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第60話 再会

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 生き血啜り(グール)のほとんどが地脈ごと利用した大道術で浄化されていった。

 本来対キョンシー用のものを娘々がアレンジした低級吸血鬼用の術式である。

 哀れな捕虜、イライジャの犠牲によるものだ。

 吸血鬼特化の術式ではあるが、死者としての属性も持つ死神たちにも少なからず浄化の影響があり、それにより命を落とす者も出た。

 が、その程度の犠牲はヘルムヴィーゲの関心を惹かない。

 そして残りの生き血啜りは前線の精鋭たちで全滅させられていた。

 一度後方に下がった死神が再び奥へと進もうとすると、「血戦派」の兵士を引き連れた幹部級の吸血鬼が空白地帯に転移し現れる。

「ようやくおいでなすったか。肉人形の相手は退屈で仕方なかったぜ」

 大斧を肩に担いで死神側の先頭に立つのはかつてヴァイキングの王として名を馳せたレグネル。

「なあなあ、俺とステゴロで戦らねえか? お前が一番強そうに見えたからよお」

「ほお小僧、儂と素手でやり合う気か? 吸血鬼か、一撃耐えられれば褒めてやろう」

「言ってろよ。オッサン!」

 吸血鬼側で先陣を切るのは幹部のレナード。

 一人で死神たちに接近し、配下の兵は後ろに待機している。そしてレグネルはレナードの誘いに乗り斧を放り捨てる。

「何やってる! 馬鹿レナード!」

 後方に隠れる桐子がすかさず弓でレグネルを狙い撃つ。その血矢は槍の鋭い突きによって粉々になった。

「決闘の妨害とは無粋なことを。初めに弓引く者に不幸あれ。貴公は私がお相手するとしよう」

 騎士パーシバルであった。

 彼は一息に吸血鬼の群れを飛び越えると、桐子を囲む四人の吸血鬼の護衛と相対する。

 桐子は弓を捨て両手に短剣の血牙(けつが)を出し、護衛もそれに続く。

「決闘とは、誉れ高い吸血貴族である俺にこそ相応しい。俺と戦う者はいないか!?」

 黒髪の着飾った男が一歩進み出る。シュワルツだ。

 貴族主義を裏切りレオポルトを抹殺することで次期盟主の座を手に入れた吸血鬼である。派閥としては大幅に弱体化したが彼はその肩書にこだわった。

「どりゃあああ! つっぐみキーック!!」

 上空から降下してきた黒い翼を生やした少女がシュワルツの顔面を思い切り蹴り飛ばす。

 彼の治療したばかりの顔面が陥没する。

「弱きを助け、強きを挫く! 後輩を助けるためならたとえ火の中、水の中! 美鳥女戦士つぐみちゃんとはわたしのことよ!」

「つぐみお姉ちゃん!」

 メイジーが満面の笑みを浮かべる。

「後輩を助けるよ! 一緒においで、事務所のマスコットちゃん!」

 血の雨が降っている間はそのさらに上空を旋回して退避していたつぐみ。彼女はシュワルツを一撃で再起不能にした。

 権能のような特殊能力は無いが、純粋な妖魔としてのつぐみの腕力は中堅クラスの死神程度であれば容易に殴り倒すほどのパフォーマンスを誇る。

 護衛の吸血鬼たちが血剣で斬りかかるが、それよりも早く彼女の右ストレートが顔面を叩き潰し、残りの斬撃は飛翔して回避する。

 シュワルツの敗北により戦いの幕が上がった。

 レナードとレグネルが殴り合いを開始、桐子の護衛に囲まれながらも流麗な槍捌きで敵を寄せ付けないパーシバル。

 つぐみとメイジーが吸血鬼兵の群れに殴り込みをかける。

 そしてサンドリヨンは静馬と対峙し、スノーホワイトは既に自分の仕事は終わったとばかりにそれを眺めている。

「ご婦人を斬る剣は持ち合わせてはいない。ここは退いてもらえないだろうか」

「つれないのね。じゃあ私と踊りましょう?」

 サンドリヨンの鋭い蹴りが静馬の剣を打つ。

 彼女はニヤつきながら静馬の出方を伺っている。相手の実力を測るサンドリヨンの悪い癖だ。

 いつも通りの必要以上に時間をかけて戦うサンドリヨンのやり方に辟易していたスノーホワイトはため息をつく。

「頼まれた『おとぎ話』(ナーサリー・テイル)の仕事はもう終わりかしらね」

 そう言って戦場から背を向けるスノーホワイトの心臓を何者かの腕が貫いた。

「これで一人目。簡単でしたわ」

 等身大の人形(ドール)からカーニャの声がした。

 関節に仕込まれた血液を原動力として動く特注品。その機構自体は彼女が開発したものだ。

 スノーホワイトから腕を引き抜く人形。だが彼女は口から血を流しながら平然と振り返ってみせた。

「……こんなものでわたくしを殺せると、本気でお思い?」

 七人の眷属が彼女を中心に顕現し、眷属の二人がそれぞれ人形の足を掴む。

 そして三人目がするすると人形の身体を這い上がると頭部が真っ二つになるほどの大口を開いて頭を齧り取った。

 七人の眷属。

 それらはスノーホワイトが霊力を貯蓄するための外部装置である。

 そしてそれは主に彼女を蘇生するために使われる。毒林檎による死から復活を果たした逸話に基づく権能である。

 余計な真似をしたとカーニャは後悔した。

「ぶたちゃん、血をあげるわ。逃げなさい」

「でも……」

「でもじゃないの!」

 驚いてカーニャの腕から飛び降りた子豚のぬいぐるみが後方へ走っていく。

「死ぬ覚悟ができたということね? 一応言っておくけど死ぬのって、死ぬほど痛いわよ」

「うるさい! あなたも人形にしてあげる!」

 カーニャは叫ぶ。勝ち目のないことはわかっている。せめて自分の分身ともいえるぬいぐるみ、ぶたちゃんだけは逃がしたい。立ち向かう理由はそれだけだった。



 そして死神と吸血鬼の殺し合いが始まった広場に一人の女死神が駆けこむ。

 血雨の中逃げ惑うマクスウェルに、一矢が浄化予定の範囲外にいたことを聞いた椿だった。

「どけえッ!」

 赤口を振り回し、中央でのレナードとレグネルの決闘を囲んで見守る吸血鬼を斬り伏せ、幹部対精鋭の戦場に入り込む椿。

「カズヤあああ!」

 後方の庁舎から次々と出てくる吸血鬼たちをビアンカと打ち倒しながら、幹部たちと合流しないように立ち回る一矢にその声が届く。

 だが二人は既に包囲されつつある。椿の声は届いてもその手は届かない。

「ビアンカ、後ろ頼む」

 一矢は椿の声のする方へ振り向き、血牙空亡(けつがくうぼう)にさらに死神としての霊力を纏わせ、近くにいる椿から強引に赤口の力を借り受ける。

 吸血鬼と死神、二重に権能を借り受ける負担は大きいが膨大な力が刀に宿った。そしてそれを一矢は居合の要領で腰から勢いよく抜刀する。

赤口改・黒縄(しゃっこうあらため・こくじょう)

 血の飛ぶ斬撃が吸血鬼の群れをなぎ倒す。吸血鬼たちが倒れたその先には椿の顔が見えた。

 二人の視線が合うと、緊張に満ちていた椿の口元が思わずほころぶ。

「ただいま、椿さん」


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次のエピソードへ進む 第61話 散華、斃れる者たち


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 |生き血啜り《グール》のほとんどが地脈ごと利用した大道術で浄化されていった。
 本来対キョンシー用のものを娘々がアレンジした低級吸血鬼用の術式である。
 哀れな捕虜、イライジャの犠牲によるものだ。
 吸血鬼特化の術式ではあるが、死者としての属性も持つ死神たちにも少なからず浄化の影響があり、それにより命を落とす者も出た。
 が、その程度の犠牲はヘルムヴィーゲの関心を惹かない。
 そして残りの生き血啜りは前線の精鋭たちで全滅させられていた。
 一度後方に下がった死神が再び奥へと進もうとすると、「血戦派」の兵士を引き連れた幹部級の吸血鬼が空白地帯に転移し現れる。
「ようやくおいでなすったか。肉人形の相手は退屈で仕方なかったぜ」
 大斧を肩に担いで死神側の先頭に立つのはかつてヴァイキングの王として名を馳せたレグネル。
「なあなあ、俺とステゴロで戦らねえか? お前が一番強そうに見えたからよお」
「ほお小僧、儂と素手でやり合う気か? 吸血鬼か、一撃耐えられれば褒めてやろう」
「言ってろよ。オッサン!」
 吸血鬼側で先陣を切るのは幹部のレナード。
 一人で死神たちに接近し、配下の兵は後ろに待機している。そしてレグネルはレナードの誘いに乗り斧を放り捨てる。
「何やってる! 馬鹿レナード!」
 後方に隠れる桐子がすかさず弓でレグネルを狙い撃つ。その血矢は槍の鋭い突きによって粉々になった。
「決闘の妨害とは無粋なことを。初めに弓引く者に不幸あれ。貴公は私がお相手するとしよう」
 騎士パーシバルであった。
 彼は一息に吸血鬼の群れを飛び越えると、桐子を囲む四人の吸血鬼の護衛と相対する。
 桐子は弓を捨て両手に短剣の|血牙《けつが》を出し、護衛もそれに続く。
「決闘とは、誉れ高い吸血貴族である俺にこそ相応しい。俺と戦う者はいないか!?」
 黒髪の着飾った男が一歩進み出る。シュワルツだ。
 貴族主義を裏切りレオポルトを抹殺することで次期盟主の座を手に入れた吸血鬼である。派閥としては大幅に弱体化したが彼はその肩書にこだわった。
「どりゃあああ! つっぐみキーック!!」
 上空から降下してきた黒い翼を生やした少女がシュワルツの顔面を思い切り蹴り飛ばす。
 彼の治療したばかりの顔面が陥没する。
「弱きを助け、強きを挫く! 後輩を助けるためならたとえ火の中、水の中! 美鳥女戦士つぐみちゃんとはわたしのことよ!」
「つぐみお姉ちゃん!」
 メイジーが満面の笑みを浮かべる。
「後輩を助けるよ! 一緒においで、事務所のマスコットちゃん!」
 血の雨が降っている間はそのさらに上空を旋回して退避していたつぐみ。彼女はシュワルツを一撃で再起不能にした。
 権能のような特殊能力は無いが、純粋な妖魔としてのつぐみの腕力は中堅クラスの死神程度であれば容易に殴り倒すほどのパフォーマンスを誇る。
 護衛の吸血鬼たちが血剣で斬りかかるが、それよりも早く彼女の右ストレートが顔面を叩き潰し、残りの斬撃は飛翔して回避する。
 シュワルツの敗北により戦いの幕が上がった。
 レナードとレグネルが殴り合いを開始、桐子の護衛に囲まれながらも流麗な槍捌きで敵を寄せ付けないパーシバル。
 つぐみとメイジーが吸血鬼兵の群れに殴り込みをかける。
 そしてサンドリヨンは静馬と対峙し、スノーホワイトは既に自分の仕事は終わったとばかりにそれを眺めている。
「ご婦人を斬る剣は持ち合わせてはいない。ここは退いてもらえないだろうか」
「つれないのね。じゃあ私と踊りましょう?」
 サンドリヨンの鋭い蹴りが静馬の剣を打つ。
 彼女はニヤつきながら静馬の出方を伺っている。相手の実力を測るサンドリヨンの悪い癖だ。
 いつも通りの必要以上に時間をかけて戦うサンドリヨンのやり方に辟易していたスノーホワイトはため息をつく。
「頼まれた|『おとぎ話』《ナーサリー・テイル》の仕事はもう終わりかしらね」
 そう言って戦場から背を向けるスノーホワイトの心臓を何者かの腕が貫いた。
「これで一人目。簡単でしたわ」
 等身大の|人形《ドール》からカーニャの声がした。
 関節に仕込まれた血液を原動力として動く特注品。その機構自体は彼女が開発したものだ。
 スノーホワイトから腕を引き抜く人形。だが彼女は口から血を流しながら平然と振り返ってみせた。
「……こんなものでわたくしを殺せると、本気でお思い?」
 七人の眷属が彼女を中心に顕現し、眷属の二人がそれぞれ人形の足を掴む。
 そして三人目がするすると人形の身体を這い上がると頭部が真っ二つになるほどの大口を開いて頭を齧り取った。
 七人の眷属。
 それらはスノーホワイトが霊力を貯蓄するための外部装置である。
 そしてそれは主に彼女を蘇生するために使われる。毒林檎による死から復活を果たした逸話に基づく権能である。
 余計な真似をしたとカーニャは後悔した。
「ぶたちゃん、血をあげるわ。逃げなさい」
「でも……」
「でもじゃないの!」
 驚いてカーニャの腕から飛び降りた子豚のぬいぐるみが後方へ走っていく。
「死ぬ覚悟ができたということね? 一応言っておくけど死ぬのって、死ぬほど痛いわよ」
「うるさい! あなたも人形にしてあげる!」
 カーニャは叫ぶ。勝ち目のないことはわかっている。せめて自分の分身ともいえるぬいぐるみ、ぶたちゃんだけは逃がしたい。立ち向かう理由はそれだけだった。
 そして死神と吸血鬼の殺し合いが始まった広場に一人の女死神が駆けこむ。
 血雨の中逃げ惑うマクスウェルに、一矢が浄化予定の範囲外にいたことを聞いた椿だった。
「どけえッ!」
 赤口を振り回し、中央でのレナードとレグネルの決闘を囲んで見守る吸血鬼を斬り伏せ、幹部対精鋭の戦場に入り込む椿。
「カズヤあああ!」
 後方の庁舎から次々と出てくる吸血鬼たちをビアンカと打ち倒しながら、幹部たちと合流しないように立ち回る一矢にその声が届く。
 だが二人は既に包囲されつつある。椿の声は届いてもその手は届かない。
「ビアンカ、後ろ頼む」
 一矢は椿の声のする方へ振り向き、|血牙空亡《けつがくうぼう》にさらに死神としての霊力を纏わせ、近くにいる椿から強引に赤口の力を借り受ける。
 吸血鬼と死神、二重に権能を借り受ける負担は大きいが膨大な力が刀に宿った。そしてそれを一矢は居合の要領で腰から勢いよく抜刀する。
「|赤口改・黒縄《しゃっこうあらため・こくじょう》」
 血の飛ぶ斬撃が吸血鬼の群れをなぎ倒す。吸血鬼たちが倒れたその先には椿の顔が見えた。
 二人の視線が合うと、緊張に満ちていた椿の口元が思わずほころぶ。
「ただいま、椿さん」