第92話
ー/ーここはウエスの森の中の丸太小屋。
暗い空が白み始め、小鳥が起き出してさえずりはじめる。
「モック、ドンキー!朝だよ!起きて!」
土に根を張って寝ていた二人は、眠い目を擦って目を覚ます。
「朝だキー」
「朝キキー!」
リリィは丸太小屋の中に戻って階段を駆け上る。
そして屋根裏部屋へ。
アイリスが小さな可愛らしいベッドですやすやと眠っている。
リリィはアイリスの身体を揺する。
「アイリス!朝だよ!起きて!」
羽を広げてアイリスが起き出す。
今度はハクだ。
バタン!
ハクはうつ伏せて寝ている。
「ハク!起きて!朝だよ!」
ハクは動かない。
「お!き!て!」
リリィが全体重を掛けて、ハクの上に飛び乗る。
「ぐわっ!な、何をする!」
「だから、朝!起きて!」
ハクは仕方なく起きた。
部屋を出るとエリーゼが欠伸をしながら部屋を出てきた。
「エリーゼ、おはよう!」
「おはようございます。リリィ。」
リリィは最後の部屋に向かう。
バタン!
「朝だよ!起きて!フィー......」
リリィはハッとして途中で言葉を飲み込んだ。
目の前には、誰もいないベッド。
「そうだった。フィーネは居ないんだ......」
リリィは肩を落としてリビングに向かう。
丸太小屋にみんなで帰ってきた後、イブの姿も消えていた。
女神なのに何も出来ない自分に嫌気がさしたのかも知れない。
誰もイブを責めることは出来なかった。
みんなの食事はリリィが用意する。
ゴブローはゴブリン村に、オルガとホウオウとスザクは町に、それぞれ帰っていた。
リビングには、リリィ、ハク、アイリス、エリーゼ、モック、ドンキー。
皆、無言で朝食を口に運ぶ。
あの紅茶の香りも無い。
リリィたちは、ロッキングチェアに座る。
モックとドンキーは、リリィとエリーゼの膝の上だ。
いつもの追いかけっこも無い。
フィーネが居ない。
その喪失感だけが頭をグルグルと駆け巡る。
ゴブリン村では、
ゴブローが元の生活に戻っていた。
森の中で獣を狩る。
それを捌いて料理する。
しかし、ゴブローの心にも大きな穴が空いていた。
「俺がもっと強ければ......」
そんな言葉が口をついて出る。
ゴブローは空を見上げることが多くなった。
ウエスの森の外にある町。
オルガ、ホウオウ、スザクは、今日も畑仕事に精を出す。
しかし、会話はない。ひたすら無言で農作業をこなす。
オルガは青い蝶の髪飾りを見ることが多くなった。それを見るとフィーネの笑顔が浮かんでくる。
オルガにとっては、それだけが心の支えになっていた。
皆がそれぞれに喪失感を抱えながら、それでも生きている。
フィーネがその命をかけて守った『のんびり』を今度は自分たちが守っていくのだ。
「......でも、フィーネが居ない『のんびり』なんて、つまらないよ......」
リリィがつぶやいた。
数日後。
丸太小屋に久しぶりに、"家族"が集まることになった。
ゴブロー、オルガ、ホウオウ、スザクが丸太小屋に帰ってきた。
みんなで露天風呂に入り、足湯を楽しみ。リリィの淹れた紅茶を味わった。
「まだ、フィーネみたいに上手く淹れられないな......」
「リリィの淹れた紅茶も美味しいよ!」
オルガが言う。
「このお茶菓子も美味いぞ!」
ハクが頬張りながら話す。
「お城から取り寄せた茶菓子ですわ、にゃ。」
エリーゼが言う。
「今日は、食材をたっぷり持ってきたから、私と姉さんで料理するわ。」
スザクが言うと、
「ホウオウとスザクの料理か!楽しみだな。」
ゴブローが酒瓶を出しながら笑う。
「待つキー!」
「待つキキー!」
「にゃー!」
モックとドンキーとエリーゼ(猫)の追いかけっこが始まった。
リリィはそれをロッキングチェアに揺られながら見ている。
「フィーネは、どんな気持ちで見てたのかな?」
リリィは呟いた。
夕食。
テーブルに、豪華な食事が並ぶ。
「さあ、みんな食べて!」
ホウオウが言う。
「いただきます!」
「どれも美味いぞ!」
ハクがドンドン皿を空けていく。
「かーっ!酒がうまい!」
ゴブローはもう赤ら顔だ。
「みんな、まだ料理はあるからね。」
スザクが言う。
「これが家庭料理ですのね。どれも美味しいですわ。」
エリーゼも笑顔で食べている。
「ちょっとその辺を歩いてくるね。」
リリィが席を立った。
それに気づいたオルガが心配になって後を追う。
空には満天の星空。時折吹く風が心地よい。
「あの星のどれかはお母さん......フィーネも星になったのかな。」
リリィは涙を拭った。
「リリィ。何してるんだ。」
オルガが声をかける。
「オルガ、私ね。夢があったの。」
「夢?」
リリィがオルガに話す。
「オルガとフィーネが結婚して、私は二人の子供になるの。で、この丸太小屋で幸せに暮らすの。」
リリィは涙声になっている。
オルガは黙ってリリィを抱き寄せた。
「そうか......」
オルガは青い蝶の髪飾りを取り出した。
「これはフィーネさんの形見だ。リリィ、君が持っていて欲しい。」
リリィはオルガから髪飾りを受け取り、自分の髪につけた。
「似合うかな?」
リリィは、恥ずかしそうにオルガをみた。
「似合うよ。フィーネさんには敵わないけど。」
そう言ってオルガは笑う。
空には二つの流れ星が流れていった。
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