 この瞬間、ロデリックと伯爵、二人の計画が成就しようとしていた。