129. 無謀で絶望的な抵抗

ー/ー



「そんな……」「くっ……!」「どうしたら……」

 動揺の声が、あちこちから上がる。それはつまり、彼らが信じていた「正義」や「秩序」が、既に内側から腐り落ちていたという事実だった。王国という巨大な組織が見えない寄生虫に蝕まれ、もはや健全な部分がどこにあるのか、誰が味方で誰が敵なのか、まったく分からない状態。

「やはり……そうだったのか……」

 レオンが震える声で呟いた。その手は小刻みに震え、顔からは血の気が引いている。

「じゃあ、あたしたちは……誰を信じればいいの? 誰に助けを求めればいいの?」

 ルナが、今にも泣き出しそうな声で尋ねた。

「報告すれば、十中八九もみ消される」

 ギルドマスターが、冷徹な現実を告げる。

「いや、もみ消されるだけならまだいい。最悪の場合、我々の方が『反逆者』『国家転覆を企む危険分子』として、国家権力に追われることになるだろう」

 その言葉が、まるで鉛のように重く、全員の肩に圧し掛かってくる。

「証拠を出したところで『捏造だ』と一蹴されて終わり。我々は逮捕され、牢に入れられ、最悪の場合……処刑されるか……寄生体を埋め込まれるか……」

「そんな……ひどい……あんまりよ!」

 シエルが唇を強く噛んだ。その目には怒りと無力感、そして深い絶望が浮かんでいる。

「社会とは、往々にしてそういうものだ」

 エルウィン博士が、長年の経験から来る苦々しい表情で言った。

「力ある者が正義を定義する。真実がどうであろうと、力ある者の言葉が真実になる。そして今、この王国で力を持つ者たちの多くが、敵に操られている。ならば正義は、奴らの側にあるということだ」

 我々は巨大な陰謀の核心に触れてしまった。けれど助けを求める先はどこにもない。警備隊も、魔塔も、王宮も、全てが敵かもしれない。いや、敵である可能性が高い。信じられるのは、今この場所にいる仲間だけ。

 絶望が、地下室を満たしていく。まるで冷たい霧のように――――。

 その時、レオンが動いた。

 震える手で涙を拭い、ゆっくりと立ち上がる。

「レオン……」

 エリナが、心配そうに眉を寄せる。

 レオンは深く息を吸い込む。

 悲嘆してても事態は悪くなる一方だ。

 妹を殺し、仲間を傷つけ、敬愛する主君を操り、この国を蝕む見えざる敵。

 個人的な復讐の炎は今、国を救うという大義の炎と重なり、彼の魂の中でかつてないほど激しく燃え上がっていた。

 妹のため。仲間のため。この国のため。そして、これ以上誰も失わないために――――。

「敵は、この国に巣食う闇……」

 レオンの声が、静かに響く。けれどその声には、揺るぎない意志が込められている。

 レオンは、仲間たちを一人一人見回した。みんな、疲れている。絶望している。けれど、心はまだ折れていない。その目には、戦う意志が残っている。

「――上等だ」

 レオンの唇が、僅かに笑みの形を作る。それは悲しみを湛えつつも挑戦的な笑み。

「ならば僕たちが、この腐りきった国を、悪意の全てを、ひっくり返してやろう!」

 その言葉が、部屋に響き渡った。

 それは社会そのものへの宣戦布告だった。敵は【運命鑑定】を超えるスキルを持ち、【核】を操り王国を裏から支配しているという鉄壁の布陣。どう考えても勝ち目などなかった。

 けれど、それでも戦うと決めた者の、魂の叫び。

 沈黙。

 そう、沈黙せざるを得ない。もはや自殺行為だ。

 しかし――。

「……いいね」

 エリナが、カチャっと剣の柄に手をかけた。

「私も……ですわ」

 ミーシャが、ロッドを握りしめる。

「あたしも! 絶対に許さない!」

 ルナが、拳を掲げる。

「レオンのため、父様のためなら……どこまでも」

 シエルが、弓をぎゅっと握る。

「蒼き獅子騎士団も、共に戦おう」

 ギルバートが、力強く頷いた。

「老いぼれだが、知識なら提供できる」

 エルウィン博士が、眼鏡を押し上げる。

「ギルドも、できる限りの支援をしよう」

 ギルドマスターが、サムアップした。

 全員の目が、不敵に輝く――。

 それは、絶望の淵に立ちながらも、それでも戦うことを選んだ者たちの目。

 長く、困難な戦いが始まる。

 けれど、彼らは一人ではない。

 仲間がいる。信じ合える仲間が。

 その事実が、彼らに力を与えてくれる。

 レオンは、仲間たちの顔を見回し、そして静かに頷いた。

「ありがとう……みなさん」

 その声には感謝と――そしてもう引き返せない困難な道への覚悟が込められていた。

 ここに自殺行為ともいえる、無謀で絶望的な抵抗の幕が上がったのだった。



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「そんな……」「くっ……!」「どうしたら……」
 動揺の声が、あちこちから上がる。それはつまり、彼らが信じていた「正義」や「秩序」が、既に内側から腐り落ちていたという事実だった。王国という巨大な組織が見えない寄生虫に蝕まれ、もはや健全な部分がどこにあるのか、誰が味方で誰が敵なのか、まったく分からない状態。
「やはり……そうだったのか……」
 レオンが震える声で呟いた。その手は小刻みに震え、顔からは血の気が引いている。
「じゃあ、あたしたちは……誰を信じればいいの? 誰に助けを求めればいいの?」
 ルナが、今にも泣き出しそうな声で尋ねた。
「報告すれば、十中八九もみ消される」
 ギルドマスターが、冷徹な現実を告げる。
「いや、もみ消されるだけならまだいい。最悪の場合、我々の方が『反逆者』『国家転覆を企む危険分子』として、国家権力に追われることになるだろう」
 その言葉が、まるで鉛のように重く、全員の肩に圧し掛かってくる。
「証拠を出したところで『捏造だ』と一蹴されて終わり。我々は逮捕され、牢に入れられ、最悪の場合……処刑されるか……寄生体を埋め込まれるか……」
「そんな……ひどい……あんまりよ!」
 シエルが唇を強く噛んだ。その目には怒りと無力感、そして深い絶望が浮かんでいる。
「社会とは、往々にしてそういうものだ」
 エルウィン博士が、長年の経験から来る苦々しい表情で言った。
「力ある者が正義を定義する。真実がどうであろうと、力ある者の言葉が真実になる。そして今、この王国で力を持つ者たちの多くが、敵に操られている。ならば正義は、奴らの側にあるということだ」
 我々は巨大な陰謀の核心に触れてしまった。けれど助けを求める先はどこにもない。警備隊も、魔塔も、王宮も、全てが敵かもしれない。いや、敵である可能性が高い。信じられるのは、今この場所にいる仲間だけ。
 絶望が、地下室を満たしていく。まるで冷たい霧のように――――。
 その時、レオンが動いた。
 震える手で涙を拭い、ゆっくりと立ち上がる。
「レオン……」
 エリナが、心配そうに眉を寄せる。
 レオンは深く息を吸い込む。
 悲嘆してても事態は悪くなる一方だ。
 妹を殺し、仲間を傷つけ、敬愛する主君を操り、この国を蝕む見えざる敵。
 個人的な復讐の炎は今、国を救うという大義の炎と重なり、彼の魂の中でかつてないほど激しく燃え上がっていた。
 妹のため。仲間のため。この国のため。そして、これ以上誰も失わないために――――。
「敵は、この国に巣食う闇……」
 レオンの声が、静かに響く。けれどその声には、揺るぎない意志が込められている。
 レオンは、仲間たちを一人一人見回した。みんな、疲れている。絶望している。けれど、心はまだ折れていない。その目には、戦う意志が残っている。
「――上等だ」
 レオンの唇が、僅かに笑みの形を作る。それは悲しみを湛えつつも挑戦的な笑み。
「ならば僕たちが、この腐りきった国を、悪意の全てを、ひっくり返してやろう!」
 その言葉が、部屋に響き渡った。
 それは社会そのものへの宣戦布告だった。敵は【運命鑑定】を超えるスキルを持ち、【核】を操り王国を裏から支配しているという鉄壁の布陣。どう考えても勝ち目などなかった。
 けれど、それでも戦うと決めた者の、魂の叫び。
 沈黙。
 そう、沈黙せざるを得ない。もはや自殺行為だ。
 しかし――。
「……いいね」
 エリナが、カチャっと剣の柄に手をかけた。
「私も……ですわ」
 ミーシャが、ロッドを握りしめる。
「あたしも! 絶対に許さない!」
 ルナが、拳を掲げる。
「レオンのため、父様のためなら……どこまでも」
 シエルが、弓をぎゅっと握る。
「蒼き獅子騎士団も、共に戦おう」
 ギルバートが、力強く頷いた。
「老いぼれだが、知識なら提供できる」
 エルウィン博士が、眼鏡を押し上げる。
「ギルドも、できる限りの支援をしよう」
 ギルドマスターが、サムアップした。
 全員の目が、不敵に輝く――。
 それは、絶望の淵に立ちながらも、それでも戦うことを選んだ者たちの目。
 長く、困難な戦いが始まる。
 けれど、彼らは一人ではない。
 仲間がいる。信じ合える仲間が。
 その事実が、彼らに力を与えてくれる。
 レオンは、仲間たちの顔を見回し、そして静かに頷いた。
「ありがとう……みなさん」
 その声には感謝と――そしてもう引き返せない困難な道への覚悟が込められていた。
 ここに自殺行為ともいえる、無謀で絶望的な抵抗の幕が上がったのだった。