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ep.13 冒険の始まり

ー/ー



「結局お店に売ってたのは傘だけだったね。いや、すっごいおっきなナイフみたいなのとかも売ってたけどあたしじゃ持てないし。刃物怖いし」

 チョコバーを頬張りながら千寿流がそう呟く。

 用事があると言った星一朗と別れた後、ひとまず言われた通りに自衛の為の武器を探すことにした二人。

 魔獣(マインドイーター)に対抗するため、外部から武器の類は仕入れているらしくそれなりの品揃えが見えたが、いざ本物の武器を目の前にすると本当に自分に扱いきれるのか、という不安が込み上げてくる。
 先ほど生命の危機に瀕した手前あまりにも楽観的と言わざるを得ないが、店の前で行ったり来たり、迷う事三十分。
 しまいには店主に購入を急かされ、その流れで立て掛けられていた傘を購入してしまった。店主が言うには市販で売っているような傘とは違い、素材は軽く、壊れにくいものを使用しているらしく、子供の護身用目的としては十分すぎる代物だという。

「だいじょうぶ! またちずるが やられそうになっても おおごえでたすけを よんであげる!」

(う、やられそうになるのが前提なのはちょっとなあ。とにかく厄介な魔獣(マインドイーター)に出遭わないようにしないとね)

 千寿流が楽観的に考えていると、向こう側から人影が近づいてくる。星一朗だった。

「あ、星ちゃん。お用事ってもう終わっちゃったの?」

「お用事? 変な感じだけどまあいいか。うん、終わったよ。お、どうやら見つかったようだね。ってそれ、何かの冗談? 傘なんかで魔獣(マインドイーター)()りあうつもりなの?」

「えひひ、ダメかな」

 千寿流はぺろりと舌を出して言う。
 こめかみを押さえて唸るようなしぐさを取る星一朗。先ほど危機管理能力が無いといったにも拘らずこの有様だ。これはもう性分としか言いようがない。
 
 魔獣(マインドイーター)は人類の脅威といっても過言ではない。富士野もそこまで戦闘の経験があるというわけではないが、自身の体躯よりも大きな魔獣(マインドイーター)と対峙したこともある。例えるなら木の棒一本で熊とやりあえるだろうか。無理である。

 千寿流の楽観的な考え方は明らかに間違っている。注意するべきだろう。

「君、魔獣(マインドイーター)舐め過ぎだよ。本気で(それ)で勝てると思ってるの?」

「う、でもこれ普通の傘じゃないんだよ! ほら、すっごく良いやつなの! 高かったからシャルちゃんに買ってもらっちゃったけど」

 そう言いながら星一朗に傘を手渡す。重さが感じられないほどに軽く丈夫な造りに少し驚く。

「ん、本当だ。これ、素材なんだ? 僕も詳しいわけじゃないからな」

 指を滑らせたり、こつんと叩いたりして確かめているが、流石にそれだけでは分からないようだった。

「おじちゃんがなんか言ってたかもしれないけど忘れちゃった。もしかして、オリハルコンだったり?」

「何言ってんだよ。オリハルコンなんてゲームじゃあるまいし。まあでも、これなら軽いし護身用程度にはなるか。君には丁度いいかもしれないな。リーチは若干不安だけど」

 星一朗はそう言いながら千寿流に傘を返す。返したついでに袖を捲くり時刻を確認する。

「十一時か。じゃあ、僕はもう行くよ、昼を目途にクライアントと落ち合う予定になってるんだ。くれぐれも魔獣(マインドイーター)には気をつけて。それじゃあね」

「あ、星ちゃん!」

 踵を返す星一朗に咄嗟に声をかける。

「ん?」

 振り返る星一朗。今度はちゃんと言うって決めた。

「また、会おうね!」

「……そうだね。また、どこかで」





 吹き抜ける青の空。彩りを添える様に流れ揺れる白。BGMは寄せては返す波音と渡り鳥の声。
 長閑な田舎道。今はもう電車が走ることのない線路に沿って歩く。まばらに建つ電信柱や遮断機を見上げながら、るんるんと鼻歌を歌ってみたり。クイズやしりとりなんかをしたり。和気あいあいとピクニック気分の二人。
 千寿流たちが歩く海沿いの道にはちらほら人は見かけるものの、繁忙期からズレていることもあり魔獣(マインドイーター)どころか野生動物なども見かけることは無かった。

(えひひ、人型の魔獣(マインドイーター)ってちょっぴり怖かったけど、これなら別に問題なさそうじゃない? 早くクラマちゃん見つけてあげられるといいな)

「ねえちずる ちずるはどうして シャルルをたすけてくれるの?」

「……え?」

 シャルからの唐突の問いかけ。千寿流は鳩が豆鉄砲を食ったようなキョトンとした顔で聞き返してしまう。

 街を出てから一時間を越えたころだった。時折シャルから影のような表情が見え隠れしていたが、この事について言いだすか迷っていたのだろう。

「シャルルがたのんだから ってのはわかってるよ けど まちのそと きけんだった ちずるは シャルルのせいで しにかけたんだもん」

(そうなのかな。ううん、そんなことない。あたしが死にかけたのは、あたしがあの魔獣(マインドイーター)に気づけなかったからだ。シャルちゃんはむしろ助けを呼んできてくれた命の恩人ともいえる。だから、シャルちゃんが気に病むようなことじゃ無い)

 千寿流にも分からなかった。でも、仮にシャルが原因だったとしても千寿流には責めることなんてできなかった。
 それに自分は今こうして生きている。シャルとこうして会話をしている。それにシャルのおかげで星一朗にも出会えた。

「シャルちゃん、あたしは……」

「あーーー! みちがとぎれちゃってるーーーっ!」

 千寿流が言葉を返そうとした時、何かに気付き駆け出すシャル。彼女の後を追ってみると、地面が鋭利な刃物で切り裂かれたように割れていた。

「わぁ……」

 感嘆の言葉が思わず口を衝く。恐る恐る覗き込んでみると、眼下には宇宙のような光景が広がっており、その中心にはブラックホールの様なものが見受けられる。
 浮世離れした神秘的ともいえる光景。恐怖と美が同時に押し寄せる矛盾した感情。天と地を逆さにしたような、有象無象諸共全て飲み込んでしまうような、その人知を超えた眩さに千寿流は夢を見るが如く魅入っていた。

「ちずる! ちずる!」

 シャルに服を引っ張られて現実に呼び戻される。

「ああ、ごめん、シャルちゃん。そうだよね……周りに道っぽいのは見当たらないし、どうしようか?」

「こっちにいけば さきにすすめるんじゃないかな!」

 そう言ってシャルが指差したのは廃ビルの地下。見るや否や怪訝な顔をする千寿流。
 地上の道が途切れているのだから、当然地下に降りても道が途切れていると考えたが、他に行く当てもなかったので、とりあえずシャルの言われるがままに、地下へと向かうことにした。
 
 誰もいない地下街とはこうも不気味なものなのか。避けた大地から差し込む微かな光だけでは、とてもじゃないが先を見通すことは出来ない。

「っげ、真っ暗だよシャルちゃん。これじゃあ何にも視えないっ」

 シャルは手を宙に翳すと、その手の上に小さな宇宙の様なものを造り出す。それは渦を巻くように回転し、光を放つ。

「シャルルの とっておきを ちずるにも みせてあげるんだからねっ! ほらっ! これで あかるくなったでしょ?」

 その小さな宇宙をぴんと指で弾いてやると、風呂敷が広がるように周囲が一気に明るくなった。

「わっ、すごい……なにこれ」

「とっておきだよ ちずる」

 とっておきと言われても、と内心思う千寿流だったが、明るくなったのなら別にまあいいか、と気持ちを切り替えることにした。

「しゃ、シャルちゃん。その、あたしもどっちが正しいのかとか分かんないけど、本当にこっちで合ってるの?」

 地表からは断絶されていた道。それが地下では広大な世界として広がっている。早い話が地上と地下で明らかに構造が噛み合っていないのだ。

「シャルルも わかんないよ でもちじょうは いきどまりだった。だから ちか からならいける っておもったわけだよ!」

「う~ん。あたしもそれぐらい、なんていうか、ジュウナン?に考えなくちゃいけないのかな~。さすがはシャルちゃんだよ」

 頭を掻きながら、自分を無理やり納得させるように解釈して再び歩き始める千寿流。正直シャルの考えていることは良く分からなかった。
 案の定ではあるが、インフラが完全に死んでいて、案内板なども電気が通っていないので、進行方向が定まらない。人の気配を感じさせない伽藍とした通路。

 魔獣(マインドイーター)に遭遇することは無かったものの、ネズミやらコウモリやらが巣食っていて、食料などにもありつけなかったので、早いうちに人が住んでいる場所に辿り着きたかった。
 
 地下に設置された慣れない地図とにらめっこをしながら、しばらく迷路のような地下街を数時間ほど歩き、ようやく見つけた階段を上ることにした二人。

「ん~やっぱり地上のほうがあたしは好きだな~! 地下はなんていうか、怖いし、たまに天井崩れそうになるしっ」

「ゆうれい とかがいれば おもしろかったんだけどね~」

「えひひひ、シャルちゃんそれは無いよ。幽霊なんていないもんね! えっと、そのさ、あたしたち、本当にこのまま進んじゃって大丈夫なのかな?」

 千寿流は立ち止まり後ろを振り返った後、シャルに問いかける。

「ん?」

「だって、合ってるっていう事なら、クラマちゃんもここを通ったってことになるでしょ? クラマちゃんはシャルちゃんを置いて、何でこんなところまでやって来たのかなって。おかしくない、シャルちゃん?」

 かねてからの疑問だった。
 この奇妙な冒険と云えなくもないちょっとした二人旅は、クラマが館にいないという事で始まったのだ。クラマはシャルにとって、とても大事な人で逆もまた然り、クラマにとってもシャルは大切な存在だという。
 果たしてそんな大事な人を放っておいて長期間留守にするだろうか。しかも、断りもなくだ。普通に考えたらあり得ない話ではないだろうか?

「ん~~ う~~~ん」

 頬に手を付けて考え込んでしまうシャル。唸りながら答えを必死に探しているようだったが、結局その答えが返ってくることは無かった。


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次のエピソードへ進む ep.14 人型の魔獣


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「結局お店に売ってたのは傘だけだったね。いや、すっごいおっきなナイフみたいなのとかも売ってたけどあたしじゃ持てないし。刃物怖いし」
 チョコバーを頬張りながら千寿流がそう呟く。
 用事があると言った星一朗と別れた後、ひとまず言われた通りに自衛の為の武器を探すことにした二人。
 |魔獣《マインドイーター》に対抗するため、外部から武器の類は仕入れているらしくそれなりの品揃えが見えたが、いざ本物の武器を目の前にすると本当に自分に扱いきれるのか、という不安が込み上げてくる。
 先ほど生命の危機に瀕した手前あまりにも楽観的と言わざるを得ないが、店の前で行ったり来たり、迷う事三十分。
 しまいには店主に購入を急かされ、その流れで立て掛けられていた傘を購入してしまった。店主が言うには市販で売っているような傘とは違い、素材は軽く、壊れにくいものを使用しているらしく、子供の護身用目的としては十分すぎる代物だという。
「だいじょうぶ! またちずるが やられそうになっても おおごえでたすけを よんであげる!」
(う、やられそうになるのが前提なのはちょっとなあ。とにかく厄介な|魔獣《マインドイーター》に出遭わないようにしないとね)
 千寿流が楽観的に考えていると、向こう側から人影が近づいてくる。星一朗だった。
「あ、星ちゃん。お用事ってもう終わっちゃったの?」
「お用事? 変な感じだけどまあいいか。うん、終わったよ。お、どうやら見つかったようだね。ってそれ、何かの冗談? 傘なんかで|魔獣《マインドイーター》と|戦《や》りあうつもりなの?」
「えひひ、ダメかな」
 千寿流はぺろりと舌を出して言う。
 こめかみを押さえて唸るようなしぐさを取る星一朗。先ほど危機管理能力が無いといったにも拘らずこの有様だ。これはもう性分としか言いようがない。
 |魔獣《マインドイーター》は人類の脅威といっても過言ではない。富士野もそこまで戦闘の経験があるというわけではないが、自身の体躯よりも大きな|魔獣《マインドイーター》と対峙したこともある。例えるなら木の棒一本で熊とやりあえるだろうか。無理である。
 千寿流の楽観的な考え方は明らかに間違っている。注意するべきだろう。
「君、|魔獣《マインドイーター》舐め過ぎだよ。本気で|傘《それ》で勝てると思ってるの?」
「う、でもこれ普通の傘じゃないんだよ! ほら、すっごく良いやつなの! 高かったからシャルちゃんに買ってもらっちゃったけど」
 そう言いながら星一朗に傘を手渡す。重さが感じられないほどに軽く丈夫な造りに少し驚く。
「ん、本当だ。これ、素材なんだ? 僕も詳しいわけじゃないからな」
 指を滑らせたり、こつんと叩いたりして確かめているが、流石にそれだけでは分からないようだった。
「おじちゃんがなんか言ってたかもしれないけど忘れちゃった。もしかして、オリハルコンだったり?」
「何言ってんだよ。オリハルコンなんてゲームじゃあるまいし。まあでも、これなら軽いし護身用程度にはなるか。君には丁度いいかもしれないな。リーチは若干不安だけど」
 星一朗はそう言いながら千寿流に傘を返す。返したついでに袖を捲くり時刻を確認する。
「十一時か。じゃあ、僕はもう行くよ、昼を目途にクライアントと落ち合う予定になってるんだ。くれぐれも|魔獣《マインドイーター》には気をつけて。それじゃあね」
「あ、星ちゃん!」
 踵を返す星一朗に咄嗟に声をかける。
「ん?」
 振り返る星一朗。今度はちゃんと言うって決めた。
「また、会おうね!」
「……そうだね。また、どこかで」
 吹き抜ける青の空。彩りを添える様に流れ揺れる白。BGMは寄せては返す波音と渡り鳥の声。
 長閑な田舎道。今はもう電車が走ることのない線路に沿って歩く。まばらに建つ電信柱や遮断機を見上げながら、るんるんと鼻歌を歌ってみたり。クイズやしりとりなんかをしたり。和気あいあいとピクニック気分の二人。
 千寿流たちが歩く海沿いの道にはちらほら人は見かけるものの、繁忙期からズレていることもあり|魔獣《マインドイーター》どころか野生動物なども見かけることは無かった。
(えひひ、人型の|魔獣《マインドイーター》ってちょっぴり怖かったけど、これなら別に問題なさそうじゃない? 早くクラマちゃん見つけてあげられるといいな)
「ねえちずる ちずるはどうして シャルルをたすけてくれるの?」
「……え?」
 シャルからの唐突の問いかけ。千寿流は鳩が豆鉄砲を食ったようなキョトンとした顔で聞き返してしまう。
 街を出てから一時間を越えたころだった。時折シャルから影のような表情が見え隠れしていたが、この事について言いだすか迷っていたのだろう。
「シャルルがたのんだから ってのはわかってるよ けど まちのそと きけんだった ちずるは シャルルのせいで しにかけたんだもん」
(そうなのかな。ううん、そんなことない。あたしが死にかけたのは、あたしがあの|魔獣《マインドイーター》に気づけなかったからだ。シャルちゃんはむしろ助けを呼んできてくれた命の恩人ともいえる。だから、シャルちゃんが気に病むようなことじゃ無い)
 千寿流にも分からなかった。でも、仮にシャルが原因だったとしても千寿流には責めることなんてできなかった。
 それに自分は今こうして生きている。シャルとこうして会話をしている。それにシャルのおかげで星一朗にも出会えた。
「シャルちゃん、あたしは……」
「あーーー! みちがとぎれちゃってるーーーっ!」
 千寿流が言葉を返そうとした時、何かに気付き駆け出すシャル。彼女の後を追ってみると、地面が鋭利な刃物で切り裂かれたように割れていた。
「わぁ……」
 感嘆の言葉が思わず口を衝く。恐る恐る覗き込んでみると、眼下には宇宙のような光景が広がっており、その中心にはブラックホールの様なものが見受けられる。
 浮世離れした神秘的ともいえる光景。恐怖と美が同時に押し寄せる矛盾した感情。天と地を逆さにしたような、有象無象諸共全て飲み込んでしまうような、その人知を超えた眩さに千寿流は夢を見るが如く魅入っていた。
「ちずる! ちずる!」
 シャルに服を引っ張られて現実に呼び戻される。
「ああ、ごめん、シャルちゃん。そうだよね……周りに道っぽいのは見当たらないし、どうしようか?」
「こっちにいけば さきにすすめるんじゃないかな!」
 そう言ってシャルが指差したのは廃ビルの地下。見るや否や怪訝な顔をする千寿流。
 地上の道が途切れているのだから、当然地下に降りても道が途切れていると考えたが、他に行く当てもなかったので、とりあえずシャルの言われるがままに、地下へと向かうことにした。
 誰もいない地下街とはこうも不気味なものなのか。避けた大地から差し込む微かな光だけでは、とてもじゃないが先を見通すことは出来ない。
「っげ、真っ暗だよシャルちゃん。これじゃあ何にも視えないっ」
 シャルは手を宙に翳すと、その手の上に小さな宇宙の様なものを造り出す。それは渦を巻くように回転し、光を放つ。
「シャルルの とっておきを ちずるにも みせてあげるんだからねっ! ほらっ! これで あかるくなったでしょ?」
 その小さな宇宙をぴんと指で弾いてやると、風呂敷が広がるように周囲が一気に明るくなった。
「わっ、すごい……なにこれ」
「とっておきだよ ちずる」
 とっておきと言われても、と内心思う千寿流だったが、明るくなったのなら別にまあいいか、と気持ちを切り替えることにした。
「しゃ、シャルちゃん。その、あたしもどっちが正しいのかとか分かんないけど、本当にこっちで合ってるの?」
 地表からは断絶されていた道。それが地下では広大な世界として広がっている。早い話が地上と地下で明らかに構造が噛み合っていないのだ。
「シャルルも わかんないよ でもちじょうは いきどまりだった。だから ちか からならいける っておもったわけだよ!」
「う~ん。あたしもそれぐらい、なんていうか、ジュウナン?に考えなくちゃいけないのかな~。さすがはシャルちゃんだよ」
 頭を掻きながら、自分を無理やり納得させるように解釈して再び歩き始める千寿流。正直シャルの考えていることは良く分からなかった。
 案の定ではあるが、インフラが完全に死んでいて、案内板なども電気が通っていないので、進行方向が定まらない。人の気配を感じさせない伽藍とした通路。
 |魔獣《マインドイーター》に遭遇することは無かったものの、ネズミやらコウモリやらが巣食っていて、食料などにもありつけなかったので、早いうちに人が住んでいる場所に辿り着きたかった。
 地下に設置された慣れない地図とにらめっこをしながら、しばらく迷路のような地下街を数時間ほど歩き、ようやく見つけた階段を上ることにした二人。
「ん~やっぱり地上のほうがあたしは好きだな~! 地下はなんていうか、怖いし、たまに天井崩れそうになるしっ」
「ゆうれい とかがいれば おもしろかったんだけどね~」
「えひひひ、シャルちゃんそれは無いよ。幽霊なんていないもんね! えっと、そのさ、あたしたち、本当にこのまま進んじゃって大丈夫なのかな?」
 千寿流は立ち止まり後ろを振り返った後、シャルに問いかける。
「ん?」
「だって、合ってるっていう事なら、クラマちゃんもここを通ったってことになるでしょ? クラマちゃんはシャルちゃんを置いて、何でこんなところまでやって来たのかなって。おかしくない、シャルちゃん?」
 かねてからの疑問だった。
 この奇妙な冒険と云えなくもないちょっとした二人旅は、クラマが館にいないという事で始まったのだ。クラマはシャルにとって、とても大事な人で逆もまた然り、クラマにとってもシャルは大切な存在だという。
 果たしてそんな大事な人を放っておいて長期間留守にするだろうか。しかも、断りもなくだ。普通に考えたらあり得ない話ではないだろうか?
「ん~~ う~~~ん」
 頬に手を付けて考え込んでしまうシャル。唸りながら答えを必死に探しているようだったが、結局その答えが返ってくることは無かった。