第132話 親バカエルフの策略
ー/ー
プディカ・アレフヘイムという女エルフは、我の親友ミモザの母親であり、里の族長をやっていた。が、あまりにも人望がなかったことと、あまりにも娘贔屓で職権乱用、公私混同極まりない点が問題となっていたことは我も知るところ。
それがよもや、追放されるに至るとは。思えば、娘のミモザも追放されておるわけだし、よくない意味で似たもの親子だな。そういう言い方をしてしまうと、我も魔王軍から追放されている身なのだが。
「まったく……ロータスも何を考えておるのだ」
「同感だ。ワタシもあの男の考えることは理解できん。だが、追放された身で衣食住を保障され、お前さんらみたいなヒヨッコどもを育成できる立場を得られるというのなら断る理由もないからな」
そのまま路頭を彷徨っててもらった方がよかったのでは。
しかし、仮にもミモザの母親だ。そんな惨めな姿はあまり見たくない。
「おかーさん……」
こっちは本当にどういう心境になるのだろう。
ミモザは族長だった母親にエルフの森を追放されて、路頭に彷徨い、かつて掃き溜めとも呼ばれていたパエデロスに流れ着いた。
それだけに留まらず、生活が安定してきた頃合いに、もっと厳正なる処罰を与えるべきだという声が上がり、族長であるプディカ自身が処刑する寸前までいきかけたのも本当につい最近のことだぞ。
「ミモザ、元気そうだな。ちゃんと飯食ってるか?」
「あ、は、はい……」
「おい、フィー。ちゃんとうちの娘の世話をしてくれてるんだろうな!?」
「う、お、も、勿論そうに決まっているであろう!」
なんなんだ、このぎこちない会話は。これが親子の会話か。
というか、なんで我に飛び火した?
これがもっとまともな場所だったのなら親子水入らずで団らんでもしてもらっていたところなのだが、お互いの立場が複雑すぎるだろう。
一応お互いがお互い、憎んでるわけでもない辺り、血の繋がりを感じる。
「ぁー、おほん。仕切り直すとしよう」
そういうや否や、もう一度腕を組み直して、ふんぞり返る。
そんなわざわざ態度を大きくする必要性があるのか?
「生徒諸君。ワタシが防衛魔法担当の教師、プディカ・アレフヘイムだ。ガキどもの子守りなどまっぴらごめんだが、仕方なくお前さんらの面倒を見てやろう」
どんだけプライド高いんだ、この女。本当にロータスは何を思ってこのエルフを教師にしようなどと考えたのやら。
ただ、レッドアイズから呼んできたカーネやマーガのようなクセの強い連中と並ぶくらいにはプディカもクセが強いとは言えるか。元々、実力だけでエルフの里を統括する族長なんてやってたわけだし。
「安心するといい。このワタシはアレフヘイムの里において、戦闘の指導者として教鞭を振るっていたこともある。言うなれば魔法による実戦の専門家だ。ろくに魔法の使えない腑抜けたお前さんらにも徹底的に戦い方を叩き込んでやるからな」
なんか嫌々ロータスに連れてこられて教官やらされてるみたいなことを言っていた割に、かなり乗り気じゃないか? ひょっとして娘のミモザがいるから張り切っているとかではないだろうな。まさかロータス、そこまで汲んで……。
「魔法の扱い方を覚えるには、やはり魔法を使ってみないことには始まらない。そこで早速だが、簡単な魔具を手配させてもらった」
プディカはそういうと、魔法練習場に設けられた舞台の片隅にひっそりと積まれていた箱から何やら石を取り出してみせる。
「これは魔石と呼ばれるものだ。簡単に説明すると、お前さんらのような魔力も未熟な輩でも魔法を放てるよう、術式の組み込まれた魔具だ。ワタシの授業では、これを使い、魔法を使う感覚を実戦で学んでもらう」
物凄い体当たりな授業だな。それに、かなり贅沢だ。
箱に積まれている魔石の純度がどの程度のものなのかまでは今の我には分からないが、あれだけの数ともなればそれなりの値が張るはず。
「いいか、生徒諸君。魔法は便利であると同時に危険も伴う。それを身を以て理解してもらうからな。覚悟してもらおう」
ドーンと胸を張って構える。まだ、ポカンとしている生徒が多い。
現時点で魔法を実際に使うにまで至っている生徒は少数だ。ほとんどの生徒が魔力の操作すらできていない段階でこの場に立っているのだからな。
ただ、ようやくまともに魔法を使える授業が始まったことに興奮を覚えている男子生徒も何人かいた。なんだったら早いところあの魔石の積まれた箱に飛びつかんばかりの勢いもあったくらい。
そういう軽い気持ちで構えている奴が安易に魔法を使おうものならろくでもない飛び火をしていくのが目に見える。このプディカはそれを分かっているのだろうか。
「ワタシの里でなら一斉に組み手を始めてもらっていたところだが、ヒョロヒョロのお前さんらにはリスクが高い。まずは一対一。二人ずつ、ワタシの監督する中で魔石による実戦を行ってもらう。慣れてきたら数を増やしていくつもりだ」
クラスメイトどもがざわつく。どうやら今日は全員が魔石を使わせてくれるわけではないらしい。そうなると誰が選ばれるのか。
まだ魔法を怖いと思っている生徒もいれば、早く魔法をガンガン使いたいと思っている生徒もいる。
プディカの選択次第では授業が滅茶苦茶になる可能性もあるが……。
「ミモザ、そしてフィー。舞台に上がれ」
「ふぇ……?」
「え?」
不意打ち食らって、名前を呼ばれる。予想していないくらいあっさりだったため、我もミモザも硬直してしまう。
「ほら、早くしないかい! とろとろしてると授業が終わっちまうよ!」
「「は、はいっ!」」
プディカの一喝に思わず我もミモザも同時に返事してしまう。物凄い怖い。
ここで嫌です、などと言えるほどの勇気もなく、舞台の上に上がるしかなかった。
「さて、ルールは簡単だ。ここにある魔石を使い、相手を舞台から下ろした方が勝ちだ。怪我の有無は問わないつもりだが――過度に相手を痛めつけるような行為に及んだ場合は一旦中断させる」
「え、それだけ……?」
「そうだ。魔法で相手を場外に落とすだけだ。何も難しくはあるまい」
我の「それだけ」という質問はルールに対する疑問というよりか、魔石についての説明に対してだ。まともな授業なら魔石の使い方からもう少し掘り下げていくものなのでは。
無論、我もミモザも根本的な魔法の使い方は理解しているから不要とも言えるのだが、教師としてそのぶっきらぼうさはどうなんだ。いや、むしろ、この場で一番魔法の扱い方を熟知しているからこそ選ばれたのかもしれない。
「あ、あの、おかーさん……、ここでフィーしゃんと戦うのれすか?」
「そうだ。遠慮することはない。血が流れようと骨が折れようと治してやるからな。机の上でペンを走らせてるだけじゃなく、痛みで覚えることが何より手っ取り早い」
優しいんだか、優しくないんだか。
というか、本当にマジのマジで言っているのか?
我と、ミモザが戦う、だと?
「おい、フィー」
「ひっ、あ、はい。なんでしょう、お母様!?」
「ミモザに怪我させたら承知しないからな」
ヒィィ! 眼力だけで殺されるかと思った。やっぱり全然優しくない。
ってか、なんで我だけハードモード? ミモザにだけ甘すぎるだろこの女。
だったらあえてわざわざミモザを舞台に上がらせるなよ……。
それともあれか、実の娘が戦うところをその目で見たかったのだろうか。
「見学の生徒の諸君も見て覚えるように。それでは魔法組み手、実戦開始!」
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「まったく……ロータスも何を考えておるのだ」
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そのまま路頭を彷徨っててもらった方がよかったのでは。
しかし、仮にもミモザの母親だ。そんな惨めな姿はあまり見たくない。
「おかーさん……」
こっちは本当にどういう心境になるのだろう。
ミモザは族長だった母親にエルフの森を追放されて、路頭に彷徨い、かつて掃き溜めとも呼ばれていたパエデロスに流れ着いた。
それだけに留まらず、生活が安定してきた頃合いに、もっと厳正なる処罰を与えるべきだという声が上がり、族長であるプディカ自身が処刑する寸前までいきかけたのも本当につい最近のことだぞ。
「ミモザ、元気そうだな。ちゃんと飯食ってるか?」
「あ、は、はい……」
「おい、フィー。ちゃんとうちの娘の世話をしてくれてるんだろうな!?」
「う、お、も、勿論そうに決まっているであろう!」
なんなんだ、このぎこちない会話は。これが親子の会話か。
というか、なんで我に飛び火した?
これがもっとまともな場所だったのなら親子水入らずで団らんでもしてもらっていたところなのだが、お互いの立場が複雑すぎるだろう。
一応お互いがお互い、憎んでるわけでもない辺り、血の繋がりを感じる。
「ぁー、おほん。仕切り直すとしよう」
そういうや否や、もう一度腕を組み直して、ふんぞり返る。
そんなわざわざ態度を大きくする必要性があるのか?
「生徒諸君。ワタシが防衛魔法担当の教師、プディカ・アレフヘイムだ。ガキどもの子守りなどまっぴらごめんだが、仕方なくお前さんらの面倒を見てやろう」
どんだけプライド高いんだ、この女。本当にロータスは何を思ってこのエルフを教師にしようなどと考えたのやら。
ただ、レッドアイズから呼んできたカーネやマーガのようなクセの強い連中と並ぶくらいにはプディカもクセが強いとは言えるか。元々、実力だけでエルフの里を統括する族長なんてやってたわけだし。
「安心するといい。このワタシはアレフヘイムの里において、戦闘の指導者として教鞭を振るっていたこともある。言うなれば魔法による実戦の専門家だ。ろくに魔法の使えない腑抜けたお前さんらにも徹底的に戦い方を叩き込んでやるからな」
なんか嫌々ロータスに連れてこられて教官やらされてるみたいなことを言っていた割に、かなり乗り気じゃないか? ひょっとして娘のミモザがいるから張り切っているとかではないだろうな。まさかロータス、そこまで汲んで……。
「魔法の扱い方を覚えるには、やはり魔法を使ってみないことには始まらない。そこで早速だが、簡単な魔具を手配させてもらった」
プディカはそういうと、魔法練習場に設けられた舞台の片隅にひっそりと積まれていた箱から何やら石を取り出してみせる。
「これは魔石と呼ばれるものだ。簡単に説明すると、お前さんらのような魔力も未熟な輩でも魔法を放てるよう、術式の組み込まれた魔具だ。ワタシの授業では、これを使い、魔法を使う感覚を実戦で学んでもらう」
物凄い体当たりな授業だな。それに、かなり贅沢だ。
箱に積まれている魔石の純度がどの程度のものなのかまでは今の我には分からないが、あれだけの数ともなればそれなりの値が張るはず。
「いいか、生徒諸君。魔法は便利であると同時に危険も伴う。それを身を以て理解してもらうからな。覚悟してもらおう」
ドーンと胸を張って構える。まだ、ポカンとしている生徒が多い。
現時点で魔法を実際に使うにまで至っている生徒は少数だ。ほとんどの生徒が魔力の操作すらできていない段階でこの場に立っているのだからな。
ただ、ようやくまともに魔法を使える授業が始まったことに興奮を覚えている男子生徒も何人かいた。なんだったら早いところあの魔石の積まれた箱に飛びつかんばかりの勢いもあったくらい。
そういう軽い気持ちで構えている奴が安易に魔法を使おうものならろくでもない飛び火をしていくのが目に見える。このプディカはそれを分かっているのだろうか。
「ワタシの里でなら一斉に組み手を始めてもらっていたところだが、ヒョロヒョロのお前さんらにはリスクが高い。まずは一対一。二人ずつ、ワタシの監督する中で魔石による実戦を行ってもらう。慣れてきたら数を増やしていくつもりだ」
クラスメイトどもがざわつく。どうやら今日は全員が魔石を使わせてくれるわけではないらしい。そうなると誰が選ばれるのか。
まだ魔法を怖いと思っている生徒もいれば、早く魔法をガンガン使いたいと思っている生徒もいる。
プディカの選択次第では授業が滅茶苦茶になる可能性もあるが……。
「ミモザ、そしてフィー。舞台に上がれ」
「ふぇ……?」
「え?」
不意打ち食らって、名前を呼ばれる。予想していないくらいあっさりだったため、我もミモザも硬直してしまう。
「ほら、早くしないかい! とろとろしてると授業が終わっちまうよ!」
「「は、はいっ!」」
プディカの一喝に思わず我もミモザも同時に返事してしまう。物凄い怖い。
ここで嫌です、などと言えるほどの勇気もなく、舞台の上に上がるしかなかった。
「さて、ルールは簡単だ。ここにある魔石を使い、相手を舞台から下ろした方が勝ちだ。怪我の有無は問わないつもりだが――過度に相手を痛めつけるような行為に及んだ場合は一旦中断させる」
「え、それだけ……?」
「そうだ。魔法で相手を場外に落とすだけだ。何も難しくはあるまい」
我の「それだけ」という質問はルールに対する疑問というよりか、魔石についての説明に対してだ。まともな授業なら魔石の使い方からもう少し掘り下げていくものなのでは。
無論、我もミモザも根本的な魔法の使い方は理解しているから不要とも言えるのだが、教師としてそのぶっきらぼうさはどうなんだ。いや、むしろ、この場で一番魔法の扱い方を熟知しているからこそ選ばれたのかもしれない。
「あ、あの、おかーさん……、ここでフィーしゃんと戦うのれすか?」
「そうだ。遠慮することはない。血が流れようと骨が折れようと治してやるからな。机の上でペンを走らせてるだけじゃなく、痛みで覚えることが何より手っ取り早い」
優しいんだか、優しくないんだか。
というか、本当にマジのマジで言っているのか?
我と、ミモザが戦う、だと?
「おい、フィー」
「ひっ、あ、はい。なんでしょう、お母様!?」
「ミモザに怪我させたら承知しないからな」
ヒィィ! 眼力だけで殺されるかと思った。やっぱり全然優しくない。
ってか、なんで我だけハードモード? ミモザにだけ甘すぎるだろこの女。
だったらあえてわざわざミモザを舞台に上がらせるなよ……。
それともあれか、実の娘が戦うところをその目で見たかったのだろうか。
「見学の生徒の諸君も見て覚えるように。それでは魔法組み手、実戦開始!」