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SCENE113 百鬼夜行の立場

ー/ー



 ダンジョン管理局に出向いた日の夜のこと、私の手元に電話がかかってきた。相手は瞬のようだ。
 瞬の名前を確認した瞬間、私は迷わず電話に出ていた。

「どうした、瞬。何かあったのか?」

 私はいつものように瞬に声をかける。

『あ、衣織お姉さん。驚かずに聞いてほしいんだ』

 うん? なんだか瞬の様子が変だな。切り出し方がおかしいし、声が少し震えているようにも感じられる。その異変を感じ取った時、私の中からちょっと落ち着きが消えていく気がした。

「瞬、落ち着け。とにかく、ゆっくりと話すんだ、いいな?」

『あ、うん……』

 私が話をした瞬間、瞬はちょっとびっくりしたような反応を示していた。
 瞬の様子がいつになくおかしい。そのせいで心がどうにも動揺を隠せないのだが、瞬が話をしてくれるのだ。私はどうにか落ち着いて話を聞こうとした。

 だが、そんな気持ちも吹き飛ぶような話が飛び出てきた。

「なんだと?! くそっ、パラダイスのやつ、よくもそんな真似を……」

『わわっ、衣織お姉さん、落ち着いてよ!』

 私は頭に血が昇って、ついカッとなってしまった。瞬が慌てたように騒いでくれたおかげで、どうにかすぐ冷静さを取り戻せたがな。
 だが、私たちの予想以上に行動が早かった。まさか、瞬のダンジョンに攻略目的で侵入するとはな。まったく、入口にいたダンジョン管理局の人も気の毒としか言いようがない。

「すまなかった。瞬が襲われたと聞いて、怒りに我を忘れてしまいそうになったよ。無事でいてくれてよかった」

『うん、バトラーとラティナさんのおかげだよ。二人がいなかった、きっと危なかった』

「そうか。それなら、今度二人に差し入れをしてやらねばいけないな。好みのものを聞いて、メールでいいから連絡を入れておいてくれ」

『分かったよ。それじゃ、僕からの報告はこれくらいだから。おやすみなさい』

「ああ、おやすみだ」

 お互いに落ち着いたようで、私たちはおやすみの挨拶と同時に通話を終了させていた。

「パラダイスの連中、瞬のダンジョンが特殊な立ち位置だということを知らないわけでもあるまい。だというのにあのダンジョンを攻略しようとは……。まったく功績をあげているからといって調子に乗りまくっているようだな。これは、計画を急がないといけないな」

 セイレーンの下僕とかいう探索者とコンタクトを取って、パラダイスのやつらを罠にはめようと思ったが、どうやら悠長にしている場合ではなさそうだな。

「そういえば、瞬はあの探索者と面識があるんだったか。なら、瞬から話をつけてもらう方がいいのか?」

 私はそう考えて、携帯電話を再び手に取る。

「いや、ダメだ。今さっきおやすみといったばかりなのだ。ここで連絡を入れれば、瞬の眠りの妨げになる。……ぐぐぐ、仕方あるまい。明日起きてから連絡を入れることにしよう」

 私はどうにか思いとどまり、その日はどうにか休むことができたのだった。

 翌日、私が目を覚ますと剛力さんから緊急の招集がかけられてしまった。せっかく瞬に連絡を入れようと思っていたのだが、ギルドの緊急招集となればやむをえん。そちらを優先させるしかない。
 私は瞬に連絡を入れたい気持ちをぐっとこらえ、百鬼夜行のギルド本部へと向かった。
 それにしても久しぶりにギルドメンバーがたくさんそろうと多いなと感じるな。
 ギルド規模からすると、百人というのは中堅レベルの人数なんだがな。マスターである剛力さんの方針とはいえ、少数精鋭だ。実力ならば他のギルドを上回るぞ。

「諸君、本日集まってもらったのはわけがある。まずはこれを見てくれ」

 剛力さんがみんなを集めてスクリーンに映し出したのは、なんということだろうか、瞬のダンジョンでの出来事だった。

「これって、確か管理局の管理下にあるウィンクスダンジョンだよな?」

「こいつらはパラダイスの副マスと手下じゃねえか」

「おいおい、管理局に対してケンカ売ったのかよ、こいつら。信じられねえぜ」

「前々から危ない連中だと思ってたけど、いよいよ来たって感じなのかしらね」

 配信のアーカイブを見ているギルドメンバーの反応は様々だった。だが、全員がパラダイスを非難する反応ばかりだったな。
 それもそうだろう。瞬のダンジョンはダンジョン管理局の管理下に置かれていることが発表されているからな。うちのギルドはダンジョン管理法に詳しい連中ばかりだから、パラダイスの肩を持つ奴なんていないのは分かり切ったことだ。

「さすがにダンジョン管理法を堂々と破る動画が拡散したことで、あいつらは今窮地に立たされていることだろう。これについて、我々『百鬼夜行』も立場を表明することになった」

 剛力さんがこのように発言すれば、さっきまで騒がしかったみんなが一気に黙り込む。このあとのことが分かっているからだ。

「さあ、みんなの立場を示してくれ。我々『百鬼夜行』はギルド『パラダイス』に対する非難の声明を発表する。賛成か、反対か、示してほしい」

 剛力さんがこう発言すれば、私を含めて全員が同じ言葉を発した。
 そう、賛成という言葉を。
 これを聞いて、剛力さんは安心したように何度も頷いていた。

 私たちのギルド『百鬼夜行』のパラダイスへの非難声明の発表。
 この日、ダンジョンを巡る環境は大きな動きを見せ始めた。


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 ダンジョン管理局に出向いた日の夜のこと、私の手元に電話がかかってきた。相手は瞬のようだ。
 瞬の名前を確認した瞬間、私は迷わず電話に出ていた。
「どうした、瞬。何かあったのか?」
 私はいつものように瞬に声をかける。
『あ、衣織お姉さん。驚かずに聞いてほしいんだ』
 うん? なんだか瞬の様子が変だな。切り出し方がおかしいし、声が少し震えているようにも感じられる。その異変を感じ取った時、私の中からちょっと落ち着きが消えていく気がした。
「瞬、落ち着け。とにかく、ゆっくりと話すんだ、いいな?」
『あ、うん……』
 私が話をした瞬間、瞬はちょっとびっくりしたような反応を示していた。
 瞬の様子がいつになくおかしい。そのせいで心がどうにも動揺を隠せないのだが、瞬が話をしてくれるのだ。私はどうにか落ち着いて話を聞こうとした。
 だが、そんな気持ちも吹き飛ぶような話が飛び出てきた。
「なんだと?! くそっ、パラダイスのやつ、よくもそんな真似を……」
『わわっ、衣織お姉さん、落ち着いてよ!』
 私は頭に血が昇って、ついカッとなってしまった。瞬が慌てたように騒いでくれたおかげで、どうにかすぐ冷静さを取り戻せたがな。
 だが、私たちの予想以上に行動が早かった。まさか、瞬のダンジョンに攻略目的で侵入するとはな。まったく、入口にいたダンジョン管理局の人も気の毒としか言いようがない。
「すまなかった。瞬が襲われたと聞いて、怒りに我を忘れてしまいそうになったよ。無事でいてくれてよかった」
『うん、バトラーとラティナさんのおかげだよ。二人がいなかった、きっと危なかった』
「そうか。それなら、今度二人に差し入れをしてやらねばいけないな。好みのものを聞いて、メールでいいから連絡を入れておいてくれ」
『分かったよ。それじゃ、僕からの報告はこれくらいだから。おやすみなさい』
「ああ、おやすみだ」
 お互いに落ち着いたようで、私たちはおやすみの挨拶と同時に通話を終了させていた。
「パラダイスの連中、瞬のダンジョンが特殊な立ち位置だということを知らないわけでもあるまい。だというのにあのダンジョンを攻略しようとは……。まったく功績をあげているからといって調子に乗りまくっているようだな。これは、計画を急がないといけないな」
 セイレーンの下僕とかいう探索者とコンタクトを取って、パラダイスのやつらを罠にはめようと思ったが、どうやら悠長にしている場合ではなさそうだな。
「そういえば、瞬はあの探索者と面識があるんだったか。なら、瞬から話をつけてもらう方がいいのか?」
 私はそう考えて、携帯電話を再び手に取る。
「いや、ダメだ。今さっきおやすみといったばかりなのだ。ここで連絡を入れれば、瞬の眠りの妨げになる。……ぐぐぐ、仕方あるまい。明日起きてから連絡を入れることにしよう」
 私はどうにか思いとどまり、その日はどうにか休むことができたのだった。
 翌日、私が目を覚ますと剛力さんから緊急の招集がかけられてしまった。せっかく瞬に連絡を入れようと思っていたのだが、ギルドの緊急招集となればやむをえん。そちらを優先させるしかない。
 私は瞬に連絡を入れたい気持ちをぐっとこらえ、百鬼夜行のギルド本部へと向かった。
 それにしても久しぶりにギルドメンバーがたくさんそろうと多いなと感じるな。
 ギルド規模からすると、百人というのは中堅レベルの人数なんだがな。マスターである剛力さんの方針とはいえ、少数精鋭だ。実力ならば他のギルドを上回るぞ。
「諸君、本日集まってもらったのはわけがある。まずはこれを見てくれ」
 剛力さんがみんなを集めてスクリーンに映し出したのは、なんということだろうか、瞬のダンジョンでの出来事だった。
「これって、確か管理局の管理下にあるウィンクスダンジョンだよな?」
「こいつらはパラダイスの副マスと手下じゃねえか」
「おいおい、管理局に対してケンカ売ったのかよ、こいつら。信じられねえぜ」
「前々から危ない連中だと思ってたけど、いよいよ来たって感じなのかしらね」
 配信のアーカイブを見ているギルドメンバーの反応は様々だった。だが、全員がパラダイスを非難する反応ばかりだったな。
 それもそうだろう。瞬のダンジョンはダンジョン管理局の管理下に置かれていることが発表されているからな。うちのギルドはダンジョン管理法に詳しい連中ばかりだから、パラダイスの肩を持つ奴なんていないのは分かり切ったことだ。
「さすがにダンジョン管理法を堂々と破る動画が拡散したことで、あいつらは今窮地に立たされていることだろう。これについて、我々『百鬼夜行』も立場を表明することになった」
 剛力さんがこのように発言すれば、さっきまで騒がしかったみんなが一気に黙り込む。このあとのことが分かっているからだ。
「さあ、みんなの立場を示してくれ。我々『百鬼夜行』はギルド『パラダイス』に対する非難の声明を発表する。賛成か、反対か、示してほしい」
 剛力さんがこう発言すれば、私を含めて全員が同じ言葉を発した。
 そう、賛成という言葉を。
 これを聞いて、剛力さんは安心したように何度も頷いていた。
 私たちのギルド『百鬼夜行』のパラダイスへの非難声明の発表。
 この日、ダンジョンを巡る環境は大きな動きを見せ始めた。